第五話 絶望の細胞
レイナルド・ル・バンナ博士が開発した細胞『デゼスプワール』。
体内に入れられると、体がデゼスプワールを異物と認識して温度を急上昇するがデゼスプワールが死滅する温度は87℃、当然デゼスプワールが死ぬより先に体内の細胞が死滅し、そして死に至る。
しかし、死んだ後でもデゼスプワールは体内で活動し続け、しばらくするとデゼスプワールが自己増殖を起こし、死んだ体内細胞に代わり、デゼスプワールが死んだ肉体を支配するのだ。
支配されると腫れや、歯が抜け落ちると言った作用もあるが、運動神経や動体視力が異常発達する効果かがある。
レイナルド博士は何回か人体実験を繰り返していく内に、デセスプワールの改良版を開発に成功した。
その細胞は体内にある全ての細胞に瞬時に寄生して、肉体の再生、異常な動体視力と運動神経を得る事が出来る。
その発見して生み出した細胞をレイナルド博士自身に打ち込んだのだ。
ありえない、まるで理科の成績が1の馬鹿が書いたかのような効果だが、実際にショコラート達は見ているのである。
組織に調べてもらったレイナルド博士についての情報が書かれた資料を眺めながら、ショコラートは肩を落として落ち込んでいた。
「冗談じゃねぇーよー、そんなの…不老不死の相手をどう殺せばいいんだ」
「……不老不死なのは、ヤツの体内に入れられた細胞の作用のお陰だ、細胞自身は不死ではない」
と言いながら榊原が大きな鉄のケースを持って来た。
中を開けると火炎放射器が出てきた。
「こいつは100℃以上の炎を放射する事が出来る、コイツでヤツの体内にある細胞ごと焼き殺せばいい」
「そいつは嬉しいが……協力してくれるのか?」
ショコラートが尋ねると、榊原はフッと笑い答える。
「気紛れだ」
そう言うと榊原はズボンのポケットからオイルライターと『DEATH』と書かれた黒い煙草の箱から一本煙草を取り出し、オイルライターでその一本の煙草に火を点ける。
「お前…その銘、結構キツイ物吸ってるな。そいつ吸ってるヤツは軍隊が多いんだがな…」
「確か榊原さんは陸上自衛隊の第一空挺部隊に所属してましたからね」
チョコレイトケイキがすかさずそう言うと、榊原は少しバツが悪そうな顔をする。
「ん、あぁ、まぁ、そんな事もあったな、いや、俺の事なんかより、レイナルド博士の暗殺に力入れろ」
明らかに話をはぐらかそうとする榊原にショコラートは疑問に思い、思わず突き詰めてしまう。
「何かあったのか?」
ショコラートは世間話をするように言うと、榊原は顔色が暗くなる。
「………アンタには関係ない。俺の個人の問題だ」
そう言うとショコラートはそれ以上言及しなかった。
「さて、もう一度あの島に行きますかー?」
チョコレイトケイキがのんびりとした声でショコラートに尋ねる。
「あぁ、だが二回目だからな。今度は簡単に入れないかも知れないな」
そう心配していたショコラートだったが何の問題もなく上陸出来た。
「警戒してた俺が馬鹿だった…」
「まぁ、あの博士まともな判断が出来る状態じゃなかったですからねー。警備を増強するとかいう考えが出来なかったのでしょうねー」
チョコレイトケイキがショットガンを構えながら周りを見渡しながら言う。
「警備っつったって、感染者ぐらいしか居ないし」
「ちょっとー!誰がこれ使うんッスかー!?」
チョコレイトケイキが浜辺から両手で火炎放射器が入った鉄の箱を持ってきた。
「チョコレイトアイスも俺も身長的にあのデカさは持てないし、お前が使え」
ショコラートがチョコレイトケイキに火炎放射器を装備するように言うと、チョコレイトケイキは嫌な顔一つせず「分かりました」と言って、手に持っていたショットガンを片手に持ち、チョコレイトアイスから鉄の箱を受け取り、中から火炎放射機を取り出して、装備する。
三人は再び森の中に入って行く。
すんなりとまた、建物の所まで辿り着く。
あまりにも警備の甘さにショコラートは「まさか島から離れたのか?」と思った。
「居るか居ないか確かめてみますかー」
そう言ってチョコレイトケイキは前に出て、建物に向って火炎放射機を放射した。
「おいおいおいおい!何やってんだおい!?」
突然建物を燃やし始めて驚愕するショコラート、しかしチョコレイトケイキは何食わぬ顔で建物を燃やし続ける。
黒い煙を出しながら建物だけではなく、周りの木々にまでも火が燃え移り、ショコラート達は長居するのはよくないと判断し、建物の周りから離れる。
すると、建物の中から獣のような叫び声が空を切る。
紅蓮の炎に燃える建物の中から人影が飛び出してきた。
「や、やった!」
熱さに苦しみもがくゾンビ達が唸り声のような声を上げ、次々と絶命していく。
「これで、レイナルド博士は……!」
建物の中に居たとすれば、確実にレイナルド博士は死んでいる。
だが、チョコレイトアイスが火が燃え移っていない、自分達の近くにある木の上に何かが居るのを感じ取った。
「上に居るッス!!!」
一斉に上を見上げると、木の上に人影があった…レイナルド博士であった。
「貴様らぁあああ~~~~…!!!一度ならず二度までもぉおおお~~~!!!」
レイナルド博士は三人に向って飛び降りる。
ショコラートとチョコレイトアイスが銃を撃つチョコレイトケイキは相変わらずボーッとしている。
しかしレイナルド博士は空中で弾丸を避け、チョコレイトアイスの前に降り立った。
「うわぁっ!?」
「死ねぇっ!」
驚いて隙が出来てしまったチョコレイトアイスに向って注射器を振り下ろそうとしたが、隣でボーッとしていたチョコレイトケイキがショットガンの銃身を持ち野球選手のバッターのように構えて思いっきりレイナルド博士の頭部に向って振った。
しかし、レイナルド博士はその奇襲を下に屈んで避け、チョコレイトアイスに当たりかけるが後ろに反り返って鼻スレスレで避けた。
レイナルド博士は注射器を左手に持ち替えて、チョコレイトケイキに向って飛び掛ってくる。
「お前にデゼスプワールを打ち込んで、私の家族にしてやるぅぅううう~~~!!!」
歪んだ笑顔でレイナルド博士がチョコレイトケイキに注射器を持って襲い掛かる。
チョコレイトケイキはショットガンから火炎放射機に持ち替えて、炎を放出しようとするが、レイナルド博士の方が早かった。
レイナルド博士は左手を突き出し、チョコレイトケイキの上腹部に注射器が刺さる。
チョコレイトケイキはピクリと眉を動かす。
火炎放射機をレイナルド博士に向って放出する、がレイナルド博士は木に飛び移り、ヒョヒョイと木の上まで登った。
「ハッハッハッ~~~!入れたぞぉ~~!入れたぞぉ~~!これでお前も私の家族の一員だぁぁ~~~!!!」
ケタケタと笑うレイナルド博士。
ガクリと気分が悪そうにチョコレイトケイキが屈み込む。
「チョコレイトケイキ!?大丈夫ッスか!?」
チョコレイトアイスがチョコレイトケイキの傍に近寄る、チョコレイトケイキの息はとても苦しそうだ。
「ハッハッハーッ!デゼスプワールの効果はすぐに出る!ワクチンは無いッ!残念だったなぁぁああ~~~!!!さぁぁて…お前はなんて名前を付けてやろうかなぁ~~~?」
レイナルド博士が地面に再び降り立ち、蹲るチョコレイトケイキに近寄る。
チョコレイトアイスは、銃を構えながらチョコレイトケイキから離れるようにショコラートの近くまで逃げる。
「フフフ…仲間を見捨てるのか?まぁ、見捨てるも何も助からんがな…そうだな…お前はこれからジャネットだ!どうだ?良い名前だろう?」
勝利を確信した顔でチョコレイトケイキの背中を撫でる。
「私は、ジャネットじゃ…無いですよー…」
小さな声でチョコレイトケイキがそう呟くと、とても素早い動作で懐から拳銃を取り出してレイナルド博士に向って発砲する。
レイナルド博士は完全に呆気に取られ動けなく、弾丸が目に直撃した。
「うぎゃああああああああああああああああ!!!!!」
ジタバタとレイナルド博士は悲痛な叫び声を上げながら地面に倒れこむ。
チョコレイトケイキはムクリと起き上がり、ショットガンを手に取り、レイナルド博士に追い討ちをかけるように、数発発砲し、レイナルド博士の両足がフッ飛ぶ。
「私にはソフィアって言う素敵な名前があるんですからー♪」
ニコリと笑って穏やかな声でチョコレイトケイキが言う。
「うぎぇえええええええ!!!な、何故だぁぁあああ!?注射器は完全に刺さったハズなのにィィィィーー!!!」
レイナルド博士は叫びながら言う。
チョコレイトケイキが白衣の下のワイシャツを外すと、防弾チョッキが着込んでいた。
防弾チョッキに注射器の針が突き刺さって折れている。
「注射針は刺さりませんでしたよー?」
ニコニコと笑いながら地面に倒れているレイナルド博士に近寄る。
「焼き殺してしまう前に、その体を拝見させてもらいましょーか?」
そう言いながらチョコレイトケイキは白衣の内ポケットからゴム手袋を嵌め、マスクを着けてサバイバルナイフを取り出して、レイナルド博士に近付く。
ナイフを思いっきりレイナルド博士の腹部に突き刺し、上下に裂き、両手で開いた。
レイナルド博士の悲痛な叫び声が島中に響く。
「お~ほ~♪あぁ~内臓も見事に腫れ上がってますねー、あー格臓器殆どが変色していますねー、だけど普通に機能していますねー」
眼をキラキラさせながらチョコレイトケイキがレイナルド博士の臓器を一つ一つずつ調べる。
一通り調べると、チョコレイトケイキは放射器を持ち、レイナルド博士に向ける。
「火を浴びて何時間デゼスプワールは生きていられるか実験してみますかー」
のんびりとした声でチョコレイトケイキは火炎放射機でレイナルド博士に向って炎を放出する。
炎を浴びるとレイナルド博士は人間とは思えない声を上げて、バタバタとのた打ち回り、しばらくするとピクリとも動かなくなった。
「一分も持ちませんでしたかー、まぁ不老不死と言っても再生能力が凄いだけですし、それに細胞自身は不死じゃないですからねー」
チョコレイトケイキは「さ、帰りましょうか」と二人に向って言うと、ショットガンを肩に掛けて、浜辺へと向った。
二人はしばらく呆然と立っていた。
翌日、白王会の事務所の地下室にチョコレイトアイスが書類を持ってやってきた。
地下室にはショコラートが黙々とパソコンを打っていた。
「ショコラート、昨日の仕事の報酬が入ったッスよ…それと、レイナルド博士に雇われてたマフィアについて調べてみたッス」
ピクリとショコラートの体が動くが、黙々とパソコンと向き合ってキーボードを打つ。
「ロシア系のマフィアのディネイキンファミリーッス…コイツら、レイナルド博士の暗殺依頼を出した依頼者のイタリア系マフィアとアメリカで抗争があったみたいで…ひょっとするとイタリアマフィアの娘を拉致ってレイナルド博士に殺させたのは、その腹癒せでやったのかも知れないッスね……それと」
チョコレイトアイスは言葉を続ける。
「あの後、榊原さんにお願いしてフランスのレイナルド博士の研究所と、前行った無人島にあった建物を調べてもらったんですけど……無くなってるんですよ、薬が…デゼスプワールが保管されているハズの場所に一つも…ゴッソリと…それとあのレイナルド博士が暗殺された後、ディネイキンファミリーに怪しい荷物が運ばれたッス、大きなコンテナ一個を……」
翌日、何日も行方不明になった者がロシアの湖で発見された。
引き上げられると、両手両足は指を切られ、頭が切開されており顔中が腫れ上がって体が紫色に変色した状態であったという。
その行方不明者はイタリア人の老人であったという。