第一話 危険なチョコレート味
黒い革製のソファにどっかりとチョコレイトケイキが座って、何かよく分からない雑誌を読んでいた。
鼻歌を歌いながら雑誌を読んでいると、ドアが開かれ榊原が入ってきた。
「オイ、お前に客だぞ」
それを聞いたチョコレイトケイキが、ドアの方を見ると、白いパーカーを着た少女が立っていた。
「やぁ、チョコレイトアイス。久し振り、元気にしてた?」
その少女を見るなりチョコレイトケイキは笑顔でそのチョコレイトアイスと呼んだ少女に向って手を振った。
「な・に・が・久し振りッスか!?こんな所で何してるんッスかアンタ!?」
チョコレイトアイスがバンッ!と机を叩くと、チョコレイトケイキは目をパチクリさせた。
そこで「ちょっと待て」と榊原が会話に介入した。
「チョコレイトアイスだと?何だ?お前もチョコレイトアイスを子供達に配って……」
チョコレイトアイスはポカンとした顔で榊原を見る。
「子供達に配る…?何言ってるんッスか。この名前は所謂、コードネームっつーヤツッスよ」
「コードネーム?」
?マークを浮かべる榊原にチョコレイトケイキが説明する。
「私達のコードネームですよ、仕事の時に使った。あっ、お菓子を配ってチョコレイトケイキ先生って呼ばれてたのは本当ですよ、その私のあだ名をみんなが派生してコードネームとして作ったんですよ」
「仕事?」
榊原が聞くとチョコレイトケイキはテーブルの上に置かれた紅茶を飲みながら榊原に説明を続ける。
「銀行強盗とか車両窃盗とか拉致とか…私は参加してませんが暗殺とか」
チョコレイトアイスは本題戻った。
「ようやくようやくようやく見つけたッスよ!どうして何も言わずに日本に行ったりするんッスか!?」
バンッと机を叩いてチョコレイトケイキを問いただすと、チョコレイトケイキがのんびりとした口調で説明した。
「だって銀行強盗とか人殺しとか、したくありませんし」
「待て」
再び榊原が会話を遮った。
「人殺しとかしたくないだと?お前、普段やってるアレは何だ」
榊原が言うアレとは以前アロハシャツの男にやった隠語で『掃除』の事である。
「殺意を持って殺したらそれは『人殺し』です。私は『愛を持って』やっているので人殺しじゃありませんよ。だからもう暗殺は、殺意を持って殺さないといけませんから」
子供に教えつけるようにチョコレイトケイキがそう説明すると、榊原はそれ以上は聞かなかった。
「……もういいッスか?チョコレイトケイキ、あの一件の…ニュージャージ州で起こした銀行強盗の事件以来、私達…組織の身の回りで色々おかしな現象が次々と起き始めているッス、事件の真相を知っている一部の幹部が変死体で発見されたり、最近ではチョコレイトパフェとビターチョコレイトが行方不明になったり……おまけに私達が盗んだ金が――――」
真剣に離すチョコレイトアイスを他所にチョコレイトケイキは紅茶のおかわりを汲みに席を立った。
「何を呑気にしてるんッスかチョコレイトケイキッ!」
しかしチョコレイトアイスがそう言っても、チョコレイトケイキは全く動じなかった。
「大丈夫ですよー作戦は完璧だったしー、偶然ですよー偶然ー」
そう言いながらチョコレイトケイキはポットに入った紅茶をカップに入れる。
「ショコラートも…来てます」
その名前を聞いてチョコレイトケイキの動きはピタリと止まった。
「ショコラート……来てるんですかぁ……」
ポツリとチョコレイトケイキは懐かしそうにそう呟いた。
「チョコレイトアイス……ショコラートに久々に会いたいです、案内してくれますかー?」