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プロローグ 綺麗にクッキング

「う~ん…イマイチですねぇ~…」


長いブロンド髪の白衣を着た長身の女が、銀色のテーブルに並べられた手に取って見ていた。


「よし、これにしよましょーか」


女は銀色のテーブルにある置いてあった安全ゴーグルを付け、業務用に使われる帽子を被り、マスクとゴム手袋を嵌めると、地面に置かれたチェーンソーを両手を使ってグイッと上に持ち上げる。


チェーンソーの重さに女は後ろに数歩後ずさってしまう。気を取り直して女はチェーンソーを動かした。


グイッと引っ張るとチェーンソーが獣の唸り声のような音をあげ、チェーンソーの刃が動き始める。


「それじゃー、バッサリとやりますかー」


軽い口調で言って女はチェーンを持ちながら椅子に縛り付けられたパンツ一丁の男に近寄った。


男はパクパクと口を開閉させて、何か言おうとするが言葉が出ない。


そして女は何の戸惑いもなく、チェーンソーを男の膝に向けて振った。


「うぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


想像も出来ない程の痛みが男を襲い、その男の痛烈な叫び声が薄暗い密室の部屋に響いく。


「あげげげげげ!!!うげぇえげげげええええ!!!!」


女はチェーンソーを止めると、ポケットから注射器を取り出して男の首に刺した。


「駄目ですよー、気絶しちゃー。気絶して切っても『味』が出ないですからねー」


軽いのんびりとした口調で女はそう言うと、両手に持っているチェーンソーを床に置いて、女は銀のテーブルの上に置かれた水が入ったペットボトルで、服に飛び散った血をその水で洗い流し始めた。


「た、たすけて…たすけ…」


男は女の背に向って、掠れた声で懇願するが女は鼻歌を歌いながら血を洗い流しており、全く聞いてなかった。


しばらく時間が経つとサビた音と共に鉄の扉が開かれた、そこには黒いスーツの男が立っていた。


黒いスーツの男は縛り付けられた男にツカツカと歩み寄り、グイッと項垂れていた縛られた男の頭を掴んで上げる。


「生きているか?」


黒いスーツの男はドスの効いた声で縛り付けられた男の頭を掴んで言った。


「た、たすけ…」


「あぁ、分かってる。だが、お前が喋らないと助けられない…」


黒いスーツの男は淡々と縛り付けられた男に語る。


「情報を流したヤツの名前は?言わなければ、あのイカレた女に『調理』されて明日の今頃お前は皿の上に並べられて変態共の晩飯にされるぞ」


そう脅すと縛り付けられた男は「分かった!言うよ!言うから!」言った。


「岡谷秋耶だよぉ…!アイツがやったんだよぉ…!」


縛られた男は振り絞るように、一人の人物の名前を言うと、黒いスーツの男は眉を潜めた。


「……協力ありがとう。オイ、コイツを出してやれ!」


黒いスーツの男が開きっぱなしのドアに向って叫ぶと、二、三人程のガタいが良い男達が部屋に入ってくると、縛り付けられた男を椅子ごと持って、部屋から出て行った。


「あれれー?あの人はどうしたんですか?」


水で全ての血を洗い流した女は手に鉈を持ちながら黒いスーツの男に呑気な声で言う。


「放してやった」


黒いスーツの男がそう言うと女は「そうですか…」と沈んだ声で言い眉をハの字にしてしょんぼりと落ち込む。


「安心しろ、『代わり』は居る」


「えっ!?」


『代わり』と聞いた女はパァッと明るくなった。


今度は部屋から後ろ手に手錠をハメられたアロハシャツの男がガタイの良い男達に連れて来られた。


「なっ!何をするっ!?やめないか!榊原ッ!これはどういうつもりだ!?」


アロハシャツの男は目をギラギラさせながら、黒いスーツの男もとい榊原に向って叫んだ。


「『どういうつもり』だと?それはコッチのセリフだ、アンタこそどういうつもりだ…岡谷と一緒になって俺達の仲間が拠点にしている場所の情報を斎賀組のヤツらに流して」


榊原は鋭い目つきでアロハの男を睨みつける。


「……ッハ!もう今や斎賀組はこの一帯の覇権を取ろうとしてる…だから、今のうちに岡谷と一緒に斎賀組に移ってやろうと思ってやったんだよ!『白応会』の時代は終わりなんだよ!」


アロハの男は開き直ったかのようにケタケタ笑いながら、そう言った。


「そうか…もういい……後は任したぞ、『チョコレイトケイキ』。今度は止めないから安心しろ」


ポンッと榊原は女…もといチョコレイトケイキと呼ばれた女の肩を叩いて部屋に出る。


アロハの男は乱暴に地面に寝かされ、続々と男達が部屋から出て行き、部屋にはアロハの男とチョコレイトケイキ二人っきりになった。


しばらく沈黙が続くと、アロハの男が口を開いた。


「おい、お前!…こんな事をやらされてお前は心が痛まないのか…!?ずっとずっと人間をブチ殺したり痛めつけたりするのは辛くないのか!?」


アロハの男はチョコレイトケイキに向って叫んだ。


「辛いよなぁ~~~隠さなくたって分かるぜぇ~~狂ったフリしてねぇと、やってられねぇもんなぁ~~~」


ニヤニヤ笑いながらアロハの男は言う、女は背を向けた。


「俺を逃がせ。そしたら俺が斎賀組に行ったら白応会をブッ潰して、こんな仕事を辞めさせてやる…ハワイにある別荘もやろうどうだ?いい条件―――――」


チョコレイトケイキが包丁を持って何かブツブツ言いながら、倒れているアロハの男に近付いて来る姿を見て、アロハの男は言葉が中断されてしまった。


「お、おい…う、嘘だろお前…や、やめ…」


「内臓は…ちゃーんと処理しないといけませんねー」


アロハの男はイキイキとしたそのチョコレイトケイキの眼を見て背筋が凍り、本格的に生命の危機を感じ取った。


「や、やめ――――――」


――――――――――――――――


部屋の外で榊原は壁にもたれながらタバコを吸っていた。


部屋の中から人の声とは思えない声が外まで響き始めた。


「あの女の名前…いっつも奇妙に思ってるんですけど…どうして『チョコレイトケイキ』って言うんですか?」


榊原の隣に居た部下の男が榊原に尋ねる。


「以前、アイツがトルコでボランティアをしてた時に子供達にチョコレートケーキを配ってたらそんな『あだ名』が付いたんだってよ…」


「チョコレイト…ケイキねぇ…」


そんなのんびりと会話している間にも、部屋の中から獣のような悲痛な叫び声が響いていた。

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