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ミキスティは馬車の中で人生の分岐点となったあの日の事を思い出していた。
幼い頃から何度も見ている夢があった。私の前世での出来ごとだ…
いつ頃から見出したのかは覚えていないが一番古い記憶は3歳ぐらいだったと思う。
あの頃は夢を見る度に大泣きしてマリアお母さんや他の子供たちに迷惑をかけていたが、
何年か経つと泣く事も減り少しずつ夢の内容も理解していった。
ある日夢の中の女性が私に話しかけてきたのである。
気がつくと見渡す限り真っ白な世界に私はいた…
「何、ここ…夢だよね…?」
何もない世界にひとりだけという状況に夢の中だと分かっていても怖くなり、
その場にうずくまり早く夢が覚めるのを待っていた。
どのくらい時間がたったのかは分からないが暫くすると上の方から私に声を掛ける声が聞こえた
「顔をあげてミキスティ。」
とても穏やかな心地のいいどこかで聞いた事のある声にミキスティはうずめていた顔を少し上げ目だけを声のする方に向けた…
そこには、幼い時から見ていた夢の中の女性がいた。
夢の中では離れた所から見ていたので顔がはっきり見えていなかったが、
きっと彼女だ…
綺麗なブロンドヘアにグリーンの瞳、肌もきめ細かく言葉では表せないほどの美しさを持った女性だった。
「急にこんな場所にいて驚いたでしょ?
ごめんなさいね…もう、時間がないの。
だから、あなたが眠りにつくのを待って
精神だけこの場所に連れてきたの…」
少し思いつめたような顔をして話を続けた。
「まずは、簡単に自己紹介をするわね、
私の名前はルイ。あなたの魂の前の持ち主なの。
前世とでも言うのかしら?って言ってもあなたには私の記憶が有るわけではないわ。」
その言葉にミキスティは違和感を感じたのでルイに聞き返した。
「まって、あなたの記憶が無いってどういう事?
夢で何度もあなたの事を見たわ。」
「それは、私の力で見せた過去の出来事なの。
それに起きているときに記憶が蘇ることってあったかしら?」
ミキスティはルイの言葉に首を振りそれを見たルイは話を続けた。
「私は、このガルディア帝国が建国されるよりもずっと昔にこの場所に存在した
アトラス国の最後の王女なの。
あなたに夢として見せていたものは私とアトラス国の最後の時の記憶よ…」
「最後の記憶…その時に一緒にいた男性はルイ様の大切な人?」
ルイは悲しそうに微笑む。
「ええ、彼は私の夫よ…
でも、成す術もなくそのまま…」
泣きそうになる顔を引き締めたルイは話しを戻した。
「これから話す事はとても大事な事だからしっかり聞いてね。
まずは、アトラス国が何故滅んでしまったのかを貴方に教えます。
この帝国ではほとんど貴族階級の人にしか魔力が無いし
それに火・水・土・風の4つの属性しか扱えない。
でもアトラス国の人間は全員魔法を使う事が出来たの。
さらに現在では存在しない今でいう古代魔法も使えたの。」
「古代魔法?」
「そう、今では一部の研究者が遺跡などで調べてるみたいだけどあまり成果はないみたいね…
話を戻すはね、古代魔法は2種類あって光と闇。
光は治癒と封印、闇は呪いと浸食なの。アトラスは闇魔法が原因で滅んだ…
誰が悪いとかではなくたまたま偶然が重なっただけって理由で。
」
「何があったんですか…」
「あの日、王都の図書館にある禁書室で探し物をしていた司書が手に取った本の題名を口にした瞬間
国全体を覆い尽くすほどの呪いが発動したの。
その呪いは発動すると範囲内の命あるもの全てが徐々に身体の機能を停止させるものだった。
特に魔力の少ない人間は呪いの進行が早くて半日もしないうちに亡くなっていったわ…
私はアトラス一の魔力を持っていたのだけど私のお腹には新しい命が宿っていたの…
妊娠中は魔力が減ってしまう、本当なら最高術の光魔法でその呪いを封印する事が出来たはずなのに
あのときの私には出来なかった…。そして、1日が経つ頃には夫も私もなす術もなく死んでしまったの。」
ミキスティは、話を聞き終わり疑問を口にした。
「アトラス国が滅んだ経緯は分かったけど、どうしてその時の事を私に夢として見せたの?」
「本題は此処からなの。
あの呪いの本が今も何処かにあるかも知れないの…
だから、私の生まれ変わりでもあるミキスティ、貴方に封印をお願いしたくて夢を見せ続けた。
貴方には私と同等かそれ以上の力を持っているからきっとできる。
こんな事を貴方に頼むなんてお門違いだってのは分かっているわ…
でも、二度とあんな悲劇を起こしたくない。私が封印出来たら良いのだけれどそれは出来ないから…
どうかお願い…。」
まだ10歳にしかならないミキスティには余りにも理解の範疇を超える事にどう答えればいいのか
分からなかった。
しかし、目の前で必死にお願いをするルイの姿を見てきちんと答えなくてはいけないと子供ながらに悟った。
それに、もし呪いが発動して大好きな人たちが死んでしまうのはいやだった。
「ルイ様、顔を上げて下さい。
突然の事で驚いたしどうして私がとも思ったけど、私にしか出来ない事なんですよね?
だったら私が封印します!」
ルイ様は頭を上げもう一度御礼を言った。
「でも、その本を見つけるにはどうしたら良いですか?」
「その事なのだけど、今の所在は分からないの。でも、ミキスティなら私の記憶が魂に少し残っているから本に近づくと気付くはずよ!
後、呪いが発動した時に調べてみたら、一度の発動で消滅する呪いではなくて魔力を自動的に貯めて溜まりきったところに呪文…この場合は表紙の名前を唱えると発動するのよ…まぁ、貯まらない限り発動はしないから安心して良いわ。」
「最後に、貴方には普通の魔力と古代魔力の二つを持っているわ。でも、この時代に古代魔法を使える者はいないから絶対に親しい人にもこの事を話してはいけない。噂が広まって研究対象にでもされたら本を探すどころか貴方の気持ちを無視して嫌なことに力を使わせられるかもしれないから約束よ…もう時間が無いわね。」
ルイ様は自分の手が透けているのをみて呟いた。
「貴方に私の扱える古代魔法の記憶を授けるわ、目が覚めたら試してみてね。」
ルイ様が私のてを繋ぎ最後の力で私に記憶をくれた…。
「ミキスティ、もう貴方の前に現れる事は出来ないけれど、ずっと見守っているわ…。貴方に幸あらんことを。」
そういって消えていった。
それと同時に夢から目覚めたミキスティはルイ様の言った通りに試してみることにした。
闇魔法は使うのが怖かったので、前の日に怪我をしたところに光魔法の初級であるヒールを使った。
すると、みるみるうちに傷が治っていくのに凄く驚いた。
そうこうしている内に14歳になり魔力を計り案の定、王都の魔法学園に入学することが決まった。
ミキスティは外が暗くなってきたのに気付き過去の思い出に浸るのを止め明日に備えて早めに寝ることにした。