僕の気持ちは、今日も届かない
僕の気持ちは、今日も届かない。
僕は彼女に恋をしている。
適当な気持ちなんかじゃない。
本気で好きなんだ。
まだ、そんな事を考える歳じゃないのはわかっているけど、彼女となら結婚したっていいと思ってる。
だって僕は、誰も知らないような本当の彼女を知っているんだ。
とても気遣いが上手で、誰にでも優しい。
そりゃあ、学校での彼女を知っている訳では無いけれど、友達との電話を聞いていればわかる。
ひっきりなしに彼女を呼ぶ電話やメールは、彼女がそれだけ人気者だってことだろう?
まるで自分の事のように鼻が高いよ。
そんな彼女が大好きなんだ。
それなのに、こんなに僕が好きなのに、こんなにいつも見つめているのに、彼女には最近彼氏が出来たみたいなんだ。
そのせいで、今日も彼女は学校から帰ったのは夕飯過ぎの時間。
ここのところ、毎日のように遅い。
もちろん、すごくショックだった。
僕がこんなに近くで思っているのに、 他の男の事を好きになっちゃうなんて。
どんな男だか見てやりたいと思う。
適当な奴だったら承知しないつもりだ。
だって、自分で言うのも恥ずかしいけど、僕だって結構イケてるはずだと思う。
外を歩いていたって、すれ違う女の子によく声を掛けられる。
それって、そう言う事でしょう?
そんな僕を差し置いて、彼女を射止めたのはどんな男だって思うのは、当然だよね。
でも、彼女の楽しそうで、幸せそうな顔を見ていると、 辛くても、我慢しなきゃなって思うよ。
僕が知っている限り、初めてできた彼氏だもの。
出来ることなら、僕が色々なところに連れて行ってあげたいけど、今はその男に任せてやるってところさ。
本当は……悔しいけどさ。
だけど僕は、それでもいいんだ。
ずっと彼女と一緒にいれるんだもの。
彼氏だって知らない、彼女のパジャマ姿、ちょっと音痴な鼻歌、静かに流す涙。
僕が彼女の事を一番知っているのは、変わらないんだから。
だからお願い。
もっと僕を見てよ。
もっと僕に話してよ。
もっと僕の声を聞いてよ。
彼氏にはなれなくても、僕は一緒にいれればいいからさ。
あ。
彼女がお風呂から出て部屋に戻ってくる音がする。
わかるさ。
だっていい匂いがするもの。
彼女の柔らかい香り。
僕にはすぐわかるよ。
ねえ。
今日は学校どうだった?
何か面白いことあった?
色々教えて、今日のこと。
でもやっぱり、彼女は僕を男としては見てくれない。
まるでペットを相手にしてるみたいに、こう言うんだ。
「チビー。ここにいたのかー。んん、どうした? あはは、なんでそんな不思議そうな顔してるの。おいで、お水持ってきたよ」
僕の気持ちは、今日も届かない。
僕が犬だってことは、そんなに問題じゃないと思うんだけどな。