矛盾
「俺は本当に存在しているのだろうか、、、?」
矛盾した花言葉に動揺する青い薔薇のお話
俺らを見捨てるのかい、アリス
金色にひかる髪、深い海を連想させる青い瞳に、俺はいつもふと目を奪われるのだ。
この世界の主人公、アリスはいつもそんな容姿をした子だったが、今回のアリスは変わり者で、我が儘で、人使いの荒い、けれどもいつもよりも魅力的な人だった
アリス中毒者と呼ばれるほどアリスが大好きな俺は、いつにも増して目を輝かせるのだ
お茶会の開かれる庭の隅に咲く青い薔薇
それが自分
赤や黄色の薔薇には馴染めず、ポツンと浮いた存在になっていたが、もう慣れたことだ
そんなことはどうでもいい
もう直ぐアリスがやってくる。
ーーーーはずだった
浮かれきった俺の耳に届いたのはアリスの失踪の報告
パニックになった俺はすぐにでもアリスを探しに行きたかった
しかし、ふと気付きカサッと音を立てた葉の音に
スッと冷静さを取り戻した。
俺は所詮植物で、動く者にはなれなくて、地に深く深く根ずいたいくつもの根を忌々しくおもった
途方に暮れ、ブツブツと試行錯誤を繰り返す
アリスはどうして消えてしまったのか
イヤになったのか?この世界が
そんな事を考えているうちに、込み上げてくる不安や恐怖に涙が溢れた音がした
実際は花にかかった冷たい雨水が滴り落ちただけなのに、本当に泣いているような気になった
置いていかないでくれよ、アリス
そう呟いたそんな時
どこか悲しそうな青色の瞳の少女が目前に現れた
こんな雨の中少女は濡れることも気にせずに立ち尽くしている
風邪を引いてしまうよ?
俺の問いかけに彼女は答えた
「青い薔薇の花言葉は、〝不可能〟だったかしら」
華麗なスルースキルと意味深な言葉に、俺は沈黙した
「、、、でも確か〝奇跡〟って意味もあったような。
まあ、なんてーーーーー・・・・・
〝矛盾〟」
彼女の小さな口から紡がれた言葉が胸に刺さるようだった
知っていた、分かっていた
自分の在り方の矛盾に
不可能、有り得ない存在なのに生まれてきてしまった矛盾
それでもどうあがいても赤にも黄にもなれないのだと、いつも鮮やかに咲く〝当たり前〟を眺めていたのだから
より一層の不安が自分にまとわりつく様だった
こんな感情を背負ったまま、存在出来るのかと、自分の身をかき消すようなマイナスの思考が行き交う
ここは物語の世界。存在意義がなければ消えてしまう
支えだったんだ君が
君はここに来ると、いつも俺を見つけてくれるから
居なくならないで
俺を、見つけて アリス
塞ぎ込むようにきっと誰にも気付かれないような言葉を呟いた
「悪かったわね、アリスじゃなくて」
そういって顔を近付けてきたのは先ほどの少女だった
とっくに何処かへ行ってしまったと思っていた俺は酷く戸惑った
不機嫌そうな彼女に
君のせいじゃないと弁解をしようとしたその瞬間、俺は耳を疑うような言葉を聞いたのだ
「元アリスじゃダメかしら
青い薔薇のお兄さん」
少しの沈黙の後、俺は戸惑い気味に
元、、、じゃあ君が
この世界を捨てたアリスなのかい
と、自身の中の最優先事項を確認する
「そうなるわね
べつに、捨てたわけじゃないけど」
口を尖らせて言う君に内心ホッとした自分がいた
良かった、また会えたと
「世の中矛盾だらけなのよ
いまさら、そんな事で悩むなんて馬鹿じゃないの?」
酷い暴言だった。
人がこれだけ悩んでいるというのに
どこか不器用な優しさのこもった言葉だった
「まあ、それも生まれてきた奇跡と
私と貴方の出会いの偶然って事で」
そっと差し伸べられた手は、確に俺の目の前にあった
「探してみない?
この世界での、わたし達の在り方」
奇跡とはこういう事を言うのだろうか
自然と彼女の手をとった俺は
彼女と同じ人の形を成していた
「なかなかイケメンじゃない」
悪戯っぽく笑う君は、まさしく俺の好きな
アリスの面影を残していた
「君みたいなアリスは初めてだよ」
「だからアリスは辞めたの!」
そんなことをいう君に肘でつつかれながら俺は自然と笑った
始まるよ、君と俺との世界探索