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08 - カルラとの契約

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 柔らかくも温かい闇色の海から意識が覚醒する。

「……ここ、は?」

 初めて見た天井だ。記憶にない。

 だが、周囲を見渡してみればそこがどこか理解できた。

 即ち。

「……俺達が泊まっていたホテル、か」

 そう。俺達が初日に泊まっていたホテルだった。


 意識が覚醒しても、そのままだったのだが、どちらにしろ動かないことには始まらない。

 よっと、上半身を持ち上げる。

 そのまま凡そ五分ほどぼんやりとしているとどんどんと記憶が蘇ってきた。

 神隠しにあいかけたこと、鬼に襲われたこと、そして神を召喚したこと。

 そして咄嗟に己の体を見渡す。

 怪我も無く、今もまた普段のように動けた。

 ……。

 迦楼羅王の癒しの力だろうか。

 そういえば。

「――……迦楼羅王はどこに?」

 と疑問を呟くが、どうしてその声に応じるものが在った。

『お目覚めになりましたか、我が召喚者よ』

 どっきーん、と思いっきり驚く。

 そりゃそうだろう、ただの呟きに応じる声があったのだから。

 しかも、声が聞こえてきた場所は。

「俺の中!?」

 ……。

 そう、迦楼羅王の声が聞こえてきたのは俺の中からだった。




 どうにも迦楼羅王の話を聞いたところ、あの後俺の怪我は完璧に治したそうなのだが、俺の魔力の流出が止まらなかったそうである。

 まぁ、よくよく考えてみれば当然のことである。

 神威召喚は双神の共鳴による常識外れの魔力で賄ったからいいとしても、増幅が止まれば魔力は元にもどる。

 俺とて古い術師の家系に連なる者、常人に比べれば膨大な魔力を持つほうだが、神の一柱を維持できるかと問われれば、応えはNOだ。むしろ1秒と持たない。

 召喚された際と、その後暫くは増幅した魔力が残っていたからそれで現界していたと言うのだが、いざその魔力が尽きてしまったら、後は召喚者にして契約者である俺からの魔力供給に頼るしかない。

 だが、個人に神仏の現界維持など出来ようはずもない。というか絶対に無理。

 本来【神威召喚】や【神降ろし】なんかは大規模な儀式魔術の類であり、その維持だって俺級の魔力を持つ物が何百人から何千人という大人数でやっても五分持つか持たないか。

 それほどまでに莫大な量なのだ。

 よって俺はこのまま魔力を完全に吸い尽くされ衰弱死という選択肢しかなかったのだ。

 だが、俺が召喚した迦楼羅王は幸運なことに極めて善良な神仏だった。

 なんと迦楼羅王はその存在は10万分の1以下に圧縮し、かつその能力の9割以上を封印、さらには俺の肉体の中に自らを憑坐するという荒業でなんとか俺の魔力だけで現界できるようにし、俺の命を繋いだのだった。

 正式な召喚契約である以上、その破棄にはお互いの承認が必要。

 故に、俺の命を繋ぐとなるとその方法しかなかったという。


 ごめんなさい、と謝ってくる迦楼羅王。

 むしろこっちが土下座して感謝したいくらいである。

 普通の神々だったらプライドの高さや、その傲慢さからきっと俺の魔力を吸い尽くして衰弱死させていた事だろう。

 今更ながら、己の幸運に感謝を捧げた。




「まぁ、あれだ。いまさらだけど自己紹介をしよう。俺は奏夜。桔梗奏夜っていうんだ」

『そうですか。私は迦楼羅。そうですね、……カルラ、と呼んでください』

「おう。んじゃあ俺も奏夜でいいよ」

 と、簡単に自己紹介をかわす。

 神様にそんな口調でいいのかよ!? と思うのだが、カルラ本人が「気にしません」と言った以上いいのだろう。

「とりあえず、召喚・契約まで正式に結んじまった後であれだけど、これからどうする?」

『どう、とは?』

「いや、カルラはどうしたいか、さ。このまま元の次元に戻りたいというのなら送還の術を使うし。残るというのなら、……まぁ、なんとかするが」

『そう、ですね……』

 僅かに考え込む気配が伝わってくる。

 何だかんだで、現時点では体に共存しているような状態だ。お互いの考えていることが気配でそれとなく伝わってしまうのだろう。


 カルラが考え込んでいる最中、なんとなく疑問に思っていたことを呟く。

「なんというか、迦楼羅王が女性だったことに俺はびっくりしているよ」

 と。

 すると、考え込んでいたカルラがそれに応じてきた。

『私達のような神々――、そうですね概念的な存在とでも言いましょうか。私達概念的存在には性別というモノが存在しないのですよ』

「そうなのか?」

『はい。ですから貴方が持っていた私との(ゆかり)あるもの。あの石版に描かれていたのは男性だったでしょう?』

 そういえば、と思い出す。

 ちなみに、私の召喚と同時に崩れて砂になりましたよ、と教えてくれる。

『今回は召喚者である奏夜が男性だったので、接しやすいようにこの姿になったんです』

「じゃあ、姿形は自在に変えられるのか?」

 思わず問うてしまう。

 俺の中にごつい男性が入っているかと思うと若干なりとも思うものがある。どうせなら男よりも美しい女性のほうが精神衛生上うんぬん……。

 カルラがくすくすと笑って言う。

『大丈夫ですよ。ふふ。姿かたちは現界するときにしか変えられません。つまりはもう一度姿を変えるには一度送還され、その上で改めて召喚に応じなければなりませんから』

 なんとも見透かされてしまったようで、頬が熱い。

 と、カルラが続ける。

『決めました。そうですね、もしお邪魔でなければ今しばらくはこの世界に留まってみようかと思います』

「……」

『かつてと時代も異なれば、国も異なる。けれども、これもまた一つの巡り合いとでも言いましょうか。私は一期一会の出会いは大切にしたいのです』

 よろしいでしょうか? と問うてくるカルラに返す。

「構わないさ。もとより俺は魔力なんてものはあまり必要なものでもなかったし、二度も命を救われた恩人の頼みを無碍にするほど野暮でもない」

 確かに、カルラの維持には常時魔力が消耗される。そしてその消費量は俺の魔力回復量よりほんの僅かに少ないくらい。

 結果俺は魔力の大半を失ったに等しいが、それでもその願いに応じないわけにはいかないだろう。

 現実として命を助けられたのだ、しかも完璧に近い形で。

 魔力を使いにくくなる程度であればいくらでも構わない。


「んじゃあ……、えと、まぁ、なんだ? その、宜しくな、カルラ」


『はい、宜しくお願いしますね。奏夜』




 こうして俺の中に女神様が住まうこととなったのだった。


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