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07 - 迦楼羅王

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 桔梗一族の長い歴史の中に《異種双眸》という特異体質の者が稀に現れる。

 これは本来一人一種類しか持ち得ないはずの瞳術が、左右それぞれの眼に異なって宿ることを指す。

 だが、これは本来一つの瞳術に使われるはずの力が二つの瞳術に振り分けられるため、その瞳術の位階が低くなるというデメリットも存在していた。

 事実歴代に存在した《異種双眸》の持ち主達は皆、左右全ての瞳術が第三級の瞳術だった。

 しかし、この《異種双眸》にはそのデメリットを打ち消すくらいの巨大なメリットがあった。それこそが《異種双眸》のみに許された秘術、即ち【双神の共鳴】である。


 【双神の共鳴】は《異種双眸》にのみ許された奇跡。

 双神の共鳴とは異なる瞳の力を共鳴させることで魔力を無限に増幅していく外法。

 合わせ鏡の間を光が無限に等しく反射を繰り返すように、魔力は無尽蔵に増幅していく。

 その力は人の域を大きく逸脱する異常。

 だが、限界がないわけではない。

 魔力は無限を極めても、それを行う肉体は有限。

 強大すぎる魔力は肉体を崩壊に導いてしまう。

 だが逆に言えば、肉体の崩壊を度外視すれば命の続く限り無限を極める事が出来る。


 俺は桔梗一族の歴史の中でも9番目の《異種双眸》だ。

 そして、俺は、古い一族の歴史の中でも極めて特異な存在だった。

 即ち俺は、両の瞳に特級の瞳術を宿していたのだ。

 それは元から抱えている力が甚大だったのか、それとも神々の手違いかは分からない。

 だが俺の両の眼には、一種類だけでも強大な力であるはずの特級の瞳術が左右それぞれの瞳に宿っていた。

 異種双眸は、本来は一つの瞳術に集中するはずの力が二つに分散されるため、その能力はけして高くない。これは歴史が示す事実だった。

 故に、特級の能力を二つも持っている俺が異常中の異常なのだ。


 一族が総出で次期当主に推すのも当然だった。






 ご先祖様の伝承に従って《異種双眸》による【双神の共鳴】。

 そして、増幅しまくった魔力を利用した伝説級の召喚術。

 即ち、【神威召喚】。

 多分もう一度やっても絶対に上手くいくとは思わない。

 それだけの綱渡りだった。

 多分、偶然と幸運が天文学的な確率で重なったのだろうと俺は思う。

 神威召喚というのは本来超々大規模の儀式魔術の類。

 個人で実行しようなどとは絶対に考えない。というか考えるほうが狂っている。

 だが、俺にはそれしかなかった。

 俺はすでに致命傷、戦えるような体では無い。瞳術も使用が制限されている。

 そんな中で使えるのは自由に使えるのは魔力と、唯一適正があった召喚術。

 ならばこの現状を打破できるだけの最高を望むのは道理であろう。

 自分の体は鬼によってつけられた傷と、ありえない増幅を繰り返した反動の結果、既に手遅れになりつつある。

 助かったとしても最早自らの足で歩くことも叶わないだろうか。

 内臓とてどうなっているかも分からない。

 もはや、そう長くは生きられないだろう。

 1年か、2年か。それとも3年か5年か。

 遠くない未来に俺はくたばるかもしれない。

 だが、それでも……。

 だが、それでもここで死ぬことだけは避けられる!

 生への執念、生きたいと思う意思。

 それら全てが重なり、今ある死を忘我の彼方へと送り戻す。


 ――俺は命懸けの賭けに、勝った!


 俺は召喚に、確実な手ごたえを感じていた。




 地面に黄金の炎が奔る。

 奔る炎は円となり複雑な紋様を描き始める。

 聖域、そんな言葉が似合うだろうか。

 炎の魔法円には同じ黄金色の燐光が集まり始める。

 思わず自らの状態すら忘れてしまいそうなほどの神秘的な光景だった。

 そして、次の瞬間太陽のような眩い光が辺りを満たした。


 はじめに見えたのは黄金の髪をもつ美しい女性だった。

 まるで混じりけのない上質の黄金を溶かしたかのような金色。

 そして初雪のような白い肌。

 身をまとうのはまるで神社の巫女のような東洋の趣のある衣装。

 ただしその形状はまるでナイトドレスのように背が大きく開いており、そこからは純白の翼が広がっているのが見えた。

 女性は俺を視界に納めると優雅な佇まいで一礼をした。

「天龍八部衆が一柱、迦楼羅。召喚に応じ参上しました」

 と。


 鈴の鳴くような綺麗な声。

 だが、それよりも俺は世に名高い迦楼羅王が女性であったことに驚いていた。

 元々、迦楼羅王は龍すら喰らう獰猛な鳥類を神格化したもの。

 当然召喚には武将のような男性が出てくると思っていたから。

 しかし、名乗りである以上、目の前の美しい女性が迦楼羅王本人なのだろう。

 まぁ、思うところはいろいろとあるが、そんな思考は後に投げておく事にする。

 今はそれよりもやらなければならないことがある。

「ダチ……がこの世界……に閉じ……込め……られてい……る。助け……て欲し……い。あ……と、ここの……怪異もどう……に……かし……たい」

 苦痛に苛まされながら、途切れ途切れに伝える。

 伝承曰く、神とは気まぐれでわがままなものである。

 だが。

「分かりました」

 と、迦楼羅と名乗った神仏は二つ返事でそれを了承してくれたのだった。


 轟ッ。

 迦楼羅王の足元から迸る黄金の炎。

 あれこそが不動明王の背に在るもの。

 世にも名高い浄化の神炎、【迦楼羅炎】だろう。

 炎は一瞬でその規模を大きく広げると、この霧の世界に広がっていく。

 霧はまるで己の身を削られたかのように戦慄く。

 だが、所詮はいち怪異の現象。

 正真正銘神の力が込められた炎に対抗できるわけもなく、その濃度を減じていく。

 同時に、未だ流砂に絡みつかれていた鬼も黄金の炎に焼かれていく。

 鬼の口から咆哮が迸るが、そえは今までのものとは違い苦痛と恐怖に彩られていた。

 炎はこの異界いっぱいに広がり続ける。

 鬼は再生の力を発揮できず、焼かれ続けてついには塵へと帰る。

 白い霧も身を捩るように蠢くが、抵抗できないままに焼かれ続ける。

 俺があれだけ苦戦した怪異がまるで抵抗できぬままに滅ぼされていく。

 ――これが神。

 僅か以上の戦慄。

 そして気付けば広がった炎の中には俺もいた。

 だが、俺は黄金の炎に囲まれているのに苦しいとも、熱いとも思わなかった。

 逆に心穏やかな気分になってくる。

 それに焼かれていないのは俺だけじゃない。

 見れば廃村として残っていた木造の家屋も焼かれておらず、むしろ焦げ目の一つすらついていないのだ。

 浄化の神炎。

 その言葉の意味と畏怖を、俺は始めて知った。


 轟ッ。

 村中に燃え上がっていた黄金の炎はやがて天を突くような炎の柱となる。

 そして、その一瞬後に黄金の柱はまるで弾けるように消えた。

 眇めていた目をそっと開ければ、そこには青い空と、天頂から僅かに降り始めた太陽。

 視線を下げてみれば風情ただよう廃屋が並んでいた。

「……助かった……のか」

 そう呟くが、体に僅かたりとも力が入らない。

 そのまま叩きつけられていた壁から剥がれ落ちるかのように地面に倒れこむ。

 だが、トンッと柔らかい感触が俺を包んだ。

 同時に白檀のような甘い香りが俺の鼻腔をくすぐった。

「……?」

 力なく顔を上げてみれば、黄金色の髪をした美しい女性が俺を抱きとめていた。

 迦楼羅王だった。


「酷い怪我ですね。少し我慢してください」

 柔らかい声で諭される。

 迦楼羅王に抱かれたまま、俺の体が黄金の燐光に包まれる。

 体中にあった激痛と倦怠感が消え、そして末端からなくなっていた感覚が蘇ってきた。

「……そう……いえ……ば」

 今更ながら迦楼羅王の伝説を思い出す。

 迦楼羅王は龍殺しや浄化の他にも降魔、病除、延命、防毒など魔殺しや治癒・治療などの能力にも長けていたのだと。

 迦楼羅王はくすりと上品に笑うと、俺の記憶を裏付けるかのように言う。

「私には他人を癒す力がありますから、もう少し頑張ってくださいね」

 柔らかい燐光が俺の体を癒していく。

 なるほど、これは見事なものである。

 だが、神の御腕に抱かれるという安心感に包まれたからだろうか。

 急に襲った眠気に意識が暗くなってくる。

「――あ……」

 耐えようとも、その力は凄まじく直ぐに意識が途絶え始める。

 恐らく、理由の一つに魔力の欠乏というのもあったのだろうか。

 抵抗も虚しく、意識は闇に沈む。

 そして。

「ゆっくり休んでください」

 温かい何かに包まれたまま、その言葉を最後に意識が完全に途絶える。


 せめてもの足掻きにと俺は呟く、ありがとう、と。


 どういたしまして、と聞こえたような気がしたが、それを意識することは出来なかった。


ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


ようやくヒロイン登場。


ついでに後2話で一章終了。

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