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04 - 神隠し

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

「だああ!! うっとうしいっす!」

 そう叫んで、飛んできた虫に殺虫スプレーを吹きかけたのはソムリエ君。

 他の者たちも無言であったが、気分は同じ。

 俺は俺で密かにため息をついた。

 ――予想以上の獣道。疲れる……。

 ……。

 現在、会計が選んだ5名で登山の真っ最中であった。


「……ちょっとこれは疲れるね」

 萌花がオブラートに包みながらも愚痴を漏らす。

 今朝方九時ごろホテルを出発し、バスを乗り継ぎ最寄のバス停で下車。そのまま残りの道程は徒歩で移動。

 今は目的地であるK村に向かって強行軍の真っ最中だ。

 だが、中々に辿り着かない。

 というか、山道が余りにも酷かった。

 立ち入り禁止のフェンスを乗り越えて五分ぐらいはまだそれでも道だったのだが、ある地点から突然獣道化したのだ。

 むしろ今は雑草畑を手探りで進んでいる状態である。

 やぶ蚊やダニの対策はしてきてはいるが、それでもメンドイものはメンドイし疲れるものは疲れる。

 しかし。

「このペースの移動なら、あと30分ぐらいだと思うがね」

 そう気楽に呟いたのはカイザー先輩だ。

 まるで疲れを見せない。

 普段から体を鍛えている俺や活動的な萌花ですら若干の疲労を見せているというのに、カイザー先輩だけは汗一つかいていない。

 なぜ?

 と、いうか。

「先輩、あなた何やってんですか?」

 思わず半眼で問うてしまった。

 思わず既視感が、などと冷静な自分が考えてしまうが、それを気にすることも出来なかった。

 だって。

 だって――。

「決まっているじゃないか、ポケ○ンだよ」

 ――なぜに登山しながらのDS四刀流!!?


 もう突っ込みどころが満載過ぎて逆に突っ込めなかった。

 それはもう「よく歩きながらゲームできますね?」とか「なんで登山中にゲーム?」とか「片手でよく二台も操作できますね? しかも両手で!?」とか「先ほどの音から絶対に卵孵化作業×4ですよね?」とか、いろいろありすぎである。

 むしろビックリを音速で通り越して逆に軽いホラーの領域だ。

 しかも、それでしっかりと俺達の行軍についてきているし、一番疲れていないように見えるのだから、世の中分からない。

 それに先ほど耳に届いた呟きでは、しっかりジャ○ジ君のところにも行っているらしい。

 もし創造主という存在がいるなら、絶対にカイザー先輩を作ったときにバグを発生させたに違いない。ダース単位で。

 ……。

 ちなみに俺以外の三人は見ざる、言わざる、聞かざるを貫いていた。




「以外に趣があるな、これが廃墟美ってやつか?」

 などとマニアな呟きを漏らしたのは会計の恭平だ。

 だが、その感想は少しばかり共感できた。

 鉄筋コンクリートが主流の現代で完全な木造家屋――いや正確には土壁やなんかもあるから完全というとあれだが、それでも昔ながらの古い造りの木造家屋――が鎮座していた。

 そして木造であるが故に、周囲の景色と一体化しているかのような自然さでそこにあるそれは、雨風の影響を受けながらもどこか退廃の美ともいえる美しさを誇っていた。

「以外に雰囲気あるねー」

 などと萌花も呟く。

 ソムリエ君も「ほえー」などと簡単の呟きを漏らしていた。

 だが、ただ一人カイザー先輩だけだ、真剣な目つきで辺りを見渡していた。

「どうしたんですか、先輩?」

「……」

 無言。だが、まるで何かを探す警察犬のような鋭い目で辺りを見渡していた。

 そして無言のままにポツリと呟いた。

 だが、その言葉に込められていた温度は先の三人と真逆。

 感動と簡単の対極にある感情。

 即ち警戒と、疑問。


「――……おかしい」


 と。


「先輩?」

 カイザー先輩に視線を向けるが、先輩は視線に応じることなく、そのまま廃村の大地を睨みつけていた。

「ここに来る道中でも気になっていたんだがね、どうにもココから奥へと向かう足跡はあっても、戻る足跡が少ない」

「はい?」

 思わず疑問の声を返してしまった。

「ああ、足跡だ。古いものはわからないが、少なくとも過去半年以内に出来た足跡がくっきりと残っている。だが、分からないのが、奥へと進むような足跡は残っていても、此方に戻ってくるような足跡が残っていない。事前に見た地図では、俺たちが通ってきた以外の道はなかった気がするのだが……」

 どこか地図に載っていないような道から下山したのか? などと呟く。

 だが俺はとりあえず目の前の疑問を呟く。

 足跡? そんなモノは見当たらなかったと思うのだが……。

 すると俺の疑問の声に反応したのだろう。

「俺は、大学二年の時に少しばかりサバイバルにはまっていてね――」

「……はぁ」

 いきなりの語りに、なんとも気の抜けた言葉を返してしまう。

 だが、この人は天下のカイザー先輩である。

 次の言葉を聞き、俺はこの人をまだ見誤っていたことを思い知らされた。

「――サバイバル技術の習得も兼ねて、中東のゲリラキャンプに世話になっていたんだよ」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ゑ」


 俺はこの人の事を見誤っていた、そう実感した瞬間だった。




 □□□□□□




 腕に巻いてある安物腕時計がちょうど12時をさした頃だろうか。


 三方を山に囲まれた地に、惜しげもなく日の光が届く時、ついにそれが起こった。


「白い霧?」

 そう呟いたのは萌花だ。

 だが、その表現は欠片も間違っていなかった。

 まさしく、その言葉通りに白い霧が俺達を覆い始めたのだ。

 萌花、恭平、ソムリエ君にカイザー先輩、四人は突然のことに驚きながらもいきなり広がった白い霧を眺めている。

 ある種の雄大さを秘め、神秘性すら漂わせるその霧、見ほれてしまうのも分からなくはなかった。

 だが、俺はそれどころではなかった。


 ――やばいっ!!


 内心で悲鳴を上げた。

 これは霧の形こそしているが、その正体は結界だ。

 しかも閉鎖型の牢獄系。

 俺の感覚と、そしてそれ以上に不可視を見抜く浄眼が警告を発する。

「――解ッ」

 魔力を練り上げると、刀印を組み開放する。

 通称、【結界崩し】。

 展開中の結界に魔力をぶつけて、結界を崩壊させるという荒業だ。

 結果、一瞬霧が痙攣するかのように揺れ、その濃度を薄くする。

 だが、次の瞬間には先程よりも早い速度で霧が俺達を包囲した。


 くそ、と内心で盛大な舌打ちをしながら油断なく周囲を見渡す。

 今俺の両目を覗き込んでみれば、その眼の奥に紫と碧の燐光がチラつくのが分かっただろう。

「……クソッ」

 今度は口に出して呻く。

 生憎とこういった世界の知識はあれど、離れて久しい。

 いま俺が打てる手は実に限られてくる。

 こんなことならもう少しマジメに修行するべきだったと後悔するが、後の祭である。

 と、晴れない霧にいよいよこれが尋常ならざる事態と悟ったのか、室長が皆に下山するように提案してきた。

「皆、とりあえず残りの調査は明日にして今日はもう下山しない? これ以上霧が濃くなると帰りも危ないし……」

 反対するものもなく、皆が肯定する。

 当然俺もそれに賛成だった。

 だが、少しでもこういった事にたいし理解があったが故に分かってしまった。


 既に下山が不可能になってしまった事を。




「ど、どういう事?」

 萌花が上ずるような震え声で呻く。

 その声には若干の恐怖と焦りが滲んでいた。

「これ、おかしいよ!」

 叫び声が白い世界に木霊する。

 だが、それでもヒステリックに喚いていないことが立派だった。


 現在俺達は下山をしようと、元来た道に向かって進んでいたのだ。

 だが、どれだけ進もうともやがては村に戻ってしまう。

 カメラの映像や記憶を頼りに濃霧の中を進んでいくが、やはり村の中に戻ってしまうのだ。

 最初は道を間違えたのかと思ったのだろう、諦めずに何度も白い霧の幕へと入っていく。

 だが、その繰り返しが二桁に達する頃になると、流石に皆の間に少なからぬ緊張と焦り、そして若干の恐怖が感じられた。

「どういう事だ? しかし……。いや、そもそもこの霧は一帯どこから? 近くに水場などなかったはずだが……」

 この中でも冷静さを失わないカイザー先輩の声だ。

 焦る萌花と恭平、ソムリエ君。そして冷静に思考する先輩。

 持つ感情こそ違うが、そこに願うのは同じ、この場からの脱出と遁走。

 そして俺は――。

「【奇問遁甲】、いや【縁手繰り】、いや、クソッ、わっかんねぇ」

 一人事態を理解できるゆえに、他の四人以上に焦っていた。


 先ほどの結界崩しから見るに、この結界はおそらくかなり高位のモノに相当するだろう。

 結界の展開速度、結界崩しへの対応、そして何よりその規模と効果。

 下手をすれば結界に、というより、もはや異界に引きずり込まれたと表現したほうが正しいだろう。完全に外部と切り離されている。

 おそらくこれが神隠しの……、などと嫌な予感が俺の背筋を撫でる。

 だが、それをわかっていながら、対処の使用がない。

 俺の手持ちの知識と技術じゃこれほどの結界は抜けられなかったのだ。

 ――左を使うか?

 一瞬俺の左の目に宿る瞳術に考えが及ぶが、それが使用不可能だったことを思い出す。

 左は強大極まる力を持っているが、一度使うと暫くの間使えなくなるデメリットがあるのだ。そして、ちょっとまえに使ってしまった記憶がある。

 くそっ、と思いっきり舌打ちしてしまった。

 残念極まることに、本当に手詰まりになってしまったのだ。

 だが、事態は俺達の行動を待つことなく次へと推移する。

 より悪く、より禍々しい方へと。

「「「「「……」」」」」

 皆が無言になった。

 ずちゃっ、ずちゃっ、と湿ったような音が響き、同時に生臭いまでの臭気が漂い始めたからだ。


 霧の幕に隠され他のものにはまだ見えないだろうその姿を、俺の眼が捉える。

 浅黒い鋼のような肌にどす黒く幽鬼の様な髪と瞳、そして何よりも目を引くのはその額を突き破り、空を突くかのように生えている象牙色の角。

 ――鬼種!?

 俺の動揺もついに極まる。

 純粋な鬼種はもはや一個中隊に匹敵するだけの暴力を誇る。

 少なくともただの大学生五人だけなら、風前の灯というか濡れた和紙。

 軽く死を覚悟するほどである。

 そして、俺が険しい表情で何かを凝視してるのに気付いたのだろう。

 皆もそちらに目を向ける。

 そして。


 僅かに風がうねり、霧の幕を穿った。




 そして、つい死の形が顕現した。


ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


そうか、今日はホライゾンの最新刊の発売日か……。

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