02 - 電車内の珍事
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
――しまった、寝坊した。
そうテンプレ的に思ったのは枕もとの携帯を開き、時刻を確認した直後だった。
旅行用の一式はバックに詰めてあったが、リュックに詰めるものはまだ机の上。
携帯とかゲーム機とか。
ともかく、机の上に置いてあった目ぼしいものを片っ端からリュックに詰めると冷蔵庫に備え付けてあったウイダーゼリーをすする。
そのまま手早く着替えると、携帯と財布、それにリュックを背負い、バックを持つと急いで部屋を飛び出した。
近くにある地下鉄に飛び乗り、乗り継ぎ、東京駅構内を早足に進み、どうにか辿り着いたときには俺を除く研究室のメンバーが全員揃っていた。
呆れるような長身とガッチリとした体躯、黒い短髪の男性。我が研究室唯一の四年生である「カイザー先輩」こと御堂真吾先輩。同じ黒髪長身でも恭平と違って此方には力強さがある。
んで、萌花、恭平と並んで立っている爽やかそうな男。あの時に居なかったが、同学年で研究室書記を勤める、曰くイケメンリア充の丸山寛。
リア充爆(以下略)。
――ゴホンッ。
後は萌花の高校時代からの友人で、後輩二年生の芳井美樹と上条小夜。染めた金髪ショートの女が芳井で、黒髪セミロングの大人しそうな方が上条だ。
それに一年生後輩で寛の彼女である倉科美鈴と、我が研究室で「ソムリエ」の名を欲しいままにするむっつり助平の川上高志。なぜソムリエという名がつけられているかは、何れ分かる時が来るだろう。
以上、総勢8人であった。
「遅いっすよ、桔梗先輩」
そういって苦言を呈してきたのは川上だった。
「わりぃな、寝坊した」
「ちょ、先輩! その言い訳が通じるのは高校生までの女だけっす」
「……相変わらず湧いてんな」
思わずいきなり疲れが押し寄せてきたのは言うまでもなかった。
と、パンパンと手を打ち鳴らす音が聞こえた。
室長である萌花だ。
「はいはい、遊ぶのは後々! まずは新幹線のホームまで移動するよ。あ、奏夜、これ新幹線のチケットね。無くさないように」
「サンキュ」
渡されたチケットを財布の中にしまう。
「それじゃぁ、移動するよー」
そう言って室長の後について移動を始めた。
幸い恭平が上手く手を回したのか、新幹線は指定席だった。
全員で固まって一箇所に座る。
俺は窓側だった。
荷物を座席の上に上げると、深く座席に座る。
座って五分もしないうちに欠伸が出てきた。
昨日は夜勤のバイトだったのだ。
幸いバイト自体は早めに切り上げられたから多少は寝れたものの、それでも圧倒的に睡眠時間が不足していた事には変わりない。
文字通りの意味で寝不足だ。
「先輩ちょいとお願いが――」
「もぐ、もぐ……む 何かね?」
そう言って横の席のカイザー先輩に視線を向けてみれば、先輩はお弁当を頬張っていた。
「――なぜ?」
「決まっているじゃないか。朝食だよ」
……。
「いかんなぁ、奏夜。朝食は一日の活力の源だ、抜かすなんて言語道断だよ。ああ、ちなみにこれは我が家のシェフが腕をふるった産地直送の黒毛和牛弁当だ。肉が柔らかくて実に美味い」
「……」
「やらんぞ」
もうあれだ、「いや、いりませんから」とか「乗り込んでいきなり弁当ですか」とか「朝からボリュームあるもん食いますね」とかいろいろと突っ込みたいことは多々ある。
と、いうか。
「先輩、その飲物っすが……。なんといか実に香しい麦の匂いがですね……」
「ビアーさ!」
ビアー、びあー、BEER、……。つまりは、ビール。
「朝から滾ってますねぇ」
「勿論だとも。僕はあれだよ、遠足の前は興奮で寝られない性質でね。何時になく漲っているとも! とうぜん、奏夜もだろう」
――いや、貴方だけっす。
思わずそう告げてしまいそうだったが、それをぐっと堪える。
この人は変人皇帝先輩だ。
常識は通用しない、というか、きっと常人とは思考回路が1440度ほど違うのだろう。
ゴホンッと一息をついて思考を切り替える。
だが。
「先輩、お願い「時に奏夜、どうにも寝不足に見える、寝ていたほうが良いぞ。近くなったら起こしてやるから」がありまして――」
……。
……。
……。
なぜだろうか、信じられないほどの敗北感が俺を襲った。
◆◆◆【祭恭平】◆◆◆
新幹線が動き出して30分もしないうちに奏夜は夢の世界。カイザー先輩はノートPCを開いて何らかの作業中。でもって我らが室長は現地の観光案内を熟読中、寛と美鈴のバカップルは無視、でもって残りの後輩3人組みはトランプでポーカー、あの熱戦ぶりから何らかの賭けでもやっているのだろう。
俺といえば……。
現地の資料を読んでいた。
……。
一番最後に神隠しが確認されたのが凡そ半年前。
被害者は地元の高校生である男女四人組。
目撃情報は、山道に向かって四人で歩いていくのを地元の郵便局員が確認したのが最後。
以降、警察、同高校の有志達による捜索・山狩り虚しく、発見できず。
現在も目撃情報を求む、か。
パラッ、と軽い音を立ててノートを捲る。
今回の現地調査に合わせて作ってきたスクラップ帳だ。
確認できるだけの情報を集めたつもりである。
しかし、何だかんだで相当数の行方不明者が出ているようであり、現在は県により立ち入り禁止として封鎖中。
入るとしたら忍び込むしかないかなぁ。
恐らく、というか絶対に許可なんて下りないだろうし、ともすれば忍び込んだほうが断然早い。
そうすれば、と幾つかの計画を立てる。
まず現地調査だが強行軍の日帰りが良いだろう。メンバーはバカップルと2年女子の二人を除いた5人。
俺と奏夜、それに室長とカイザー先輩だ。
室長も女子だが、あれは運動部に助っ人に行くぐらいの運動能力を誇るし、何より肉体派だ。留守番より調査班のほうが性にあっているだろう。それに一応は研究室室長という立場もある以上、室長は強制参加。
カイザー先輩はあれで見かけによらず鋭い観察眼と超人的なほどの頭脳を持っている。俺に言わせれば馬鹿と天才は紙一重、というか馬鹿と天才は同じ、といった感じだ。 もちろん口に出しては言わないが。
後は使い物になる男二人だ。
ソムリエはともかく、奏夜はきっと適材適所だろう。
あいつ自身は嫌っているようだが、曰くふるい占い師の家系らしい。
詳しくは知らないが、あいつを研究室に誘った副室長が言っていた。
まぁ、こんな時代オカルトなんて信じていないが、何もないよりはきっとましだろう。
面白そうだしな。
うん、と小さく頷き計画を決定した。
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