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19 - 決着

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 巨大な泥の巨人、ダイダラボッチ。


 しかしてその正体は地脈に巣食い、呪詛と悪意で象られた怨霊。


 人の世の理から大きく逸脱した化け物。


 その巨人の腹から黄金の閃光が爆発した。




「出れたぁ!」

 腹部から飛び出すと、跳躍する。

 幸い近場に旧展望台の名残があったため、墜落せずに着地をした。

 そのまま。

「火行をもって陰陽五行の理を示す! ――【炎界顕臨】!」

 火の領域を作り出し、己の認識したもののみを焼く中位の術。

 術の発動と共に俺を中心点として、大地に紅の輪が広がっていく。

 尤もその火力は範囲と反比例するという性質上、そこまで強力な術ではない。

 そして俺は範囲のみを追及して展開した、このままでは暑さすら感じない。強いて言うなら空気が温まる程度の火力だ。

 だが、構わない。

 なぜなら。

 轟ッ。

 紅の輪に追随するかのように、黄金の輪が広がっていく。

 そう、【迦楼羅炎】だ。

 俺の炎に被さるようにして神炎が広がっていく。


 効果は覿面だった。

 広がった神炎は大地を舐めると、そこに根付いた汚泥を、呪詛を、悪意を燃やし、清めていく。

 同時にダイダラボッチが苦しげに身を振るわせ始めた。

 地脈との接点を断たれ、圧倒的な神の炎で焼かれているのだ。

 むしろまだ原型をとどめている辺りが流石だと思う。

 本家本元の使い手ならは滅していただろうが、俺ならばこんなものだ。

 だが、構わない。

「よくも俺を喰おうとしてくれたなぁ、おいっ!!!」

 拳を握り締める。

 そして、正拳突きを撃ち出すかのように構える。

 意識を集中する。

 かつて実家で修行していた時は発動する事すら出来なかった。

 俺は五行の術と相性が悪く、下位の術が殆ど。そして己の属性である『火』と『土』だけが中位の術まで使えた。

 だけど、今なら出来る。

 そう確信した。

 ふと、俺の右腕に誰かが触れる感覚があった。

 姿はない。

 多分俺の魂、その右腕に触れたのだろう。

 ――だが、それで十分。

 不思議と、構築した術式が修正・再構築されていく。

 気付けば今まで組む事が出来なかった術式の細部までが、精細に構築されている。

 まるで、俺の中で俺じゃない誰かが勝手にしているような感覚。

 だが、悪い気分じゃない。


「――火の衣を纏いて、神馬が走るは荒れ場の大地」

 意識を集中すると詠唱を口にする。

「――貴き蹄が砕くは、崩国の軍靴」

 五行における火行高位の術法。

「――火行の五重をもって陰陽五行の理を体現す! ――【炎蹄破軍】!!」


 突き出した拳から、まるでレーザーでも撃ち出されるかのようにして炎が奔る。

 術の原理自体はいたって単純。超火力を集束し、増幅して砲撃のように撃ち出すだけ。

 だがそれは圧倒的なまでの火力、圧倒的なまでの一撃。

 そしてさらには。

 拳から放たれた黄金の炎(・・・・)はダイダラボッチの巨体はいとも容易く粉砕し、撃砕し、灰燼とし、そして消滅させた。

 だがそれだけじゃない。

 走った黄金の砲撃はビロードの如く広がる曇天に突き刺さり、巨大な穴を穿った。




「魔力がすっからかん。もう、一滴たりとも出ねぇ……」

 雲が千切れ、降り注ぐ日光を肌に浴びながら大地に仰向けに倒れ伏す。

 火行高位の術に【迦楼羅炎】の上乗せ。

 恐らく炎系統の規模と威力からすれば歴史に名を残すような一撃だったに違いない。

 その代償として俺の魔力は完全にすっからかん。

 と、いうかこの危険なまでの脱力感。下手をしたら生命力を削っている可能性がある。

 魂を削られたような喪失感がないから根源生命までは削ってないだろうが、日常的な活力源である表層生命ぐらいは削れているだろう。

「うわぁっ」

 思わずな呻き声が漏れた。

 というか、盛大に視界がぼやけてきた。

 魔力欠乏と生命力の一時的な枯渇で盛大に眠けが俺を襲っている最中なのだろう。

 恐らく抵抗は無駄。

「やれやれ、だな」

 ぼやきながら、ふと右腕を見る。

 そういえばあの時の触れられた感覚は……。

 先ほどまでは理解できていたはずなのに、今はもう分からない高位の術式。

「……」

 術が発動したのも、おそらくは女神様の助力があったからなのだろうか。

「……さんきゅ」

 ありがたいこと、だ。

 思わず微笑んだ。




 やがて間をおかず、睡魔の手に絡め取られた俺の意識は夢の大地へと旅立っていった。




 □□□□□□




 ダイダラボッチとの戦闘から二日がたった。


 あの後、俺は携帯の反応を頼りに探しに来てくれた先輩に回収された。

 というか壊れてなかった携帯にびっくりだ。

 実のところ、先輩に回収されるのは二度目なのだが相変わらずピクリとも起きなかったらしいのでそれを知ったのは、後日だ。

 でもって、幸いと怪我は無かったのだが疲労と筋肉痛でピクリとも動かなかった俺はやはり先輩の手で寮まで運ばれていた。

 ちなみに次の日もやはり昏睡――というか爆睡?――状態。ついでに大学もボイコット。

 この時ばかりは1年、2年の時に単位を確保しといてよかったと思ったものだ。


 でもって本日、ゼミもあって大学に出てきた俺はそのまま研究室のソファーでダウンしていたのだ。





「今回は迷惑をかけたね」

 研究室のソファーに寝転がっていた俺に話しかけてきたのはカイザー先輩だ。

 もう直ぐ冬だと言うのに、相変わらずのTシャツ姿だ。

 ちなみにロゴは『因果応報、自業自得、馬鹿の末路』だ。

 皮肉なのか?

 思わず微妙な視線を向けそうになるが、どうにか堪えた。

「奏夜、一応君には世話になったから報告だけはしておこうと思ってね」

 と、カイザー先輩が周りを見て、誰もいないのを確認するとそう話しかけてくる。

「椎子、……妹の痣は消えたよ。それにあの少年も悪夢は見なくなったそうだ」

 あの少年とは自業自得少年の事だろう。

 いまさらだ。もう興味もわかない。

「……ただ、あの少年は再起不能だろうがね」

 既に精神が異常を来たしているような状態だ、これから苦労するだろうね、と冷めた無表情で呟く先輩が印象的だった。

 まぁ、結局の所はあの少年の自業自得が招いた事態だ。

 先輩の胸元に輝くロゴではないが、結局の所は因果応報というものなのだろう。

 同情する気にはなれそうにない。

 と、気になることが一点。

「妹さんは?」

「ああ。……根は悪くないんだけど、思い込みが激しいというのか……、椎子に関しては俺も親父もいろいろと負目があってな」

 歯切れの悪い先輩。

 質問の答えになってないが、聞くべきではなかったのだろう。

 話題を変える。

「あの後の処理はどうなりましたか?」

 処理、とは盛大に地形の変わってしまった旧展望台跡地だ。

「うむ、自然災害ということで決着させた」

 した、ではなく、させた。

 なんというか、なんというか……。

「黒い巨人やら黄金の爆発やら、いろいろとネットで騒がれているが、そのうち消えるだろうよ。人の噂は490日だよ」

 ……長すぎますぜ旦那。


「ちなみに奏夜、君は口座を持っているかね?」

 とは先輩のご質問だ。

 とりあえず、キャッシュカードを財布から取り出すとそれを提示してみる。

 なるほど、と頷いた先輩がスマフォで口座の番号をメモる。

 実はな、と前置きする先輩。

「もう一度どこかに依頼を出すつもりだったらしいんだよ、うちの両親。妹にはとことん甘いからなぁ……。と、これは関係のない話だったな。ともかく、奏夜のおかげで依頼を出さずに済んだからな、用意しておいた金を報酬としてお前に渡そうという話しだ」

「はぁ、まぁ、いただけるなら有難くいただきますが……」

「うむ、あれほどの怪異を相手にとって勝利を収めたのだ。胸を張って受け取ると良い。俺の一存で少々色も付けておいた」

 なんともなぁ……。

 確かに金は欲しい。

 最近は地元との往復で使われる高速のバス代も馬鹿にならない。

 金はあるに越した事はない。

「しかし、なんというか……」

 こういった超常現象が嫌いで家を飛び出したのに、その業で金を稼ぐのも……。

 まぁ、職業に貴賎はなし、という。

 切り替えて受け取ろう。

「ありがとう御座います」

「うむ」

 頭を下げる俺と、鷹揚に笑う先輩だった。




 よっと、横たえていた体を起こす。

 時間にしてそろそろ、16時の半ば。

 帰るにはいい時間だ。

 明日は説明会がある。地元の地銀だ。

 流石は都会、此方で説明会があるらしい。

 銀行は厳しい関門だし、通るとは思えないがそれでも受けるだけ受けてみたい。

 起こした体を捻り、筋肉をほぐす。

「帰るのかい?」

「ええ。確か今日は近くのスーパーで6時から袋麺と卵の特売があった筈です。そこで買ってから帰ろうかと」

 財布の中の札と小銭を確認しながら先輩の質問に返す。

「相変わらずだな……。そこまで倹約する必要もあるまいに」

「ま、親とは絶縁状態で頼れませんからね。削れるところはとことん削る必要があるんですよ」

 確かに貯えが無いわけではない。

 だが、親から援助を受けてない身では贅沢は望めないのだ。

 国立ゆえ高くないがそれでも己で学費を賄い、そして日々の生活費だ。

 一度病気になろうものなら、幾ら掛かるか分かったものではない。

 それに二十歳となった去年からは国民年金も自分で納めている。

 たまったものではない。

 尤も両親は俺が根を上げるのを待っているような気がするが。

 と、そんな俺の独白をぶち壊すかのように研究室の扉が開いた。

「先輩ぃぃ! 女って最低っすよおおおおおお!!!」

 半泣きで飛び込んできたのは川上青年。

 ソムリエ君だった。


「……」

 見れば若干ファッション誌風のキメた格好である。

 言うなら、ソムリエ君(改)だろうか。

「どうしたのだね?」

 黙りこんだ俺とは裏腹に、先輩が問う。

 ただ表情を見るに、そこからは年長者としての義務のようなモノを感じた。

 変人でも、根は善人なのだ。多分。

「先輩。合コンですよ。合コン! この前の日曜の!」

「日曜の?」

 はて、と首をかしげ記憶を探る。

 そして、ポンと手を打った。

「あ、ああー……。あったなぁ、そんなもの」

 完全に忘れていた。

 なんせその後が実に激動の日々だったのだ。

 そうか、あれから四日しか経っていないのに随分と懐かしいものだ。

 と感慨深い俺とは裏腹にソムリエ君の告白は続く。

「あの後良い感じになった女の子とメアド交換してデートまでこぎつけたんすよぉ! 黒髪ロングの清楚そうな女の子っす!」

「ほう」

 反応しながらも、通学に使用しているカバンを背負う。

 ちなみに、俺にとっては極めてどうでもいい情報だと言っておこう。

「すげぇ可愛い感じだったんすよ! 大人しそうで、優しそうで!」

「へぇ」

 携帯で就活のメールを確認する。

 見れば、先輩も何やらスマフォを開くとタッチパネルを操作している。

 今日もわが研究室は平常運転だ。

「でも、そしたらそのこ既に彼氏がいたんす! ただ金づるを探すために合コンにきてたんすよぉぉおおお!!」

 曰く、デート中に携帯を除く瞬間があって、「まーくん☆」と登録された男からのメールが大量にあったらしい。

 で、気になって問い詰めたところゲロったとの事。

 ……。

 ――心底、どーでもいー………………。

「先輩! 黒髪ロングは清楚っていうのは都市伝説っすよ! やっぱり女ななんて信じられません!」

「ああ、はいはい。俺も通ったよその道。だいぶ前だけどな」

 やれやれ、とカバンを背負う。

 ソムリエ君の失恋談。BGMにも成りそうにない。

 しかし、次いでソムリエ君が放った言葉に思考がとまる。

「先輩、小学生は最高です!」

「「はぁあ?」」

 俺とカイザー先輩の疑問の声だ。

 思わず素で出た。というか、変人皇帝の名をほしいままにする先輩がポカンと口を開けて硬直している。珍しい。

 話題のとっぴ性に着いて行けなくなったのだろうか?

 ちなみに俺は既に着いて行けてない。

 というか、なぜ己の失恋談からそこに繋がる?

「つい先ほどっす、付属の小学校の横を通った時っすよ。うな垂れてた俺の視界に入った天使達。なんか俺のジョニーに新感覚が芽生えたっす! こう、なんか種が弾ける感じで!!」

 ソムリエ君の不思議極まるジェスチャー。

「「……」」

「なんというか、裏のない無垢な笑顔。穢れのない体。そう、あれこそが俺の求めてた楽園(エリュシオン)だったんすよ!」

 夢見がちな男が現実を知って、余りの絶望に開けてはいけない何かを開けてしまったのだろうか。

 ……取り返しは、つかないかもしれない。多分。

 ソムリエ君がちゃっと素早く何かを取り出した。

「一眼レフ?」

 先輩の冷たい声。

「さあ、先輩達! 俺と一緒に楽園に行きましょう! 大丈夫、男色(せんぱい)変人(せんぱい)なら共に羽ばたけます!!」

「「……」」


 ガッ、ゴキンッ。グシャァ!


 鳩尾を撃つ音、首を捻る音、そしてカメラを叩き潰した音、だ。

「さて、帰ろうか、奏夜」

「そうですね」

 カチッ。バタンッ。

 二人して今日はいい夕焼けだ、などと笑いあいながら電気をけして研究室の扉を閉めた。

 事前に何かあったって? 何もあるわけ無いだろう。

 明日も早い。


 さっさと帰って寝るとするか。




 余談だが、口座に入金された8桁の数字に俺が卒倒するのは別の話し。

 ちなみにそのまま全額定期貯金にしたら行員が凄いいい笑顔、支店長まで出てきたのはこれまた別の話である。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


第二章、終了!


どうだったでしょうか?


他の作品が更新されるまでの暇つぶし程度に思ってもらえれば幸いです!


ちょっと雪華は苦戦中なのでもうちょいと待ってください!


ちなみにその瞳の第三章は、一応あります。


プロットとしては実家がらみの章になる予定です。


ただ元々暇つぶし作品謙リハビリ作品なので、更新するかは未定です。


更新希望があればその内更新するかもしれません!


では、これにて一先ず、ノシ

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