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01 - 現地視察?

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

「現地視察?」

 ある日の昼下がり、大学の研究室でのことだ。

 大学の同級生達に声を掛けられたのだ。

 俺は基本的にバイトで時間を埋めているため、この研究室も殆ど幽霊だ。

 入学時仲良くなったダチに誘われて籍だけ置いているのだ。

 でもって、この研究室の正式名称は「地方民俗学研究室」である。

 現在は東北寒村に残る神隠しについての話題であった。


「行こうよ! 今なら人数もいるし多分大学から補助出るからさ!」

 そうテンション高く叫んだのは同級生で、我らが研究室のまとめ役である室長の藤村だった。ちなみに本名は藤村(ふじむら)萌花(もえか)

 でもって。

「いいんじゃない。今年は予算が余ってるし、藤村の言うとおり補助金も出れば十分に賄えるしね」

 そう応じたのは研究室会計の(まつり)恭平(きょうへい)

 ちなみに前者はいまどき絶滅危惧種の黒髪ポニテの元気娘。後者は長身細身で黒縁眼鏡のインテリ男。我らが研究室を切り盛りしている二大巨頭である。

 実はもう二人ほど役付きが我らの研究室に居るのだが、副室長、書記、揃って俺と同じ幽霊室員である。

 一応イベントや会議には顔を出すのだが、それ以外は滅多に現れない。まさにレアキャラだ。

 と、萌花がもう一度言ってくる。

「どう奏夜? 東北への視察旅行、悪くないと思うんだけど」

「……」

 バイトが忙しい、と断わるのは簡単だが、実は何度か同じ誘いを断わっていたりする。

 来年になれば就活戦争が本格的に激化するだろう。

 そうなれば同じ誘いは二度と来ないと考えてもいい。

「……」

 まぁ、就活戦線に飛び込む前の最後の息抜きと考えれば、そう悪いことでもない気がしてくる。

 興が乗った、とでも言うのだろうか。

 だから。

「まぁ、日程が合うのなら、いいかな」

 と、肯定的な返事を返してみた。


 ……。

 結論から言うと、俺の旅行参加は上手く行った。

 日程はちょうど俺のバイトが入っていない週だったのだ。

 でもって期間は三泊四日の小旅行、宿も足も我らが会計が既に全部用意していた。

 なんとも手抜かりのない男である。というか本当に学生か?

 ともあれ、集合は東京駅の八重洲口の改札付近。

 時間は朝の8時ということで決定。詳しくは、後ほど会計特性の旅行栞を配布するからそれを見ろ、との事らしい。

 ちなみに参加人数は全部で9人。四年生1人に三年生4人、それに二年生が2人の一年生が2人だ。顧問は日程の関係で三日目の朝に合流するとの事。

 ちなみに萌花いわく。

「んふふふふ。学生らしく清く正しく、なんて言うつもりはないから安心してね。ただし、学生のうちに出来ちゃった、なんてことは無いようにゴムは持参すること、ね」

 と、すんごい含み笑いしながらの言。

 実に下品な奴である。

 ちなみに、俺と会計は華麗にスルーを決め込んだのは言うまでもなかった。




 帰りにコンビニで週刊誌を立ち読みし、スーパーで安売りのカップ麺を箱買いしたあとに寮へと戻る。

 そのままポストによって蓋を開ける。

 手紙が幾つか入っていた。

 全て引っつかむと、部屋に戻った。

「……」

 ポストに入っていたモノに眼を通す。

 携帯電話の請求書、電気料の請求書、それに就活スーツの案内と行きつけのコーヒーショップの割引券、図書館の督促状など。

 だが、一際異彩を放って目立つ手紙が一通。

「実家から、か」

 古めかしい封筒に入れられている。

 差出人の名前は桔梗(ききょう)規高(のりたか)。俺の実の父親だ。

 無言で引き出しの中にあった缶からに放り込む。

 よく見ればそこには同じように、実家からの手紙が未開封のまま積みあがっていた。


「ごっそさん」

 最後のスープまで飲み干すと、カップ麺の器をゴミ箱に放り込む。

 そのままパソコンに電源を入れると、検索サイトを立ち上げた。

 今回の旅行先について少し調べようと思ったのだ。

 研究室で聞いていたときから何やら嫌な予感がしたりしているのだ。

 陰陽師の第六感。ある種の虫の知らせと言ってもいい。

 魔道に通じるものは大なり小なりこういった直感力を身に着けている。

 それに経験則的に、こういった予感は外れた事のほうが少ない。

 ――何事もなければいいのだがな。

「……岩手県、K村、神隠し、と」

 検索サイトに文字列を打ち込むと、そのまま検索ボタンをクリックした。


 ……。

「夕暮れ時に変な呻き声が聞こえ、気付いたら友人がいなくなっていた か」

 マグカップに注いだ麦茶で咽を潤しながら、検索結果に眼を通す。

 どうやら今回の神隠し事件は割りと有名らしく、古くは大正の時代に記録が残っており、新しくは平成の今の世でも記録されていた。

「警察の捜索むなしく、か」

 しかし、消えた人が見つかったという記録は一つも出てきていない。

 これほど歴史の深い怪異となると解決に挑んだ術師や道士も一人二人ではなかろうに。

 今更ながら、行くのを止めるべきだろうか?

 いや、と思い返す。

 今回泊まるのは近くの町であり、K村には調査に行くだけだ。

 それに俺が知らないだけで、もう既に怪異は消滅しているかもしれないのだ。

 そこまで心配するような事でもないのかもしれない。

 まぁ、確かに注意しておいたほうが良いだろうが……。

「行って無事に帰ってきたという人間も数多くいるしな」

 うんと、一つ頷く。


 ――まぁ、大丈夫なんじゃないの?


 そう、結論図付けるとインターネットを閉じた。




 □□□□□□




 そこは古びた廃村。

 三つの山に囲まれた、戦前より存在する歴史深き村。

 だが、そこには当然あるべきはずの人の姿がなかった。

 人はなく、また人に飼われているであろう動物すらも存在していなかった。

 故に廃村。

 人はなく、人の営みが生み出す生活の活気などあろう筈もない。

 無人の村を吹き抜ける風はまるで、砂漠の風の如く渇いていた。

 ただ、残された木造の家屋は軋み今にも崩れそうな雰囲気を漂わせていた。


 ここは神隠しの村。


 人を喰い、人を飲み、人を隠す怪しきの村。




 やがて日が天頂から沈み始めたその時、山道を登り村に辿り着いた二組の男女の姿があった。

 男女は若く高校生、もしくは中学生にも見えた。

 事実、彼らは神隠しの興味に引かれた地元の高校生の仲良しグループだった。

 地元ということも会って、彼らは日帰りでこの村にやってきたのだ。

 この村は町から立ち入り禁止のお達しが出ていたが、そんなものは既に有名無実となって久しい。

 地元民であるからこそ、逆にその辺りにも詳しかったのだ。


 この村には昔から一つの伝承が伝わっていた。

 即ち「鬼のかどわかし」である。

 ――この村を囲む南の山と北の山、そして西の山には鬼が住んでいる。

 ――鬼達はこの村の人間を気まぐれに攫い、男は喰らい、女は身篭らせたという。

 ――この村は昔から罪人や人柱を鬼に捧げるための村であり、今でもその習慣に則って鬼達はここに来た人間達を攫っていくという。

 古い民間伝承にありがちな、ファンタジックな御伽噺であった。


 四人の高校生はカメラやメモ帳を片手に散策を始める。

 今回は学校のレポートの一環として個々を調査しているのだ。

 確かに立ち入り禁止の場所だが、実際には先輩達の中には遊び半分でここにきたという人たちも居るし、悪くても注意を受ける程度だろう。

 そう楽観視していた。


 だが、その楽観視が彼らをけして後戻りの出来ない魔の口へと導いてしまった。


 風が吹く。

 今までの渇いたような風とはまた違う。

 生臭い風。まるで山がくぐもった吐息を漏らしたかのような風だった。

 そして、気付けば乳白色の淡い霧が辺りを包んでいたのだ。

 家屋は見える、だが、それより先の外の景色が見えない。

 いきなりの光景に四人の高校生は立ちすくむ。

 それはそうだろう。

 つい先ほどまでは彼らの頭上には燦燦と太陽が輝いていたのだ。

 それにこの近くにはこれほどの霧を生むような水源はない。

 思わず、四人は一箇所に集まり身を寄せ合う。

 きっとそれは重大な危機に直面した生物の本能だったかもしれない。


 ここから出よう、そう言ったのは一人の少年だった。

 恐らく四人のリーダー的な存在だったのだろう。

 他の三人も反対はしなかった。

 誰しもが、この不気味な場所を一秒でも早く去りたかったのだ。

 四人は早足で元来た道を戻る。

 来るときに目にした家屋の形を頼りに、山道へと向かう。

 だが……。

 だが、それが出来なかった。

 走れども、走れども。歩けども、歩けども。

 消して村の外へ出ることが出来なかったのだ。

 村を出た、そう思った瞬間に、気付けばまた村の中に居たのだ。

 少女の一人がヒステリックに金切り声を上げた。もう一人の少女も涙目だった。

 少年二人は青い顔をしながら、どうにかここを出ようと必死に考えた。

 だが、それらは続かなかった。

 なにせ、それより早く、そしてもっと悪く事態は進行したのだ。


 ずちゃっ、ずちゃっ。

 何か生ものを引きずるような音が聞こえた。

 霧の中から黒々とした何かがにじみ出るようにして見えてきた。

 四人が息をのむかのように、硬直する。

 そして。

 それが現れた。


 筋骨隆々と、まさにその通りの言葉だった。

 赤銅色にも見える、どす黒い肌に赤く煌々と輝く瞳。

 瞳孔は縦に割れ理性と知性を感じさせない。

 口元には乱杭歯のような牙。

 頭には濁った色の黒髪と肉と皮を貫いて生える象牙色の角。

 身に纏っているのは腰周りに巻いた襤褸だけ。

 まさに、鬼と呼ばれるだけの存在がそこに居た。


 鬼は手を振り上げると、勢いよく振り下ろす。

 まるで金槌で釘を打つかのような動作。

 生々しい音と鈍い音が響き、少年が爆ぜた。

 この時、悲鳴は響かなかった。

 それどころではなく、もう一人の少年は恐怖で硬直し、涙目だった少女は余りの光景に理性を砕かれた。金切り声を上げていた少女は恐怖で失禁しながらも逃げようとした。

 だが、次の鬼の行動で今度こそ少女の理性も砕けた。

 鬼は巨大な手でリーダーだった少年の首を握ると、頭から齧りついたのだ。

 ボリボリという音、ゴキゴキという音。

 かつて少年だったそれ(・・)が鬼の口の中で発した音。

 この時二人の少女の精神は均衡を、完全に失った。

 鬼は口元に獰猛な嗤いを浮かべると、腰蓑を外し、少女達を押し倒した。


 翌日、地元の警察に四人の少年少女達の捜索願が出された。






 ある大学の研究室の学生達が現地調査に来る半年前のことである。


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