16 - 育まれる絆
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
会社から帰ってPCの前に辿り着いたのが日付が変わる7分前!
よく頑張った俺!
「呪い対策としてはわりとポピュラーなものなんですけどね、身代わりを立てて暫く呪いを逸らします」
とりあえずの方針だ。
よく映画とかで出てくる、本人の大切な着物とかを使ったりするアレですよ、と続ける。
「先ほど一端交えてみて分かったんですけど……、はんぱないですね、あれ」
視線を焼け爛れたようになっている腕へと向ける。
「正直なところを言ってしまえば、俺は関わり合いになりたくない……。呪いの類に関わるのは、どちらにしろそれなりの覚悟が必要ですから」
気乗りしないのは実のところ本当だ。
いじめを行った結果、復讐を受けている。
要は自業自得の結末だ。救いようが無い。
「……」
告白しよう。
俺は「いじめ」という行為が心底嫌いだ。
俺の嫌いなモノランクのトップ5に入るといっていいだろう。
何が気に入らないかといえば、加害者側の意識のありようだ。
「……」
その人が気に入らないのならいじめなんかせずに正面から相対すればいいし、それが出来なければ関わらないようにすればいい。なのに、行われる被害者を追い込むような行為。それは下種の極みだ。
それが遊び感覚だというのだから……、むしろそんな下種は死ねばいいとさえ思ってしまう。
そして俺のそんな視線を感じたのか、先輩も珍しく迷うような表情をしている。
「……まぁ、どちらにしろまずは身代わりを立てましょう。たとえ俺が解決をしなくても、別の人を用意するかもしれませんから」
皮肉げな口調で膝を抱えている少年と、その少年を慰めている少女を見た。
本人が県大会で使用したというユニフォームを失敬すると、簡単な術を施す。
呪詛祈祷の類は苦手だが、いち術者の嗜みとして呪いの対策程度には知識はある。
そして次いでそれを別の部屋に移すと、今度は件の自業自得少年の部屋に結界を構築した。
魔を遮断するというより、どちらかと言うのなら廃村で使った隠蔽系統の結界だ。
あんまり精度は高くないが、目を逸らす分には十分すぎる。
特に長期間ではなく、短期間逸らす程度だ。問題はないだろう。
「奏夜……、すまない」
「……いえ」
先輩は悪くない。
当然そんな事は分かっている。
では、何がいけないのか?
答えは既に分かりきっている。
「ただ、俺が――」
――非情になりきれないだけだ。
もし非情になれたのなら潔く自業自得少年を見捨てられただろう、逆にビジネスとして割り切れたかもしれない。
人道的に見るのなら、助けられる命は助けるべきだろう。
反省や償いは生きてこそなのだから。
……。
理性では分かっている。
だが、俺の感情という部分が不満を言い続けているのだ。
パン、と拍手を打つと、キィンッという僅かな空気の振動と共に場の雰囲気が変わる。
結界を完成させたのだ。
これで今晩一晩程度は凌げるだろう。
これを破られ、身代わりがバレたのならそれまでだ、というか補充した魔力も完全にすっからかんだからどうにも出来ない。
魔力結晶体は後二つあるが、その内の一つは呪符同様に既に使い道が確定している。
それに、これはあくまで非常手段だ。
可能な限り使わないのが望ましい。
今回は咄嗟だったことと、あのままだったらあの部屋にいた全員に被害が出ていた可能性があるからだ。
「……ふぅ」
怪我した腕をあらためて見る。
中々に痛々しいが、俺としてはそれ以上に裾の部分が涼しげになったスーツの方が悲しい。
けして安い物ではないのに……。
まぁ、先輩が新しいのを進呈してくれるというのだが、やはり愛着というモノがあるだけに悲しげな感情を抱いてしまったのだ。
と。
「奏夜、少し、いいか?」
妹を連れた先輩が真剣な目つきで声を掛けてきた。
「これを見てくれ」
そういって示したのは先輩の妹さん、その膝下の肌だった。
年頃ゆえに、なんとも色気を感じさせる場所なのだが、そこにはどす黒い痣が刻まれていた。
「……」
俺のように焼け爛れた肌ではない。明確に黒い痣が刻まれた肌だ。
禍々しい痣、こんなものは《浄眼》で見なくとも分かる。
「なんなのよ! なんなのよこれッ!」
先輩の妹さんがヒステリックに喚く。
だが、現実は変わらない。
「奏夜、もしかして……」
「ええ、考えている通りかと」
何をなどと答える必要もなく肯定を示す。
呪いを受けている。
まさしく、それ以外には、考えられない。
幾つかの推測を立て、妹さんに聞こえないよう先輩に問う。
妹さんとあの自業自得少年は恋仲なのか? と。
答えは肯定。
先輩が苦々しく「恐らくな」とだけ答えた。
ならば、この現象には説明がつく。
――呪いの伝播。
恐らくこれが答えだ。
どうやら少年を蝕んでいた呪いは、妹さんの想いにも反応を示したのだろう。
しかし、少年に向けられながらも少年を取り巻く想いにすら反応するとは……。
呪いの主はよほどのあの少年に憎悪を向けているのだろう。
その憎悪が周囲に伝播してしまうほどに。
「……」
いったいどれ程の恨みを買っているのかなどど、考えるのも怖い。
つっと先輩を見てみれば、もはや青白い顔をしている。
いつもは冷静な先輩も流石に身内の危機には堪えるらしかった。
自業自得少年の家から外に出る。
すると先輩が真剣な目つきで声を掛けてきた。
「奏夜、少し、いいか?」
はい、と答えながら近くの自販機でコーヒーを購入する。
「……妹は、どうなると思う?」
無言。
だが、俺のそんな様子を見て先輩は深く、だが短く息を吐いた。
「奏夜。お前は今回のことをどう思っている?」
「……あまり、乗り気ではないな、と」
答えるが、少々歯切れが悪い。
イジメを実行した少年の自業自得とそれを庇う少女の自業自得。
少年のほうは身から出た錆だが、妹さんのほうはなんとも答えづらい。
「……いくら愚かなやつといえ、俺には唯一の妹なんだ」
「……」
妹。俺にもいる。
仲は良くないし、向かい合えば殺気を向けられるような関係だ。
だが、先輩は一瞬だけ顔を歪ませると頭を下げてきた。
「ことここに至ってはもう縋れるものにはなんでも縋りたい。恐らくまた何処かしらに依頼を出すとは思う。だが、俺は奏夜の実力を廃村で見ているんだ」
先輩は俺の目を正面から見据えると言う。
「頼む、奏夜。俺はお前に頼みたい。俺の家族を――」
「――助けてくれ」
俺はその言葉を拒絶する事が、出来なかった。
□□□□□□
寮のベッドにうつ伏せに転がる。
俺は……。
思わず目を瞑る。
しかし。
『……奏夜』
カルラだ。
俺の中からカルラが優しげに声を掛けてきたのだ。
『貴方は自分がどうすべきかをおぼろげながらも分かっているはずです……。ただその決断が出来ないんですね……』
まさにその通りだった。
先輩からの嘆願と、その答え。
そうだ。俺はどうするべきかを分かってはいるのだ。
先輩は友人だ。
だが……。
『――命がけになるかもしれない。もしかしたら助けられないかもしれない。だから迷っているんですね……』
……。
図星だった。
廃村の時のような己すら巻き込まれた必死の状況とは違う。
今回は俺の立場は外様の第三者。
ましてや今回は原因が原因だ。
そしてそれ以上に、己の領分を大きく逸脱してしまっている。
だから迷う。迷う気持ちが大きくなる。
だが。
「俺は――」
『奏夜』
カルラの温かい声が俺の中から届く。
それは渇いた心に染み入るかのように響く。
『奏夜、私はまだこの世界に下りて日が短い、奏夜と御堂さんの関係は貴方の記憶程にしかしりません。だから貴方が今どのような思いなのかを、全て把握するのは出来ないでしょう。ですが、もし助言できるとするのなら一言だけ伝えさせてください』
カルラはそれ以上を語らず、ただ一言だけ俺に告げた。
今の俺の背を後押しするかのように。
『――貴方の後悔のないように』
と。
……後悔。
そう。後悔だ。
俺は今ここで先輩の懇願を跳ね除ける事は出来る。
だが、そうすればこの先、どれ程の後悔で身を焼くか……。
俺は自分が情に厚いなどと自惚れるつもりはない。
しかし、友人を見捨てる事など、やはりできはしない。
「俺は……」
閉じた視界の中、金色に輝くのは女神の瞳だ。
優しげに此方を見つめる瞳。
強制も、強要もしない。ただ俺の答えを待ち続けている。
「なぁ、カルラ」
『はい』
「もし、俺が先輩を助けるとしたら、カルラは俺に力を貸してくれるか?」
かつてカルラがこの世界に残ると決めたときに、俺とカルラは一つの取り決めを交わしていた。
それは神の力を金輪際使用しないという取り決めだ。
――強大な力だからこそ、それを律する責任があると。
――何があろうと神の力は使わず、封印すると。
これは俺がカルラと今後共に過ごしていくと決めたときに誓った誓約だ。
だが、もしかしたら今回はそれを破る事になるかもしれない。
しかし。
『奏夜、心して聞いて下さい』
カルラはまるで諭すかのような口調で俺に語りかけてきた。
『私は今代の契約者が貴方であった事を誇らしく思っています。それはあの廃村で、貴方が自分の命より友の命を優先した事。そして、その後に私の力を己の欲のままに使おうとしなかった事』
その穏やかな口調には不思議と嘘偽りといった物が感じられない。
カルラが本心から言っているのだと、何故か分かったからだ。
『何よりも真っ直ぐで裏のない貴方の心根は私にとっても好ましいものでした』
……。
『けれどもし私の力が必要となった時、貴方が自分の約束を言い訳に友を見捨てたのなら、私は貴方を軽蔑したでしょう。しかし、貴方が友の願いの為、その全てを知りながら誓いを破ったというなら、それは怒るべき事ではなく、むしろ誇らしい事』
何故か、カルラの言葉が俺の胸をうつ。
その想いは、誓いを破ってなお誇るものだ、と。
カルラが一呼吸を置いて、想いの全てを俺に伝えてきた。
『安心してください、奏夜。それは愚かなことではありません。むしろ、己の欲ではなく誰かを救うためになら、それは私にとっても喜ばしい事です』
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この話はかなりの難産でした。五回ぐらい書き直した記憶があります。
作者個人としても展開が少々強引だったかな、という気はします。
ですが、カルラとの関係が変わる切欠という事でこのまま話しを進めることにしました。
主人公とカルラにとって第一章は出会い、第二章は切欠、そして第三章は変化です。
続くかは不明ですが、第三章では実家の話になる予定です。




