09 - 旅の結末
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
とりあえず、カルラとの話しが一段落したのでホテルの温泉にはいる。
どうにも、あの後そのままの状態でベッドに寝かされていたらしく、血と汗の臭いが凄かったのだ。
それを綺麗に洗い落とし、玄関に付近にあった食堂で蕎麦を啜る。
本来なら内臓とかが駄目になっていて、点滴による栄養摂取、などと覚悟していたのだが、カルラの癒しの力が凄まじかったのだろうか以前と同じように行動することが出来た。
嬉しい限りである。
そのまま、御代わりでもう一杯蕎麦を平らげると、ようやく俺の空腹も収まってきた。
そのまま玄関近くにある自販機からコーヒーを一本買うとそのまま玄関近くのソファーに腰を下ろした。
「じゃぁ、あの怪異の本体はあの結界そのものだったってことか?」
『はい』
誰にも聞かれないような小さな声、そしてそれに応じる声。
カルラとの会話である。内容は今回の顛末について。
『あそこは地脈の関係上、魔力がたまり易い地だったようです。ですが、三方が山に囲まれており、結果淀んだ魔力が溜まり続け、今回の怪異が発生したみたいです』
「淀んだ魔力が?」
はい、とカルラが肯定の言葉を紡ぐ。
『今回の事で淀んだ魔力を焼き払い、地脈との接点も完全に断ちました。以降はもうただの山中の廃村でしかありません』
「それは、なんというか、お疲れ様」
カルラに労いの言葉を送る。
しかし、気になる点が一点。
「ではあの鬼は? 純粋な鬼種というわけではないのか?」
『その通りです』
またも肯定の声。
『あれは結界に付属する現象の一つ、と捉えていただいて構いません。あの鬼自体はどちらかといえば鬼種というより幻想種に限りなく近い存在です』
ふぅむ、と頭を捻るが全然分からない。
淀んだ魔力、結界が本体である怪異、そして幻想種の鬼。
ちんぷんかんぷんである。
カルラは苦笑したように補足の説明をする。
『実はですね、この地には一つの民間伝承があるのですよ』
「民間伝承?」
いきなりの話題転換に戸惑うが、続きを促す。
『はい、民間伝承です。名を「鬼のかどわかし」、村に住まう人間達を攫っては喰らうというお話しなのですが。今回はこの民間伝承こそが事の発端になっているんです』
民間伝承が発端に?
乱舞していた疑問符がその数を増やす。
『火の無いところに煙は立たない、そういう諺をご存知ですか? 形としてはこれの正反対みたいなものです。「鬼のかどわかし」という伝承があり、根強いその伝承の影響を受けた魔力溜まりが伝承を現実にした。つまりは実際にあったから伝承に残っていたわけではなく、伝承が存在したからこそ現実に発生してしまったというわけです。そして、この伝承を現実にしてしまったのが、魔力溜まりであり、淀んだ魔力』
つまりは――。
『淀んだ魔力が伝承を取り込み、結果として怪異として誕生した。故に結界こそが本体であり、内部に存在した鬼というのは伝承になぞった存在であった。つまりはあの鬼は「鬼のかどわかし」を再現していた結界の付属品、ただの再現された伝承の一つだったんです』
――結界の内部で鬼を滅ぼしても、鬼のかどわかし自体を再現している結界そのものをどうにかしない限り、鬼は無限に存在し続ける。滅ぼすことは不可能。
どうりで、とため息をつく。
脳裏に思い浮かぶのは、俺の攻撃から復活してきた件の鬼だ。
「…………なんというか、詐欺に引っ掛かった気がしてならないんだが……」
あはは、とカルラの苦笑いが聞こえてくる。
『そして今回の怪異の発動条件は人数と滞在した時間です。一定以上の人数が、一定以上の時間村の内部に留まっているとあの怪異に取り込まれるようになってました』
……人数と時間とはまた。
ため息交じりの大きな苦笑を一つ、疲れたようにソファーにもたれかかった。
しかし、カルラの話しが本当ならちょっと詳しすぎるような気もするのだが、と疑問を呈したところ、あの地を浄化する際に残留思念を読み取りましたから、と返ってきた。
なんというか、流石は神様というところであった。
コーヒーを飲み干し部屋に戻ろうとする。
その直後に。
「居たぁ!」
という声が聞こえてきた。
およ? と振り向けば、我らが室長である。
「もう、どこに行っていたのよ! 奏夜」
室長の背後には研究室員たち、どうにも全員で俺を探していたらしい。
しまった、メールの一つでも淹れておくべきだったと、反省する。
「起きたのなら連絡の一つぐらい寄越しなさいよね」
「悪い、悪い。ちょっと体を綺麗にしたくてな」
「先輩! 先輩が言っても全然エロスが足りません」
……。
突っ込んだら負けだと自分に言い聞かせた。
「体は大丈夫なのか?」
そう問いかけてきたのはカイザー先輩。
なぜか、『天上天下唯我独尊! 俺様天下! ワハハハハ!』とロゴをされた謎のTシャツを着込んでいた。
「……ええ、まぁ」
突っ込んだら、負け、だよな?
「多少だるいところがありますが、至って健康ではないかと」
「――そうか」
先輩は風体とは裏腹に安堵したように頷いてくれた。
どうにも廃村で俺を見つけて回収してくれたのは先輩であるらしい。
見つけたときの俺は血まみれでボロボロ、不思議と怪我は無かったが意識を失っていて全然目覚める気配が無かったという。
ひとまずのところ怪我はなかったし、先輩が診断したところ病院に運び込むような状態とは程遠かったため、俺をホテルのベッドに運んだという。
曰く、簡単な診断なら可能、ゲリラキャンプでうんぬんと。
若干怖くもあるが、ありがたい話である。
と、先輩は俺に近づくとこっそりと耳打ちをしてきた。
「安心しろ、萌花や恭平、それに高志には口外しないように釘をさしてある。まぁ、あんなこと人に言えるわけないし、言ったところで狂人扱いだろうが、それでも一応、な」
……。
どうやら、先輩の方で上手くまとめていてくれたらしい。
多分ひと悶着はあったのだろうが、きっと先輩のことだから上手くやってくれたのだろう。
ありがとう御座います、と返すと先輩も笑って応じる。
「こちらは命を助けてもらったんだ、礼は不要だよ」
なんともいい男であった。
と、萌花がパンパンと手を叩いて皆の注目を集めた。
「はいはい。奏夜が起きたから、計画通りね。皆ここは三時頃に出るから、それまでに荷物をまとめておくようにね!」
「「「「「「はーい」」」」」」「……ゑ?」
ちなみに「はーい」は俺と先輩と萌化を除いた六人。「ゑ?」は俺である。
疑問の声を漏らした俺に、カイザー先輩が黙ってスマートフォンに表示された日付を見せてくれた。
「……………………おや」
日付は旅行の最終日。何度見直しても最終日。
つまりは――。
「奏夜、実は君が倒れてからまるまる二日間寝込んでいてね」
――俺は旅行を寝て過ごしてしまったという……。
先輩は俺の肩に手を置くと、実に痛まし面白そうな顔で言った。
「――どんまい」
「馬鹿なあああああああああああああっ!!!」
まぁ、帰りの電車で皆の面白旅行トークで俺がふてくされたり、自棄食いで先輩の弁当をかっぱらったり後輩いびりをするのだが、それはまた別のお話しである。
ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。
第一章終了!
さて、作者の半年振り以上のリハビリ作はどうだったでしょうか?
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
あと、今後どうするかですが、完全未定です!
続けるかもしれないし、続けないかもしれない。
とりあえず次は投稿する予定は今のところありません。
プロットはありますしある程度の書き溜めもありますが、完全に予定無しです。
まぁ、評判次第ですね、としかいえません。
ではでは、またどこかの作品の続きで!




