00 - プロローグ
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
リハビリ作です、忌憚ない感想をくれると嬉しいかとww
「俺はこの家を出て行く!!」
そう宣言して家をでて三年近くになるだろうか……。
我が家は一般家庭とはいささか違う。
正直に告白してしまえば、いわゆる陰陽師の一族という奴である。
……。
残念ながら事実であった。
鉄の船が空を飛び、人が月に至る現代でありながら、まこと残念ながら事実である。
陰陽で有名な大家といえば《安部》と《芦屋》、それに《賀茂》などがあるが、我が一族《桔梗》もそれに並ぶ古い一族である。
我が一族は他の一族と違い、特殊な力を血に宿し、神代の時代から連綿と続いている。
神写しの一族。
それが我が一族の呼び名、らしい。
桔梗一族の直系は、一定の年齢に達すると、その瞳に神の力を宿す不思議な力が宿る。
長男であるなら【御霊門】、妹なら【篝火】という具合で。
当然俺にもそれは発現した。《異種双眸》として。
一族の中での序列は瞳の格で決まる……。
そして――俺にとって極めて迷惑な事に――、両親と祖父母は俺を次期当主に推して来たのだ。
言っておくが、別段長男である兄が俺に劣っていたわけじゃない。
術の才能は俺より上だったし、それに努力もしていた。
人望もカリスマもある、また性格もいいし、むかつくことに顔だって良い。
弟である俺から見ても天から二物も三物も受け取っている超人だった。
瞳とてけして格の低いものでもなかった。
だが、宿った力は俺のより位階の低いものだった。
ただそれだけだった。
――満場一致で、次期当主を奏夜に決定する。
一族の定例会議での事だった。
まさに寝耳に水。目が点になった。
俺だって術は使えるし、体術だってそこそこ鍛錬を積んできた。
だが、遊び半分惰性半分でやってきた俺と違い、兄はまじめに取り組みそれらを倍以上こなし、そして俺が何をやっても叶わないほどの完璧超人だったのだ。
それの言葉が告げられたときの長男の顔を俺は生涯忘れないだろう。
驚愕、怒り、屈辱、絶望、憎悪、悔恨、妬み、恨み、そして、虚無。ありとあらゆる負の感情が宿っていた。
また兄に懐いていた妹の顔もそれほどではなかったが、此方に向ける視線は鋭く刺々しいものだった。
その日から俺の呼び名は「若」と呼ばれるようになった。
同時に、兄弟の仲は、極北の風すら心地よく思えるほどのモノにもなったのだが。
――瞳に宿った力で全てが決まる。
我ながら腐った一族だと思ったものである。
その日の夜に俺は家を出ることを決めた。
ちょうど迎えた大学進学も、親に内緒で遠方の大学に決め、受験。
やはり内緒で奨学金の申請もした。
そして、親には近くの大学に進学すると偽りながら迎えた春、俺は書置き一つ残して家を出た。
もしかしたら、一族の下らない習慣や慣例から逃れたかったのかもしれない。
だから、俺は夜逃げ同然に、夜行バスに飛び乗り家を出たのだ。
一般人である遠い親戚のお爺さんが協力してくれたのもでかい。
後は実家と縁を切り、連絡も関係も何もかもを断ち、ひたすら一般人としての生活を迎えた。
生憎と親からの支援を受けられない身。
故に、どうにか今までのたくわえと日々のバイト生活で稼いだ金で、中々に苦学生な生活を送ることになった。
バイトをいくつも掛け持ちし、割の良い家庭教師のバイトや塾講などもやった。
多分同年代の中では結構な苦労人だと思う。
生憎と異性とキャッキャウフフするような気はなかったので、金が掛からないのが救いだった。
別に男色というわけではない。高校時代手ひどい裏切りと、苦労を味わって以来、どうしても女生と付き合おうとすると拒否感が来るだけ。
まぁ、何れ語る機会もあるだろうて。
ともあれ、我ながら全うな青春を送っていたと思う。
□□□□□□
「お疲れ様でしたー!」
夜10時ぐらいだろうか、シャッターを潜りながら挨拶をする。
手には賄いの惣菜と余りものの米、今晩の夕食だ。
俺が働いている定食屋だ。
時給は若干安いものの、シフトの時間に調整が聞くのと、バイト後に賄いがつくことで、俺はこのバイトを選んでいる。
日々の食事だってそう豪華なものは食えない。
特に財政状態が良くないときは一日一食、それもカップ麺や白米のみという事だってある。
まぁ、後悔はしていないが。
「うー……、疲れたぁ」
肩をほぐしながら夜道を歩く。
もう三年近く歩き続けたなれた道だ。
それに都心の近くなら街灯や繁華街の光でそう暗くはない。
それに宿が近いというのも、また救いだ。
大学生専用の学生寮、一月四万で炊事場と風呂場が共同、一応は個室。
都心近くの物件としては破格の条件だろう。
まぁ、入る際は面接と高校時代の成績表の提出が求められるが、俺の年は運よく卒寮する寮生も多く、辛うじて転がり込めたのだ。
「後一年かぁ」
小さい独白が明るい夜の空に散って消える。
大学生活も後一年。
卒業に必要な単位は既に確保してある。院生になるつもりはない。
今は授業より、就活に忙しい日々だ。
二年の終わりごろから準備はしてきている。情報収集にも余念はない。
一応の目的は公務員だ。
このご時世何時首を切られるかもわからない。
それなら公務員は安定だし、最悪は家庭教師の経験を生かして教職も良いかもしれない。
入学の際に教職課程はとってある。
人は常に最悪の事を考えて動くべきだ、というのは俺のモットー。
それに最悪は、仲の良い部活の先輩がどこぞの御曹司だったはずだから、と企む。
ともあれ、俺は公務員に就職し、職場で気立てのいい奥さんを見つけ、最後は孫、ひ孫に囲まれつつも畳の上でウルトラ大往生、という人生を設計している。
奥さんは素朴な人がいい。田舎っぽいとか最高じゃね?
擦れた都会の女より、純朴な田舎の女がいい。
派手な人や遊んでそうな人、髪を染めている今風の女とか願い下げDA☆ZE!!
……
とと、思考がずれたな。
「いっちょ、明日も頑張るか」
胸名ポケットからタバコを一本取り出して火をつける。
セブンスター・アラスカメンソール。
強烈なメンソールが特徴のお気に入りだ。
女にモテるつもりもないし、呆れるほど長生きするつもりもない。
ならば、こういった不健康的な嗜好品も乙なものだろう。
「――……フゥゥ……」
吐いた煙はゆっくりと昇る。
夜の空に白煙が消えていった。
後五分もすれば家だろうか。
二本目のタバコを加えながら人気のない道を歩く。
そして、今晩は軽くゲームでもやった後に寝るか、などと考えたときだった。
ドンッ。
なにやら鈍い轟音が響き渡った。
「……これは、酷い」
トラックの交通事故、それも信号による停止中に怒った玉突き事故だ。
救急車が何台も来ていた。
周囲には多くはないが、見物人も溢れていた。
俺も一市民として協力すべきかとも考えたが、ここは救急やレスキューの出番だと思って静観することにした。
手を貸すことと、邪魔になることは違う。
まぁ、けが人全員の無事を祈ることぐらいは許されるだろう。
三本目のタバコをふかしながら、軽く黙祷した。
とはいえ、流石はレスキュー隊が出てきただけはある。
事故車両も多かったが、怪我人は皆病院に搬送されたようである。
後は、受け入れ拒否など起こらないことを祈るだけだが、そこまでは知らん。
今目の前で、最後の事故車両――俺が一番最初に見たトラック――が運ばれていった。
道自体はかなり大きな環状線だったのが救いだったか、不幸だったかは判断がつかないが、せめて死人が出ないことを祈るばかりである。
と、視界の端に不思議と引っ掛かるものがあった。
俺の眼、桔梗一族の眼は、《浄眼》と呼ばれ「在らざる者を見破り、その形を浮き彫りにする」、といわれた一種の特殊な体質でもある。尤も、その《浄眼》にさらなる力を宿すからこそ神写しの一族なのだが。
ともあれ、俺の眼にふと仄かに光り輝く者が映りこんだのだ。
常人には見えない、超常の光。
それは道の端の側溝の中からだ。
近づく、流石に時間も経ち人も少なくなっているし、残っている人の目も事故現場に釘付けだ。
側溝を覗き込むと、乾いた砂まみれの側溝に拳だいの、布の包みが落ちていた。
「何ぞこれ?」
首をかしげながら拾う。
だが……。
「……なんか、封印が掛かってるんだが」
そう。その布の包みにはなんらかの術による封印が掛かっていたのだ。
そういった家系の出であるからこそ分かってしまったのだが、信じられないほどの強固な封印である。
ぶっちゃけ、正規の暗号鍵使用以外でこいつを解除するのは難しい気がする。
ついでに何らかの重要なものであるのか、封印以外にも追跡術式が付加されている。
気にならないわけではない。
事故現場ともそこそこ離れていたし、警察や他の見物客も気付いている様子はなかった。
ひとつ警察に届けるべきだろうか? などと若干悩むが。
「ま、貰っておくか」
そのままポケットに入れた。
たまにはこういったことがあっても罰はあたらんだろう、と苦笑気味に笑った。
ちなみに、拾得物横領罪。まんま犯罪であったりした。
ずっしりと重いそれは材質が金属か石であることを予想させる。
そして。
左目を瞑りながら小さく呟く。
「――【――】」
眼を開ければ俺の左眼はさながら孔雀石のように碧い光を湛えていただろう。
尤も、目蓋を閉じている以上、それがばれるようなことはなかった。
世界が捻れる様な感覚が一瞬だけ広がり、そして何事も無かったかのように、元の静寂を取り戻す。
だが、俺が懐に入れた布の包み。そこに掛けられていた封印術と追跡術が完全に消滅していた。
「よしよし」
頷く。
ジャイアン的に言うのなら、拾ったものは俺のものである。
ついでに言うなら、今まさに証拠も隠滅した。
後は知らぬ存ぜぬを決め込むだけである。
盗人猛々しいと言わば言え。拾ったもんの勝ちである。
ズボンのポケットに重みを感じながら寮に向かって歩く。
気分は宛ら某ハンティングゲームで、錆びた○や太○の塊を発掘したときの気持ちであろう。何が出るかは、後のお楽しみ、と。
手に持った夕飯が若干冷めてしまったが、まぁ、冷めても美味いから良いだろう。
「――……フゥゥ……」
三本目最後の一吸いで、煙を吐き出すと、そのまま携帯灰皿に落とした。
先ほどはゲームでもするかと考えていたのだが、今はそんな気分でもない。
どちらかというなら、布包みの中身が気になる。というか、気になって仕方がない。
「ちゃっちゃと飯でも済ませるか」
そう言うと、苦笑を交えつつ寮の正門を潜り抜けた。
結論から言うと、石でした。
しかも。
「聖遺物、というわけではなさそうだが……、神具や祭器の類だな、こりゃ……」
もっと分かりやすく言うのなら、石のレリーフ。
長方形の形で、厚さ時代は5センチもないだろう。
だが、その表面には掘られていたのは鎧姿の人物。
だが、しかしてその人物を人と呼んで良いのか?
人面には嘴、背には翼、足元から広がり覆う炎。足の下には踏みつけられた龍(もしくは蛇?)。
「……」
まぁ、宗教はいろいろだしな。
この人物(?)に心当たりが無い訳ではないが、なんだか疲れたような、がっくりきたような感じで、レリーフを机の上に置いた。
まぁ、かなり強力な想念が込められているようだし、それ相応の神秘性も感じる。
世の中から見ても、相当な一品なんだろう。
芸術品としても、なんらかの触媒だとしても。
だが。
「……俺には無用の長物だよなぁ」
呻くと、そのままベッドの上で横になった。
俺はそういった道と決別して久しい。
思わず興味本位で拾ってきてしまったが、なんともはや。
今更ながらなんで拾ってきちゃったんだろう? とため息をつく。
なんがどっと疲れた気がした。
「……寝よう」
多分今の俺はふてくされという感情が似合う表情だろう。
再三に渡り、大きくため息をつく。
そのまま、静かに眼を閉じた。
ちなみに、このレリーフが後々に大きな起点になるのだが、それはまだ先の話であった。
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