その22 ゆらぎ (2)
長くなってしまいましたが
「カイビョウヲトラ」も今回で100話!!!
これからもよろしくお願いします!!
よくない「噂」
その「噂」は秋が深まる頃には栃尾城内でも聞かれていた
私の耳は「黒滝」の一件以来各方面に走っている
やたろー衆の人を使い
どんな些末な事も耳に入るようになっているのだから
その「噂」を知らないわけではなかった
むしろ
気がついていながらも知らぬふりをしていた
「よろしくありませんな」
実乃の顔はやはり「怒り」を入り交えた「複雑」な表情で
こみ上げるものを抑えるのも難しいのか
控えた板間に拳を何度かぶつけている
栃尾城に
復旧,新設された二の櫓で私は目を合わせないように外を見ている
「ご存じでした。。。。な?」
夕日越し
実乃は問いつめる姿勢をゆるめなかった
もちろん。。。。知っていた
「ただの「噂」だ」
苦し紛れの言い訳
視線を落とす
私の耳に入る。。。。
という事は当然実乃のように勤勉に事を運ぶ家臣たちは知っていると言う事だ
櫓から夕日に照らされた城下を見ながら冷静に答えたつもりだっが
声に「不安」が混ざっていた事を実乃は見逃さなかった
「尋常成らざる事態です。。。ただの「噂」ではありません」
。。。。
「尋常ならざる。。。事態」
実乃の言葉を私は復唱する
つぶやくように
視線を上げ山間の向こう春日山の方角を何かを探すように見つめた
何故。。。こんな事になってしまったのか。。。
どうしてなのか
「噂」
それは
私が守護代の地位を狙っている。。。。という「恐ろしいもの」だった
屋敷にもどった私の前には家臣たちが鎮座していた
また詰問だ
何も話したくない
「このようなものを春日山付近にて活動する者から手に入れました」
私は着座しながら
小姓の手から渡された書をそのまま実乃に返して入った
「読め」
実乃は少しとまどったが言われるまま右手で書を開くと感情を出来る限り押さえた声で
太く
唸るような「怒り」を相乗して読んだ
「長尾影トラは守護代の地位を狙って候」
一部のどよめき
しかし
大半は十分に外の情勢に耳を立てていたのだろう
冷静な顔の中に「怒り」「焦り」
現実にこんな事はありえないのではという「驚き」と溜息
冷めた視線
私は努めて冷静さを見せながら並ぶみなに向かって聞いた
「どう思う?」
自分に問いかけるように
「守護代殿の策略だ!!間違いない!!」
口火をきったのは
金津新兵衛だった
気の短さもそうだが
誰よりもに春日山を敵視している彼はすでに態度にも怒りがあらわになり
片膝の状態でのりださんばかりの様子だ
それを実乃が手をあげて制する
この夏
たしかに異例な事がたくさん耳に入った
それまで守護代とは犬猿の仲とされていた「長尾政景」の入城
長年
参勤を拒み「臣従」をしてこなかった「政景」の入城は越後のどの将にとっても衝撃的な出来事だった
しかもその入城は旗本勢を引き連れてのものだった
「軟弱守護代殿は我らと戦う為に「犬」と手を組んだのだ!!」
金津の怒りは収まらない
すでに侮蔑の言葉を軽々しくと発している
それでも私は何も答えなかった
評定に並ぶ者達も気迫に押されている
それをもう一度実乃が目で「黙れ」と抑える
軍勢を連れての入城。。。。
当然
それは「良くない事」と大半が受け取っていた
本来なら反目しあった「同族」が中郡の平定を見て「まとまり」を自ずから示す
と言う
模範的な動きにとられても良かったのだが
以降
「怪聞」は耐えることなく流れ始めたからだ
最初は
「長尾政景」が次期「守護代」になるのでは?
という荒唐無稽な「噂」だった
城に入ったのはその準備なのでは?と
しかし
そういった動きはなく
犬猿の二人は沈黙を守った
が
動かないのに「怪聞」が止まる事はなかった
春日山近くに居を構える「柿崎景家」の報告に
「守護代ではなく「自分」に従え」という密書が届いたのはその一月後
その後間を置かず二通も同じ文面が届く
この「文」は春日山に近い諸将には当たり前のように流されていた
垂れ流し。。。。
なんと「不心得」な
「長尾政景殿の動きは。。。あきらかにおかしいのですが。それを許す守護代様は。どういうつもりでしょうか?」
険悪な場に押され気味な中
安田長秀が横目で金津を見ながら渦巻く「疑問」を私に進言した
入城以降の食い違い
「順を追ってみよう。。。冷静に判断せねばなりません」
長秀の落ち着いた質問に秋山史郎もやっと口を開いた
「最初にあったのは。。。政景殿の入城。。。これは守護代様がお呼びになったのでしょうか?」
部屋に集まる者たちは一応に否定だった
よもや今更「晴景」が「政景」を呼びつけるほどの「力」があったのか?
と
権威を落とした守護代に取り入ろうとしたのでは。。。
そちらの方が結論としてしっくりくる。。。と
「しかし政景殿の。。こう言ってはなんだが「野心」が見えないような守護代様でもなかろうに」
老臣の一人は片目で静かに討論を聞く私に気を遣ったのか守護代擁護的な発言をした
「何故そんな危険な存在である政景殿の入城が許されたのでしょうか?」
「政景殿の動きに「謀反」の気配があるのなら守護代様が入城など許すまい。。。」
老臣の問いに
落ち着いた声とは裏腹にいぜん「怒り」を漂わせる実乃が答えた
「噂」。。。。。
「お二方の「敵」が共通の人物であり。。お二方の損得勘定が成立したからではないのですか?」
部屋の中一番の下座に座った
芝段蔵が遠巻きにこの非常事態の真相をざわめく者どもの間を縫って言った
歯に衣着せぬ諫言は
私にも挑戦的なほど良く聞こえた
「私はそう考えております。。。それ以外にお二人を近づける「原因」がありません」
段蔵の言葉に飛び出して談判をしようとした金津の膝をがっしり止めた
実乃の顔には悔し「涙」があった
私はわかっていたが段蔵の答えに応じた
「「敵」とは私の事か」
静まる
みなが張りつめているのが感じられる
何故。。。私が「敵」なのですか。。。
「先手を打たねばなりませんぞ!!春日山はすでに「戦」の支度をしておるとも聞いております!!」
抑えられた膝の手をはね除け
立ち上がって金津は吠えた
その声に呼応するように諸将が堰を切ったように騒ぎ出した
「我らが安心して知行を守れるようになったのは「影トラ」様のおかげです!!それを「敵」と見なすなど言語道断!!」
憂鬱が私を覆う
黒く染まってしまいそうだ
自分の意志を抑え
何故ですか。と。。何度も自問する私の前に実乃の明確な声が響く
「戦わねばなりません!」
「いやだ」
立ち上がった私の言葉に騒ぎは水を打ったように静まった
うつろな目
そりでもハッキリと否定
「しかし。。。」
疑問を呈する者を睨みもう一度
「兄上とは絶対に「戦」はしない。。。守護代様あっての越後。。忘れるでない」
強く押した
誰にも
何にも
言われたくはない。。。
何も言うな
そこまで言って部屋を出た
自分の部屋に戻る間
ただ涙が止まらない
次から溢れる涙をどうしていいのかわからなくなってしまい
何度も「何故」を繰り返した
兄上の元
越後のために私は「戦」と言う仕事をずっとしてきた
なのに
どうして私が「敵」なのですか?
混乱と悲しみで眠れない夜の下
私は兄に心ばかりの「親書」したためた
「噂」は「嘘」だと信じたかった