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その21 覇道 (1)

「戦」が絶対に必要だった




父の残した「謀」がそのまま「実り」をつけてしまった

「寅王丸」という「大器」を放置するのは「禍根」を残す事にしかならない

諏訪は今の武田を見下している

寅王丸が元服して武田に臣従する事は見込めない

信繁には。。。見えていた


そして

内外を問わず

未だ「新当主」を見くびる者たちに

先代を上回る「大器」として晴信を現さなければならなかった


この「戦」にはたくさんの「意味」があり


絶対に必要な「戦」であった



たとえ

その代償として「禰禰」を失う事になっても。。。。


後城あとじろである桑原城の門前で

使者として訪れた信繁は改めてその事思い出し

消して気持ちが揺らがぬ「覚悟」をした

深く胸に刻み込むように拳を打ち付けて





七月四日。。。

諏訪頼重すわよりしげはまったく「戦」をする事も出来ないまま



「和睦」を受け入れた



出陣から十日たらずの瞬く間の「降伏」だった

最後の最後まで

諏訪勢は混乱から抜け出る事が出来なかった

「報告」は

どれもこれも乱れ飛ぶばかりで「何が」真実かを見切る事もできず

頼りにしていた諏訪衆に組みする者たちも兵を集める事がではなかったのだ


兵を集められない

と言うことは

「野戦」は出来ない


「報告」では武田は二万の大軍を擁し進軍している

また

この機に乗じた「高遠」が南から諏訪領を侵し始めていた



まだ

武田が何の「目的」で進軍しているかをつかめない

なのに「高遠」は意気揚々と諏訪に「戦」を仕掛けてくる



誰が味方なのか?


どちらに備えればいい?



結局

どちらも「敵」と見なし

防備の薄い上原城を捨て桑原城に「籠城」という策に入ったのだが。。。





「開門!!」



桑原城の門は重々しく軋む音を響かせながら

城の口を開いた


ゆっくりと開かれる門の前には

使者の信繁と諸角もろずみが騎乗したままの姿で待っていた









城内軍議のために開かれていた表屋敷の間に通された信繁に頼重は

かなり

抑えた口調で聞いた


「何故諏訪を攻めた」


少ないながら城に残った重臣たちの目線は主の詰問と同時に信繁に向いた


「諏訪が武田を攻めるために高遠と内通したと聞きました」

「高遠となど!!手は結ばん!!」


甲冑に見を包んだままの頼重は即座に激高した

しかし

信繁はまったく動じない

みればまだ髭もたくわえない色白な青年

頼重より十は若く鎧姿もぎこちない


しかし

その面影は

武田家現当主の弟は

あの恐ろしい。。。先代信虎に噂以上によく似ていた


その肝の据わったさまも。。。切れるような目筋も



「諏訪殿。。。では昨年武田領内であった野武士のぶしの事はご存じか?」



怒りの形相の頼重に信繁の隣に座った

武田家重臣の諸角が

歳に見合った落ち着きのある態度で聞き返した


「野武士?」


わからない。。。

言う表情の頼重に諸角は続けた


「去年我が武田にて代替わりがあった直後の事ですが甲斐瀬沢せざわにて野武士が「諏訪殿の加護の元」と称し領内を勝手に開拓しておりまして」


「知らんぞ?」


諸角に困惑の表情を向ける頼重に「待たれ」と手を出し

入れ替わるように信繁が答えた


「その者達。。諏訪殿が年内に武田に向けて侵攻するための「道」を造営していたとの事です」




「馬鹿な。。。」


一応に家臣を見回した後

頼重は

若い信繁が高みからしゃべっているのが気に入らなかった

睨み返して「脅し」の聞いた声で返した


「そんな根も葉もない話。。。。そんな事で諏訪を攻めたとでも言うのか?」


「偽証」ならば

少しぐらいの身じろぎがあつても良いはずの信繁に変化はなく

むしろ

静かな目つきで

「挑む」ように質問に答えた


「では上杉管領うえすぎかんれいとの「独断」での和睦は何のためですか?」


管領の名が出たことに諏訪の家臣団にざわめきが立った

去年。。。

信濃小県しなのちいさがたに侵攻した時

上野こうずけに駐留していた「上杉管領憲正うえすぎかんれいのりまさ」の部隊と小競り合いがあった


諏訪は武田と同盟は組んでいたが


代替わりによって武田が「衰えた」と判断し

これ以上信濃での出来事で上杉に「出張られる」事を警戒し武田を無視して和睦を結んでいたのだ


だが

これには頼重なりの「読み」があった



その事を

武田が勝手に結んだ和睦を気に入らないと言ってきても

代替わりで領内から家臣まで忙しい武田の内情を「考えて」


わざわざ諏訪が「先手」を打ってやった。。。という恩着せをしようと思ったのだ



それを説明するか?

先手を打ったと


そんな説明が通用するか?

目の前に座る信繁に

頼重は自分の読みの先を武田が読んでいる事に気がつき少なからず驚き

考えた



武田は上杉と手を結んだ諏訪に危機を感じていた。。。



そして

瀬沢での覚えのない「野武士」


飛び交った「流言」

混乱した「報告」


高遠の出陣でその「危機」を確信した武田は諏訪を攻めた。。。。


もっともらしい「図」だ。。。

しかし

これが「はかりごと」なのかも?


頭をめぐらし

言葉を選ぼうとした

これは「策謀」だ。。。。

絶対に。。。


その「危機」を今。。頼重は感じていた



「諏訪殿には我が主「晴信」様に会って頂かねばなりません」


思案する頼重の思いを絶つように信繁の言葉が入った

まるで

考えさせまいと言う早だ



「そのための和睦にございますから」


二の句をつげさせない諸角。。。



頼重に逃げ道を与えない

どちらにしても

逃げ道などはないそれは頼重自身もわかっていた

上原の城を失い

諏訪大社を奪われ

兵の出揃わないこの城で。。。。何ができるか?


無用に「言い訳」を並べれば。。。その方が諏訪の立場を危うくする


苦悶の表情。。。。





「兄様は頼重様をどうされるおつもりですか!!」


家臣団も

頼重も

すべてが沈痛の思いで顔を伏せ

凍っていた場に勢いのある黄色い声が走った


禰禰ねね?!」


扇で顔を隠してはいるが

小さな禰禰がこんな大きな声をだして入ってくるとは思わなかったのだろう

小走りに駆けながら

評定の間の入り口まで来た禰禰は扇から少しだけ顔を出し

今度はいつものおとなしい声で聞いた


「どうなさるのですか?」


懐かしい姫の顔に諸角はすくに頭を伏せ挨拶をした

武田家老臣に気がついた禰禰はもう一度聞いた

「どうするの。。。」


泣きそうな声

頼重は上座から立ち上がると禰禰の元に走り寄り添うように身体を支えた

細い肩は走った事で揺れているのではなかった


禰禰はこれから来る「恐怖」に夫の身を心配して走ってきたのだ



「それはこれから兄上と諏訪殿がお会いして話し合う事です。。」


部屋に集まっていたみなが禰禰の方向に顔を向けた中

唯一振り向かず座っていた信繁が

そのままの姿勢で答えた


「次郎。。。様?」


恐る恐るその名を呼んだ声に信繁は答えた


「諏訪頼重殿とご内儀ないぎ禰禰様。。ご息子「寅王丸」様は甲斐来て頂きます。。よろしいですか」


告げ

そのまま向き直って礼をしようとした


「こちらを向かないで。。」


信繁の身体が頼重たちの方向に向こうとした時

禰禰は震える声で拒否した




「次郎。。。。顔を見たくない」


禰禰の声は恐怖を現していたその脳裏に浮かんだのは父「信虎」の姿だった

あの自分勝手な獰猛な「虎」


信繁はその事をすぐに察した


「いまは。。。元服して信繁と名乗っております。。。」



背中を向けたままやんわりと禰禰に挨拶をした

だが

口元には卑屈な笑いと悲しみを現していたのを諸角は気がついてた

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