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その2 傷跡(4)

やたろーは

その大きな体に似合わないほど声が。。。おっとりとして優しい

何より顔に闘争心を出していない

その証拠に私の前で膝をおり目線を同じ高さまでもってきている

正しい行動ができるか?

それはこういう態度ですぐにわかる



長尾為景ながおためかげは逆賊だ!!」

「たまたま勝てたから「守護代」になっただけじゃないか!!」


私とやたろーの間にあった静寂を破ったのは

父の名前に罵声を飛ばしたのは

ジンに殴り倒された男たちだった

口々に血を吐き散らしながら大声で叫んだ


「汚い手使っても勝ったから偉いんだろ?!!」


私は

愕然とした


私は父を知らないが


父,為景が前の「越後守護職」をその手にかけた事は話しに聞いている

でも そうしなければならなかった事も学んでいる

「幕府」や将軍の威光は弱々しき「守護者」には守れない

光育の言葉で言えば

むしろ混乱してしまった越後のために父は戦ってきたのだし


それを学ぶことで「力」使い方と必要さも知ったのだから



だけど

本当はどうなのか?と言われれば。。。。少しの間言葉を失い考えてしまった私に


「オレのオヤジたちは「上杉」の家臣だったんだけど。。。」

やたろーは

男たちに手をあげその「雑言」を止めると

話しを続けた


「あんたのオヤジに負けた。。戦に負けて死んで。。。オレたちは戻る所を無くした」


やたろーの顔を見た

まじめに話す言葉を聞いた

一心に私を見ている目に「嘘」はなかった


まわりでわめく男達を無視して

その大きな肩に手を置き言った


「戻る場所が無くなったから。。。百姓を殺していいと思ったのか?」


強く。。。目の前にかしずいた彼の肩を掴む手に力と想いを込めて私は答えた

良いことと悪いこと

名誉と不名誉

色々なものがある


「戦」の結果は無惨なのかもしれないが


「だから野武士まがいな事をして狼藉をはたらく事がゆるされたわけじゃないだろ」


見つめる瞳をしっかりと見返して言った

彼はまた下を向き押し黙った


遠巻きの男達はまたも口々に悪言を吐いた


「オレたちはこうやって日銭稼でるんだよ!!」

「百姓殺して何が悪い!!殺しはオマエの家だってやった事だろうよ!!」



「だまれ」

急に怒りがたぎった 

それは不名誉。。。。


「守護様に使えた武士が百姓を殺して身銭を稼ぐだと?」


彼の向こうに見える輩の方に進んだ

私の後をジンが守るように続く


戦場いくさばは「平ら」に言えば「覚悟」を決めた武士と武士の果たし合いの場だ!!それに負けたからと言って民草を食い物にしていいわけがないだろう!!己の決めた君主が負けたらオマエたちの信念まで負けて腐ったという事か?」

拳をにぎって睨んだ

なんて事を言うんだ。。。こいつらは。。。


こんな事を勝ち負けだと騒ぎ

民を苦しめるなど

怒りの私に

静まりかえり

おずおずとひるむ男達


「負けても武士であるならそんな事はしない!それができないのなら今ココで私が斬る!」



激した言葉に

野武士たちは間合いをぐっと下げた

にらみ合いが続く中

ゆっくりとやたろーが頭をあげた

そして野武士たちに向き直ると悲しそうな顔で


「もうヤメだ。。オレは武士だ。。。もうこんな事はしたくない。。。」


後悔をこぼすように告げた

向き直ったやたろーの言葉に

男たちは顔を見合わせるほどびっくりした様子


「オイ。。やたろーの家だってそのせいで。。」


その言葉が終わらないうちに

今度は私の方に向き直って言った


「オレは武士もののふでありたい」

懇願する言葉

顔を厳しく引き締めて己の初心をハッキリと明言した


「オレは。。。百姓に酷い事したくもない。。」

口ごもりながら一つ二つと返事する


「オレは。。。武士である事を誇りに思って生きたい」

真摯な目に涙が走った

優しい男なのだな

本当はずっとこんな事したくなかったに違いない

それでも一族を率いた者として泣く泣く生きる道を探していたのだろう


苦痛に彷徨った心が私に懇願し道を求めているように見えた


「オレは。。。やっぱり武士でありたい」


繰り返される言葉に表された「初心」

私はその言葉をきちんと聞いた


大男と向かい会って

涙の彼は告げた


「オレは影トラの言葉を正しいと信じる。。。こいつらの所業の責(責任)はオレにある。。オレを罰し首を跳ねてくれ。。それでこいつらを許してくれ」


やたろーは巨体を大地に落とし足を組み直して正座をした

親方おやかた!!!」

覚悟を決め首を差し出そうとしたやたろーの姿に男たちが刀を投げ捨てて駆け寄った


「やめてくれ!!親方まで亡くしたらオレらどうやって生きていったらいいだよ!!」

細身の参謀格の男は泣きながらやたろーの肩を必死に揺すった

あれほどふざけた言葉を投げかけていた男たちがみな

涙声でやたろーの周りにあつまり肩を揺する


「頼むよ。。。親方までいなくなっちまったら。。。。」


やたろーの周り一人残らず集まった男達。。。。泣き声まで聞こえる

なんと信任された男だったのかと私は感心した


その私の前に細い男が群れをかきわって前に出てきた


「親方のかわりにわしを斬ってくれ。。。頭失うわけにはいかねえんだ。。それで許してくれ」

善治郎ぜんじろう!!」

前に進んできた男にやたろーは初めてはっきりした声で怒鳴った


「これはオレのけじめだ!!前にでるんじゃねぇ!!」

善治郎と呼ばれた男は振り返って。。。泣きながら吠えた


「いやだ!!親方まで失ったらもう生きてく力なんかねぇよ!!みんなの世話してくれよ!!責はわしが代わりにとるから。。。頼むよ。。。。」

そう言うと私の前に土下座した



強い絆

ただの賊ならこれほどまでに「涙」はなかった事だろう

隣で見ていたジンは驚いた顔をしているぐらいに

落ちぶれてしまっても

誇り高き守護の元に集った武士たちは「強い絆」をしっかりと持っていた


心は十分に穏やかに戻った

武士もののふの魂が死んでいなかった事を感じられたから


私はやたろーに言った

「死んだって責任はとれないぞ!!」

やたろーは本当に困った。。。。という顔で私に聞いた


「どうしたらいい。。。」


私は頷いた

「着いてこい」

手を伸ばしやたろーの大きな手を掴んだ


「今日より私。。。長尾影トラの武士もののふとして仕えよ!!!」


私の言葉にやたろーは大粒の涙をこぼして見せた

そのまま伏して言った

「心よりお仕えさせて頂きます!!!」


「その働きが「越後」に対する償いになる」


賊達はみなひれ伏した



これが「小嶋弥太郎こじまやたろー」との出会いだった

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