その18 神鳴 (2)
史実に則して書きたまえ。。。。
と言うご意見をいただきましたが
その0 雨 の前書きにあるように歴史的史実との一致は必ずしもなく
と注意書きしてあるので。。。。
どう答えて良いのか困りました
もっと大々的に書いておいたほうがよろしいでしょうか?
というか
すでに「上杉謙信」(今はまだ長尾影トラ)が「女」という時点で大きく史実からは逸脱しています
その事も前書きで注意項目として書いてありますから
いまさら則せと諫められても。。。。困ります
本小説は歴史の「謎」と「憶測」と「諸説」を元に私の想像力で
こんな事であっても「良かったかな?」というものを書いています
正史とされるもの以外を受け入れる事ができない方は
すいませんが「要注意」してください
まちがって読んでしまって不愉快な思いをなさっても責任はもてません
そういう方には「きわもの」小説に写ってしまうのもやむなしですが
それ以外
楽しんでくださる方,興味をもってくださる方は
一つの諸説として読んで頂けると嬉しいです
これからもよろしくお願いします
火星
小嶋弥太郎は悶絶していた
夕方
愛娘のつやが「おトラ」と和歌の勉強をする。。。。
と
言って雑兵長屋を出て行ってから
うたた寝をしていたところに
つやが矢のよう勢いで
その身体ごとみごとに鳩尾に飛び込んできて
さしもの大男も息が止まってしまうのでは?
という衝撃に声をあげて苦しんでいた
そんなやたろーの様子などお構いなしに
つやは
悶絶中の巨体を
小さな手でバタバタと叩きながら泣きわめきながら
意味のわからない言葉を連呼している
「どぉしたぁ〜〜」
涙目になったやたろーは腹を押さえながら身体をおこした
つやは
泣きながらその身体に抱きついてきた
顔を険しくさせながらやたろーはもう一度つやに
どうした?と聞いた
つやは首をブンブン振ってただ泣きじゃくる
つやを泣かすヤツは許せない
身体に走った痛みが引き初めて冷静になったやたろーは
その小さな小さな肩をやさしくなでながら
大男には不似合いな「小声」で諭すように顔をよせて聞いた
「誰がオマエをいじめた?」
今日日
栃尾で「つや」をいじめるようなヤツはいない
大男衆を「親」にもつも同然のつや
本人に自覚があろうが無かろうがいまや年上の「小姓」たちまでもが
つやには一目を置いている
「落ちちゃった。。。。」
顔をぐしゃぐしゃに涙でいっぱいにした
つやは
すがる目でやっとまともな「言葉」を伝えた
「何が?」
やたろーは「落ちた」という言葉に主語がなかったので
具体的に「何?」だと聞き返した
やたろーの返答に瞳にあふれかえった涙をまたもボロボロとこぼし泣き出した
つやの身体を支えできるだけ「優しく」
もう一度聞いた
「何がおっこちたぁんだぁ?」
しゃくりをあげながら
つやは
小さく答えた
「おトラ様。。。。。」
つやの話の全容がわかった
やたろーは。。。。。
囲炉裏の火の前で鉢を叩きながら
かなり渋い表情になっていた
それでなくても「実乃」との間に影トラと「陣江」を引き合わさない。。。。
という取り決めがあったのに。。。
だからこそ
二の曲輪に住むやたろーはそんな陣江の気を紛らわすために
チョコチョコ酒飲み仲間になって「余分」な事を考えさせないようにしていたのに。。。。
なんて事。。。
「やたろー!!早く助けに行って!!!」
思案にくれているやたろーの大きな背中を
泣きやんだつやが力任せに叩いていた
そんなものは痛くも痒くもなかったが。。。この「問題」をどうしたらイイ?
「問題」は。。。
「問題」の方はとりあえず置いておかねば落ちたのは他でもない「おトラ様」だ。。
迷っている場合じゃない
「助けに」行かなくては。。。
幸いにして
堀切りの下は防柵しかんないから
「死ぬ」ような事はないだろうが
怪我は。。。。
それにもっと暗くなってこれば山犬も出るだろうし
それにしても。。
こんな時間に人を動かしたら
屋敷の方にまで騒ぎがわかってしまうだろう。。。。
考えあぐねたやたろーは頭を掻きながら
「やっぱり一人で行くかぁ。。」
と
つぶやき
腰をあげ土間に降りると
荒縄と
かぎ爪など必要と思われる物を袋に放り込みながら
後ろを付いて歩くつやに言った
「あれほど「陣江」と「おトラ様」を会わせちゃいけないって。。。言っただろぅに。。」
背中越しに
めんどうな事になったと思いつつ話した
つやに「おトラ様」と陣江の事を教えてあったのは
つやが。。。
おせんと「悶着」をおこしてしまった事にもあった
取り決めだ
栃尾周辺は「今は」平穏になったが春日山から漂う「不穏」な空気に備えている
今はまだそんな悠長な時ではない
「敵」は。。。考えたくない身内「かも」しれない
という「問題」
とにかく
難しい事は抜きにしても
陣江は遠ざけろという指示が「ある事」をつやにも告げてあった
道具を放り込んだ袋を背中に背負って「行ってくる」と
振り返った
小さな肩を震わせてつやは
がまんも「限界」という涙いっぱいの表情で口を開いた
「だって。。。。」
やたろーはしゃがんであやそうとした
「だって!!おトラ様が可哀想だよ!!陣江さんせっかく帰ってきたのにみんなして会わせてあげないなんて!!酷いよ!!酷いよ!!!」
自分をさとそうと伸ばされたやたろーの手を叩いて涙を零して続けた
「オラだって二年もやたろーと離れてたらすぐにだって会いに行きたいよ!!会いたいよ!!やたろーは会いたくないの?!!」
つやはグズグズになった顔で言いきって泣いた
「会わせてあげたかったんだよぉぉ」
つやが涙の主張を終えた所にちょうどで「善治郎」が酒をもって戻ってきた
やたろーに頼まれて蔵まで走っていたのだ
やたろーとつやの変に「身構えた」状況が飲み込めないまま善治郎は
酒壺を降ろして言った
「降ってきましたよ雨。。。蔵に行っただけでこの有様でさぁ」
と茶筅髷から滴る水を絞って
「何故か」
張りつめている場を和ませようとおどけて言った
「雨だと?」
「雨ぇ!!」
善治郎の後ろ音立てて降る雨に初めて気がついた,つやとやたろーは声を合わせて戸口の方を見た
ついさっきまでは
一粒も降る事のなかった「雨」が。。。。
突然「滝」のように降っている
その雨音に気がつけないほど
つやは泣きわめいていたし
やたろーはそれをあやしていた。。。。
「雨。。。。」
呆然とした顔で
袋を土間に落としてたやたろーは戸の前に進んだ
昼間も曇ってはいたが
今は星も山も見えない暗雨の状態だ
「どうしやした?」
自分を通り抜け
雨の景色を呆然と見ているやたろーに善治郎は話しかけた
その横をつやが走りやたろーの足にすがりついて言った
「はやく!!はやく!!助けにいって!!」
「何?なんかあったんです?」
善治郎はすでに「嫌な予感」がしていたが。。。。
肩越しやたろーに聞いた
「人集めろ。。。。」
やたろーの「戦場」に出向く時の低い声が指示をだした
「今からっすか?」
ご冗談を。。。。という感じで善治郎は返したが
この指示が「本気」でこの夜の雨の中に「進軍」していく事は決定だった
目の前の「鬼」のやたろーに
泣いた「つや」を見て。。。。
溜息混じりに聞いた
「マジっすか?」
今一度念を押してみた
やたろーの目が善治郎をギョロリと見返した
問答の余地など微塵もない
善治郎は「ハイ!」
と返事をすると雨の中他の長屋に走っていった
捜索の長い夜が始まった