その17 花の嵐 (10)
またも。。。
書きこぼしがあったので多少の修正をしました
すいません。。すいません!!
暑いせいでしょうか?
かなり疲労してます!!
炭酸水をせっせっと飲んで補給してます!!
健康第一でがんばっていきます!!!
「芝段蔵は越後のため「大儀」を見据え働いております」
春日山から来た使者
段蔵の毅然とした態度に実乃は暗雲を感ぜずにはいられなかった
黒滝仕置きの件を
見聞者として告げる前に
まるで釘でも刺すかのように段蔵は実乃の目をしっかと見て
並ぶ
栃尾の諸将達をも見回し言った
「事は重大であります」
戸を閉め切った小さな間に
小嶋弥太郎
安田長秀
金津新兵衛
その他
幾人かの男たちは深刻な面持ちで押し黙った
静寂の間の中
段蔵は春日山の現状を簡潔に話た
それは暗躍充ち満ちたる謀
「なんと。。。政景どのが入城なさったとは。。。」
長尾政景は守護代晴景と仇敵とも言われた間柄
その
二人が「意気投合」し
春日山に「陣」を張った理由は。。。。
何故。。。「今更」の事態だ
一同に会した者はみな暗い表情で言葉をだそうとはしなかった
考えたくない
思いたくない「事態」が起ころうとしている。。。
「晴景様は。。。。どうしている?」
実乃は灯籠に目をやりながら
額をおさえ沈痛な面持ちで聞いた
「戦の「形相」になっております」
「本性を現したか」
即答したのは金津だった
その顔は他の諸将が表している苦悩とは遠い表情で
ともすれば笑っているようにも見える
実乃は金津を見て言った
「何故だ。。。影トラ様は十分に「越後」に尽くしているではないか?」
「そうだ。。誰よりもお尽くしになっている。。名ばかりの守護代よりも!!」
金津の顔は不遜に満ちていた
晴景を嫌悪する意志をありありと表している
そして勢い激するように続けた
「今まで自分では出来なかった事を成した影トラ様を「嫉んでいる」のだろう!!」
片膝をあげ立ちあがらんばかりの勢いの金津に
待てと手を挙げ
実乃は段蔵に聞いた
「何を考えてそんな事に?」
「影トラ様の偉業を快く思っていらっしゃいません」
実乃は絶句した
なんと。。。
他に揃った諸将たちも顔をしかめた
「しかし。。。すべては「長尾」のため。。。ひいては「越後」のためではないか?」
影トラは私欲で戦ってきたわけではない
それはココにいる者達なら誰もが知っている事だ
口に出していつもそう言う
「守護代家の旗を掲げ「越後」を良き地にしたい」
目を輝かせ話す影トラ
だが
ひとたび戦に赴けば心を「鬼」し泣きながら戦う
それとて「越後」のためと。。。。泣く姿。。。。
なのに
今更その「戦」ぶりが気に入らないなど難癖ではないか!!
実乃の目は怒りに燃えた
何故
その働きぶりを一度として「褒めては」くださらないのか?
それどころか「嫉む」とは。。。
「何故に。。。。」
今度は金津に変わって板間をたたき割ってしまいそうに拳を固める実乃に
段蔵は言った
「影トラ様の名が高まった事が気に入らないのでしょう」
実乃は言葉尻をたたきつぶすように床に拳を打ち付けた
「気に入らない?だと名が高まったのは当然の事ではないか!!みごとな働きぶりなのだから!!」
怒した実乃を両手で留まらせるように開いた段蔵は
努めて冷静に続けた
「その働きぶりに「態度」で返礼してしまった方がいた事が。。。「問題」なのかもしれません」
みな振り返り
金津の顔を見た
当然だといわんばかりの金津は答えた
「真に「越後」に尽くされた方。。尽くされる方に臣従するのは当たり前の事だ」
「そして「揚北衆」もそう考えた。。。」
段蔵の言葉に実乃は目が覚めた
今まで頭を下げる事を「良し」としなかった者達が長尾の「影トラ」を選んだ
それが
晴景には許し難い事だったのだ
声が震えた
「戦を。。。。望んで。。。。いる?」
「いいえ」
実乃の不安を打ち消すように段蔵は冷静に応えた
「ただ。。」
「戦を望まぬなら何故に政景が入城した?!」
段蔵の声を遮り
今度は
金津が床を叩いた
「金津!」
片手をあげ再度金津をなだめて
実乃は問うた
「ただ。。。。なんだ?」
戦は望んではいない
ならば
何故春日山は物々しい事になっているのだ?
と続けた
「戦は守護代様の望む事ではないからです」
戦を望まないのに
「戦」の顔になっている
何と
戦いたいのか?
「じゃあ誰が敵なんだぁ?」
実乃が頭で廻らしていた疑問をやたろーがそのまま段蔵にぶつけた
諸将もそれが聞きたかった
わかっていても
「自らを追い落とす勢いを持つ者。。。。影トラ様です」
段蔵の口からでた答えはわかりきっていても痛恨であった
実乃は目を閉じた
「決断を迫られている」
実乃は裏屋敷の密談からもどり
猪に命じて
直江の妻を呼び出していた
屋敷に通された内儀の方は
すで苦痛を走らせた眉間の表情
「おせん殿の婚儀の件。。。。」
重い口を開いた実乃に内儀は静かに頷くと
「わかっております」
と答えた
もともと
おせんの婚儀の話は「隠れ蓑」だった
それは
栃尾に到着しだいおせんに知らされる事なく「陣江」に知らされる予定だったが
段蔵の独断で「公」のものとされてしまった
理由は一つ
分かりきった理由
「今。。。影トラ様を失えません」
それが段蔵の弁であり
ひいては「直江」の言葉でもあり
実乃および「栃尾衆」「栖吉衆」の選んだ結論だった
ただの「嫉み」で影トラを失っていいわけがなかった
影トラは希望だった
乱れた「越後」をたった二年で半分は平定した強き将だ
「自分では何も成し得なかった者」
晴景を助け
「良き治世の助け手」になろうとする影トラを誅殺しようなどあり得ない事だ
断じられては困るのだ
そして
ココにきて事態は急転していた
まさかの大物「中条藤資」の臣従
晴景にはついに頭をさげなかった「揚北衆」は影トラに平伏したのだ
阿賀野川から向こうにすむ
巨大だった豪族集団は
若き「トラ」を選び「臣従」を表した
それもわざと
春日山に出向かず
栃尾に来て
それは
近々晴景の耳にもはいる
大きな嫉みの「楔」となって打ち込まれてしまう
事ここに至って
今更
影トラを無くしての「越後」統一などはありえなかった
もし
嫉み程度の事で影トラを無くしてしまったら
誰が再び「長尾」に従うか?
今まで栃尾でまとめてきた全ては「灰燼」にきし
栃尾も
栖吉も
揚北も
「越後」の混乱は必至の状況だ
実乃は
残念していた
かつて
影トラをかばい寺に入れたとき
遠巻きながらの「守」を仰せつかっていた
虎御前は言った
「この子は越後のために大きな仕事をする子なのです」
そのとおり
「影トラ」は偉業をなした
そして
揚北が臣従を示した時はこれで越後は平穏に統一されていくと心を撫で下ろしたばかりだった
その功績を
守護代は大いに喜び
影トラは「責務」から解かれるハズだった
そして
しかるべき時に影トラにも「婚儀」があり。。。
それがさらに
この国を大きく発展させていく事だろうと。。。。。
実乃は目頭を熱くしていた
娘を持つ父としての想いまでもがかさなってしまってその行く末を良き「婿」を得てとまで考えていたのに。。。
なのに
なんと
浅はかな事か。。。嫉妬に狂った守護代は「敵」は影トラと決め
その
存在を「消して」しまおうとしている
自分を見失った判断が暴走し始めているのだ
。。。。。
「おトラ様が可哀想です。。。」
もしもの時は
戦になるだろうと告げた実乃に
猪は辛抱しきれなかったのかこぼした
実乃の残念の中にもそれはあった事
十七歳の「女城主」に課された「希望」はあまりにも重いものだった
当座「女」という人生からは遠いものになっていた
おせんの「婚儀」の事だったてそうだ
隠れ蓑だった婚儀は「本物」になって
おトラはさらに「戦」の道に進まねばならなくなった
その相手「加当陣江」
。。。。なんたる皮肉。。。。
「加当陣江」と「おトラ」が惹かれあっている事は栃尾衆の女達は薄々気がついていた
身分違いの「恋」であったため
実乃は警戒し
直江によって「引き離す」事さえしたが
二年の後に戻ってきた
陣江を見たときにの武士姿に「武功」さえ適えばその「婿」も「良し」ではないか?
とさえ思った
だが
ついに陣江を
表屋敷にあげたのは一度だけだった
再会を楽しみにしていた
二人が知るには重すぎる「激流」そんな姿を見るのは辛い事に決まっているのだから。。。
急転する大きな「うねり」の中で影トラに「ただの女」なってもらっては困るのだ
猪は涙ぐんだ
「私は今でも女ですから。。わかりますのよ。。。好いた男を目の前で他の女の「婿」になど。。。」
思い出すにもあまりにもおトラが不憫でならなかった
例の「月の障り」の一件にしたって
女であるおトラは「女」であるための所作を一切知らない
誰も教えない
母である虎御前は何故「女」の生き方を教えなかったのか?
不思議で。。。
そして
ただ不謹慎にも「哀れ」だった
袖で瞳をぬぐいながら亭主を責めるように言った
「貴方さまや他の殿方が「おトラ」様に「何を」見て祭り上げようとしているかはわかりませんが。。。あんまりです。。これ以上進んではまったら。。」
詰まる声の猪の肩を直江の妻が抱いた
猪は顔をあげ内儀にあやまった
「直江様を責めているわけではないのです。。。」
「わかっております」
「男達」が苦渋の決断を示した時
「女達」も苦しんでいた
おせんの婚儀をこんな形で決めてしまわねばならなかった事を
理解していると言った目はそれでも涙を溢れんばかりに浮かべていた
重い空気
広い部屋さえ息苦しくしてしまうような「切迫」した状態
うつろだ
だが
ダメだ。。。
実乃は女達に面と向かって座る事はできなかった
ただとろとろと揺れる炎を見る事だけだ
顔をあげ
遠い目をした
なんと辛い事か。。。。
それでも段蔵の言葉が耳に残ってこの決意を鈍らせる事はなかった
「越後のために大儀を見据える」
大儀なのだ。。。。
部屋の中で肩を抱き合って泣く二人に言った
「もうこの事に関しては何も言わんでくれ。。」
それが精一杯の言葉で
武将実乃の女達への謝罪だった