その17 花の嵐 (7)
鬱積した気持ちを発散したかった
正直
「戦」もうんざりだし
豪族たちとの駆け引きばかりの「臣従」を裁くのも
あきあきしていた
ジン。。。。
二年前ココを出て行った直江に従って「兵法」を学ぶために仕官して
。。。。
何を学んできたか?
屋敷の廊下を小走りに色々と考えた
春日山に戻った時も
なんやかんやでうやむやになってしまっていた
フフフ
顔か゜
さっきのような「歪んだ」笑みではなく
本当に口に出してしまえるような笑いで明るくなり自分が浮かれている事がわかる
とっちめてやる!!!
私は屋敷の北側にある部屋を目指した
「揚北」の中条と会見したのは大きな間だったが
春日山の使者は留め置きされていた
そんな「重要」な用向きでないからだろう
帰参の挨拶ぐらいだろう
途中
侍女の何人かが
私に何か言おうとしていたがおかまいなく進み襖をあけた
「久しぶりだ!!ジン!!」
部屋の正面向かいに座った大柄な男がジンだ
すぐにわかった
身なりは良くなり身体は大きくなっていたが顔はそんなに変わってない
しいてあげるなら
生意気に髷を作っている頭
私を見あげた
ジンは
目を丸くして驚いたマヌケ顔になっている
それを私が襖を開けたときに伏していた男が気がつき
ジンの頭を髷ことひっつかまえると
「頭をさげろ!!」
と勢いよく板間に叩きつけた
音高く板間にデコをぶつけるジン
「芝段蔵にございます!」
ジンの頭を抑えた男は
使命感の強そうな声で名前をなのった
「うん。苦しくない面をあげよ」
そう言いながらジンの真ん前にそのまま座った
ジンは頭をくらくらさせながら面をあげた
デコが赤くなっている
「すこしはきちんとした身なりになったね」
顔こそ昔とかわらなかったジンだが
しっかり武士になっていた直垂もよく似合っているし
着こなしも美しい
私の褒め言葉に
頭を抑えながら
ジンは口ごもりながら「選ぶ」ように答えた
「ああっと。。影トラ様もお久しぶりにございます。。」
?
なんだそのぎこちないしゃべり方は?
「トラでいいぞ!」
こんなとこで固まられても面白くない
それにしても。。
「立て!!立て!!」
ジンの着物を引っ張って起こした
やっぱり。。。
「う〜ん。。背は抜けなんだか!!」
私もたいがい大きくなった
他の侍女たちと比べるなんておかしいほど
家臣たちと同じぐらいの身の丈でやたろー衆を除けば「男衆」とはかわらないぐらいになってはいたが
立ち上がったジンの身の丈は
私より頭半分以上は大きかった
昔とちっとも変わらない尺の差だ
ジンの胸をバンバン叩いて
「またでかくなって!!けしからん!!」
と肩を押して座らせた
「兵法の修行はどうであった?」
聞きたい事がいっぱいだった
こんなに楽しい気持ちになれたのは本当に久しぶりだ
「はい。。直江様には良き指導をしていただき。。」
「硬いな!!」
ジンに改まってしゃべられるのがむず痒い
そういう「作法」も学んできたのであろうがこんなに間近で固まられると
なんだか
私が恥ずかしい
「酒でも用意させるか?」
もう今日は
昼間から浮かれてしまおう
私はそういうと座ったまま後ろを向いた
そこには
おせんと直江の妻が少し困った顔をして座っていた
「酒を用意しておくれ」
私はおせんに向かって言った
「恐れながら。。影トラ様」
私の指示を遮ったのは先にあいさつのあった男
段蔵だった
「うん。。どうした」
「只今「婚儀」の話についての相談をしておりましたゆえ。。。」
段蔵の言葉を慌てた様子でジンが遮って前に出た
「また後で良いではないか!!」
その言葉を塞ぎジンの顎を平手ではね上げて平然と段蔵は続けた
「今しがた本題に入ったところでございますゆえ酒はしばし。。」
なんだ?
「誰か祝言をあげるのか?」
「いや。。だから後で」
弾かれたジンはもどって段蔵の肩を掴んだが今度は
顔を横に叩かれ
そんなドタバタさえ
段蔵は気にもせず前に乗り出して続けた
「直江実綱様ご息女「おせん」様のです」
おせん?!
私はすぐ後ろに座っていたおせんを見た
仕立ての良い
小袖に着替えたおせんの姿はとっても上品な「女人」に見せている
顔も薄く化粧をしているのか
いつもより大人びてみえた
そういえば15歳
もうそんな歳になっていたのか。。。
「おせん。。。」
思い出せば
ジンが栃尾から春日山に戻ったとき以来
入れ替わりで私の身の回りの仕事を甲斐甲斐しくしてくれた
時に「癇癪」を起こし物に当たり散らす私を諫めたり
励ましたり
叱られたりもした
新しい直垂を去年何着も繕ってもらった
そうか
「嫁」に行くのか
長くココに引き留めてしまっていた
「ところで相手の殿方は誰だ?」
懐かしい気持ちと
おせんが「嫁」に行ってしまうと寂しくなるな。。という思いで
少し潤んでしまった目をふせながら
それでも「祝って」やらねばという気持ちで私は聞いた
でも
寂しさが募ってしまい
声が震えてしまったのを気づかれたのか
おせんも顔を伏せている
願うよおせん
良き殿方のところに行って欲しい
そんな
私の問いに段蔵が答えた
「ココにいます「加当陣江」です」
そうか
ジンとか。。。
そうか。。
良き殿方。。。
?
「へっ?」
聞き慣れた名前が戻ってきて
一度混乱した頭で変な声を出してしまった
言葉を失ったままジンを見た
先に段蔵に平手で叩かれた続けたジンはあちこちを赤くしたまま
気まずそうに顔を横に向けた
「ジンなの?」
今度はおせんの方を見た
なにやら頬が赤い
何だこれは?
どうなってるんだ?
もう一度ジンの方に向かって聞いた
「ジンが婿なの?」
段蔵が答えた
「直江様直々ご指名まことに果報者にございます」
と喜びいっぱいの声で返答し深く頭を下げた
よくわからないぞ?
おせんの方を見た
気恥ずかしそうに頭を下げる
もう一度ジンを見る
「ジン。。。。祝言あげるんだ。。。。」
突然の事に私はただ呆けるだけだった