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その2 傷跡(3)

暗雲に姿を重ねた

汚らしい男達

そのすり足はジリジリと私たちに近づいてきていた


気持ちの悪い感じ。。。。。


これは。。。。


私を守るように,袋からこん棒を抜き持つジン

そして直江

城持ちで付いてきた侍従の者たちも身構えた


「よせよ侍もどき!死にたくなけりゃ刀と金をおいてきな!!」



数で勝る私たちを見下し

ひるまない男。。。この武家の行列に対して大胆にして不敵で。。。不遜


不気味な感じだ


背筋に走る気持ちの悪さを正視ながら

「何故こんな事をする?」

私は話しかけた

「はぁ?」


ボロをまとった男は道に転がった「死体」を指刺しながらまったく

質問を介さぬ脅しを続けた

「ああはなりたくないだろ。。祈ったって戻ってこねーぞ!!」


「キサマがやったのか!!!」

ジンが怒鳴った


歯抜けの男の後ろに立つ大男。。。細身だが手慣れた感じの

頭格の男は答える気がなさそうだ

つまらなそうに

横目で見ている


私はつづけて聞いた

「何故こんな事をしようとする?」



「イイべべ(服)着てる姫さんにゃわからんこったよ!!」

横からハゲの小男が言った



ふざけた言動をベラベラと話すこいつらは異常な集団だ

これほどに乱れた身なりなのに規律正しい足取り

確実に

間合いを詰めてきている


気持ちの悪さが何かがわかった


「キサマも武士もののふだろ?何故こんな事をすると聞いているんだ」

私は声を大きくして言った


響く声に驚いたのか

何かに気がついたように男達の動きが止まった



止まった輩たちの顔を眺める私の心には言いしれぬ深い「怒り」が沸き立ち始めていた


やさぐれ坊主や野武士まがいの者は

林泉寺にいた頃や

総構えの町でそれなりに見てきていた

やつらはどんなにまとまった集団であったとしても

身振りや足並みがそろわない

ただの「悪行」を行う奴らには

身に付いた「規則」がないからだ



そういうただの「悪」とこいつらは違う

気持ち悪さの原因は不遜の輩を装う男たちが元々所作正しき「武士」だからだ

歩き方間合いの詰め方

これは「武」を身につけた者たちの動き




「抜いているということは「死」は覚悟は出来ているという事だな」

直江は気がついている

黒く光る「敵」の刃を見据え覚悟のほどを鋭く聞いた

彼の手は「戦う」ために剣に手をかけている


野武士まがいの男達にも緊張が現れる

ふざけた

言葉は一切しなくなった。。。自分たちの「中身」を気取られたことに警戒を表す

黒ずんだ顔の下

険しく光る目を持つ武士たち



「金をおいてけよ。。見逃してやるから」


前に立つ「交渉人」せむしの歯抜けは言う

おちつきのない態度の方が消えている

言葉のおふざけとは裏腹にしっかりと緊張を保っている


「ボロに隠した野心が見えているぞ」


私の口調は怒りに充ち満ちた

ゆるせない

という気持ちは怒りの頂点に達し燃え上がったまま私の意識を真っ黒に染め変えた

たとえ横たわる「死」の姿を彼らが作ったのではないとしても

こんな事を昼間から仕掛ける者を許すことなんかできない



全面に立ちふさがる男たちに雷の怒声で言った


「私は長尾影トラだ!武士の所作をもちながらの蛮行を決して許す事はない!!」


一瞬顔を見合わせた暴漢たちはそれでも戻る気にはならなかったようだ

「だまれ!!!」


引きつった声を発し

一斉に飛びかかってきた



直江は素早く刀を抜き

ジンはこん棒をかざした


私もその手に刀を持った


「怒り」は伝播する

私の声にそれは十分に入っていた

周りにいた侍従の者たちにもこもった「怒り」は伝播していたに違いない


今日,春日山城を後にして,たかが半日の道中にどれだけの傷跡を見たことか!!

焼けた町

河原に流れる「死」

迷い出ている親無しの子たち

この越後はどれだけ傷をおっているのか


なのに所作も正しい「武士」ともあろう者が野武士まがいの事をして

人を脅している


これは世に示された「悪」だ

「闇」は来て

私に言う

「斬れ」と

刀を掲げ大きな声で叫んだ


「オマエたちを許さない!!」


斬る!!叩き斬る!!!

彼らは「武」を貶め人の道を外れている


こんな者たちと一緒の「武士」であっていいわけがない

ましてや御仏に祈る事に難癖をつけるなど言語道断だ


馬を下り

目の前に飛び出た刀の一線をくぐり抜け

歯抜けの喉を横一線に切り裂いた

クビは不自然な感じにぐらつきそのまま立った状態で止まった


生暖かい「血」が勢いよくが私に降り注ぐ

かまわずもう一線

ハゲの小男の肩を真上から斬りつけた

悲鳴をあげて崩れる



「こい!!!叩き斬る!!!」


吠えた

私の怒りに押された「力」決して許さぬという心がやさぐれ者たちを追いつめた

すでに勝敗は決していた

直江の剛剣は瞬く間に複数の野武士を叩き殴り切り捨てていた

ジンのこん棒で骨をくだかれて倒れた男たちは何人もいた


尻込みして逃げようとする男たち

逃がしはしない


「抜いた限りは最後まで戦え!!」

激し追いつめた時


「やめろぉ!!」

大きな声が焼けた家屋の片隅から響いた



私は足を止めて

見えぬ声の主に叫んだ


「姿を見せぬか!!」

「いまいくよ」


少し間抜けた声は廃屋の影から身を起こし私の前に現れた

大男

先ほどのかしら格の細い男が横に並ぶがそれより一回りは大きい

顔はつるりとしていて髭も少ない

他の輩と同じくかなり薄汚れている


その男は無造作に構える事なくのしのしと前に進んできた

大きい

おそらく直江の身長を抜いている

屋敷の戸口であったら頭をぶつけてしまいそうだ



大男は「素手」だった


私は睨みながらきいた

彼が代表のようだ


「名は?」


素手で前に出てきた事で私は少し自分を抑えて聞いた

男は口をもごもごさせながら

少し困ったように答えた

「やたろー。。」


腰砕けになった野武士まがいの男たちは

この男の後ろにいそいそと隠れた


「もうええじゃろ。。。あんたの勝ちだ」

「勝ち負けではない!!」

刀を鞘に収めたが怒りを収めるつもりはなかった


勝ちとか負けではない

武士たるものがこんな事を遊び半分で行い

弱き民草を害している事を許すことなどできない

そんな事を生業としてきた者たちの事を「勝ち負け」などと遊びのように許していいわけがない


やたろーと称した大男は

私の顔を見て

うつむいてまた口をもごもごさせて

「じゃがわしらは負けた者だからこんな生活をしとる。。やはり勝ち負けなんじゃ。。」


苛立ったが

相手ののんびりした口調で聞き返す余裕が出来た

「負けた者?」

「そうじゃ。。。。わしの父はあんたの父との「戦」に負けたから。。」

今回 

やたろーが登場しましたが

その身長をあえて「180」と現代寸法で書きました


個人的にいつも思っているのは

歴史小説の由緒正しい「決まり」

いわゆる「縛り」は

一般的な若年層には理解しにくいし

読むことを中断させる方に働いて


もちろん「由緒正しい」ほうが

絶対に良いのですが(むしろそっちの方が好きですが)

今回はまさに

簡潔にその人物像を伝えるために

簡単な方法をとったという事です


本格的な歴史物が好きな方にとってみれは「邪道」

なので

気分を害されたかたには

ココから先もかなり「簡潔」な表現をめざして書いていくので

注意をなさってください

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