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その17 花の嵐 (1)

昼なを暗い

曇天の下

灯籠一つをともした部屋で男たちは静かに

静かに


会話

というよりは決まり切った答えを取りまとめるための「問答」を

続けていた




寒さはまだ過ぎることのない「越後」の冬

じきに3月の声も聞こえるだろう

しかし

まだだ



まだ


一つ嵐を「起し」決着をつけねばなるまい

揺れる小さな炎の前で「中条藤資なかじょうふじすけ」は

他の揚北衆あがきたしゅうの使者を交え

普段でも抑えている声を

さらに

低く深く抑え「心」を気取られぬように口を開いた




「影トラに着こう。。。。とおもうている」


話の内容は

黒田秀忠くろだひでただの揚北に向けた遺言ともいえる書状から

「長尾家」のどちらに着くか?

という

打算ではきかない

一族の「命運」を左右する重大な決議でもあったが



部屋に使者とともに

集まって早々中条は答えた

というか

中条は

決めていた

晴景はるかげ」に着くことは絶対にないと



「中条殿はそれでもよいのかもしれんが。。。」


揚北の使者たち

「本庄」「色部」その他の豪族たちの腹心の者たちは答えをだしあぐねていた

逆に

中条が早くに「その」答えを出すことはわかっていた



「中条」は守護代「晴景」には絶対に従わない


数十年前

上杉定実うえすぎさだざね公が騒ぎ出した事件

「養子」を奥州伊達おうしゅうだてから取ろうという

事件





上杉定実には子供がいなかった

そもそも

定実公自身も「養子」だ

だが

「上杉」を「越後」に存続させたいという願いは当たり前にもっていた



為景ためかげ没後

守護代をついだ晴景の「融和」策の一つの見本のような話で

誰からも咎めを受けることなくすんなりと行くだろう

そして「マヌケ」な晴景はそれを見習えと推奨するだろうぐらいに思った


実に中条にとっても「おいしい」話だった


奥州から「養子」として迎えたいといった子供の母が中条の「妹」だった

上杉の中に

自分の血脈をいれる


親族になってしまえばいい


為景のように血なまぐさい「戦」によってその力を手に入れるより

はるかに「たやすく」血の流れない


むしろ

己の一族の「血」を入れる事によって

中条が「守護代家」にとって代われる

またとない機会を得た「話」だった。。。。。。





ところが


晴景は「難色」を示した

自分の身の回り

最大の敵であった「長尾政景ながおまさかげ」には惜しげもなく

13歳になったばかりの「綾姫」を嫁がせたのに

上杉の「養子」話にはガンとして首を立てには振らなかった

「警戒心」を持っていたのだ


もちろん

己の「野心」がそんなに簡単に達成できない事はわかってはいたが

晴景が上杉に対して「敵対心」ともとれるほどの「警戒」を怠っていなかった事には気がつかなかった


だが

退けない


こんないい機会はまたと持てないかもしれないと

上杉に取り入りたい気持ちもあり

「交渉」を重ねたが

その間に伊達家に騒動が起こり「話」はお流れになってしまった

定実公は心身共に疲れきってしまったのかほとんど「公務」に出られることはなくなってしまうほどの落ち込み

ご内儀「みのり」が公務を変わって行うというありさまになってしまった


守護上杉の「失落」は決定的になった


疲れた「老人」に取って代わり

晴景は守護代の力を絶対にした。。。。





流れてしまった。。。。


その出来事以来

中条は春日山に「参勤」する事はなくなった


意を同じくした揚北の諸将も春日山に伏すことはなくなった




そうして

時も同じように流れた


「影トラに着く理由は?」


無骨で骨太な男が中条の顔をのぞき見るように言った



「若いからだ。。。」

片口で笑い茶化すように

それでも

静まった口調と同じ声で言った


「若さ。。。。」

「若さか。。。」


それは一同ともに思っていた事でもあった


影トラは「強い」身も心も

それは「黒滝城くろたきじょう」のあの凄惨な仕置きをしてしまえる事からも明白だ

今まで

「長尾守護代軍」であれほど「強い将」はいなかった

あの強さは

親方,為景以来の「強さ」だ


おまけに

栖吉衆すよししゅう」を手に入れている

母方の生家の軍団

今まで晴景に従わなかったあの「軍団」をついに動かした



「強き将」


しかし




まだ若干17歳



そこが「つけいる隙」だった



17歳の若き将に取り入ってしまった方が「先」がある

いろいろな意味で


中条に限って言えば

それが無くても

晴景にだけは「絶対」に従わないという意志があったが


ほかの

「豪族」も似たり寄ったりなところではあった

晴景には従えない。。。。

たいした

功績も戦績も持っていない「主」など。。。。


「中条殿の意見に従おう」


熊髭の男は堰を切ったように言った

「早く国をまとめねばな。。。」

「強い守護代は望みじゃ」


みな

後に続くように「言い訳」をした


「強い守護代」が欲しい

だから晴景を追い立て「影トラ」を。。。。


それは

表向きの答えだ




みなその「若さ」に付け入る「隙」を探せる「老獪」さと「余裕」を持っている

晴景と

いまさら事を構えたら「何年」もかかってしまう気がしてならない


そんな無駄な時間を費やすより

「影トラ」を揚北に取り込んでしまえばいい。。。。



隙間風に灯籠の火が揺れる

かすかにみえる

男達の目の光り





「では中条殿が栃尾に使者を立ててくれますか?」


結論は出た


「長尾影トラを守護代に。。。」


一番年取った男が中条にそう言った

そうだ

火を見ながら笑った

「我々の守護代に」





会が終わり

みなが退出した部屋で中条は一人

影に座した侍従の男といた


「我々の。。。。か。。。」


部屋に目を戻し

後ろに控える男に話しかけた

「現八。。。影トラの顔を見たことがあるか?」

「ありません」

無駄のない簡潔な答え



「「女」であ事は確かか?」

「たぶん。。。」

無骨に濁る答え

がすぐに思い出した言葉を告げた


「しかし主,秀忠曰く「美しい女」だったとの事です」

。。。。


美しい。。。。17歳の「女」

そう言えば秀忠の奥方も見目美しい女だったな

秀忠の目は疑う事のない審美眼だ。。。。中条は野卑な笑いを浮かべた


「女か。。。。取り込む「手段」もあれこれと楽しめそうだ。。」


かつて

自分の

妹の血で守護代の地位を「血脈」に取り入る事を狙ったが

今度は

晴景。。。。

オマエの妹の血を頂くという方法が使えそうだ


人望もあり

強さあり


うわさでは「美しい」


しかも若い。。。。

若い女を「落城」させるのは楽しい「戦」になるハズだ



戸を開け放った

白い息をいっぱいに出して大きく笑った

今度は勝つ

絶対に


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