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その16 使者 (1)

祝勝の祝いが終わった後

実乃は。。。。困っていた



というか

栃尾史上最大の大戦おおいくさにも匹敵する

武功をあげた城の武将が


これほどまでに「喜べない」朝を迎えたのは。。。。。


巡る考えは良い方向には動かなかった

なんとも「切ない」朝焼けだ

かたわらに

酒の壺を抱きしめて転がる

やたろーや

鼻提灯をふくらませている

柿崎のように「のんき」な気持ちにはなれなかった







事の始まりは

やはり「影トラ様」。。。。

今年17歳になるトラにまさか。。。いまさら。。。



「月の障り」



訪れるなどと思っていなかった


娘の多英でさえ

去年「それ」は来て(来たらしい)

いそいそし始めたのはわかったが


とうにそんな「初」という歳を越してしまった「影トラ」には

勝手ながら「来ない」と思っていた事もしかり





それ事態をすっかりと忘れていた


というか

「戦」に赴けば

「常勝」であるこの強き「将」が「女」であった事を忘れかかっていた



溜息

溜息

ぐらいしか出てこない



昨日

祝いの席から離れられたのはかなり夜も更けてからだった

「影トラ様」が疲労で出席しない

なれば

戦働きで「功」をあげた者を労う役は必然的に

実乃になる


それでも本来だったら配下はいい顔をいなかったかもしれないが。。。。




そんな祝いが始まる前に

やたろー

柿崎との「乱痴気騒ぎ」が始まってしまっていたので

なだれ込んだ形で始まった宴でなんとか「不平」を聞かずにすんだのは


妻の「お猪」のおかげでもあった

乱闘でもみ合いになっている

実乃

やたろー

柿崎に


大樽にいっぱいの水を頭から被せて

あごを突き出した

立腹の顔で言い放った


「まだ「戦」は続いておりますかな?」



泣きたくなった


そうでなくても

つやに一発くらってしまっい

多英まで泣かせてしまった後に。。。


この寒風吹きすさぶ面屋敷の真ん中で

水浸しになっている自分に

さらに

その後,他の武将たちのまえで「説教」をくらうという

なんとも

しまらない結果に

少しだが「涙目」になってしまった



それでもその一件で諸将が「影トラ様」の疲労にそれほど騒ぎ立てる事はなかったのは

。。。。。


不幸中の幸い。。。。か?


乱闘で腫れ上がったデコを撫でながら思った




「ハァ〜〜」


しかし

現実は残酷だとやはりうなだれてしまう



宴を離れ

影トラの病状というのは可笑しいが

具合を伺うため

お猪と話をしたところでつい。。。



「どんなに強くてもしょせんは「女」か。。。。」



と本音が口に登ってしまって

またもの「一悶着」になり

妻に怒鳴り散らされること朝方まで。。。。


昨日の酒盛りはまことに「しんどい」事だった




「しっかりしてください」


しょぼくれる実乃の隣には先刻まで怒鳴り散らして説教していたお猪が

酒や膳をかたしながら

少し緩やかに言った


その手に巻かれた布を見て実乃は気遣った


助かった



正直そんなに気持ちだった


実乃が「月の障り」を男が故に知ることがないように

影トラもその事についてはあまりにもだが,いっさいしらなかったようで

動転し

城にもどって「腹を召そう」としたところをお猪が止めてくれた

その時の怪我だった


いの。。。よくやっくれた」


やっとででた言葉に

女にしては大柄な妻は横に座って言った



「当たり前の事です。。。」


続けて


「あなたさまがもっと気を遣ってあげてくださいまし」



そう言うと

そそくさと部屋を後にした


それでも実乃は

妻には申し訳なく思いつつも落胆を隠せなかった


それほどに「影トラ」は強く羨望の将だった

なのに。。。。と思うと


やはりやり切れない気持ちが募ってしまい

溜息が多くなってしまっていた








「何をしょぼくれておるか?」


いつ目を覚ましたのか

寝っ転がったままで柿崎が実乃に話しかけた

よだれを拭きながら身体を起こした柿崎は懲りることなく酒瓶を持ち上げ

仰ぐようにのみながら


「寝なかったか?」


と目をパチパチさせながら聞いた


片膝でチラリと目を合わせたが言葉は出てこなかった

悩みが尽きないのだ


「春日山に戦況報告にいかねばならんのに。。。」

「いそぐこたぁない」


実乃の悩みをまるで介さぬように柿崎は言った

また一息にグビリと飲み



「そのためにわしはココに来たんだから」

「わかっておる」



柿崎が遅れながらも「黒滝城攻め」に参加したのは何も「戦」馬鹿だから

というだけでない事はわかっていた


戦目付いくさめつけ

戦の状況

進行

最後を見届ける仕事をしに来た


その仕事を

春日山で守護代から仰せつかってきた事はうすうすう気がついていた

みなが

知りたがっているのだ

「影トラ様」の戦いぶりを

そしてそれは今

やっと大きな「力」になり始めていた矢先だった



「やはり「女」には無理なのだな。。。」


言葉にだして言ったら

妻に激怒されてしまった

禁句を

柿崎を見ながらまるで自分を卑下するように実乃は言った


「一月の内,十日休めるのは良いことだ」

「ちゃかすな。。」

「ちゃかしてなどおらん」


柿崎は酒の壺に残りを見つけようとあちこち捜しながら

何事もなかったかのように答えた


「わしは影トラ様について行くぞ」


以外な答えだった


柿崎ほどの武人が

こともなげに「女」に従うと言っている


驚いた顔の実乃のとなりで柿崎は続けた


「金津を見たか!虎姫恩顧とらひめおんこの男たちは「姫」をあるじに頂いたからと言って腰抜けではなかったぞ」


たしかに。。。

影トラの母,虎御前をかつて主として頂いていた

あの「男」たち(栖吉衆)にとって強き「トラ」は待ちに待った「将」だった

その心を

黒滝で十分すぎるほどの奉公として示し

惜しむことなく戦った


自分たちの主が「女」である事などなんの問題でもなかったのだ


柿崎は杯を実乃に投げ徳利を差し出した

「わしは強い影トラ様に従う。。。それが一番気持ちが良い!!」


ハハ


ハハハ




実乃は笑ってしまった

「気持ちが良い」

わからんでもない

春日山では守護代様の「会話」による統治という穏健な方法が主流だが

さして成果を得る事は出来ていなかった

そんな

穏健な方法が通用するほどこの「越後」の嵐はまだ止んでいないのだ


「その目で何度もの勝利を味わったおぬしが影トラ様を盛り立てないでどおするのだ?!」



柿崎の言葉は

本当に「羨ましい」と言わんばかりだった

今はまだ「義」をを通すためにも「力」がいる

その一番の「力」となっている「影トラ」を盛り立てねば。。。。


たとえ

その身が「女」でもいままでこれほど「強い将」はいなかった

やっと「越後」を統べる力が現れたのだ


酒を飲み干した

つまらぬ事で頭を悩ました事を恥


返す手で柿崎に返杯した


「わしも。。。気持ちの良い戦がしたい」






そして

その「力」が本当に必要とされてきている事を実乃たちは

改めて知ることになる


揚北衆あがきたしゅう中条藤資なかじょうふじすけのが使者としてやってきたのは

春を待つなかに

まだパラパラと雪の降る3月の事だった

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