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その15 穢血 (4)

何もかもが

「動転」してしまっている


栃尾まで後少しという場所で急に影トラは馬を走らせ

叫び声とともに疾走していった。。。




何が?なんだか?



行軍の指揮は幸いにかその場にいた「柿崎」にまかせ

馬廻りの「長秀」と数騎をつれ

トラに遅れることしばしでやって城にもどってきてた



城門をくぐり「厩」を見たが影トラの馬はおらず

屋敷前まで急ぎ進むと

「多英」と「つや」が手綱をとってなだめている姿が見えた


「多英!!影トラ様は屋敷か!!?」



大声で2人に呼びかけた

愛娘の手前出来るだけ声を荒げないようにしたのだが

顔には出てしまっているし

心はいっぱいの「迷惑」に満ちていた


影トラが「戦」出ては帰りに具合を悪くするのは

今回が初めて。。。。

いう訳ではない



どちらかと言えば

「いつも」そうだ

いつも戦が終われば「嘔吐」をしたり

寝込んだりする


それでも

何度か注意をして

「将たるものはいつでも毅然としていないといけない」

厳しく教えた事もあり

幾分「改善」された矢先だった


今回の大戦おおいくさはたしかに「過酷」だった。。とはいえ

あんな「奇声」をあげて隊列を離れられたのでは立場がない




馬をおり

歩を早めながらもう一度

多英に問うた


「影トラ様は屋敷か?」


多英は馬の鞍を拭きながら答えた

「屋敷です」



実乃は長秀に

「厩に連れて行ってくれ」

と多英とつやが綱を引いている馬を指さした

長秀と数人はすぐに多英の手から手綱を受け取った



「父様!!父様!!」


イライラが歩幅にでてしまったのか,かなり足早に屋敷に向かっていた

実乃に多英が小走りに寄りながら

何度も呼んで前にでた

実乃は普通だったら怒鳴りつけてしまうところだが

娘にそれは出来ず


「何だ?」


と足を止めた


「今お屋敷に行かれてはダメです!」

真顔で止めに入った



「大事だ!!さがっておれ!」


あまり

怒りたくないが主君の失態をなだめるのも「家老」の仕事

手で多英に「のけ」と合図したが


「大事なのです!!」


以外な返事が返ってきて今一度足を止めた

「大事だと?」

「はい。。大事にございます」

鸚鵡返しのように多英は繰り返した

その表情で「ただ事」ではなかった事をいまさら知った

多英の手に握られた布はさっき影トラの馬の鞍を拭いていたものだ



その布は赤い。。。


「お怪我を!!」

そういえば

屋敷前を何人もの侍女が忙しなく駆け回っている

頭をはたいた


「なんたる事をぉぉ!!」


怒りで主君の「怪我」に気がつかなかったなど!!

走ろうとする実乃の身体に多英がしがみついた

「いけません!!」

驚いた

娘にしがみつかれた手をほどこうとしながら

「何をしている!!」

わめいてしまった


多英は顔をしかめながら

首を横にブンブンと振りながら

「行ってはいけません!!」

と実乃に引きずられ倒れそうになった身体を起こし言った


「何を言っている!!怪我ならなおさら!!」

「怪我ではありません!!」


いつになく必死な多英

もともと

控えめで大人しい娘が「一生懸命」になっている。。。


という事は

事態はよほど「悪い」と実乃はさらに

手を振って


「とにかく屋敷に行く」

とふりほどこうとする

多英は離れようとしない

「ダメです!!大事なのです!!」

「大事ならばなおさらじゃ!!!」


今までなかった娘の行動に実乃は驚きもしたが

苛立ちが先にたってしまい

ついに怒鳴ってしまった

多英は父の声に驚き

へたり込みながらも足にすがりついて

「大事なのですぅ。。うっぅっ。。」

と涙声を上げた


わけがわからない

「多英!手を離さんか!!」

「ダメですぅうう。。うっ。。うっ。。」


他の隊が戻って来てしまうまでに事の次第を把握したい実乃は焦りで

娘を突き放そうとした






「大事!!!!」


大声とともに実乃の顔めがけて水が


頭から水をかぶり愕然とする姿の前には「つや」がカラの桶を持って立っていた

多英と同じく涙目だ


「女の大事なの!!!!」


つやは癇癪かんしゃくを起こし叫ぶ


「女の大事の日に男はいらんのです!!」


と多英のところに走り2人揃って「泣き出した」




どちらかと言えば。。。。

泣きたいのは実乃の方だったが

つやの一言で「大事」というのが漠然とわかり少しだが気が緩んだ


「わかった。。。わかった。。。」


とにかく自分も落ち着かねば。。。

足下に泣き崩れた「多英」と「つや」をさとそうと手を伸ばし

頭をなでた

「すまん。。。すまん。。。」


あまりに気まずい雰囲気

そうでなくても屋敷の周りは「女」達が走り回っているのに。。。

とにかく「女の大事」で。。。とにかく。。。と2人をあやしながら混乱していた頭を

整理しようと顔を上げた







「鬼。。。。。」


目の前にやたろーが。。。。


鬼になっていた

「まて。。。やたろー。。これには深い訳が。。」

そのままスッくとやたろーの前に背を正し努めて冷静に顔を合わせた


「つやを泣かせたな。。。。」


ギョロリとした目

怒りの形相のやたろーとその後ろに控える「大男衆」


実乃は片手を揚げて「待て」の姿勢をとったが。。。遅かった



「フンヌゥゥゥゥゥ!!!」


豪快な一撃に実乃は左に飛んでいった

ちょうど

影トラの馬を厩に戻し帰ってきた長秀の目の前に

転がり落ちる巨体


「実乃様?」


呆然の長秀の前

実乃が怒りに燃えていた


「話を。。。聞けと。。。」


のしのしとやたろーに向かって行く

「言っておるだろう!!!!」


返す刀の右拳がやたろーを音高く殴りつけた

己で愛娘を泣かしてしまったうえに

やたろーの強打で我を失っていた


鬼と化し我を失っている「熊」のやたろーと乱闘が始まってしまった


長秀は止めに走ったが

すでに混乱の状態

多英とつやを非難させるだけでいっぱいいっぱい


そこに行軍を任されていた「柿崎」が帰ってきた


「柿崎様!!実乃様をおとめください!!!」




しかし

仲裁を頼む相手が悪かった

満面の笑みの柿崎


「貴様!!!わしをのけ者に「祭り」とはけしからん!!!」


乱戦に「喜び勇んで」飛び込んでいった






長秀は愕然。。。

史郎に向き直って

「どうするんだ!」

と肩を揺すったが


史郎は遠い目になっている

「無理。。」

となりのやたろー配下の善治郎も同じ顔になっている


「止めんのか?」

長秀の泡を食った言葉に2人は顔を見合わせて答えた






「無理」

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