その14 忠臣 (8)
戦国時代的残酷な描写が含まれます
苦手な方はご注意ください
日暮れを連れてくるために
忙しなく流れる雲
風は
地獄の業火たる香りを穏やかに運ぶ
誰の目からみても凄惨な落城
未だ城内のいたるところで燻るように火がはじけ
屋敷という屋敷のすべての者が殺され続けている
死と
死臭
この城の全てを覆う「死」
黒田秀忠はあばらに残る痛みと
はっきりと開けきらない目でぼんやりとその風景を見回してみた
目の前にあるひな壇に
あの
年若かった武士の首が置かれている
秀忠は感慨深げにその顔を見た
目は見開かれたまま
口も半分以上開き
命乞いの叫びをあげたのか?
となりの段には
息子の首。。。。
一族の者たちの首が小山のように積み上げられている
見知った者は自分より先に「死」に旅立った
驚くという事はなかった
これが「落城」というものだ
かつて自分もこうして城を落としてきた
その「出番」が回ってきただけだ
だか
「悲しみ」がないわけでもない
縛り上げられた身体では手を合わせる事もできない
痛みの走る身体を
持ち上げた
「すまなかった。。。。」
そう言うと首だけを降ろし「祈った」
このたびの「戦」の意味を問うならば
せざる得なかった事としか「彼ら」に言い訳をしなければならない
辛いこの決断を
目の前に座る「影トラ」にひときはゆっくりと話しかけた
「終わりましたか。。。」
この世が。。。
この日が
生きてきた最後の日になる事にかわりはなかった
名残があったわけではなかったが
あわてる事なくゆうゆうの時をかみしめ
己の最後の勤めをしっかりと果たしたかった
。。。。「終わった」
返答の声は静かで
「戦」の激しさが遠ざかった事をよく示していた
影トラの顔は穏やかだった
その美しい髪を風に揺らし
夕日を浴びる横顔は「悲しそう」にも見えた
「では。。。お斬りください。。。」
首を前に出し「どうぞ」と
「まだ。。私の問いこたえていない。。。」
柔らかい声は
まだ何かに燻り続けている
だが
静かだ
静かな態度でつぶやくように
秀忠の顔に向き直って言った
「何故だ。。。」
揺れる瞳
左頬に「返り血」を浴びた顔は真摯に問うた
開戦前
雪原でした問答だった
。。。。ありがたい。。。。。
秀忠は顔をあげた
それが最後の勤めだった
何故こんな「戦」をしてしまったか
「何故」だ
激し
城を攻め
自分を捕縛したこの「トラ」がそのまま「ひと思い」に自分を斬らずにいたのは
目の前にある惨劇を見せ「辛苦」に至らしめるためでなく
「何故」の回答を待っていた事に「感謝」した
辞世の句に匹敵する
秀忠は周りを目で確かめた
影トラの他にこの陣幕には
本庄実乃
柿崎景家
金津新兵衛
馬廻りの男達
「鬼」の小嶋弥太郎
揃っている。。。
誠にありがたい
目を影トラにもどし問いに答えた
「力無き者,弱い者には従えない。。。という事です」
「弱い者。。。」
秀忠は微笑んだ
この
年若い「影トラ」は自分の最後の勤めに耳を貸すだろうと確信できた
「力無き守護代。。長尾晴景さまに私は従えない」
「老将」の心はすでに決まっていた
為景との約束を破った
晴景を守り「トラ」を討つ。。。。
それが
今は亡き親方との約束だった
だが
その意味はもう失われていた
この二度の「乱」守護代は自ら兵を率いて「討伐」に来ることはもとより
その「真意」を問いただしに来る事もなかった
それどころか
「手紙」一つで「欺かれ」自分を許すと言った
もともと晴景を攻めるつもりはなかったとはいえ
あまりに「お粗末」なお沙汰だった
あげく「討伐」の旨伝えたのが「零落」した上杉守護ときている。。。
晴景はついに「戦わなかった」
この「混迷」続く越後において。。。。。あまりに「弱腰」な結論
「兄には従わないと。。。。」
この問答は「至福」だ
影トラの苛立ちを感じる,しかしもう黙ることはしない
周りの諸将の出方をうかがいながら話をする事はない
「聞け若き「影トラ」!晴景のように何もせず,話,諭す事だけの「守護代」に越後を「救う」事はできない!!今はまだ「力」が必要な時!!」
とても
縛られ最後の戒めを受けている側とは思えない声
どこで「無礼討ち」されても不思議ではない「弁」
「時には笑って人を殺し,泣いて従わせるほどの「器量」を持ち合わせた強き「守護代」が「越後」には必要なのです」
血が口から溢れる
「上から下々までを従えるべきその「力」を,お示し下さい!!」
流れ出た血が多く
目眩が襲う
自らを立たせておくことができない
身体は震え膝が笑う。。。
それでも
心が力を与え自分を支える
「あなたなら。。。影トラ様。。。あなたならそれが出来る」
答え。。。。
それは至極簡単だった
強い男だった為景を支え仮にでも「越後」を平定した秀忠たちが示した方法と同じ力が
未だ「必要」だったという事
そして
それを具現できる者が晴景ではなく
なんの「皮肉」か
この美しき「女」影トラだと言うこと
力でぶつかりあった事でいやおうなく知った
ひとしきり叫んだところで膝が落ちた
「己」の役目を果たせたと
その秀忠の前で影トラは立ち上がり「刀」を抜いた
ゆっくりと前に進んだ
「どうか。。。国民を導いて頂きたい。。。」
頭を落とし
首を差し出した「老将」は最後の祈りのようにつぶやいた
「申し開きあるか?」
秀忠は顔をあげた
右手に抜き身をもった
トラは微笑んでいた
微笑んでいながら「涙」を溜めた目
見たことのない
まるで
バラバラの感情
為景は良く笑い
人を屠った
影トラは「怒りながら」「微笑みながら」「泣きながら」
戦う
全ての感情を兼ね備えて「戦う」
この不条理な「戦」の世界において
なんと「美しい」事か
それらを「一緒くた」に出来る者こそまさに「統べる者」だ
心はいつになく穏やかになれた
自分が「激」したこの「影トラ」は正しかったと
それを「確信」して死に赴ける事が
悔いなく逝ける事が「嬉しかった」
約束は果たせなかったが。。。
いやいや
果たせた
「越後」を大いなる「力」で守る者をこの目で
そして
この手で「力」を感じる事ができた
これが約束された「血」
戦乱の「越後」を平定する「正しき」血だった
為景のお叱りは「あの世」で受けよう
己の言い分もぞんぶんに振りかざし
また
拳を交えて
背を正した
堂々と
今一度「影トラ」の顔を見た
あふれ出る「涙」を拭わないその顔を
「怒り」と「悲しみ」そして死に行く者に「微笑み」。。。。これはまるで。。。。そうか
そう言う事か。。。。
息をついた
もはや「考えまい」と
最後を惜しむように少しの「雪」がヒラヒラと舞いおりる
「ありません」
影トラの
振りかぶった刀を見てあの時と同じように慄然と答えた
痺れる程の武者鏡
作法良く
深く伏し
首を下げた
目を閉じて
秀忠は誰に聞かせるというでもなくつぶやいた
「黒田秀忠。。。願わくば「御仏に選ばれし」影トラ様にお仕えしたかった。。」
私は床机にすわり
首台に置かれた「秀忠」と対面していた
陽は落ち
黒滝城はただ静かに燃え続けていた
いまだ身体は熱く,深く「鈍痛」が続いていた
「力」を示せ。。。。。
あの声
秀忠の最後の言葉にあった
あの声は「闇」に響く声にも。。。似ていた
酒をつぎ
首台の前に杯をおいた
「飲んでくれ」
怒りという感情は消えなかったが
問答の「真意」を理解した
ただ
わかっても「承諾」はしがたかった
少なく舞う雪の下
とめどなく「涙」が止まらなかった
「黒滝城落城」
後書きからこんにちわ〜〜ヒボシです
ここ何日かストレスが多かったのか髪の毛が。。。バッサバッサ抜けで。。。ハゲてしまうのではと心配な日を送っていました
そんな日々の中でしたが
やっと黒滝城編が終わりホッとしています
後半に進むにしたがって「残酷」が多くなって
かな〜〜りきつかったです
ココから
さらに
「戦」は続いて行くと思うと泣きそうです(涙)
ところで
新たに登場した人も多いのでこのあたりで一言メモみたいに書いておきます!!
長尾影トラ(主人公「トラ」)普段は天然入ってたりします「戦」強いけどよく泣きます
いちおう「女」なのに「萌え」要素は全然ありません(涙)
長尾晴景(影トラ兄,現守護代)病気してます,衆道もします
長尾為景(影トラ父,故人)伝説の種馬
虎御前(影トラ母)めっちゃ怖いです,実は自分の刀持ってます具足も持ってます
本庄実乃(4熊)柿崎に殴られました
小嶋弥太郎(やたろー4熊)柿崎に殴られました,やり返しました,つやが大事です
柿崎景家(4熊)戦バカ 挨拶は「鉄拳」です
直江実綱(4熊)熊の権利を拒否してます
加当陣江忘れられてばっかです(号泣)
芝段蔵その言動で嫌われりもしてます
おせん(直江娘)実は着物大好き布へのこだわりはすごいです
多英(実乃娘)顔は実乃に似てません
つや(やたろー娘(藁))すでにやたろーを尻に敷いてます
水丸(晴景小姓)あっちのテクニックはなかなかです
天室光育(影トラ師匠)苦労がたえません
金津新兵衛(栖吉衆長)かなりの色黒です虎姫(虎御前)に絶対服従です
上杉定実(実)平安調美人です,ただしすでに高齢です
黒田秀忠(戦死)影トラに討ち取られました,為景の悪友
揚北衆のみなさん
まだ本編にはでてきてないですが「黒滝」の事でそうとうびびりました
これからまだ
色々くせ者もふえるでしょうがよろしくお願いします!!!がんばります!!!
それではまた後書きでお会いしましょう〜〜〜