その14 忠臣 (6)
開始からすぐに
鳴り響く
太鼓
貝
絶叫
怒号
悲鳴
もはや何が入り交じっているのかさえ
わからない城内
慌ただしく城人は走り回り
弓矢の攻防が続く
が
心を揺さぶる興味はそこにはなかった
「早い」
それはわかっていた
作戦も
行動も
去年受けた「仕打ち」をわすれたわけではなかったのに
それでもまだ「足りない」
待ち続ける「戦」に不慣れだった黒滝
わかっていた事
短期間ではあったが出来うる処置をして城を固めたが
「天運」にはみごとに見放されたらしい
攻城戦の基本は
守り側が有利なハズだが「人」が出そろっていなければ
城自体の全部を防備する事はできない
外塀の弓隊を全面の配置につけたら
すでに人は足りない状態だ
敵は五百の弓と同じぐらいの「仕寄り」を用意
防柵はすでになんの役にもたっていない
城壁は火という「お飾り」に彩られている
開戦から一刻
焙烙で半壊させられた門が打ち破られるのは後わずかだろう
それでも秀忠は声をあげ
次の策を指示していく
「やるしかない」
いやいや
まだ何一つ始まってない
引くことなどあり得ないのだ
「二の門を固めよ!!」
将は慌ててはいけない
それを態度で示す
指示の声とは別に悠然と二の曲輪に向かう
まだまだ。。。
とりあえずは
「影トラ軍」が仕掛けた「火」ですぐに城内に駆け込まれる事はない
時間はある
大手門から向こうは「棄却」
二の曲輪までに防陣を敷く
人手を考えればそちらのほうが「有利」だし時間を稼ぐことはできる
まだだ
まだ
十分に「死合い」していない
二の曲輪の防備に走らせるため
手をあげ
大手門からの撤兵を合図していると
足早な伝令が目の前にひざまずいた
「申し上げます!!!南門が打ち破られてございます!!」
「なんだと?」
耳を疑った
「南側,堀切と曲輪を。。。。斬られたと?」
いつの間に?
首を傾げ言葉を止めた
しまった。。。
大手門を焼き切る時間をつかって「隊」を分けたか?
物見を呼ぶ
「「影トラ軍」は二手に分かれたか?」
登る煙でよく見えないのか
物見は手振りで
「わかりません!!ただ近づいてきています!!」
火を。。。。
いや煙までも利用したか。。。
目を閉じる
「城を分断するつもりだな。。。」
火に炙られたのか具足の端々が煤けている
秀忠の指示を待つ伝令
顔に「怯え」が見える
「旗は?」
「栖吉衆です」
。。。。。
持久戦にまでもちこめなかったら食い下がった意味を失ってしまう
秀忠の顔は険しくなる
やはりそうだ
城の各所を分断して「殲滅」していくつもりだ
各所を攻め込まれたのでは
ただでさえ足りていない人手では
防戦,防備は。。。望めない
己の胸を叩いた
奮い立たせるために
どうあっても守りきらねば!!
それにしても歯がみした
栖吉衆。。。。
手慣れているは。。。感心してしまう
切々と感じる
この日を待っていたのは自分だけでなく
奴らもだ,手際が良いのもうなずける
自らで頂いた「主君」に武功を輝かせたいという意気込みは「あっぱれ」だ
が。。
笑えない
息を荒げ,
しなだれる伝令の襟首を掴み顔を寄せる
「持ちこたえろ!!どんな事があっても!!」
気迫を彼に伝播させる
長年培った「神通力」だ
彼の頬を張った「老将」の眼力に
伝令は気合いを持ち直しお辞儀した
「行け!!」
「ハッ!!」
容赦なく降り注ぐ火矢をかわし急ぐ
「負ける」わけにはいかん!!
そんな半端な決意で「戦」に望んだのではない
「秀忠様!!揚北衆は?」
秀忠の後ろを着いて回っていた
若武者の目は縋る気持ちを十分に表して質問した
まだ
具足が「不似合い」な彼は
さして「影トラ」と歳も変わらない
なのに
それほどに怯えるとはと
思いつつも
正面
燃える門を見た
パチパチと火の粉を雪に注ぐ
後何刻この城は耐えられるのか。。。。
いや
このままいけば
あの「影トラ」は城どころか前回達成しなかった「山ごと燃やす」を実行してしまうだろう
数刻前
雪原で会見した時の顔を思い出した
「戦」を望んでいる
と
いう表情
風雪に晒された
「女」の美しく引かれた円弧の眉に大きな瞳
母「虎御前」の持っていた険しいだけの「風貌」ではなく
大らかな「優しさ」をもつ顔
戦軍の「美女,影トラ」
だが身に纏った「殺意」本物だった
笑っていたな
戦いを待っていると
あの態度
今一度崩れ始めた大手門を見た
覚えているぞ
笑っていながらも,敵を殲滅していったあの男を
それは「為景」の戦い方だ
炎を纏い,不適な笑みで攻め立てる姿
不動明王が背負う「紅蓮の炎」を体現した男。。。。
その「血」はココにあった。。。
正当なる「主君」の血は受け継がれた
そうか
そうだ
もう理解できた
「為景」オマエが恐れていたのは「自分自身」だ
いつか己の血をつぐ
自分が産まれる事を心待ちにしていたオマエにとって「女」であった事が「禁忌」だったのか?
それとも他に悔やまれる理由があったのか?
今はわからないが
「トラ」を恐れたのは「本能」だろう
実に
実に恐ろしい獰猛な「トラ」だ
「勝つこと」は無理だ
いぶかしく
頭を振って若武者に声を掛けようとした
轟音が響く
門は両脇の城壁と戸板を巻き込みあっけなくつぶれてしまった
あっという間の出来事
「揚北衆はこない」
炎上する門を呆然と見る若者に言った
愕然とした表情で絞り出すように返答する
「では。。。私たちはどうしたら。。。」
彼の顔に絶望が見える
だが
今は秀忠は笑っていた
燃え落ちた大手門の向こう
城下の向こう
雪原の前に
馬と共に立つ「影トラ」が見える
美しい「殺意」だ
「阿修羅」のごとく
若者に向き直り
「逃げよ。。落ち延びよ」
へたり込んだ彼の肩を抱き告げた
「早く!!」
抱き起こす
「早く!!」
その言葉をかき消すように炎をくぐった大男たちが突進してきた
「柿崎和泉参上!!逆賊黒田秀忠はどちらに!!」
柿崎和泉
炎を物ともせぬ勢いで進んでくる
それに引き連れられた「猛者」たち
あの「戦」馬鹿が
己の「本能」で「影トラ」を君主と選んだか
正しいぞ柿崎
オマエの選択は
若武者をたたき起こし追い立てながら
近くにいた部下に言った
「槍もて!!」
秀忠は門の前で大暴れをする
柿崎を見据え怒鳴った
よかろう!!
我とて
この「越後」を
「戦」の大地を駆けた「男」ぞ!!
相手が柿崎なら最後のひと暴れに「不足」はない!!
「黒田秀忠ここにあり!!!」