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その13 晴と影 (12)

夜になればより風を強く感じる



冷たさ

しみいる寒さ


「お体に障りませんか?」


御簾の向こう

目の前に座っている晴景はるかげの声で我に返った

夕方から向こう

強くなるばかりの「雪」の勢いについ根を上げて「女房」を城下に遣わそうとした

昼間

少なくなった「雪」で城下の屋敷まで戻ってしまおうと支度をしていのだが

その機会は逸してしまった


忙しく動く「女房」を見て

気を遣ったのか

晴景は火桶を多く準備させて部屋まで挨拶に来てくれていた



「ままならぬもの。。。ですね」



屋敷に残した

夫,定実さだざねが心配でもあったが。。。





「フウ。。」


溜息。。。

溜息ばかりだ


「晴景殿。。。。宴の時の事。。。覚えておいでか?」


みのりの言葉に晴景は苦々しい表情を隠せなかった

思い出したように

あの日,影トラに掴まれた左手をさすった


「見苦しい事であったの。。。」




まったく

情けのない事になった

気の利く「家臣」があの場にいなかったらきっと晴景は影トラをめった打ちにして

それ故に「人望」をすべて失ってしまっていた事だろう


「強く」

強くあって欲しいと願う「守護代」のあの姿は

ただ

「情けなく」つい実をイライラさせてしまって

責めるように言葉をすべらしてしまっていた


「みっともないところを。。。」



苛立ちを漂わせた晴景の返事さえも。。。。腹立たしくなってしまう




「晴景とともに「越後」を制したらいい」


自ら「隠居」を決め守護家の「復活」をなした後

彼は思い残す事は無くなってしまったのだろう


簡単に言ってくれたものだ

為景ためかげ。。。




まったく


お前の子種はたいしたものだ

「不公平」なほどに


晴景。。。


影トラ。。。



「影トラには以後「無礼」のないようにきつく申しつけておきます」


。。。。


「無礼」とな。。

「その事ですが。。。影トラはいつ「嫁」に出すつもりですか?」


実は前年から引き続き

晴景からの相談は受けていた

「都」。。事,幕府とのつながりを強固にする事で「越後」を柔軟に「制したい」と思っている晴景は

影トラを都に「嫁」に出してしまいたいと打診してきていたが。。。





まったく

荒唐無稽な意見でただ呆れるばかりだ

宴で見た影トラは

たしかに見目美しい顔を持ってはいるが「女」の所作はこれっぽっちも持ち合わせていない

茶の湯もなければ着物の知識さえ皆無だろう

武家の作法だけしかもたない「女」を都の公家たちの誰が嫁に貰ってくれるのか?



変わり種として「笑いぐさ」にはなるかもしれない



それに

「権威」からいち早く零落してしまった「守護家」の取りなしで都の者が動く事など絶対にない

ましてや

守護家を介さずに「将軍家」との繋ぎをつけてしまった

為景の事を


「好ましい」などと思っている者多くはいない


むしろ

「今更」だ

越後の問題は身の内でかたづけなければ。。


「輿入れ」の話は今の「上杉」ではどうにもならない事は晴景にも言ってあった



「相手がおりません。。あんな粗暴な「女」」

思い出した事

吐き捨てるように答える晴景


。。。

やれやれだ

頼みつけておいて理由さえも「子供」の「駄々」とは

要は「気に入らない」のだな。。。遠ざけたいのだ


「綾」の時のようにはいかない

虎御前は警戒している


まったく

気に入らない事だ



それは「実」も一緒

虎御前とらごぜんが気に入らない。。。当然「トラ」も気に入らない


しかし

だからといって吐き捨てているだけではなんの解決も得られない

夜更けにこんな問答をくり返すだけなど。。。意義も失われる

厳しく接しなくては


「男をお見せなさいな!」



「激」する

話の間にも腰砕けになっていく晴景を叱咤して言った

許せないのだ

みのりの声に余計,小さくなってしまったその姿にイライラを隠さずつづけた



「相手が「女」であるなら方法もあろう!!」


「しかし。。。虎御前が。。」

そうだろう

御前を彼が非常に恐れている事も,もちろん知っている

だが

居城である「春日山」で未だ「亡き父の妻」にないがしろにされる「守護代」にいったい誰が?

どんな諸将が従うというのだ?


相手が女なら

言い逆らう事許さず。。。と言い切る事もできるハズだ



「嫁のもらい手がないなら。。。」





「お前様の「側室」にしてしまえばよかろう」


勢いではなかった

常々そう思っていた事を明確に晴景につげた


「相手が「女」なら「抱けば」よかろう」


晴景の顔は驚愕一色になっていた





目を

目を閉じれば今でも思い出すは


火の粉。。。。


踊る火の粉がサラサラと舞い上がり揺れ落ちる


頭の中に「あの日」が去来する

華のない「女」でなどいたくなかった


「女」。。。。「越後」を制せよ!!と



しかし

違う



夢から覚めるように

目を見開き怒りの色を乗せ続ける


「かつて。。。そなたの父上,為景がしたように「強い女」を抱けばよろしい」

そうだ

まだ年端もいかなかった「虎御前」を,12歳の小娘を「孕ませた」

あの男の血を見せぬか。。。


「あり得ません。。。そんな事。。。」


激したみのりの言葉にただ驚き

おののく

晴景の顔を睨むように見た


何に。。。何にそれほど怯えているのか。。。



ココからでは実の顔は御簾みすの向こうでよく見えもしないだろうに。。

それでも「声」に怯えたのか?





「似ておらぬな。。。。」



それは

たった今まで怒り狂っていた声とは違った



静かで「悲しい」声だった



気弱だが気遣いの細かい晴景が「愛おし」かった

全てにおいて「優しい」子なのだ。。。

こんな争いばかりの城は耐えられないのだろう


年々

痩せていくその姿を見るのが痛々しかった

治りの悪くなった病を押しても

守護代を勤める姿を


少しでも助けてあげたかっただけなのだ


怒鳴りたかったのではない

責め立てるものでもない。。。



「あいすまぬ。。。少し酒に酔った」


たいして飲まなかった徳利を指し扇越しに見えぬ顔で微笑んでみせた


晴景も触れたくない議題になってしまったのだろう

伏して口を閉ざし

「女房」に火桶の換えを頼んでそのままみのりの部屋を後にした







雪は

その次の日も

次の日も続いた


全ての景色を覆い隠していく「白」


私とあの子はずっとこの「白」の下でしかない。。

城の礎。。。物言わぬ石なのだ



手のひらに舞い降りる「雪」

すっと消えていく姿に。。。


切なくて

実は涙がこぼれた



「ただ。。。。消えていくだけなのね」


私こそ。。。何の力にもなれず消えていくのだ。。。と

みのり様。。。




後書きからこんにちわ〜


上杉定実の妻として登場「みのり」様

越後守護家上杉氏にこれまた「政略結婚」で嫁がれた女性

名前は


実は。。。。不明で長尾能景ながおよしかげの娘

としか残っていない


ちなみに為景ためかげとは「異母兄妹」ではないか?と言われているらしい(ヲイ)


だから

「トラ」にとっては叔母にあたる人になるわけだね。。たぶん




しかし


この時代

地位アル家の「女」はほとんど「政略結婚」です

特に

室町幕府が衰退していき「戦乱」の世が来襲するとそれはさかんに増えていって

「女」は品物とかわらない「取引」の道具になる

プラス!!!まさに問題発言だった「子供を産む機械」。。。

というか

子種を絶やさぬために「血」を分ける必要な手だてとしてあらゆる

「名家」が当たり前のようにくばった「土産」でした


「恋愛」?

そんなものなかったんだろうね

初めてあった「男」のために夜を共にして

一族の繁栄のために「子供」をつくる



虎御前も,綾姫もそうやって嫁ぎ,嫁がされた




ところで


実様は名前からして不明だった方ですから

かなり「オリジナル」なキャラです


なのでちょっと「平安調」な感じで突然登場したのですが

几帳きちょうの中にいらっしゃったり

扇で顔を隠したりしているのはそれなりに「理由」があります


それはまたおいおいわかってくる事なのでお楽しみに



虎御前とは少なからず因縁もあるようですし




それではまた後書きでお会いしましょ〜〜〜火星

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