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その13 晴と影 (10)

動悸が高まる

なんと言われようと「些細」な事と見逃して良いはずがない

大事になってしまったら

今度は栃尾を攻めてきたら


不安が加速する


城に残した実乃や,やたろー衆でどう対処しろと?

危険は目の前で燻っているのに

それでも「待機」しろと言うのですか?


目の前に兄は座っり

同じ返答をする


「まず使者を立て。。秀忠を春日山に呼ぶ。。」



言葉は聞こえていた

しかし

それでは「間に合わない」と本能が告げる

すでにココに

謹賀の祝に「黒田」は来なかった


旧代からの家臣であればこそ

己の疑いを晴らすために登城参勤してこそあたりまえ。。。


それが

来なかった

いや

来て申し開きする事を必要と「思って」いなかった



それが答えだったに違いない



引き下がってはいけない

「正しく義なす」

今成さねば



「押して。。。申し上げます。。出陣の」


大きく怒鳴る声が言葉を絶ちきる

「わしの言っている事が聞こえなかったのか?」

目の前に下がった

兄の顔にぶつからんばかりに顔を合わす


「聞こえております!!」


「疑わしきだけで罰せはしない。。。。」

確かに

しかし一度目の疑いが未だ「晴れて」いない

その上で「武器」を調達している意味は?


私は兄の足下に顔を伏して

声を大きく述べた

「現に武器を調達しています!戦の支度をする以外何故そんな事をする必要があるのですか?放っておけば無くなる事ではないのです!事前にそれに対処しなければ。。。。」



対処しなければ

また

あの日のあのときの「子供」たちを生み出してしまう。。

焼け出された人たちを。。。

「越後」のもっている綻びは早くこわれ

他よりさらに脆い

弱き者たちには新年を平穏に過ごす事もできないなんて。。。


そんな事は出来ない

報告を知っていながら聞き逃すなんて


頭を床に打ち付けて

起こした「意地」という信念をもって譲れない

私の手の届く事

耳で聞こえたこと。。。「出来ること」を



「影トラが直々に使者として赴きましょう」


「だめだ」

立ち上がる兄にもう一度言う

「私にお任せ下さい!!」

「ダメだ!!」





拒絶?

何故

この一大事に私を憎むかのように叫ぶ

兄にどう話しを進めて良いのか混乱した


宴の間は静まりかえっていた

兄と私の問答はおかしいのだ

並ぶ諸将たちの目は「事」の重大さを理解しているのだから


声がふるえる

お願いです。。。祈るように

何故?私にお任せしてくださらないのですか?


今一度

頭を下げた


「どうか。。私をお使わしください。。」

今度は冷静を取り戻した声が冷ややかに

「ダメだ。。。お前は「いくさ」好きだから。。秀忠がココに来る前に首が無くなってしまうわ。。」


兄の目は

冷たかった

まるで。。。「戦」を呼び込んだのは私だと言わんばかりの苛立ちに刺す視線



。。。。。「戦好き」。。。。




愕然の言葉だった

心を千切られる

痛い


痛い


私が「戦好き」?

伏した頭を上げられない。。。どんな思いで今までだって戦ってきたことか。。

目頭が熱い

一度だって「好きで」戦った事などなかった

いつだって「苦しみ」だった



目に残る光景


あの夥しい「死」の姿

湧水のようにたまる「血」

焼けただれた「肉」の異臭

持ち主不明の臓物

カラになった腹

首を無くしたままへたり込む「身体」


悪夢に悪夢

夢のふちに

「黒い意識」目が覚めるとき。。。。


眼前に広がる「戦場」に。。。。


辛くて

辛くて

何度も一人で泣いた。。。。

それでも「守護代」様の治世を守る良き担い手としてやってきた。。つもりだった




なのに


私の事を

そんな風に思っていらっしゃったのですか。。。

だから

そんな目で私を見ているのですか。。。

だから

私には行かせないと言うのですか?


「誰か使者を。。。」



伏したまま

頭をあげられなくなった私の向こうに兄の声がする



涙がこぼれる。。。

辛い。。。




もう

黙ってしまおう。。。。



「いいのか?それで?」

肩を落とした私の背中に母の言葉が聞こえた

。。。。揺れる。。。

それに引かれて意識が揺れる

景色が揺れる

「良いのか?」

自問する


ココで泣いていいのか?




目眩がする。。。意識が遠のく。。。。何故に。。。私が「戦」好きと?

これほどに「祈り」

戦う事を

そのように軽く罵倒される意味は?


「戦え」。。。


「戦え」。。。。


鈍痛

頭に「闇」の声が響く

身体に「黒い意識」が走る


ココで口を閉ざしてまっていいのか?


「戦え!!」


私が栃尾を見捨ててしまっていいのか?


「戦え!!」


何もしない者に「正義」はない!!!


「戦え!!」



「戦う」


顔を伏せたまま

私は声をあげた


「ならば。。。守護代様に問いたい。。。」


ゆっくりとしなだれ力をなくしていた身体を起こす

ユラユラと揺れる頭

目からは止めどなく涙がこぼれる

そのまま顔を兄の方に向けた


「もし。。。栃尾が戦火にまみれてしまったなら。。。その時はどうされますか?」


私の表情に驚き兄は

家臣団に向けて歩いていた足を止めた


「もし。。そこから中郡なかごおりに戦火が伝播したら。。その時はどうされますか?」


膝を立てゆっくりと

立ち上がる

そのまま兄の前に

かつて見あげていた兄の背丈は今や私とそれほど変わらないものになっていた

真ん前に立ち

顔を見合わせる


「答えて頂きたい。。。」


頭がチリチリとする燃える「怒り」を感じる

憤る

なのに涙も止まらない

肩を並べた私におののいたのか?涙を流す顔に驚いたのか?一歩後ろに下がる兄にさらに詰め寄る



「何もしないという「最善」の策あらば!!!答えて頂きたい!!!」



「下がれ!!しれ者!!!」



詰め寄る私と兄の間に

小姓の「水丸」が入り私の胸ぐらを掴かもうとしたが

「殺意」は笑って

「小賢しい」と

逆に腕を軽くひねり挙げたまま,投げ飛ばし


「疑い晴れぬ家臣を捨てておくという「策」が正しいのならば,有らぬ謀反が起こった時の準備は整っている?という事でありましょうな?」


躊躇なく身体を寄せ

兄を手を強く掴んだ


「やめろ。。。!!」


投げ飛ばされ板間に身体を強打してしまった水丸は起きあがれないまま

苦痛の叫びをあげる


「晴景様から手を離せ!!!」


兄は。。。。恐れている?

私から逃げようとしている?

捕まった手を引こうと声をあげた


「はなさんか!!!」



イヤだ。

言葉を聞き入れろ!!

顔をつきあわせて「話」致しましょうや!!


「出陣を拒まれる理由をお聞かせ頂きたい!!」


さらに強く手を引き

顔をギリギリまで擦りつける

兄の汗が見える

その上がりかかった微弱な息使いも




ガツン!!


いきなり左頬を扇で叩かれた

「はなせ馬鹿者!!」

。。。。。

怒りか?怯えか?兄は右手の扇を私にぶつけ振り抜いた



が。。。。


利き手でその程度の打撃?

貴方の手はすでに「刀むを持つ事までも拒んでおられるからか?

さらに締め上げるように手を強く掴む

兄の美麗な眉は苦痛に歪み口元は荒く生きをする事でいっぱいになっている

私は

首を左右に揺らす


「効きません。。。全然」

そう言うと

口から流れる血に舌なめずりをした

睨む目で見返し


「ご返答ください」


と静かに言った



異様な出来事だったに違いない

宴の間に集まった諸将は一人として身動きしない中


私の肩に手が置かれた


「影トラ様が一人で行かれる事を守護代様は心配しておられます,私も参りましょう」

直江。。。

肩に置かれた手はたしなめるように私のいきり立った身体を下に降ろそうとする

耳元

小声で


「座ってください。。。。落ち着いて。。。」



力の入った手から

言葉どおりの慎重さが伝わる


「手をお離しになって。。」

兄の手を掴んでいた私の手をとる



「それは心配でしよう!!柿崎和泉かきざきいずみも共に参れば守護代様も安心でしょう」


直江のとなり

その小声を他に聞かれぬよう

かき消すような大声で柿崎も前に出てきた


ゆるく力を逃がす

離された手をさすりながら

兄は私から距離を取った


私は直江に肩を押されてそのまま座った



「影トラ様に直江殿さらにワシら加わって使者として赴けば,黒田も腹を割ってくる事でしょう」


柿崎は水丸を起こしながら続けた


「落ち着いて。。。怒りだけではダメです。。。」

柿崎が大きな声と身振り手振りで兄と話す間に,直江は私を諫めた

研ぎ澄まされた「闇」が消えていくのがわかる


座った位置から兄を見た

我を忘れた?

水丸が兄の前に立って警戒している



「黒い意識」は消えた。。。。



でも

止まらぬ「涙」のまま

私はもう一度,深く頭を下げた



「影トラ。。。伏してお願い申し上げます!!どうぞ私をお遣わしください!!」







「すばらしい事よ。。。」



一同が息を呑みまた賛成の声を上げようとしたその時だった

「守護様」の一言が聞こえた


「「越後」は良い武将を持った。。いたみいる。。。。」



ざわめきが溢れだし始めていた座敷は「守護様」の声で静まった


私の前で立ち上がったまま諸将の反応に驚きを表した顔の兄は畏まって

御簾の側に振り向き頭を下げる

一同に会する「諸将」を一望する



今まで荒れ狂った場とは違う

清涼な声に宴に漂った

「懐疑の気持ち」が薄れていくのを感じた


みな沈黙を守っている


「晴景殿。。。私がいる事によって気を遣わしてしまったようだが。。遠慮なさるな」


女房が守護の元に手招きで兄を呼ぶと

御簾越しに話をされた



その姿を母,虎御前が苦虫を潰したような表情で見ていた

何をしている?

しばらく

振り返った兄はみんなに向かって告げた




コホンと咳払いをして

「険」のとれた落ち着きを取り戻した様子で始めた


「わかった。。わしも祝いの席であった事もあり「慎重」になりすぎた」


姿勢を正し続けた



黒滝城くろたきじょうの動き早々に突き止めなくてはならん事。。まことなり」

そう言うと私の方に向き

しかし

まだ何を堪えている表情ではあったが


「まずは影トラ至急,栃尾にもどり事の次第を調べ,春日山にしらせよ!」

諸将たちも頷く


「何を行おうとしているか?黒田に会い事の真意を春日山に伝えよ」



兄の声は意図的に押し殺したようだが

「ダメだ」

一点張りだった時に比べると幾分「理性的」な意見だ


落ち着きをとりもどしていく城内

私は涙を拭いた


「事と次第をはっきりとさせよう。。。その後しかるべき処置を決める!!よいな!!」




私は兄を仰ぎ見て

ひれ伏した



「わかりました!!」


「栃尾」に帰る事ができるだけでも「安心」が違う

後ろに座り

私の「暴走」を止めてくれた二人に頭をさげた

「すまなかった。。。我を忘れた。。。恥ずかしい事をしてしまって申し訳なかった」



「なんの!!この借りは必ず戦場いくさばに呼んでくださる。。という事で」

柿崎はそう言いながら大笑いをしてくれた



直江は

「私の手の者も動かし出来るだけ早くに「事の次第」をまとめましょう」

私の心を落ち着かせてくれた


。。。。


兄上にあんな無礼を。。。


しかし助け船のかいもあって下知がでたのだ。。。

栃尾に戻れる。。。


深く息をついて自分を落ち着かせた







ところが

この日を境に

正確はこの夜から「越後」は大雪に見舞われる


降るときを惜しみつつづけた雪は祝賀にはせ参じたかのように

大量に押し寄せ

一寸前を見ることさえできないほどの日が続く事になってしまったのだ


晴れるのを待つ

キリキリした思いの中


冷静さを保つことの出来なかった自分を何度も反省した

吹雪が止むまでの間

その間に「心」を鍛えねば。。。。




この「雪」はそれを知らせにきたのだ。。。


冷え切ったお堂で私は「禅」を組み自分との対話を続けた

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