その13 晴と影 (9)
歴史小説に「史実史上主義」を求められる方は注意してください
必ずしも史実と一致しない部分が多々あります
そういう部分もふくめ楽しんで頂けると幸いです
夜のうちに栃尾に帰る支度を始めた
とにかく
問題が残っていた事を「母上」から指摘されて目を覚ますようであまりに稚拙な思考
自分の甘えを見透かされた
兄上に叱咤された事で
よそ目をくれてしまおうなどと
心はきっとそう思っていたに違いない
頂いたばかりの小太刀を両手で強く握った
屋敷から戻ってすぐに
馬廻りの長秀にも栃尾に帰る事を申しつけた
一瞬驚いた表情をしたが
私の顔を見て「祝賀」のおふざけでないこと理解したのか
すぐに泊まりの屋敷に戻り栃尾衆に支度を指示し帰ってきた
「明日は上杉定実様がいらっしゃいますが?」
長秀はすでにきりりと顔を引き締めて
勿論わかっていた
ご挨拶が終わったら帰る事を守護代様に伝えておくよう頼んだ
私の傍らで「残念」を顔に出してしまっている「おせん」
やはり
問題を残したままで出てくるべきではなかった
こんなぬか喜びをさせてしまって。。。。
すまない気持ちになった
心はキリキリと痛む
これは「残念」を思うものとはあきらかに違った。。。。
「予感」だ。。。。
いまさらになって悪い「予感」で頭の中を駆けめぐっていた
「上杉定実様到着」
よく晴れたその日
上座に向かう守護様に
長尾「守護代家」の面々と国人衆は深く頭を伏した
足取りは武士の物とは違い滑るように進む
ゆったりとして落ち着きのある歩
私はこの日初めて「守護様」にお会いする
兄上,母上の後ろに座した私はのぞき見るようにお顔を確かめようとした
明日には帰る事を決めた私は
次,お会いしたとき失礼がないように顔だけはしっかり覚えておこうと思っていた
。。。。
?
武士ではないんだ
一目見てそう思った
歩き方と同じく身のこなしもゆったりとしていて
とても「刀」を持っていた人とは思えなかったのだ
御簾の向こう側
打掛とは違う着物の姿がゆっくりと歩く
扇で顔を隠し
袴から覗く白い足が少しだけ見えた
お付きの「女房」たちが御簾の内側に几帳を立てさらに姿を隠した中にお座りになった
私は御簾とは違う衝立?前に下がる
ふわふわした几帳が何のためにあるのかよくわからなかく
珍しくてジロジロと見入ってしまった
幕府の方は色々と儀式も違うのかな?興味津々になっていた
「旧年はよく「越後」に尽くしてくれた。。。礼を言う」
澄んだ声
女の声
着座されると同時にみな
頭をあげた
兄上の挨拶でお言葉を交わす
激務に就かれている兄を癒すように優しく話す
「気遣い」の細やかな態度
口調は
とても柔らかく静かな方だ
不思議な感じで
不思議な感覚「守護」様が女人だっとは知らなかったし
「越後」では聞き慣れない言葉につい耳を立ててしまう
「都」の方に多い言葉なのかな?
荒々しさのない語りは
兄上との会話が親子のようにも聞こえる
「お前が「影トラ」かえ?」
ふいにその声が私の名前を呼んだ
すぐに
伏して挨拶をした
いつからみられていた?
いかん
背筋を正し伏した
「長尾影トラにございます!」
几帳の薄い幕の向こう
長い髪をもった影が私をじっと見ている
「噂はかねがね聞いておる「越後」のためによく働いてくれているようじゃな。。」
「ハッ」
失礼のないようしっかりとご返事した
揺れる
几帳の間を割って手でのける
輝く目の光が見える
扇で顔事態は隠しているがかいま見られた目は優しい感じ
「近う寄れ。。。」
手招き
突然の事でどうしていいか迷った
「行きなさい」
母が手でわたしの膝を軽く叩き促した
そうだ考えるまでもない
呼んでくださっているのだから。。。。
私は立ち上がり
御簾の前に座し深く頭を下ろした
「面を。。。」
良い香りがする
お香を炊いておられるのか
花の匂いがわずかだが漂うこの一角だけが別の世界みたいに
春の香りの間
「。。。まこと,御前殿によく似ておられる。。」
滑らかな言葉,声
間違いなく「女」の方だ
几帳から出された手の白さ
隙間から少しだけ。。。。お顔を伺った
歳は
母より上なのか白い毛が見える
それでも驚くほど「豊かに」なびく髪
目元は見えず
扇で隠されたままではあったが口元。。。赤い唇が見える
微笑む口に気恥ずかしさを憶えた
と同時に
初めて見て
初めて知った
「守護上杉様」については
私がお会い出来る事の方が少ない方だ
だからといえ
不作法があってはいけないとそれなりの勉強はしてきていた
父,為景に推挙されて「越後守護」になった事
その後は父と共に戦い
一度はその座を奪われ佐渡に逃げた事もあったが
「関東管領上杉氏」と戦い
再び「越後様」に戻り
父亡き後は私の兄,晴景と「良き治世」のために手を取り今にいたる
色々と学んではきたが
「女性」だったのはホントに初めて知った
「これからも「越後」に尽くしておくれ。。」
だいぶんと呆けた顔になっていたハズ
「ありがとうございます。。」
おそらく素っ頓狂な答えを返してしまったのに何も言わず微笑む
細く白い繊細な手が元の場所に戻ってゆくのを見届け
元の自分の位置に戻った
お名前だけではわからない事もあるものだ
考えこんでしまった
私から隠していた目が扇の向こうから
母,虎御前をも見ていた事には気がつかなかった
ひときは通る高い声で杯をあげつつ言った
「今年もよろしく頼みますよ。。。この「越後」のためによく励みご尽力くだされ。。」
一同ひれ伏した
宴が進む中
兄上は「守護様」の元。。。御簾の中にに入ってしまったので
母上に小声で聞いた
「初めて知りました「女」の方だった事」
母は怪訝な顔で言葉を返した
珍しい
いつになく苛立っているのがわかる
「そんな事は「些細」な事です,男であろうと女であろうと「強く」なければ乱を治める事も出来ねば,人を束ねる事もできぬでしょうに。。」
母の目は几帳の奥のその「人」を睨んでいるようだ
聞いては行けない質問だったようだ
上杉定実さま。。。
「それにあの方は。。。」
母は何かを言いかけた
「失礼致します」
会話の間をわって直江が入り
耳元に口を寄せる
「黒滝城周辺に不穏な動きがありました」
パリンとする
緩んだ気持ちに緊張が走る
顔をよせ聞き返した
「何が起こっている?」
母上に指摘された通りだ
悪夢がよぎる
「浪人,使役の者などを広く募っている様子と。共に。。刀,槍,弓等も大量に買い付けが」
「買い付け」。。。。
心の緋色
それほどまでに「凶刃」を新年早々集める理由はなんだ。。。
顔に出る怒りのまま
「いつから!」
直江は私の口元に「冷静」を促しながら答えた
「暮れより前から。。。陸奥の「伊達」などから流れている事。。。わかっております」
秀忠。。。
一度ならずも二度も。。。
何故にそれほど人を集めなくてはならんのだ,武器を求める理由はなんだ!!
もはや前に陳情した「言い訳」では通用はしない
「どこからその報を?」
「与板から数名街道沿いに偵察に出しておりました」
さすが直江だ抜かりがない
という事は
遅かれ早かれ,栃尾からも連絡がくる
警戒を怠ってはいなかったハズだから
事は急を要する
「武器」の買い付けがあったという事を見過ごす事はできない
私はすぐに腰をあげ,御簾の前までいった
「失礼致します」
躊躇せずそのまま用件を告げた
「黒滝に不穏な動きがあります,大事ではないと思いますが,影トラ今より戻り確かめて参ります故,ご無礼つかまつります。。」
自分の仕事を全うしなくてはならない
直江の行動からすでに諸将にも緊張が走っていた
みな「守護代様」の返事を待っている
静まりかえった御簾の中から
兄の声がする
「まず使者を立てよ!」
「私が参ります」
ダメだ使者など送ってまた「史郎」の時のような事が起こってしまったら
どうする?
自分のいない所で事を構えてはいけない
直々にそれを確かめる必要がある
「使者を立てよと言っている!!」
押して言う
「私が参ります!!事は重大です!!」
御簾から怒りの形相の兄が出てきた
「祝賀の席ぞ。。。」
「わかっております」
心は平静にて冷静だこれを一大事と思わねば「恥」だ
見過ごしてしまってはいけない
「伏して動くな。。。慌てれば解決するものでもあるまい。。。待機せよ」
「何をおっしゃっているのですか。。」
私には考えられないような指示だった
そんな悠長な。。。
首を振った
驚くべきはココにあらず
私は身体を前に
さらに前に出し
意を決して答えた
「出陣の下知いただきとうございます!!」
上杉定実様。。。。
後書きから今日わぁ!!
まだ確定ではないから
「なんで女なんじゃぁぁぁぁ!!」
とかって。。。。激怒はしないでください
ちゃんと続きもありますから
今回は
おっかなびっくりしながら書きましたかなり
史実派の方からしたら「逸脱」してるぅぅ
て怒られるでしょうが
それを言ったら「上杉謙信女性説」では書けないですから
戦国時代「女」もがんばってたぞ!!みたいに思って書いています
それにしても
ジンが結構人気があってびっくりしてます(爆)
そのうちもっと出番ありますから待ってやってください
それではまた
後書きでお会いしましょ〜〜〜