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その13 晴と影 (3)

春日山は多忙を極めていた

「トラ」が入城する七日前にジンたちは城に入った


入城から向こう

謹賀の祝の支度で侍女たちは

慌ただしく走り回り屋敷の中には黄色い声が飛び交っている

例年と異なり登城する諸将が多いそれが原因だ


与板城よいたじょうとくらべれば

やはり大きな山城の春日山を,ジンたちも当主「直江」とともに支度に回っていた




ジンは

林泉寺には挨拶にいってなかった


師に会うのは少し気が引けて

思い留まっていた




「仕方ないこと」

と言葉をこぼした






ジンがココに戻ってきたのも

一年ぶりだった


約一年前

トラのいる栃尾城を離れ

直江に従い一度だけ春日山に帰った

その時に

林泉寺に寄ったが


師.光育は。。。

笑顔では迎えてくれなかった


「何故,影トラ様の元を離れた。。」

責めている口調ではなかったが

深くきざまれたしわにも顔にも苦悩を浮かべていた



「今以上に「トラ」の役に立ちたいからです」


自分のしたい事を

その選択を正しいと信じはっきり意志を伝えた

良い返事を頂けるとおもったが



師は首を振った

その姿は悲しそうで






祝賀の日,朝から心は躍りっぱなしだ

身支度を何度も見直した

初めて直垂 (ひれたれ)を着たときは作務衣との違いにガタガタになってしまい

侍女たちに冷笑された

どちらかと言えば肩衣かたいの方が自分向きだとわかった


今は「きちん」としている


「大丈夫。。。」


トラが帰ってきたんだ

話すことがたくさんある

今は背丈だって「やたろー」と同じぐらいになっただろう

でも。。

きっと

トラも少しは大きくなったんだろうな。。

からかってみよう

ムキになるその顔が浮かぶ


かつて

トラが読んでいた「軍学書」も読んだ

教養にさらに磨きをかけるため

与板にあった書物はほとんど読み尽くした


身体だって

ただでかくなっただけじゃない

トラが好んでやった「立禅りつぜん」(弓)も

槍も

刀も


果ては「忍」の使う技まで身につけた


もう

どんな馬廻りだって

自分にかなう者はいない「断言」できる

胸を張って

トラに仕える事ができる



ジンは自分にむかって

「おまたせ。。。。。」

小声でそう言って



一人で照れた


やっと会える。。。会えるんだ!








本丸の屋敷で行われている「宴」を遠くで見ていた

城庭の中程にある屋敷はもともとそんなに大きな部屋をもっていない

なのに

いつになく多い家臣団の集まった

そののせいかずいぶん長く続いている


少し前,「守護代様」が退出なさり渡りを戻っていかれた時

しずかになったので「お開き」になったのか?

と気を揉んだが

その後引き続き「酒宴」は始まり

夜も深まってきたこの時間もまだ騒がしい



山にあたる風のせいなのか木々が雪が落とす


肌寒い。。。今日は会えないか。。。



考えてみれば

「トラ」は今や

「栃尾の城に住まう虎」とまで名を馳せる「将」になったんだ

各諸将も

その人物を見に来ているし


それに応える「義務」もある


まだ

直江様のお付きである自分にはその「宴」に行く資格もなければ

それに伴った「武功」も無い

待つしかない

ただ

直江様が

来ているという事がわかれば自分もココにいる事はわかってくれるだろう


手のひらに降りる

雪も

熱い気持ちに姿を溶かす


トラは林泉寺に行くだろう



そこに行こう

師とのわだかまりも消えるさ

あのころのように話をしよう



楽しみだ。。。

一人ほくそ笑んでいる姿を横で見ていた男が話しかけた


「そわそわしてるな」

段蔵だんぞうがニヤリとしている


段蔵はジンが与板で初めてつくった仲間だ


城の事や

地域の事を細かく教えてくれた優男

城下の娘に夜ばいをするのが趣味のいけ好かないヤツで

最初共に夜警に行ったときは大げんかをした

拳で語り合った事もあったが


奉公にかけては

めっほう律儀で見習うところも多い男だ

今では良き呑み友達になった


「影トラ様か?」


もちろんトラの事も話してあった

ああっとうなずく


「あえねぇだろうなぁ。。」

門前で屋敷を見ながら段蔵は言った


たしかに

長尾を代表する「将」になった影トラとはよほどの「縁」がなければ

会えないだろうし

口も聞けないだろうけど

ほんのちょっと前まで一緒に修行した仲のジンにしてみれば


愚問にしか聞こえなかった



「会えるさ」

ちょっとした優越感もあった

段蔵はフーっと息を吹き手を温めながら聞いた


「女城主様なんだろ?」


興味深そうに


トラは「女」

それは

与板に行ったときも家臣はみんな知っていた

隠されたことでなかったのに

一安心した事を思い出しながら

そうだと返事した





「婿選びにきたんじゃねーの?」



ハッとして段蔵に向き直った

。。。。。


「または領主たちが嫁取りにきたか?」


考えた事もなかった

急に心が忙しくなった


「だって今年で十七になるんだろ?おトラさまは」


確かに十七歳といえばとうに「嫁」に行っても不思議じゃない年齢だ

言葉を失っているジンに追い打ちをかけるように段蔵は言う


ジンは

今年二十歳になった

実は段蔵との付き合いで飲み歩いたとき。。。

覚えていないのだが(これは言い訳)何人かの「女」を知った

僧であった時には「禁忌」であった事で

何度か拒んだのだが


段蔵に言わせれば

「女」を知らない武士もののふは「半端者」だというし

それも一つの「習い」だと与板の武士たちも言われ

修行の一つと腹をくくって「抱いた」



思い出すに。。。変な罪悪感だった

抱いた「女」の歳は今の「トラ」より年下だっていた。。。



「十七っていや「女」も男が欲しくなる歳だからなぁ」

「だまれ!!」


つい怒鳴ってしまった

びっくりした顔の段蔵は少し間をおいて


「おこんな。。。冗談だよ。。」

肩を叩いた


自分が女にした事をトラもしている?

ぶんぶんと

頭を振った


不埒な事を想像して。。。しまう。。。「トラ」の裸は。。見たこともある

あの肌を

あの肩を。。。


大きく頭を振った

何考えて。。。



「相手にされないさ」

何の?

段蔵はあきれた表情で



「栃尾に住まう虎様なんだ,並の男じゃ勤まらないさ。。」


と口をとがらせた









「加当!!加当陣江かとうじんえはいるか!!」


不意に自分の名を呼ぶ声に背筋を正した

段蔵は飛び上がって

慌ただしく伏した


こんな話を聞かれてしまったら。。。首が飛んでしまう


その場に控えた

左右衛門さえもん様だ


「ここにおります」


ジンも慌てて伏した


「支度いたせ」


「支度?」


一瞬「宴」に呼ばれたのかと顔をほころばせそうになった

「与板に書状を出す,急ぎ届けよ」

返事が遅れた

「聞こえておるか?」



「はい。。。」

呆けた

というより愕然とした


何故こんな時間になって「書状」を?


「書は後で与兵衛尉様よへいえのじょうさま(直江)が手渡すそうだ」


「聞こえておるか!」

ジンの顔が呆けていたのを見て左右衛門は声を荒げて問いただした


「ははっ。。。」

呆然としたアホ面を隠すために生返事なまへんじをしながら顔を伏した





書状の内容は

「黒滝城に対し警戒を怠るな」

と言うたぐいのものだった


所作正しく直江はジンに書状を渡した

何か言おうとする口を遮るように


「油断無きようにな。。。日の出前にはココでよ」


目を見合わせ

問答無用を告げられた


うまやにむかいながら




「なんで。。。オレなんだ。。」


と肩を落とした

すぐにココを動く事は出来ないほど

がっくりときてしまった


主君に名指しで命令をうけるのは「誉れ」だ

まだうすぐらい空を

星を見つめた




会いたかった。。。。

一目だけでも

唇を噛んだ




馬に乗り

「トラ」の眠る屋敷の前を走った

振り向きはしなかった

まだ


まだそういう時でなかっただけ


そう思い

与板に向きを変えた







道筋で一人の僧とすれ違ったがそれが師.光育とは気がつかなかった


光育は

馬上の男が陣江である事に気がついたが何も言わずただ見送った


その顔は深く沈み

とても

悲しそうだった

後書きからこんばんわ

火星です


歴史物を書くにあたって色々と資料を探すわけですが

最近は

日本の歴史も

かつて学校の歴史の授業で習った頃より「解明」されてはていて

まちがっていた部分も色々指摘されてきてます


結果

かなり

私的には「混在」してます(おつむ弱い私。。)



ダメなんです


分別できないほどの量になってしまって

混乱ばっかりで

だから(言い訳)よく修交しています事をゆるしてやってください


そんな私は資料集めで(おもにパソコンで調べてます)遭遇する一品を欲しくなってしまうという悪癖をもっています




もっとも欲しいのは「鎧」です(爆)

しかも着られるヤツ。。。


しかし大きい買い物なので

相方さんに相談してみたところ

部屋の掃除もままならないので却下されました。。。。



買っても着る所がないですしね


しかし

着られると言うことは質感や何かまでよく理解できそうで。。。


そんな火星の戯言でした




それではまた後書きであいましょ〜〜〜

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