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その12 将器 (2)

衆道(男同士の性的関係)の描写がありますので

それに嫌悪感をもつ方はご注意ください


陣を払い帰路につく「影トラ軍」を秀忠は大手門で静かに見送っていた


最後の小荷駄が見えなくなって顔にまで表れていた緊張はわずかにゆるみ

口から深い息を吐いた


「影トラ。。。。」

今一度息吐くと強張っていた身体をさすって

城内の方に歩き出した


腕を挙げ

手にひらを見る。。。痺れるような細かな震え

卑屈に笑ってみる


「武者震い。。。。久しいな」


足早に城内に。。屋敷に向かいながらあの「会見」を思い出してみた


影トラのあの顔は

「美しい」の一言に尽きるが

それだけでない物をしっかりと持っていた

あれが「栃尾の山に住まう虎」

「猫又」などと。。。

そんな可愛げのある者ではなかった


伊達や酔狂でもなければただの「噂」でもなかった強さを実感した



年齢を越える

「何か」をもっている「トラ」が

よりいっそう「経験」をつめばもはや越後で太刀打ちできる者はいなくなる事だろう





あれこそ

亡き親方,為景ためかげの血をついだ「獣」だ

最後の問答

「髷」を落とさなかったら「斬られていた」

まさに

瞬間の

「駆け引き」だった




「手に汗握る」

いやいや全身にじっとりと湧き上がっている汗。。。。

十月には不似合いな熱気

肩を揺らし身体をほぐす


久しぶりの「いくさ」に老将はの気持ちは高ぶっていた

かつての日々を思い出させる


「戦であったわ。。。」


声にだして一言

そしてやっと整った自分の気持ちを確かめるように軍団が消えていった道を。。

大手門の方を振り返って見た


「将たるトラであったわ。。。」




屋敷にもどった城主の変わり果てた「髷」を見て言葉を無くした家臣たちに秀忠は告げた


「さあ。。乱の支度をするぞ。。」

その目は先ほどの「芝居」以上にずっと燃えていた

いや

さらに輝きを増し生きている

主の発言にまたも虚を突かれてどよめく家臣たちを尻目に秀忠は拳をあげた


「やはり戦わねばならん」


言葉には新たな決意が込められていた









年末も近づくこの時期に。。。


晴景はるかげは久しぶりに届いた栃尾城からの手紙をめんどくさそうに読み終えた

栃尾から届く手紙はだいたい内容が一緒だ


「戦場報告」


誰が何をした

そのために兵を出した

何人討ち取った

討ち取った家老や兵の「禄」について

死んでしまった兵の「禄」

食い扶持


まったくだ


そんなめんどうな事は栃尾の中ですませてくれれば良いのに「影トラ」は真面目「指示」を仰ぐ


「戦」にいけば同じ事の指示を何度もココに仰ぐ

こまごまと書き記された手紙の大半は読み飛ばしていた


小姓に背中をさすらせながら

雪もちらつくようになった春日山から景色を眺めて思った





「くそ面白ない女だ」


とことん男まがいの仕事をこなしていく「影トラ」の存在はココ一年の間で誰もが知るところになっていた


特に

栃尾から「直江」が帰参してからの活躍によって

その手腕が「本人」のわざである事が明確になってからは春日山に居着く

諸将の間でも評価が高く


よく耳に付くようになっていた


「越後のトラ」と




そこにきてとどいた手紙に

黒田秀忠くろだひでただ」に謀反のおそれあり


ときた

「おそれあり」。。。。で

何を指示しろというのだ?


早馬が持ってきた情報ではすでに栃尾勢は黒滝城で「一仕事」してしまっている

もっとも

いつだってそうだ「早すぎる」のだ

返事を出す前に事は終わってしまう





そして今日はその張本人である黒田からの手紙が届いていた

忙しいのにどっちも

こっちも。。。。と顔をしかめつつ目の前に鎮座する直江に声をかけた



「どうしたものか。。。」


この手のたぐいの「事務処理」は直江が一手に引き受けている

家臣の代表各である直江に意見を聞くのが一番良い



「事は重大です,慎重に調べる必要があります」


だが大抵は今のように堅苦しい答えだ

晴景は向き直り


「だが秀忠は隠居して身の潔白を示したいと申し込んでいる」


父の時代からの臣下を疑うようなまねはしない

むしろ

こんな時ほど「守護代」らしく堂々とした対応をしたほうがよいと晴景は思っていた



もちろん

晴景とて十分に「戦働き」をしてきた身だ

そういう意味でも「秀忠」をよく知っているし「慎重」になれる

こういう「些末」に思われがちな事を見落としていけないとは常に思ってはいる


だが。。。

そんな冷静さを重んじたい気持ちに大きな「闇」の帳がかかる時が多くなっていた






何もかもが気に入らなかった





「影トラ様からの手紙の内容との食い違いが多いのが気になりませんか?」


直江の声は重い,そして的確な助言を返す

事態は「謀反」。。。。につながったかもしれないという

無視する事のできないものだが


「調べなくてはならない」。。。のだが。。。



美麗な眉山には苛立ちが宿っている

。。。。。



重臣の助言が曇って聞こえる理由は。。。

すでに

答えとして「影トラの手紙」を重要視している事が気に入らなかった




そこまで

影トラの言葉に信をおいておきながら

わざわざ私に「進言」にくるのは何故だ「守護代」だからか?


仕方なしに「聞きに来ている」ようにしか感じられない

まるで「嫌がらせ」だ




ひしひしと感じる



最近はどの手紙や「戦場報告」をとってもそうだ

「影トラ」の書いた事がまるで「正しい」かのように解釈されていく

少しも

「守護代」である自分の意見が必要とされていない。。。



おざなりにされている

だったら私の手を煩わせずに「解決」してくれればいいじゃないか?


嫌がらせのように伺いを立ててくるように見える

直江が。。。

いや

家臣達が気に入らない



「では,秀忠の手紙は「嘘」なのか?」


思い返して

腹立ち紛れの表情を隠すことなく直江に言い返した

そんな言葉にたじろぐような男ではないことが

わかっていても



「調べる必要があるという事です」


やはり怖じることない返事

静かに冷静な意見を言う姿に

イライラし

その焦燥感をもち続ける自分に嫌気がさした





年下の女

腹違いの妹

何故に「力」で越後を制しようとする。。。

今まで晴景が行ってきた「会話」や「知恵」を真っ向から否定される気分は。。


「力」でわしを貶めている。。。


考えなくてもいいような「勘気」

もっと「守護代様」である自分に平伏させたい。。


会話のとぎれた間も少しも動かず自分を見ていた直江に気がつき扇で顔を隠した




「秀忠の事はもういい」



不機嫌はそのまま身振りで返事をさせた

軽く手をふり

直江に下がれと合図した


こんなところで家臣と問答をしなくても

「影トラ」は謹賀の挨拶にココにくる


本人が春日山に来たときに

はっきりと自分の口から「黒田」の事について意見を交わせばいい

これ以上直江と会話したら

自分が矮小な「男」に見えてしまう気がする


だれが「守護代」「様」なのかはっきりさせられる場所で

謹賀の席で臣下たちの前で話をしたらイイ



「ほっておける事ではありません」


下がれの合図に下がらなかった直江はそのまま諫言をした

しかし

そこにふれる事を晴景は許さなかった

いや

追求を受けた事で許せなくなってしまった


「秀忠は父の代からの忠臣だぞ!!疑いだけで罰せられるか!!」


秀忠の手紙を持ち上げてさらに続けた

抑えていた感情を爆発させた


「疑いだけで責め立てられた事に一言半句の文句もない!!」


激発的な言葉に少なからず驚き反論を買え餌無かった直江の姿に

元来の自分を取り戻した晴景は

小さく咳払いをして

手紙をおき


自分を落ち着かせるためにより静かに応えた


「影トラの言い分だけを聞くことなどできない」



だが心には「怒」を十分に渦巻かせていた

忌々しい。。。

忌々しいのだ。。。



沈黙の直江に扇で顔を隠し直した晴景は静かに聞いた



「影トラだけが正しいのか?」

直江は返答しなかった

それに続けて合図した


「下がれ。。」





直江が部屋をでた後。。。

晴景はせきが止まらなかった

夏からつづく「病」が苛立ちに拍車をかけている事はわかっていた



孤独だ

妻とは。。。一月に三日も会わない日々

なのに虎御前とは七日に一度は顔を合わせ

毎日のように家臣には責め立てられる



障子張りの向こうに霞む山々を見て

父の言葉を思い出した


「守護代の仕事は「孤独」である強くなくてはならん」


なりたいなどと願った事もない役職だったし

その役職に私が就くことを家臣誰が願ってくれたのだ?

むしろ

「懐疑的」な目で自分を見ていた

この仕事は父に押し付けられた仕事だ


溜息をついた

ああっ

そう言う意味ではしっかりと「孤独」だ

ただ

少しの酒を愛し歌を吟ずる事が好きだ。。植樹をし花を待つ事。。。。縁側で。。。



「戦」が大嫌いだ



「身体を厭うてください」


話の間中奥に座していた小姓が

そっと肩に着物を掛けて言った

まだ年の頃十歳ぐらい

浅黄色の着物が身体にあわないのか華奢にみえる


水丸みずまる。。。オマエのような弟がほしかったよ。。」


本心でそう思ってしまう

あんな凶暴な「噂」の。。。影トラなぞ。。いらんわ



手をとり肩を抱いた

「はい。。私も晴景様のような兄上が欲しかったです」

とまだ幼さの残る顔ははっきりと自分の意志を示した



心の安まるところを見いだせなくなっていた晴景はそのまま水丸に口づけ

静かに目を閉じた


「静かに生きていたいだけなのだ。。。」

衆道。。。。が少しでてきました

前書きで注意したほど大胆な描写ではなかったのですが


戦国時代では武将の「嗜み」として「当然のように」あった事なので注意書きをするか?しないか?迷ったほどでした


かの武田信玄は高坂弾正と

織田信長は前田利家と


と言う具合に「小姓」に限らずそういう関係はあった事です(高坂弾正こうさかだんじょうは小姓から出世して武将になった)(織田信長との関係では森蘭丸が定説ですがそれ以前の相手は利家だっと言われています)。。。らしいですよ(爆)


主従としてこう言う関係をもつ事は「誉れ」でもあった時代の事ですから

割と「性」にも奔放な時代だったのでしょうか?

夜ばいとOKだったらしいし


ちなみに晴景はるかげの相手としてでてきた「水丸みずまる」は花の慶次で前田利家に相手として召されそうになった小姓の名前から拝借!!歳はちょっと若め(爆)



そんな風に考えると「トラ」はかなり禁欲的な人だったんだなぁ〜〜って思いますよ


まず

ヒボシには無理ですね

寂しくって死にます(爆死)



というわけで

衆道はこれからもちょこちょこでてくるとおもいますから苦手な方はご注意ください!!



ではまた後書きでお会いしましょう〜〜

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