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その11 暗雲 (3)

この小説は改行や空白が多々あります

それに耐えられない方はご注意ください

確かめるか。。。火の手を。。それからでも「決断」は遅くない?

しかし

ココを離れる事もできない

信頼できる家臣を城内に多く入れる時間がなかった事を今更になって悔いた



ここから目を離したら最後になってしまうかもしれない

こんなに瞬く間の動きをされては


頭を抑え,腕組みをする。。。櫓の中を行き来して考えた


「籠城」がこんなにも早く裏目出てしまうなどとは考えも及ばなかった



自分を軽んじた。。と鼻で笑った事に腹が立った


今やこの櫓から身動きを取ることさえも

考えあぐねなければならなくなってしまった「老将」は苦々しい表情で溜息をついた



影トラを甘く,軽く見過ぎた

やつの

全部を見通せているつもりだった

それだけの経験を己はもっている。。。対処できると。。。


あなどった。。。



ただの若造ではない

ただの女でもない

という事まで知っておきながらこの失態



今までの「戦」を十分に見てきた

その早さも的確さも

知っているつもりだった



まさに知っている「つもり」になってしまった。。。




すべてを覆えし「影トラ」はやってきた


秀忠のいくさの「定規」は一つも通用しなかった

為景ためかげとの戦でもこんな早さを味わった事はなかった

ただ「早い」だけでなく

全てが「早い」決断も,行動も,作戦も,実行も

そして

それを成し得ていく「影トラ軍」は眩しいほどの「精鋭」だ



黒滝は。。

振り返って城内をみれば

確かに「人」は足りている

だが。。。




ただそれだけだ

あぶれた「浪人」を今すぐ「精兵」に仕立て上げる術もなし

それに「気合い」を満たす事も「禄」の話も出来ていない



要は「いくさ人」がいない「籠城」になってしまっていた

「いくさ人」がいないからこその「籠城」だったのに

ただ攻撃に耐え

痺れを切らした相手を誘い込むだけの作戦だからと


高をくくっていたのに


この状態においては全てが無意味だ


兵の出来は大きな差になってしまっていた

各所で上がっている「煙」に動揺してしまえばもはやただの「浪人」達の統率はとれないに等しい

その「火」が本物であろうと

なかろうと「混乱」を避けることは不可能だ


我先にと逃げてくれるならまだしも

城内で

「これ最後」と暴れ出されたら

今まで蓄えた全ても「無」に帰してしまう


顔をしかめ,歯ぎしりした


「せめて後一日あれば。。。」


悔やみきれない言葉をこぼした

しかし考えるだけ無駄だ

一日あっても。。。何かを変えられるとは思いがたい「早さ」だった






「搦手,茨口,その他砦口から城道まですべてに火を置く事できました」

早馬は私の前に報告を持ってきた


現状を理解して深く頷いた

宇佐見の情報から

まともに「兵」がいない事はわかっていた「浪人」「落ちぶれ者」

そんなものたちがまともな「戦」などに耐えられる「心」をもっていわけがない


だからこそ

目に映る「恐怖」である「火」を使った


火を「置いて」こればいい

搦手や茨口にはやたろーたちが「油樽」を火矢とともに投げ入れている

城道にはたくさんの「煙」を用意してやった



恐れろ

「火」を

黎明のこの時間に火を掛けられるのは「恐ろしい」事だろう

それでも

城内が沈黙を守り続けるのであれば大手門をかち割り

さらに「火」を与えてやろう!!



私の陣幕には最初の口上で大けがをした

秋山史郎が運ばれていた

傷は多く火傷も負い


意識はままならぬ状態にあったが

運ばれて一言

「申し訳あり。。。ま。。」


即座に

その手を握り,出陣前に巻き付けた「数珠」を持たせた


「よい」


そう言って下がらせた

抱えられ連れて行かれる

史郎を見ながら「死なないでくれ」と祈った後


床机にすわり

城を見た

以前沈黙を守ってはいるが。。。

各所に出始めた悲痛な伝令は見て取れた


中身に動揺が必ず現れる

「精兵」なしでどう出る?

そもそもこんな禄でもない「風評」を信じ餌に飛びついた者たちに「忠義」は無いし

「忍」の一文字さえ見あたらないだろう


もともとの城兵や家臣団が出そろっていないのなら

「統率」は不可能だ


そのぐらい「人」は脆い



仏神に真をおかず「金」が全ての者たちに明日などいらないだろう

そんな者たちと「潔く」ココで散るか?


城を見た

どうする

どうしたいか?秀忠


一人問答をしてみた



城の中は大丈夫なのか?

手を挙げて言った


「太鼓を鳴らせ!!声をあげろ!!」



もっともっと脅しかけろ!!嗾けろ!!

不思議と相手を侮る気持ちはなくても

その焦りを手に取るように感じた


「黒い意識」が鮮明に働く

敵の鼓動まで聞こえるほどに



このまま

「焼き殺す」か?

限界であろうよ

つまらぬ「忍耐」どこまでつづくか?


もう睨んではいなかった

私はただ穏やかな気持ちで静かに微笑んだ


「どおするのだ?秀忠?」






「開門せよ」


櫓の中でどっかりと腰を下ろしていた秀忠は重い口を開いた

額にはびっしりと汗をかきか

十分に考えられた答えをだした


諸将は顔を向きあわせ

驚きを隠せないという表情で城主に詰め寄った


「まだ始まったばかりですぞ!」


首を振った

いやいや。。。なにをや言わんかだ。。。


始まったばかり?だと

とうに終わっている。。。


このまま悪戯に時を引き延ばしても「黒滝城」にとって良い道は何も残されていない



後詰めが来る時間「火攻め」に耐えたとして

どんな「言い訳」が成り立つのだ?

そして

城内の「浪人」はそんなころまでこの城の中で大人しくしていてくれるものか


おそらく

たった一日でココを攻めると「影トラ」は決め作戦を立てた

陽の暗いうちに兵を集め

全ての手配もすませていた。。。


ならば

この出来事は今頃「春日山」にも届けられている事だろう


抜かりなく,滞る事なく




すべてにおいて「敗北」したのだ

まずは認めなければならない


「開門して討って出るのですか?」

詰め寄っていた将の一人がのぞき込むように下知を待っている


秀忠は首を振り

何かをふっきったように

しかし重苦しく


「わしが出る」

と答えた

最初の機会を逸してしまった。。。

そう考えるほかない


しかし

ココからが始まりだと

ここから先は「一世一代の大芝居」だ


具足とをかなぐり捨てながら

小姓に

「着物を持ってこい」

階段を下りながら言った


櫓口で振り返り

言葉を待つ男たちに


「これから和議に参る。。。ワシの指示なく動くでないぞ。。よいな」


腹心の将達は城主の言葉に驚きを隠せなかった

「何故ですか!!」


秀忠は着物の襟を正しながら言った

「お前達が火攻めに耐えられたとして。。。浪人どもはどうにもならん。。すべてを失ってしまっては約束を果たす事もできなくなる」


。。。

「大手門を開けて誘い込んでは?」

若い武者が問うた


それも一つの方法だ

敵が影トラでなければ「通用」しただろう


しかしダメだ

門を開ければ今度はそこから火を投げ込まれるだけだろう


それほどに「整然」と組織されている「影トラ軍」

「今はダメだ。。。勝てないのだ」


わかり始めていた家臣団

一同に介した男たちはみな苦々しい表情だった


「しかしただ負けを認めるわけではない。。どんな事をしても今を生き延びる」

秀忠の言葉には「覚悟」が伴っていた

「これから「忍」戦いと心得よ」

毅然とそう言うと大手門に向かった




「長尾の影トラ。。。しかとこの目,この耳で見極めてやろう。。」

脇差しを一本,腹に抱えて

開門の号をかけた

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