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その11 暗雲 (2)

この小説は

改行や空白が多々あります

それに絶えられない方はご注意ください

「大手門から向こう影トラ軍が詰めてまいります」




フン。。。

秀忠は鼻で笑った

どうやら影トラというのは「虎」でも「猫」でもなければ「猪」のようだと思った


「しょせん女の考える事。。。」


真っ直ぐ力押しで向かってきて落ちるほどこの城は柔じゃない

早々と無理をして走ってきたのは「無駄」に終わりそうだ

「籠城」は正解だった



黒田秀忠くろだひでただも甘く見られたものよと

ほくそ笑んだ

年を取ったとはいえ

かつては「侍大将」まで勤め上げたわしを「軽んじたな」と



室の奥に飾ってある

為景ためかげ」の刀を見て


その昔を思い出した







上杉定実うえすぎさだざねの重臣であった頃

為景とは何度となく槍を交えた



為景は。。。

本当に強い男だった

どれほどに叩きのめされても

どれほどに圧力をかけても「不屈」のいくさ人だった

額に顎

突かれ斬られた傷を数多に持ちそれをものともしない頑強な武士もののふ

「親方」と呼ぶにふさわしい男


拳さえ交え戦った秀忠には今でも感じられるほどの存在だった


そして

秀忠も若かった

若かった故に目の前しか見えなかった


為景を「敵」と決め戦い続けた結果は。。。


何も得ることのない戦いになってしまっていた




守り慕い続けた「上杉」は零落し

各「国人衆」や「豪族」は綻びをさらに広げるように暴れ出した

どの村も町も

戦火の下にあり。。。

越後には「平安」など無くなってしまっていた


そうだ

戦う事だけが全てであってはいけなかった



秀忠と為景は手をとる事にした


「どんな「形」であれ「上杉」を守護として置く」


それが2人の盟約になった

「上杉の元,越後を平定する」



あれほど自らが「守護」に取って代わろうとしていた為景に切り出した「約束」

それを為景は快諾した

もちろん

飾りであっても「守護」がいた方が「政」は容易になるから。。

という見方もあったが


あれほど苛烈に戦った男が「あっさりと」受け入れたのには別のわけもあった


息子(晴景)を「守護代」に据えて

為景は秀忠に申し出た



「この先。。。ワシの家からでた「虎」がもし。。もし晴景を脅かす存在になった時は討ち取ってくれ」


約束であり遺言でもあった


その子とは

為景の元,虎御前との間に産まれた末子「トラ」


しかし。。。。「女児」が脅威に?


当時,警戒に値するか?

それを決めかねるものだったが

盟友との約束でもあったから長く,その動向を見守ていた




面妖な。。。



調べれば

その「女児」の誕生には何かと「逸話」がついて回っていた

そもそも

誕生前には為景自身


「御仏に選ばれし子供」


と喜びを露わにしていたのに


産まれた途端に「消沈」してしまった事

「戦乱の世」に「女」なんて?

という失望が大きかった事からきたものだと思っていたが



何か違う事のようだ



いずれにしよ

為景は以降二度と「守護職」の地位を狙う事はなかったし

「上杉」に刃向かう事もしなかった

最後まで秀忠との約束を守り

同じく

晴景にもそれを守らせた





月日のたった今

眼前にその「虎」が来ている



最初,栃尾城に「影トラ」が入った時はなんの「酔狂」かと思った

「女」城主は珍しくもないが

たかが十三,四歳になったばかりの子供に何ができるのか?

そんな事までして「守護代の旗」を中郡なかごおりに持ってこなくてはならなくなったのか?

そして

きっとすぐ「根を上げて」春日山に帰って行く事だろうと達観していた


ところが事態は急変する

入城三日足らずで「三条衆」を死地滅しちめつに至らしめるという暴挙

その「苛烈」な戦いぶりは

あっという間に越後中に広まった



それでも

当初は家臣の力に「支えられて」の事であろうと高みの見物を決め込んだ「豪族」の多かった中


秀忠は即座に「いくさ」の支度をし始めた



直感

長年「戦場いくさば」を駆けめぐった男の感



このことだったのか?

為景が恐れていたことは?

まさに「尋常成らざる」事態だった


女という生き物の持つ「強さ」は凶事の始まりになる

影トラの「力」が増大していけば晴景とて正気ではいられなる

絶対に


そうなればやっとでまとまっている「越後」をまたも「混乱」に導きかねない

とにかく

それを食い止めねば。。。。



そう思いつつも自分では手を下したくなかった

相手は「女」だ

「女」に対して本気で「武」を構えるなど「武士もののふ」としてはかなり「不名誉」な事だから


誰かが

「出鼻を挫いてはくれぬものか?」

と願い「猫又」の風評を流したりもしたが


その思いと裏腹に「影トラ」は二年の間に数多の豪族,国人衆を退け

「勝ち続けた」




「負け無しの将,長尾影トラ」



確信に至った


これは間違いなく「脅威」だ

いずれ「長尾」割り「上杉」を脅かす存在に「化ける」



思い出した言葉を心に秘めた

部屋の中

祈りを捧げ


「為景。。。親方様よ。。。約束守りましょうぞ」

飾られた刀を大小ともに腰に着けた


戦わねば

拳をギリリと握った


かつて自分と凌ぎを削った男が死ぬまで守った約束に報いようではないか!





櫓にもどった秀忠は多少ながらも驚きを隠せなかった


「動いておらん。。。」


あれほどの「挑発」をしたのに影トラ軍は城門に向かって殺到していないのだ

実際は

多少間を詰めてきてはいるのだが?

それ以外は

規律正しく火矢を射かけ続けて

大手門の各所に火の手を上がらせてはいるのだが


気になるほどのものてもない



「どうなっている?」


物見の一人に聞いた


「ずっとあのままです」


あのまま。。。。

あれほどの怒号の激を発しながら動かないのは何故だ?


おかしい。。

噂に聞くところによれば

影トラは非常に「短気」だと聞いている


女特有の「癇癪かんしゃく」持ち


馬廻りを挑発に矢で射かけさせたのだ

怒濤の勢いで門を破りに来ていても不思議ではないハズ。。。



そしてそれが作戦でもあった

怒りにまかせた影トラ軍が

門を破るために攻勢にでるだろう。。

粘りに粘って城門守り

頃合いを見計らって

突破させ二の門との間で堤打ちにして「半壊」させる



ありきたりではあったが

あれほど怒り狂っていたのならば。。。

我を忘れて来そうなものを?


規則正しく。。。矢を射続ける?

。。。。。


首を傾げた



読まれている?


だとしても門のところで動かずでは「戦」にならない

「戦」をする気はなく。。。脅しにきたのか?


そんな悠長な人物だったか?

秀忠は顎をさすった

自分が具足の着ている間に「戦局」が動いていたなら


誰かがそれを告げにきただろう

膠着状態であるからこそ

城内の誰も慌ててはいない。。。



。。。。


動いていない?


まて。。。


秀忠の脳裏に先発隊がいたのが思い浮かんだ


早朝に見た「馬隊」はどこにいる

煙の向こうとはいえそれを見落とすほど衰えた目ではない


いない。。。

それに

朝方は影トラの陣の周りにいた大男の集団はどこにいった?



本陣と本隊は確かに動いていないが

これは違う

動いていないのではない!


何かが密かに動いている!




何故本隊が目の前にいる?




いかん。。。。



秀忠は振り返り櫓の反対側に走った

「しまった!!なんと!!」


山城の各所に火が上がり始めている


搦手口

茨口


その他城に通じる道に煙があがっている



「申し上げます!!」

慌てた形相で櫓に昇ってきた兵卒を見たが


もうわかっている!!


「搦手門,茨口,剣ヶ峰,南沢尾根,各城道に火が上がってございます!!」


城道にまで。。。。陽動であったとしてもこれほどの規模で何故?


「火なのか?本当に火があがっているのか?」


聞き返したが

思い直した。。。


無意味だ

本当に火があがっていようがなかろうが

すでに大手門以外の全てで煙りが見えるのだから

「炙られている」事にかわりわない


。。。

まだ出そろわなかった家臣団の兵

あぶれ者ばかりの城内



正気でいられるわけがない

甘かった。。。甘く見てしまった!!


朝一で馬が走っていたのはただの先発ではなかったのだ

まったくもってだ


影トラはただ現地に着くのが早かったのではない

「戦」をする事,それ事態が圧倒的に早いのだ


先発が着いたときにはすでに「戦」の準備は出来ていた。。。

そういう事だ

。。。。


最初の火矢が飛ぶ前に。。。すべての城道も門もふさぐつもりだったな。。。

黒滝の防備が「不足」している事を見切られていた


そして

「迅速」という噂の中身を見誤った




「山ごと燃やすつもりか?」


そうだな。。。



それで大手門で待っているだな

秀忠はまだ火に炙られてもいないのに汗をかいていた




恐ろしい。。

まさに。。。「脅威」だ

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