その11 暗雲 (1)
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これに絶えられない方はご注意ください
私が迅速に「戦」の支度をするのは訳がある
怖いのだ
もし
自分の判断を鈍らせてしまったのならば
望まぬ「惨事」が起こってしまうかもしれない
それがわかっているから一昨日の「つや」捜索の時もすぐ行動を起こした
はやる気持ちや不安を少しでも早く払ってしまいたい
という思いからか
「決めたら」すぐに行動する
私の脳裏には今でも
あの日の「つや」達,子供達,年寄り達の姿が残っている
あんな事が「多く」おこって欲しくない
手の届く範囲でもいい
少しでも「義」のために尽力したい
だから
決して躊躇しないように
すべからくの出来事を「迅速」に行う
行動を早める事によって「迷い」を絶つ
これが「理想」なのだが
今回の事に
全ての疑問や迷いを絶ちきる事はなかなかできなかった。。。
それでも
実際に行かなければわからないのだ
具足をつける時も
馬に乗るときも
ずっと自分に言い聞かせた
「迷いを打ち消したまえ」
「戦うのだ!!」
「戦え!!」
心に訴えながら
数珠を左手に巻いた
すでに先発として出ていた村山が剣ヶ峰砦前に到着しており
私が陣を敷くのも時間の問題だった
「早い。。。。」
鐘楼から砦方向に走る先発の騎馬を見て
まだ具足も整わない「秀忠」は驚いていた
四日前の朝
宇佐見が栃尾城に入った事を耳にした
およそ
あの軍略家が腰をあげ急ぎ栃尾に向かった理由など
「猫又の事」
しかないと確信はしていた
黒滝から枇杷島までは海の道もあれば海岸線に沿った街道もある
いくら黒滝より来たに「噂」を流したとしても。。。
流通の関係でいち早く流れてしまう恐れは十分にあったからだ
宇佐見が栃尾に向かった
という情報を得たときから
秀忠は「挙兵」準備に入っていた
来たれり。。。。
と読んで
しかし
警戒を怠ったつもりはまったくなかったが。。。
よもや
その二日後には兵を挙げてくるなどとは思いもしなかった
あまりに早すぎる決断だ。。。
まずは
書状でも送って「所改め」などと
めんどくさい手段を踏むだろう。。。。などという考え方は影トラにはなかったようだ
その神速のせいで
中途半端に「挙兵」の準備にかかってしまった結果で
謀反の証拠をいっぱいに城内に持ってしまうという
まったくもって「おいしくない」状況になってしまっていた
「申し上げます長尾影トラ軍本隊到着は後一刻(約二時間)ほど。。。と。。」
櫓を駆け上がってきた兵が
息切れではなく「驚愕」の早さに言葉を濁すほどだ
秀忠は空を見た
「まだ夜も明けておらん。。。。」
山の峰にはまだ靄が残っている
夜を徹してココまできたのか?
「迅速」で「苛烈」
聞き及んではいたがよもやこれほどまでとわ。。。
驚きを隠せなかった
色々と噂の多かった影トラの戦いぶりは
守護代晴景とは異質の性格を持つ者だと言う事をよく表していた
まがりなりにもまだ「身内」である黒田には
のんきに事を構えている晴景のような対応でくるか?と
ぐらいに思っていたが
日頃から
この地に流れていた噂はたがわずだ。。。
なんと強気な「女」だ
息を吐き声をあげた
「後一刻!!城内を固めよ!!」
一刻で出来ることなど知れている
城を固め「籠城」する事だ
すでに「戦」の方法も限られている
十分な時間とはいえないだろうが
城内に兵は入れてあり備えは整っている
戦えないわけでもない
まずは「閉じこもり」だ
秀忠はさらに激をとばした
「急げ!!わしの具足も持ってこい!!」
そう言うと身体を帰し自室の方に向かった
歩きながら。。。老将は顔をしかめた
「虎御前の娘。。。「凶児」。。影トラ。。いかほどの物か見てくれようではないか。。」
室の仏壇に向かって手を強く合わせた
「親方様。。。」
「お約束。。。果たしますぞ」
日の出を見る前に私は到着した
眼前に広がる
黒滝は大きな山城だった
すでに何本かの旗が立てられている
「戦」をするつもりなのか?
そんな事よりとにかく
「事実」を知りたい
これで何事もなく「開城」してくれれば
最悪の事態は免れるし
件の「手紙」の事を問い正しすればいい
とにかく。。。
「使者を送れ!!城を開けるように黒田に告げろ!!」
馬廻り衆,秋山史郎は
私の言葉を聞くとすぐに馬に乗り城門に向かって走っていった
今回は
実乃を栃尾の後詰めに残し
先発に村山与七郎の騎馬隊
馬廻り,安田長秀
やたろーとその部下たち
宇佐見そして栃尾衆という編成だ
頼れる男を城に残し憂いなく戦うために
事は深刻だ
すぐにでも城を空けてくれることを期待もしていた
「寵臣」
とまで呼ばれた男がこんな事をしてほしくない
もしそうだとしても
その「真意」を知りたい「何故か?」と
返事を待った
床机に座りじっと城門を見た
秋山は山下の門前に着き
大きな声を上げていった
「それがし!長尾影トラが臣下,秋山史郎と申す!城主,黒田秀忠殿に目通りしたい!!開門!!開門!!」
明確に朝を終わらす
史郎の声は高く響き山に鎮座する城の中にまで大きく聞こえた事だろう
しかし
門はあかず
不気味な静けさだけが「無言」の返答をする
私の心がざらつく
「黒い意識」が危険を感じさせる
嫌な静けさだ
沈黙を守る意味はなんだ?
史郎は門前で馬を何度か行き来させ
もう一度同じ声明を発したがやはり「無言」という返答が戻った
なんだ。。。。
ジリジリとした焦り
手のひらに汗
おかしい。。
旗まで立てて「戦」を待っていたハズだろう?
その沈黙はどういう了見か?
何か策しているのか?
いやな「間」だ。。。
十分の時を待った
「秋山を退かせろ。。」
私はすぐ横で待機する
安田長秀に指示した
その瞬間「嫌な予感」は的中した
赤い軌跡を描いた火矢が一斉に城壁を越え飛び出した
「秋山!!」
床机を蹴倒し私は叫んだ
伸ばした手の先あったのは「無情」
あっという間に矢の雨に飲まれ馬ごと崩れる姿が目に映った
「秋山は!!!」
安田は馬に乗り私に
「助けに」
その言葉を大きく手を振り遮った
「弓隊前!!!前進!!!」
亀裂の入る痛みが頭に走り「真っ黒」に染まった
意識が入れ替わる
なんたる!!!
それが己の返答か!!!
一気に心は暗闇に走る
何を待っていたのだ?
何を悠長な事をしていたのか?
私を「逆賊」と名指しした者に何を求めていたのか?
あれほど冷静さを保とうとしていた自分に腹が立った
なんたる失態!!
よくも
よくも
私の「前進」の声に合わせ栃尾衆の怒号の激が響き渡る
貝と太鼓が大きく鳴り響く
「許さん!!!」
眼前に青い野に広がった火矢の炎でさらに心は燃える
「やたろー!!一隊をつれて搦手門から山を下る門すべてに火をかけよ!!」
卑怯者め
使者の用向きを無視したあげく
突然,矢を射かけるなど言語道断だ
「迅速に!!山ごと全部燃やしてやる!!」
再び手を振り上げた
「弓隊を先頭にありったけの火を投げ込め!!容赦はしない!!」
指揮の後
睨む目で城の上の方を見た
「そこにいるのか。。。秀忠。。」
身体を大きく震わせた
怒りは頂点に達した
「影トラ方一斉に火矢を放ちました!!」
最初の攻撃後
瞬く間の応酬を城兵は秀忠に告げた
「。。。」
櫓の格子から下の様子を見ていた黒田は顎をなでながら考えていた
なんと強気な。。。
影トラにだって
黒田が「長尾」の寵臣であった事
そして今も「表向き」そうである事は十分にわかっているハズだ
それを
なんの書状通達も無しで兵を率いココで質疑しようとしていたのか?
もちろん
今となっては城内に囲った
大量の「浪人」についてなんの言い訳も立たないし
「猫又」の件については
宇佐見によってその「真意」も暴露されている事だろう
どちらにしても「言い訳」が通用する相手ではないようだ
晴景なら丸め込めたとしても「影トラ」には通じる事はないようだ
格子から目を細め,隊の動きを追ってみた
「苛烈」であるという言葉に行動が伴っている
影トラ軍の兵はぴたりと統率がとれている
「強いな。。。」
いくら「籠城」をしたとて
かき集めたあぶれ者たちと
影トラ軍の兵では「士気」の高さが違う
ましてや「負け無しの将」が率いる軍団だ
時間の問題か?
秀忠は腕組みをしながら
「最悪」を思い浮かべたが。。。それでも余裕の笑みもあった
いや
まだだ
ココまでご足労してもらったのだ
土産に「首」でも置いていってもらわねばな。。。。
噂に違わぬ「狂女」
あんな者に「長尾」の力を任せていいわけがない
やはり
為景の「予見」したとおりの「牙」になったな。。。。
「親方様,為景様のご意志をはたそう」
黒田は覚悟の言葉を落ち着いた視線で城下を見ながら言い放った
「来るがイイ化け猫め!!!その首討ち取ってくれるは!!!」
黒滝城の朝は「苛烈」に始まった