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その8 祠 (1)

三条衆との戦が。。。あれで終わったわけではなかった

結局この「争い」の根元が同じ「長尾」の一族によるものだという事がわかって

私は深い混迷と


「怒り」を憶えた


学ぶこと

私は世の中の事をやっぱり知らなすぎた

狭い「寺」という枠の中で学んだことは無限に広がる「慈愛」ではあったけど

広い世の中にある浅い「深慮」と「深い」闇にまで光りを灯すには「戦うこと」


闇を切り裂くという「仕事」に徒事する者が必要で有ることを痛感した


あの日を皮切りに

「戦」は断続的に何回も続いた

相手は。。すでに主君を亡くした「郎党」たち

頭の無くなった蛇はいったいどんな「名残」をもつているのか?

何故

大人しくしていられないか?


そんな事を「深く」考えられたのも

最初のうちだけだった

「戦」という波は高く激しい


そんな中で出来ることをしていく


日々

学ぶ


日々

「怒り」を蓄積して

その力で私は戦った

常に先頭にて戦った


常に


「戦え」

「戦え」

という声に背を押されて


最初にあった「変な罪悪感」は。。。。すでにどうでも良くなりつつあった

そういう後押し否定していたら。。。。私はダメになってしまいそうだったから。。。。





「だから。。こういう仕事を手伝って欲しい。。。と思ってる」


そんな合間をぬった日

昼を少し回った涼しい時間

私は軍役帳簿をもって三の丸に向かっていた

となりにいるジンとは。。。またいつもの言い合いになっていた


相変わらずの破れ坊主姿

とにかく栃尾の城内は忙しいからそんなジンの姿を気に掛けてやるヒマがなかった。。。

私が「身なり」の事を注意しないと。。。すぐ「破る」

ちょっとむくれた

でもジンは

城内の細かい仕事は積極的に手伝ってくれている訳だから合った瞬間に注意するのも気が引けるし。。。

でもさ。。。その姿は。。。



汚さ加減には磨きがかかってないか?


「戦に連れて行けよ」


そんなこまかな注意さえ躊躇して帳簿に目を向けるふりでごまかしている私にジンはいつもの「文句」を言い出した



まただ。。。



ジンを栃尾に着いてから一度も「戦」には連れていかなかった

顔は見ずに答えた


「だから。。。「戦働き」より大事な仕事なんだよ。。こっちの方が」


私は帳簿をわざと大きく開いてジンの前に見せながらもかなりの早足で。。。

顔を見ないで言った


もう何度もこの問答は。。続いていたからだ


「弥太郎達だって何度も戦に出てるじゃないか。。。オレの方が。。」

「やたろーは武士もののふだ!!ジンは。。。。坊主だろ。。。」



こんな言い争いが。。。「戦」が決まるたびに。。大なり小なりある

ジンは。。。。

「戦」に。。。何で出たいんだろう

私はジンだけには「修羅の道」を歩んでほしくない

ジンにまであんな「黒い意識」を知ってもらいたくもない



でも頑とまで突き放したくもない。。。。



近くにいてくれて。。。私の至らない心を助けてくれているし

禅問答で「林泉寺」にいた頃のような安らぎをくれている

何も「戦」で近くになんていなくたって。。。

でも。。。

そりれ意外では近くにいてほしい。。。



「トラを助けて「戦場いくさば」で仕事がしたいんだ」


大きく首を振ってみせた

そんな事。。。少しも望んでない

そんな事は言って欲しくない

あんな凄惨な風景の中にジンが立っているなんて考えたくもない


「修羅の道」は私の「長尾」の家に産まれた運命さだめの道

私が求めても

行くことのできなかった「御仏の道」を。。。。ジンには願わくば栃尾でもそういう救いをみんなに与えて欲しいと願っているのに


眉間にきっと出来てしまっている皺を指でなぞって見せた


「オレは。。。弥太郎より役に立つ。。。」


私のキツイ返答に腕をあげ頭の後ろで組みながら不満気に口を尖らせた


「とにかく。。。今はそんな事より「戦費」の計算だか。。武具の数だか。。。色々あるんだ。。手伝ってくれよ」


もう一度

帳簿を叩きながら

無理矢理ジンを従わせた



「戦」には。。。絶対に連れては行かない

だけどそう言い続けるとぶつかってしまう

だから城の仕事をできるだけ一緒に。。。連れ回していた



帳簿の仕事は実はこっちにきてから初めて知った「戦」の別の中身だった

何十枚も綴られた帳簿の中身を確認しながら。。。知った事は色々と驚きだった


「戦」があると

「戦」をするというのは「準備」との「戦い」でもあった


私が差配して「戦」をする事を決めれば

ただ気勢をあげて兵を従わせていれば良いわけではない


何度もの「戦」の合間に行われていた「直江」の仕事っぷりには驚かされた

まず

戦場までの道程

その道選び

行軍に必要な兵糧。。荷駄隊の数


人が動く軍勢に必要な仕事。。。。



こういう事は私がもっと知っておかねばならない事だとも思った

後ろを渋々歩いてくるジンに振り返って言った


「直江の仕事をもって手伝ってくれれば。。。私は助かる」


これも「戦」だし

私は独りで納得したような事を告げた

だから軽い気持ちだった

その時のジンの顔は。。。やっぱり怒っていた感じだった


後にこれが「別れ」に繋がってしまうなどとはその時にはまったく考えられなにかった




栃尾の城

三の丸は二の丸や屋敷堀の近さに比べると幾分遠い所にあった

なかなか足が向かない場所だが

武者だまりや馬寄せなども多くあるため今回はそちらの方も見て回る事にしていた

のだけど


「三の丸」の仕事は

早くも何度もの「戦」で武功を立てたやたろーに実乃が任せていた

もともと

「小嶋」の一族をしっかりと取り仕切っていたやたろーはこういう仕事にもその手腕を十分に発揮していた


私も一度はその姿を見ておきたかった



ジンとの問答が朝から昼近くまで

どこに帳簿との見合わせに言っても続いていたためか

すでに昼をだいぶん回ったぐらいの時間になっていた


「今日中に全部見て回れなかったら。。。残った仕事はジンにやってもらう」


私は少しむくれて見せた

だいたい

私は自分の好学でやっているのであって本来だったらみこんな現地に足運んでまで何かしなきゃならないって事はないんだ!!

それに

実乃が夕餉の後に何か話しがあるって言っていたし。。。。


「トラ。。。。相撲やってるぞ。。」


歩く道すがら腕組みをしたまま頭でっかかちになっていた私を

ジンが肩を叩いて呼んだ


「相撲?」


組み討ちは武士もののふの武術でももっとも「素」である武だ

そういうものの原点「相撲」

私は顔をあげて雑兵長屋の並びに目をむけた


そこには。。。。


「やたろー?」


思わず困惑

たしかにあの大きな体は間違いなくやたろーなんだけど

「暴れてる?」


相撲。。。なんて生やさしい動きじゃない

あの大男が手や足を大きくふり何か大声を出して騒いでいる

そのうち木組みで作った桶を投げ出したりし始めて


「ジン!!相撲じゃない!!」


私はおかしな事態に駆け足で向かった


「やたろー!!何してる!!」


近寄って見てさらに驚く

すでに何人かの男が張り倒されたのか転げ回っている

尋常じゃない

まるで台風が円を描くように周りの人をなぎ倒していく

一瞬あっけにとられたけどそんな状態をほっておいて良いわけなく


私はやたろーの手を捕まえようとしたが

ジンに止められた

「危ないって!!」

「でも!!」


そういうと間に割って入った

「弥太郎!!何してるんだ。。」


私の前に入りやたろーを止めようとしたジンの言葉を遮ったのは「拳」

そのまま顎を打ちつけられて飛ばされるジン

目の前真横になぎ倒される


「やたろー!!やめろ!!なにしてる!!!」

呆然としてしまった私の前

「うわぁぁぁぁぁぁ」

大暴れ

ただでさえデカイやたろーに誰が縄など掛けられるのか

みんなどうにもならない状態

とりあえず気を取り戻した私は

飛ばされたジンをおこそうと肩をつかんだ


「おい!!ジン!!」

「痛い。。。なんつう馬鹿力。。殺すつもりかよ?」

首を左右にがくがくと揺らし血反吐を吐きながら


「今更知ったのか?やたろーは戦場じゃあ素手で人の首をへし折るんだぞ!!」

私はまだ首が外れかかってしまっているのでは?と思うぐらいにぐらついているジンの顔を両手でつかんで答えた




「トラ。。。そう言う事は早く言えよ!!死んじゃうだろ!!」


「。。。。オマエが間に入ったんだろ?」

なんか良くわからん返答に私が困る

「あの世から力かせって事かぁ?」



そうこうしている間にも場は騒然とし始めていた

というか

騒ぎが拡大している

やたろーの周りにいる大男たちも何か行動がおかしい

みな口々に何かを怒鳴って。。。しかも刀を持ち歩き始めている



まったく周りがみえていない状態だ

「どおすんの?」

私の前で殴られた顎を押さえているジン

「止める!!」


こんな騒ぎをほっておいていいわけない

立ち上がった私にジンは

「オイ!!どおすんの!!危ないって!!」


危ない?

危ないのはこんな状態をほっておく事の方だ

そのまま歩を進めやたろー達の前に立ち深く息を吸った

ジンは耳を塞いでいる



「いいかげんしろぉぉぉぉ!!!さわぐんじゃなぁぁいぃぃぃ!!!」


激高

三の丸はおろか本丸にまで響くほどの大声で怒りを爆発させた

さすがに

驚き私に気がついたのか

善治郎たちは腰を抜かしたように膝を落として顔は空を仰いでしまっていた


私はやたろーの真ん前まで行った

やたろーもなんだかわからない状態で放心している


「やたろー!!何をしている!!」


膝を落としたやたろーの頬を張った

私の声に目だけ舌を向けたやたろーはそのまま項垂れた

目には涙がいっぱいになっている

驚いた


「どうした。。。の?」


驚き少し退いてしまった私の前大男は泣き崩れた


「つやぁぁ。。。つやがいないんだぁ。。。。」と

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