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その7 吉報(2)

「似ているのか?」



坂戸城の屋敷で「吉報」を聞いた長尾政景ながおまさかげは妻の綾におもむろに聞いた


「ええっ母上さまに良く似ていました」

白い肌に上品だが派手さのない小袖を着た

綾姫は夫に答えた



「母上。。。虎御前か?」



政景は顎をかきながら

春日山の方角をのぞき見るように背伸びしながら聞き返した

「はい」

清楚な妻は素直に答えた




「吉報」が届いたのは

春日山にそれがとどいた後の日だった

栃尾のあたりが騒がしいという話は今に始まった事ではなく


今の越後はすべての国内がよくにた状況の中にあった

坂戸城周辺も物騒な事は

数は少なくともあるにはあった




しかし



だからと言って

たかだか

十三歳の小娘を城主に頂こうなどという実乃の思案は「馬鹿馬鹿しい」事この上なしと

政景はずっと思っていた


「守護代の旗」をそんな「少女」に託してしまうなど。。。

いよいよ

晴景はるかげもダメになってきたか?


それはそれで都合が良い

早くダメになってくれれば

自分に「守護代」という地位も巡ってくるものよ

などとほくそ笑んでいたところだった



なのに

あまりにも早く届いた

「影トラ」の初陣,大勝利の報には少なからず驚いた




戦況を聞くに

城内には

剛将の直江がおり

その上で実乃もいたという事を計算にいれると


必ずしも影トラの功績とは言い難い事だが


軽んじて考えず

たしかに

「早い」動きだったと感心した




為景ためかげ殿には似ておらんか?」


綾は顔を上げて少し考えたが

「わたくしでさえ父上のお顔をよく憶えておりませんのに。。」

少し悲しげに答えた



綾姫は

父,長尾為景ながおためかげと母,虎御前の事を夫に問われて

ひさしぶりに思い出してみたが




やはり父よりも母「虎御前」の事のほうをよく憶えていた

いや

忘れもしない出来事が多かった



その頃

越後は今以上に危険でいくさの続く中にあった

父はなかなか城には帰らず

城のすぐ外には常に「危険」があり

春日山にいても

心の落ち着く日などなかった



留守を守る御前にすがりついて

一緒に仏壇に向かって祈る日々が多かった



思い出の中の御前はやはり寡黙な女だったが


ある夜

ひさしぶりに父が帰り

床を一緒にした時に「何か」が起きた




「何か」が起き

「何か」を授かった




当時,綾はまだ六歳だったが

その出来事を

「恐怖」として憶えている



何故恐怖だったのだろう?



御前は懐妊したのだ

喜ぶべき事のハズだったのに


ただの懐妊の報とはいえない

得体の知れない恐ろしい物が

母の「胎」に宿っと感じたのだ


幼いながらにも備わった

「女」の直感というものだったのか?



そうとしか思えなかった



事が起きた日の朝から

御前は同じ言葉繰り返していた

もともと

信仰心が深かった彼女が

よりいっそう「何か」を得て変化してしまった



「御仏に選ばれし子,我が腹に来たれり」



その言葉に父,為景は狂喜した

「我が子は御仏に選ばれし子なり!!」

家臣たちにも告げて廻った



その日から延々と続いた「読経」

御前の大きな漆黒の瞳は

一心に仏壇に向かって,いや天に手を合わせ祈っていた



いったい何が写っていたのだろう。。。



それは

昼も

夜も

絶えることなく続いた



護摩ごまの火が揺れる中

きつく手を合わせ

あの言葉を繰り返す母


綾はただ

怖かった

いったいどおして

母は変わってしまったのか?


母は「何を」宿してしまったのか?




不安をよりかき立てたのは


その母は父が戦に出た時だけ

普段の耳にしないお経とはちがう言葉を唱えていた事にもあった







「おん べいしらやなや そわか」






仏間の前の御前の姿

祈る物は観音とはほど遠い別の怒れる「仏神」の姿だった



誰も取り付くことの出来ない日々の果てに

産まれたのが「影トラ」だった



その影トラが

ついに戦にでて初戦をかざった


感慨深いものではあったが。。。

綾にはまだたくさんの不安があった








美しく弧を書くように描かれた眉をしかめ

不安な面持ちで考え事にふける妻の横で

一息ついた政景は


「似ているのだろうな」

そう言うと

綾の前に座り

頬に手をあてた



綾はハッとしたように

「どうでしょう?」

言葉を遮るように綾の桃色の唇に指を当てて



「似ているさ。。姉妹なのだから」



政景は思い直した

そうだ

当座何があったとしても

気にする事はない


十分に実乃や直江の助力を借り


良い方向に働いて中郡なかごおりの抑えができれば

たとえ「女」城主だとしても上出来

それでいいさ


そののち

「トラ」は嫁に行けばいい

綾の顔から察するに

瞳の大きな色の白い「美しい女」になるだろう



どちらにしても「守護代家」の役にたてば誰も問題にはしない


政景は妻の顔を見ながらそう思った



だが

そんな夫を見る

綾はそれでもかき消せない不安があった





母,虎御前の言葉

「この子は。。。。。。。」

あれはなんだったのだろう?


今もあの夜の読経と,護摩ごまの火を思い出す

そして

父,為景が倒れたあの日。。。。



あの時の「トラ」の顔。。。。

まだ口に出して言う事とは阻まれる「過去」に


底知れぬ「闇」を感じていた






この日

坂戸城に「吉報」が届いた時を同じくして

越後の各地に「影トラ初陣にて大勝利」の報は届いた


各地の反応はまちまちではあったが

おおかたは

有能な家臣の力も借りての「大勝利」であろう

と落ち着いた



いち早くそれに反応を示した男もいた





黒滝城城主,黒田秀忠(くろたきじょうじょうしゅ,くろだひでただ)は

「吉報」を聞きこう言った



「「凶報」きたり。。親方様(為景)秀忠お約束を果たしましょうぞ」


静かに

鋭く

目を光らせた

この老将は直ちに戦の支度をし始めた



影トラの

姉さま「綾姫」さま登場


諸説では結婚したのはもっと後となっていますが。。。

ココでは

1537年トラ7歳の時に嫁に行ったことになってます

綾姫さま当時13歳

現状で20歳ぐらい

根拠は

Wikipediaなんかみるとそうだから(曖昧)


ヒボシ的には

虎御前の険しい部分を取り除いた「女らしい女」という感じ

妹「トラ」を人一倍心配しているけど

実は恐れてもいる


きっとキレイな人だっと信じてます

お顔とかお顔とか(藁)


ちょっとだけ設定の紹介でした

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