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その41 中信濃 (1)

ここから新たな戦いが始まって行きます

まずは武田の皆様からご登場!!!

越後にて代替わりが行われた頃

関東は動乱の鼓動の大きさを増し始めていた

「武田」「今川」「北条(後北条)」の三つの「戦国大名」によって旧弊した大名家や諸侯家,豪族などが次々となぎ倒される嵐は、最早誰にも止められないところまで来ていた

そしてそれはどの大名にもも守護台にも他所の雨という話しではなくなっていた

まっこうきっての下克上時代、誰が敵であっても不思議でない時代は、今新たな嵐を起こすための力を蓄え始めていた


「越後国守護代長尾家にて、代替わりがありました」


甲斐国躑躅ヶ崎の御館を正面、馬宿の先をあるくと曲輪が平行に作られた土豪がある。

矢を避けるためにワザとずらしで作った軒塀と、それに並ぶ林を抜けると道は急に広くなる

甲府、甲州の府

都を模したながらも、戦いを常とする武士の館躑躅ヶ崎の御館を御所と見立て、奥中央から真っ直ぐに繋がる道の左右には過信の置屋が並んでいる。

板葺きの屋根ではあるが、古書である躑躅ヶ崎の御館を平に囲む形に「人は石垣」という言葉の形を見る事ができる

この王道の館群を避けて一歩下がった形になる小道をはいる内輪の外堀にあたる

この土手を右手に歩いていった場所に真新しい造営がされた屋敷が建つ

屋敷といって表どおりの家臣団のものに比べれば小さな箱に過ぎないが、躑躅ヶ先の御館に通りを面し、隠れ道でマジかの木戸をくぐる事のできる位置にある事に大きな意味があった

このいえの主が甲斐国主にとって重責を担う者で、そのためにいつでも躑躅ヶ崎の御館との繋がりが必要とされているという証


薄暗い板間

すきま風に揺れる灯籠の火の下

顔の半分を梵字の書かれた面布で覆った嗄れの老人は,あごに走った傷跡をなでながら枯れた笹竹ような指を揺らして

自分から姿の見えぬ位置にて報告を送った間者に聞いた


長尾政景ながおまさかげ」が力で後を継いだか。。。。たわけ者よな」


酒焼けでかすれた声は細い火の下で漢書に。。。片眼だけに宿る知謀を揺らしながら

口元をゆるませた

老人は歳を上回る活発な知識を頭の中に巡らし

諸侯の動きをつぶさに見て回っている


越後国での当主争いも一つ。。。関心のある部分だったが

それは純粋な戦略としてではなかった


なんとも酔狂な家督争いをお遊びを見るような視線で見ていたからだ


「申し上げます。長尾守護代家を継いだのは本家の政景ではありません」

「何。。。。」


自分の予想を裏切った返答に老人は顔を起こした

考えられる名前を探す眼は忙しく,自分の脳を探るように動く


「上杉が誰ぞ迎え入れた。。。イヤ違うな。。。まさか。。。」


頭に浮かんだ人物……

影になって光る牙が勘助の脳裏に鋭利な刃物の火花を散らした

北の国のおかしな家督争い、どうしても「利」を得られるハズのない人物が浮かぶ


「まさかとは思うが、本当に家督を継いだのか?為景ためかげ殿の庶子が?」


片目のない顔、残った目を大きく開いて軽く自分の頭を叩くと


「長尾影トラが継いだと?そういう事か?」


嗄れた事ではあるが、仄かな熱が踊る。

自分の予想が裏切られる事さえも勘助には楽しい軍略の記譜でしかない

そんな余裕の志向をひっぱたく結果に歯抜けの口は笑う

彼の中にある継承権の順位にはなかった人物

だが、もっともどう猛だった人物

移り変わる力の綱引きはずっと聞きおよんでいた


「まさかの当主だな、しかし……おもしろい」


嗄れた老人は自分の予想に反した人選のなされた越後国の事をよく知っていた


「為景殿の妻、虎御前殿……神仏の器が産みし「魂」気にはなる」

「内偵は続けますか?」


老人の独り言とは別に任務の遂行に重きをおく間者の言葉に小さな革袋を投げた

金物と石は鈍い重みのある音は板間に響かせて転がり

闇の先で姿を消した


「持って行け、それを使って信濃に乱を作れ」


老人の後ろ床の間の台座の中に直に書かれた文字

孫子の言葉を背に歯抜けの顔は笑った


「越後はどうせ長くはもたんだろう、「女」に国は治められぬから物のついでに見る程度でよい」

「では信濃に「罠」を張ります」


かすれた声で小さく笑う主は念を押したよう闇に告げた


「そのように行え」

間者の気配の消えた闇に老人はため息を落とした


「楽しき事よな……しかし今は、長尾など相手にはしておれぬ。戦は村上が先手ではあるが、さてどうしたものか?このまま戦うのは望ましくない」





「長尾影トラとはいかなる人物か?」


躑躅ヶ崎の御館

甲斐国の国府である中央に位置する屋敷は平城に近い

とりあえずもの堀を二重に張り

どちらかと言えば領府のような作りになっている


その本屋敷から正面に造られた評定場に武田を代表する武将達があつまり

正面には若干顔色を悪くした甲斐国国主「武田晴信」が座して,末席に座した老人に尋ねた


「ただの若輩者です」


老人事,山本勘助は抑揚のない声で


「今,気にかけるような事ではありません」

姿勢を正して黙した


「ならば村上攻めは決定で良いな」


晴信の答えに家臣一同は顔色を悪くし皆俯いた

当主交代劇から七年の月日が流れていたが,甲斐国が富める国になる事はなかった

治世に置いては水場の治水工事や地税の改訂など多くの事業を手にした晴信ではあったが

それらの事業をあざ笑うかのように天災は毎年,多かれ少なかれ続いていた


その上で「戦」を止める事もできなかった

戦いの滑車は一度回してしまえば容易に富める事がでないものである事を今,この時期になって武田の渦中も身をもって知る事になっていた



「村上を冬に攻めるのは得策ではありません」

勘助は静かに念を押したが,それに変わる方法を晴信が受け入れる用意はなかった


冬の戦の「目的」は略奪である

だが

冬の戦は厳しいものである事が前提である


当主晴信の「民」を豊かにの心は,色々なものに裏切られ続けすり切れそうになっていた

何度もの調略で戦わずしてほぼ城攻めを制してきた武田だったが

それ故に「生ぬるい」者という見方をされ,許した領主に裏を掻かれる事も多く


純真なる武田家の当主の心を痛めさせていた

そして怒りは勘助の助言を聞くことなく,逸る手柄に急いだ若手武将達の口車に乗って笠原を攻め



苛烈な処分を下す


「時には鬼のように人を殺めねば,言う事を聞かぬ」


多くの将兵を撃ち殺し

所領にすむ女子供を売り飛ばし

笠原の正室を家臣に払い下げた


「人」を売りさばくなど日常的にあった景色とはいえ

値高くつけられた女房を買い戻せず泣く夫や子供

その前で首を惹かれて買われていく妻の姿


甲斐の市場には人々の泣き声が響き館にも聞こえる日がつづいた程


こんな痛みを人は簡単に忘れない

やられた恨みに燃える者達がくすぶっている


堂々巡りな争いは泥沼一直線とわかっていても....

今までのぬるいやり方では押さえられなかったもの達や

裏切りを繰り返す者達を甲斐の当主は許すことができなくなっていた


中信濃に与えた痛みをさらに大きな痛みとしてたたきつける

懲りぬ連中が蓄積し息を浮き返した時、その息の根を刈り取ってやると

晴信はそう考えていた


何度も顔の前に扇を行き来させる

家臣の顔色

目の動きに異論をさがすように


「冬の戦いに中信濃の連中は慣れております。。。。不利を踏むことはありません」


苛立ちに眉間添わせた扇子を突止めた当主に意見したのは「馬場美濃守」

今この場にはかつての守り役である板垣はいなかった

勝利を確信出来ない調略の戦の「価値」を見いだせなくなった主をいさめようとした結果か。。


諏訪守として甲斐から遠ざけられていたが

板垣がそこに座ることで甲斐から用意に当主が出ないようにしているという向きも強く

諏訪にて要石として勤めているという働きの方が大きかった


しかし

それ故に実質当主に対して諌言を述べられる者はいないにも等しい

馬場の意見に聞かぬ耳のまま

己に今まで策を講じ続けた老人を睨む



「勘助...「北の大禍」は村上じゃ、これを討って速く甲斐を豊かにせねばならぬ」


末席に座した勘助は見えぬ側の口をゆがませる...

あれは当主を立たせるために少しばかり色をつけた「予言」だった...ハズ

なのに今重くのしかかっている


七年の戦いの根拠として

北に見える厄災の目を摘まねば,甲斐に災厄が訪れる


つまりこれを討たぬがために甲斐には天災が続いていると晴信は焦っていたのだ

事実

戦えど戦えど

甲斐は豊かにはならなかった二年に一度はきまってやってくる局所的な飢饉に甲斐国は蓄えを持つことが難しい状態になっていた

周辺国への小競り合いで乱取りを行いそれによって潤いを取り戻すという方法は、近場の国との亀裂につながるため

出征は出来ない...


とはいえ

国内をいくら平穏に耕しても背かれ続けるのでは軍費ばかりがかさみ救いがない

この悪夢の巡る年々の中

「人の器」たる当初は民を思って心を鬼している


だが

戦という獰猛かつあやかし的な生き物が「人」の悩みや生活を顧みてくれる事はない、それに準じ武功に備えをくれる事などめったにないという事を忘れ始めていた



それは一部家臣達にもやむなしという重いとして低い霧のように漂っていた


扇を開く

沈黙の家臣達に晴信は低く響く声で通達した


「来る月十日。。。。出陣いたす」




避けて通れたハズの戦をを突いた武田

しかし北の大禍が村上程度のものでなかった事をしるのには後三年の月日が必要であり

突き進むことで取り返しの付かない相手を呼び込むことになるなどおもいもしなかった。このときは

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