その38 月と星 (7)
白亜の月は丸く輝く
中庭に照らし出された風景は静かで何もかもが美しい
だが
その中で真っ赤に燃えた「敵意」は本心の牙を向いたまま「鬼」にも似た顔に変わっていた
虎御前の怒りは静かだが
青白く燃える霊元の炎にも近い,研ぎ澄まされた怒りだ
自らの眉間を細い指先が触れる
覚悟の怒りはそこに集まっているからだ
長く御仏に向かい祈った。。。。
成就される事があたりまえの事
だからこそ儀式的な意味合いもあったが。。。。「余分な血」を欲してはいなかった
欲しいのは一つ
血を伴った
「晴景の首」
ただ,それだけをだったのに
これほどまでに自分歯向かってくるものがいる事など。。。。。予想外だったのだろう
落ち着くことなく
何度も首を揺らす御前の仕草を背中の姿で見ている実にでも苛立ちはわかる
冷静さを
考えをまとめるためか
いつもの癖である首を右に傾げると,小声で何かを指示した
緊張に震えた月から
冷たい風が中で
微かに聞こえたのは。。。。「殺してしまえ」
だが
実は驚きはしなかった
彼女が絶対に相手を許さない女だという事を
身をもって知っていたから
かつても
己に躊躇なく刀を抜き
「斬りたいのです」
言いはなったあの姿を覚えている
それは今も変わらない
その証拠に彼女につく侍女達は誰一人として実に。。。。「上杉」威光に頭を下げていない
使える者たちにまでいきわたっている「怒り」という「行為」
とまらない二人の「因縁」は淡い光の下に。。。。表されている
「楓」と呼ばれた侍女は,守りとして共に来た者の中の「長」のようだ
虎御前と同じぐらいの身の丈。。。けれども「武」を身につけている動きの,所作は大振りな体とは不似合いなほど
主の意志にだけ敏感に「繊細」に動いた
御前の「怒り」の心をよく反映した残忍な細い目で守りに入っていた侍女たちに目配せした
「滅殺」の合図
直結する怒りは
守りの侍女たちの動きを変えた
風さえふくことを戸惑うほどに張りつめた間に
侍女たちの手は着物の袖に秘めた「凶刃」を携える
「祈りは成就されるものにございます」
「楓」は正面の「上杉代理(実)」に微笑んだ
柔らかな声
だがけして頭を下げぬという「不遜」の意志を伝える
「私も祈りを叶えに来たのですから。。。。。その気持ちはわかります」
危険な集団である事は重々承知の中
実は晴景を守って前にたった位置から
さらに虎御前の側に歩を進めた
「運命」から逃げぬ心を晒し
前に進む
震えてはいなかった
「命」をかける覚悟に
同じく「命」をかけて「影トラ」の元に使者へと向かった夫を
その事を
ココで命を失うことになっても。。。。退かぬ位置にいる事を誓っていた
かつて
力無く手放してしまった我が子を
もう手放さない
きつく尖らせた目は市女笠の中で
背中を向けたままの宿敵に言う
「虎御前。。。。。長尾を思う気持ちでココまでいらっしゃった事。。。よくわかりますが。。。ココは退いては頂けないものか?」
覚悟の定まった者の会話は心にしっかりと通じる
片口で笑った「楓」もまた
実の覚悟で緊張を高めた中
揺れる怒りは今一度体の向きを実に向かわせた
「いいや退かぬ」
お互いを結ぶ「糸」
流れた月日
けして「和」に成ることのない宿命
静かに睨む大きな瞳と
笠の内側で燃える瞳
虎御前もまた足を前に進めた
逃げるような
背を見せるような
生半可な覚悟ではないからだ
「私の命で退いてはくれぬか?」
もっと覚悟を。。。
もっと
前に出た虎御前に会わすように
実はさらに危険である間合いに足を進めながら
「虎御前。。。。どうしも貴女にとって必要な「血」であるのならば。。。私が払おう。。。今日は逃げぬ」
実の後ろ「品」達も身構える
光育もまた飛び出す用意をする
真上に登った月の下
覚悟の二人は引き返さぬ「円」の中で
間合いの中で
後一歩の時が今,過ぎる
「美しい」
馬一頭に従者として「中西」を連れた上杉定実はやっと登った月の光で
春日山の方を見た
警戒のためにつけられた篝火により
城が眠れぬ恐れの中にいる事がよくわかった
だが
その火が揺れる姿はどこか幻想的で
危険を面前に向かえている城というよりは月の下に初めて姿を現した幻のようにも見えたのだ
「姫は実城についた頃かな」
二人だけの行軍
与力程度が口をきけるような身分ではなかったが
中西は主の心中を察して答えた
「大丈夫でありしょう。。。城には直江様もおられます」
「うむ」
今まで真っ暗な一本道だったが
月が出たおかげでだいぶんと心が安らいだ。。。。
それで定実は聞いた
「今日。。。色々との「影トラ殿」の事を聞いた。。。光育にの。。。中西会うた(おうた)事があるか?」
「いいえ,ワシはお会いした事ございません」
粗末な着物
壁の耳
障子の耳
そして市井の耳と腹の口という闇の仕事を請け負う「中西」ではあったが礼儀は正しかった
「では。。。。「戦」は見たか?。。。いや見たであろう。。。それを教えてくれぬか?」
府内にあった上杉の屋形は小高い丘の上にある
そこからは「影トラの火」は見えたが
今,平地のココでは見えない
見えない火を探す目を細めながら聞く
「恐れてはおらぬ」
中西は頭巾に隠した顔を伏せて沈黙を守っていた
まだ「影トラ軍」までは長い
「影トラ」の戦を話していいのかを迷っていた
「それを聞いたからとて逃げはしない。。。ワシは退かぬ」
自分が恐れを持っているのではと思った定実は中西に念を押した
「そのような事。。。思うておりません」
返事は忠義を現していたが
実際には苛烈なる戦に対して定実が「恐れ」を持ってしまうのでは。。。。という不安があった
その心を見抜かれた言葉に
主の心を「安い方に」読んだと中西は気まずくなりながらも
答えた
「影トラ様の「戦」は。。。。早き火のような「戦」にございます」
「火とな」
「はい。。。「戦」という事に入るのに隙のない方。。。そう見受けました」
「ほう」
定実は髭をさすった
「それは。。。。為景の「戦」に似ているか?」
「親方様。。。。それは」
「似ておらぬか?」
中西は答えあぐねた
そんな風にくらべた事はなかった「戦」に勝ちへの道を与える仕事が中西の仕事であり領域だ
勝つことが大切ではあるが「将」の見地で考えれば
「影トラ」の「戦」は。。。。為景のものとは。。。何かか違った気がした
だが
考えとしてまとめられない
「似ていますが。。。。」
「似ておらぬのだな。。。。」
黎明の冷たい風が山から吹き下ろす
「解りかねます。。。。ですが「勝つ」という事においては強い方でございます」
「どのように勝つ?」
「長尾に反した者を決して許さぬという揺るがぬ心をお持ちです」
「揺るがぬ心」
中西は元主の問いに正直に答えた
今までの「戦」
栃尾の合戦
米山の合戦
それ以前の「戦」を
「鬼人の戦」
簡潔な中西の説明の果てに定実は小さく零した
あまりに苛烈な戦いに少なからず驚ろき
天を仰いだ
定実は目の前に迫ってきている「脅威」の戦を初めて知った
為景は破壊の向こうに平安の秩序を持つ越後。。。「政権」を築くという先見があった
事実,そのように「戦」を進めるが故に「人」の心と多く戦い続けた
そうだ
人は生きていくが故に戦う。。。いや競う
だから「戦」はただ相手を下すための手段とはならない
ただ「強い」というだけでは誰も従わない
そこに
先見を持ち
それを行使する言論と力を伴わねば
それはただの「戦好き」であり
「統治者」とはほど遠い。。。。「破壊者」だ
だが
定実は光育言葉を思いだした
「御仏に選ばれし方」
御仏の世から「何を」選べば。。。「影トラ」になるのか
白い息を吐き
首をおろし
「中西。。。「影トラ殿」は戦の時どんな顔をしている?」
「ワシは。。」
「会うた(おうた)事はない。。。。だが見たことはあろう」
影である中西が面と向かって「主」に会う事がなくても
影としてみ「見る」事は出来る
それも「影」の勤めであるから
「笑っている。。。ようにも見受けられます」
中西は隠さず答えた
笑う?
定実は返事に定実は苦笑いした
「為景もよう笑ったではないか?」
中西は手綱を曳く姿で決して無礼に当たらぬよう定実の顔を見る事はないが
何度か首を傾げて
「確かに親方様も「戦」にさいして,よう笑われましたが。。。。影トラ様の笑いは。。。何か違うのです」
「違う?」
「はい。。。声は出さず。。。静かに」
「静かに。。。か」
「静かに口元だけで」
定実は手綱を突いて合図した
「ようわかった。。。」と
道筋は朝を向かえるために一段と寒い風を吹かせ始めていた
中西にわかった。。。と
答えたが
わかった事は「鬼人」なのか「鬼神」なのかという局の結論だけだった
「やはり会うしかないな。。。。鬼なのか?仏なのか?」
そういうと
もう一度春日山を見た
「姫よ。。。ワシも命を賭けねばならぬようじゃ」
そういうと脇差しに置いた手に力を込め
まだ暗い闇の道を進んだ
新作。。。。。
ちゃ〜〜すコンニチワ〜〜ヒボシです
なんかめっちゃ久しぶりの後書きですが。。。。なかなか進行の遅い展開ですいません
この章とかはいずれ
もっとコンパクトにしてしまいそうですねぇ
突かれた日々が続いた9月があけたので
そういう作業ともどもがんばつていこうと思ってます!!!
そんなヒボシ。。。。
ホントはカイビョウヲトラが終わるまてせは新作は書かないと。。。決めていたのに。。
つい。。。
つい。。。
新しい作品書いちゃいました(爆死)
忙しい忙しいって言っておきながらすいません
でも
こういうのってインスピレーションだし
刺激をうけた時にしか
ストーリーがうかばないじゃないですか!!!
それを受けたんです!!!
ジャンル戦記で!!!
新作
「艦魂物語,魂の軌跡〜こんごう〜」です!!
この作品の注目点は「艦魂」という船に宿る魂というものです
魂と人との物語
ですが
現代風です!!!
艦魂という存在を使った先生達の中にヒボシも参戦!!!
周りが若い先生ばっかでちょっと恥ずかしい中年ヒボシですが
がんばっていこうと思いますのでよろしかったらそちらも応援してくださいませ!!!
報告でした
それではまた後書きでお会いしましょ〜〜〜