その6 初陣(5)
あきらかに異質の怒号
三条衆が先ほどあげた
ときのこえなど
まるで子供の「駄々」のようだ
統制のとれた
火矢は3回,5回と
途切れることも
乱れる事もなく繰り返しはなたれた
それは美しい程の軌跡を描いて
「死」をお見舞いしていった
寝静まっていると
信じ
油断していた敵は
山城の門下まで「勝ち馬」で突き進んでしまっていた
いきなり戻る事など不可能だ
兵卒たちは次々と倒され
馬は嘶き
あっという間に「混乱」状態になる「賊軍」
「開門!!開門!!」
私の激に出番をまっていた
武士たちがさらに声をあげる
男たちは槍を持ち
拳を挙げる!!
もはや
城の門が開かれたからといって
突進してこられる「敵兵」などいなかった
ただ恐れ我先にと
逃げまどう
烏合の衆
先ほどまでの「揚々」な気持ちなど微塵も残っていない
無惨に転がる屍たち
息も絶え絶えの者たち
火矢に焼かれた者
刺された者
馬に跳ねられた者
落とされた者
その馬に
踏み砕かれた者
どれも
これもで
恐怖で引きつった顔が天を仰いでいる
助けを待っている?
それは「哀願」なのか?
願いなのか?
私は首をかしげて見せた
「黒い意識」の思うままに
何をいまさら!
弱った自分たちを晒したからといって何が変わる?
だから
助けて?と?
「否」
手をゆるめるようなまねはしない
指揮を出す
長槍隊が門内から
前進する
整然と
隊列を成し
瀕死の状態で近く這う彼らにとってどんな恐怖だった事か?
槍襖はジリジリと目の前に迫っていく
「恐ろしかろう?」
笑みを浮かべ
一人つぶやいてみた
容赦はしないし
許しもしない
私の
この怒りと
人生最後の恐怖を
心の底まで焼き付けて「死ね」
死んでいくがイイ
「進め!!総構えまで一気に押し戻せ!!」
私の指揮に
実乃を中心とした
一隊が猛然と走り出す
怒濤の攻勢だ
山城の坂に馬はいらない
むしろ
それを追い立ててやればイイ
細道を転がり落ちる馬たち
その馬に上から押しつぶされ無様につぶれた肉塊の「兵」たち
仕寄りに火をかけ転がせ!!
栃尾城の大手道は
大手とはいえ切り立った崖に面している
ちょっと突いてやれば
後は落ちてゆく一方だ
次々と息の根を絶たれていく敵兵
ついに後方にいた
一隊が後退を始めた
身振り手振りで大きく声をあげる将
「引け!!引け!!一度城下の本隊まで引くのだ!!」
引く事に死にものぐるいになっている
笑わすな!!
引けど
逃がす事などない
石垣の端に立つ私に
「影トラ様!敵が後退します」
若い物見が報告にきた
私の顔は笑っているのか?
物見は少しおどおどした感じで
顔を見ながら告げた
「問題ない城下までドンドン押せ!押しつぶせ!!」
そして城内に残った直江隊に
「掃討」を命じる
「城外の山中に残る三条衆を戦の「作法」に従って「トドメ」を与えよ」
この山に
卑下たる思いを持って
上がってきた者を一人として生かしておかない!
坂を滑り落ちるように必死に
後退する三条衆
城下でそれを見ていた三条の将の目は「驚愕」だった事だろう
まだ自分が
敵前にいないにもかかわらず
その姿,あわてふためきようは
滑稽だった
山に登ってきた「輩」たちはほぼ城下に押し戻された
無事に戻れた者などいない
みんな
血を吐き,流しへたり込む
掃討を指揮する
直江から
「三条衆は城下まで押し戻されました」
と
報告が入った
私は
悠然と石垣の端まで歩き
物見に言った
「のろしを上げろ!貝を鳴らせ!!」
そして
そこから城下の三条衆本隊を指さして言った
「さあ!ココで死地滅にしてくれよう!!」
仕上げだ
お前達ふさわしい死を与えよう