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その6 初陣(4)

白い靄の下


しずかな朝を待つ






でも

これは今までの朝とは違う

寺にあった

あの静寂とは違う

緊張を持った朝がやってくる



夜が白く霞んでゆくまでの間

私の目は冴え

眠らず


この「いくさ」を組み立てていった


祈るように

願うように


繰り返し繰り返し考えた



たやすい戦だ

勝ちを意識している者たちは

常に「うかつ」だ

あの斬り捨てた下郎たちのように




だが

私は絶対に油断しない

敵のうかつさの見誤りはしない

普段以上

さらに何十倍も上を行く「慎重」さで



下品な笑いを持ったヤツらをココから生きて返さない

だから

徹底的な策を巡らせる




冷めない

頭がパチパチとした痛みを発していても

自分の責務のために

今日を戦うと決めている




ジンを近くに寄せなかった

これは「長尾守護代家」の戦い

この「いくさ」を皮切りに

私はもう「僧」には戻れない


だから

祈りながらも「戦う」「将」になる


私が達することの出来なかった

御仏の世界はジンに託そう


そう決めた



だから

ジンを戦には絶対にださない


仏間に入る前まで

共に戦うと声をあげたが

イヤダ。。。


ダメだよ





こんなどす黒い感情に染まってしまって欲しくない




殺生道には私が行く

ジンは子供たちを守ってくれと

城内に閉じこめた





私が「戦う」


それが長尾家に産まれた私の勤めだ




夜はまだ過ぎない

夜と

朝の間に。。。。




奴らはやってくる



「来ました」

黒紺の鎧をまとった実乃の声が

熱気を帯びたいくさ人の声を

低く静かにして私に伝えた



仏間から

ゆっくり向き直った


私の中の何かが切り替わった


「よし。。」



城内は静まりかえっているが

寝ている者は一人もいない



明け方

真正面から

三条の族たちはココにくる

それを待ちかまえていた


城下を見ると

すぐ手前まで「賊軍」たちは,きている

馬の声

人の声

足音

甲冑の響き


その呼吸さえ聞き取れるほどの距離に感じる

でも

まだだ




「申し上げます。。三条勢二千,城に向かって進軍しております。。」

物見も低く,小さく告げる

「うむ」

だんだん意識が研ぎ澄まされていく



私はゆっくりと前線に向かう

気持ちを高めるために,じっくりと歩く



何もかもを寝静まったように「静かに」事を見守る

城内の武士もののふたち

息も密やかな戦闘集団

その間を

毅然と真っ直ぐ歩いてゆく


もっと

引きつけろ


もっと



食いついてこい!



昨日の夜

下郎どもから得た情報で

敵が朝方

この城に強襲をかける事はわかっていた


奴らの

雇ったはずの

下郎は帰らなかったハズだ


それでも


馬鹿正直にココに来た「賊軍」

それがすでに「マヌケ」というのだ



意気揚々とこの城を落としに来た奴ら




私のような

若輩者に「負ける」ハズがないと思いこんでいるのだろう

あまりに

甘甘な進軍だ



嘘はすぐに人づてに流れる

たかだか

1日の間に

流した「流言」に奴らは騙されてやってきた

やたろーの配下を使い

「栃尾城の長尾影トラは逃げようと準備している」

三条よりの兵たちに匂わせておいた

もともと

今日栃尾を攻めようと思っていた輩たちは小躍りしてやってきたに違いない



堂々と正面から。。。。





「十分に引きつけろ」


横を共に歩く

実乃に伝える

すぐに

諸将に伝達する


緊張の面持ちの城人の間をさらにゆっくりと進む

胸をはり

堂々と

みな私の指揮を待っている




城内で

一番見晴らしの良い

石垣のやぐらまで




呼吸は高くなっていたが


恐れてはいない



脳裏に「黒い意識」がうごめく

心が切り替わるように現れる

「漆黒の影」

それを怒りとともにまとった私は

むしろ

「楽しんでいる」

そしてヤツらを見下している


ココまで「虚け(うつけ)」な者を「武士もののふ」と思わない



やぐらから

先頭をいく武者を見た

あきらかに「勝ち馬」に乗った気分だろう

顎を上に突き出し

頬あてもつけていない



まだ遠い




でも

来る

そう思った時

先頭の男は刀を抜き振りかざした







と,同時に

鬨のときのこえが上がる



罵声の混じった大声が静かだった城内響き渡り「戦」の始まりをしらせた!!



怒号の中

先頭の男が言った


「長尾影トラ!!その素っ首もらい受けに来たぞ!!」





聞こえるわ。。。


ああっ

ああっ

きこえておるわ!!!


その卑下たる声が

遠くにいるその顔まで浮かんで見えるわ。。


私は諸将に櫓から向き直り指揮する

「よし!!敵を城門近くまで引きつけろ!!滅殺する!!」




突進してくる

三条勢の声と音にまぎれ

城内は一気に臨戦態勢に入る

「いいか!!城門下まできたら迎え撃つ!!」

実乃の声も飛ぶ

栃尾衆に殺気が伝播する



第一の矢が空を舞って降ってくる

戸板を立てて応戦する


城内の弓隊を指揮する直江に言う

「まだだ!!」

やじりに火をかけ

じりじりと迫る敵を待つ



第二波の矢が降るが

いよいよ恐れるに足らずだ

名は体を表すとは良く言ったモノだ


勝ち戦に本気の者がいないように

ゆらりと力無く舞う矢に人は射殺せはしない


ふわふわと漂いバラバラと落ちるやる気のない「殺意」


そんなふうにしか見えない



走る


やぐらの外に出る



敵が矢を射かける

私めがけて



あたらない

あたるわけがない



浮かれるにもほどがある!!


私は絶対に笑っている

力をたぎらせ

その時を待つ



「城門下まで来ました!!!」

「よし!!!」





きたれり!!

きたれり!!


殺意が躍る!!

弓隊を見て



手を高くあげて

一気に

振り下ろす




「はなて!!!」

空にみごとな軌跡を描き火矢が舞う


城壁の向こうから飛びだしてきた矢は

突進してくる三条衆の目に

滝を描くように降り注ぐ



城門ギリギリまでに迫った兵たちは一瞬にして崩れた

馬も

人も


あっけなく倒れる

火をつがえた矢の前に悶絶し

打たれた身体を崩していく


馬は暴れ火だるまの背から

さらにのど元に矢を刺された死体が跳ね飛ぶ


うかつな集団は言葉をなくし

混乱の中,谷間に転落していく



私は城内

石垣の真正面にたち

指揮する男を見た


驚きに馬から転げ落ちそうになっている




名前があろうが

なかろうが

名乗ろうが


容赦はしない

もう一度手をあげて言った

「かかれ!!!」





城を揺らすような栃尾衆の声が朝焼けに変わりゆく空に響く

栃尾城開戦


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