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その36 運命 (7)

愛について(藁)

後書きにて〜〜〜〜

「いいですか!!土岐とき!誰に呼ばれても返事をしてはなりませんことよ!!奥の部屋でずっと「臥せって」いる事!!わかりましたね!」


部屋の角

屏風で仕切った間から綾は矢継ぎ早な指示を侍女の中

自分と年も近い「土岐」に打掛を預けながら言った


「でも。。。こんな事」


土岐の母である侍女の「はつ」も困惑の顔を隠せないが

綾に指示されるまま髪の結い直しをしていた



「本当に「麻様」のところに行かれるのですか?」

「そうよ!」


さっきまで肘掛けに本当に「病人」のように伏せていた綾だったが

今は違う土気色になり虚ろに下がっていた目は消え失せ

むしろ「興奮」しているかのように顔を赤らめ

目を輝かせている


「早く!!」

テキパキと土岐から受け取った「彼女の着物」を羽織ると先ほどの注意を

未だ状況を飲み込めず

恐れ多いと「打掛」に袖を通す事も出来ない土岐に,念を押すようにした



「私は今から「麻様」の元に侍女のふりをして行きます!!土岐!!あなたは私のふりをして誰にも会わず臥せっているのですよ!!!わかりまして!!」


侍女結いの髪に変わった綾は,初と共に部屋を抜けだし「麻」の元に向かう事を決意したのだった

そもそも

「手形」が無かったせいで「上田」に帰る事のできなかった綾だが

今は自分が上田に戻る事ばかりを考えてこんな大それた事をしようとしているわけではなかった

春日山の状況は二日前の静けさから一転していた

朝日とともにやってきた「最後通牒」に城内は一時「沈痛」な闇に飲まれた



「影トラ進軍」



次々と届けられる報(報告)により

事態は収拾のつけようのない大騒ぎと代わり

春日山の番人である「直江実綱なおえさねつな」の元には現在残っている「守護代軍」の将達が殺到,「この先」


影トラの向かう先と

守護代「晴景」の最終選択の果てにあるものを

「最良」を選び出すために「押し問答」の真っ最中だ

誰も彼もが泡立ち

城内には侍女や近習,使いの者達が走り回る音がいつもなら静かな二の丸の屋敷の中にも「遠慮無く」響き渡っていた


そしてそれこそ

この誰もが注意を払うことの出来ない「混乱」こそが「母,虎御前」の願っていた「想い」を成就させる「好機」の始まりである事が綾にはすぐにわかった


「母上は願いを叶えるために絶対に動く」


「手形」の話しが出たとき

綾の頭は明晰に動いた

「これが最後の助け。。。。そして「救い」という己の願いを叶えるための好機」であると

虎御前の願い

それは口に出すことも憚られる「恐ろしい願い」



「晴景殺害」



この非常の事態の中

晴景が虎御前の手によって「倒される」ような事がおこれば。。。。

どんな行く末が先にあるのか?


綾は頭を自分で少しだけ小突いた

考えつく「結末」は「恐怖」でしかなかった


慕う「政景まさかげ」は安否の解らぬ状態

でも綾は生きていると信じていた

だけどれども

もし母の願い叶い影トラが入城するような事になれば。。。。。影トラは母に従い上田長尾を滅ぼしてしまいかねない


あってはならない結末

しかし

今はその結末が一番近いのだ。。。。

奥の屋敷から動かずとも

身の回りを「忍」で固め

晴景ののど元に一番近い「狂気」となった母


虎の目をもってその願いを祈り続けた御前に対抗する最後の方法があるとするならば



晴景と影トラの「和睦」しかない



そして

それを実現できるのは。。。。。なんとしてでも「晴景」を説き伏せる事が出来る者

それは

「妻」である「麻」だと信じたのだ



「よいですか!!!参りますわよ!!」


綾の考えはそこまではかまとまってはいなかったが

とにかく

今は「行動アルのみ」という意気込みが障子を開いた



開いた先

表屋敷に繋がる通路にはいつもの「使い」達はいなかった

おそらく各々の臣従する主の元に寄っているのだろう

「影トラ」との対立を明らかにした「晴景」は城の門を閉ざすために自分の「私兵」ともいえる「近習」達を各所に配してたため

「綾」の見張りに付いていた「坊丸」の姿は見られない


綾は初を前に歩かせた

侍女の着物に着替えたとはいえ

歩き方から身の振り方までを自分に厳しく身につけてきた綾は「優雅」見えてしまうから


しかし

そんな些細な心配は無用なほど

二の丸の邸内は騒がしく


願う想いが綾の「決意」の後押しをするかのようにすんなりと「麻」の部屋まで進めた


「願ったのならば叶えるために「行動」しなくてはいけない」

という想いで






わたくしは力にはなれません」


綾が最初に侍女として部屋に入った時には「驚いた顔」を見せた麻だったが

すぐに平常心にもどったのか?

それとも

やはり

「諦めて」しまっているのか。。。。。



青白い表情

眉間に少しの悲しみを寄せたままこれから綾が「言う」であろう「希望」に釘を刺すように言った


そんな

形式張った小さな抵抗をする麻にかまうことなく綾は噛みついた


「そんな悠長な事を言っておられる場合ではありませんでしてよ!」


綾は噛みつく勢いで事の経緯を

高く張り上げてしまいがちの声を抑えるため

麻に詰め寄ったまま話した


「そんな。。。。虎御前様が。。。そんな事を。。。」


言葉静かな抵抗の中に困惑の返事

「そんな事をしてしまわれたら。。。いったい誰が長尾を信じますでしょうや?」

「そういう「殿方」たちの事情はわかりません!!ただ母上の願いは絶対です。。。。だから事が成ったとすればこれこそ「御仏の思し召し」と他の者を説き伏せてしまうやもしれませんのよ!!」


騒ぎに紛れ

麻の部屋まで綾がやってきた時

すでに陽は昼に近づいていた

時は待ってくれない

綾は心の中で「後手」に周り続けてきた自分の交渉を悔やんでいた

だから

言葉も強く続けた


「姉上様(麻)に晴景様を説得して頂きたいのです!!影トラとの和さえ保たれればそんな「恐ろしい事」はおこりません!!!その上で「手形」をお貸しください!影トラの説得は私が致しますから!!是非に急いで。。」

「無理です。。。そんな事」

麻は小さく首を振った

気弱な態度は綾の焦りを苛立ちに変え始めている前で

「前にも申し上げたように「殿(晴景)」はわたくしなど「妻」とも思うておられないのです。。。そんな私の言葉をどうして」


「何で!!!だったらどうして兄上は「上杉様」へ身を寄せるようにと「手形」を下さったのですか!!!」


つい体を乗り出し

額をぶつけてしまうのではと思えるほど迫ってしまった綾を初が必死に止めた

気迫に押されはしたが麻の態度はより沈んでいた



「それは。。。私のような「役に立たない者」が「妻」であっては恥になりますから」

「恥とは?!!」


綾の両手は初の手を振り切り

麻の胸ぐらを掴んでいた

その勢いは凄まじく侍女達の目に「殴打」に至るのではと,思えたぐらいだったが


綾はそのまま麻の痩せた胸に自分の顔を

額を擦りつけた



「兄上のご情愛を信じておられませんのですか?」

「いいえ。。そういう事では。。。ですが私など名ばかりの妻の言葉などで思い留まってなど下さいません。。。信じて頂けません。。。何も出来ません。。。」

綾の真っ直ぐな心に

向きあうのは苦痛だったのか。。。。

麻は顔を背け悲しい笑いを少し浮かべて返事した




「ええっ。。。そのままなれば。。。何も「成されて」おられませんわ」


涙の混ざった綾の棘


痛みの言葉

掴んでいた手を自分の胸に当て

崩れるように麻の前で嗚咽をあげて綾は泣いた

泣いて言った


「信じていなければ「願い」など叶いませんわ。。。」


自分の真ん前で泣く綾に,言葉を探せない麻


「兄上は。。。麻様を愛し。。慕っておられるからこそ。。この「最後」の時に逃げろと「手形」を渡されたのではありませんか。。。そう信じてはおられないのですか?麻様も兄上を慕っておられるからこそ。。。信じておられたからこそ,城に残られたのではないのですか?」

麻は首を振った

胸元には

あの直筆の「手形」。。。。

あの綺麗で美しい晴景の字が書かれた。。。。「最後の手紙」


でも。。。


「私が信じていても。。。。」

麻には全ての「過去」を振り払う事は出来なかった

言葉を濁し唇を震わし

「否(否定)」と言おうと

その喉に登りかかっている「否定」を打ち消すように

綾は泣き叫んだ


「貴女様が信じている事が大切なのではないのですか!!」


跳ね起きた綾の顔は「涙」でいっぱいになっていた

そしてそれが

麻の。。。萎れていた顔に温かく弾けた


「私は「政景様まさかげさま」が好き!!大好き!!心の底から慕っておりますのよ!!殿が生きていて私とまた会うてくださる事を信じておりますのよ!!願っておりますのよ!!」



麻はただ驚いた

何を怒鳴られているかわからなくなって

だけど

綾は泣きながら震える手を胸元に手つけ麻の体を揺さぶりながら


「政景様が私をどう思っているなどと。。。。そんな事は関係ありませんの!!私が好きなの,あの方が好きなの。。。麻様もそうではないのですか?」


「貴女様が信じ慕っておられるのではないのですか?」


激しく叩きつける心の嵐。。。。

綾は自分の想い慕う心を隠すことなく麻に向かって投げつけた



震える視界

涙は弾け

潤んだ綾の目に痩せた自分顔を映したまま麻は答えた




「ええっ。。。。私も晴景様を愛しております。。。。あの方が好き。。。。」


止める事の出来なかった「想い」は溢れ出し

涙は溢れ出し

少ないながらも「幸せだったとき」が返る

手を繋ぎ

庭に植えた「梅」を見せてくれた晴景。。。。。

少し照れて。。。はにかみながら。。。。

争い事とは遠く。。。。。心根優しい年上の夫は


「少しずつ。。。。。増やしていこう。。。ワシも麻の好きな花を共に見たいから」


そんな横顔を好きになった

そうだ。。。麻は思い出した

自分が晴景を「好き」になったんだと


自分の胸につけられて綾の手を握り返し


「ええっ私が。。ええっ私こそ晴景様の事。。。晴景様が想うよりずっと慕っております」


二人は顔を見合わせた

綾も止められぬ涙のまま

互いを抱きしめた


「殿のお心を信じます」


女達は深い絆を結び合わせた

しかし

時は待つ事なく進んでいる

綾は涙の目を拭うと気を取り直し麻に言った



「では。。すぐにでも晴景様の元に」

しかし麻は首を横に振った



「いいえ。。。それは出来ません」

「何故!!!」

やっとの和解を麻が理解していないのか?少し落ち込みそうになりながらも詰め寄る綾に


「これほどまでに大事おおごとになってしまった「戦」。。。女の私達の言葉だけでは止める事は出来ません。。。より大きな力で伝えねば。。。殿も。。。影トラ様も止める事は無理です」

「大きな力?」


麻の口調はさっきのような弱々しいものではなかった

上田長尾の姫である綾に比べれば

麻は心を痛めながらも「守護代」の妻を務めた女。。。。

「戦」の行方が「安易」に変わる事が出来なくなっているのをよく見据えていた


困惑の表情の綾の前

胸元から「手形」を出すと告げた


「上杉様にご仲裁に入って頂くのです。。。上杉様の仲裁なれば虎御前様も無謀な事はされますまい」


綾は頷いた

確かに「戦」は止まっても内側の騒ぎに乗じてケチをつけて母が動いてしまったのならば意味がない

ならば

「守護様」に立って頂く。。。

さしもの虎御前も守護に楯突く事は無いと考えられたからだ


握った手のまま二人は頷いた

女たちの決意と共に運命は大きく動き始めた

「愛」


後書きからコンニチワ〜〜ヒボシです


なんか

かなり久しぶりの更新になってしまいましたが

今回は。。。。

綾様

麻様

「愛は爆発だぁぁぁぁぁぁ」の章。。。

とかにしようかと迷った(藁)


嘘ですが。。。。



この時代

好きって言葉はあったと想うのですが

「愛してる」という「LOVE」という言葉は無く

「お慕いします」

というのが

最愛の言葉だったそうです



そういう意味では時代考証失格な感じですが

あえて

いや


やっぱり「愛してます」といわせたかったので使いました

閨言葉ってのがどっかの大名家に家訓のようにあったそうですが。。。。

夜愛をささやきあってますか〜〜〜〜(藁)


ヒボシは尼のような生活送ってますよ(爆死)


そんなこんなで

女達が大活躍のカイビョウヲトラ!!

がんばって走っていきます!!!!



それではまた後書きでお会いしましょ〜〜〜

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