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その33 私は嵐 (7)

終わりませんでした。。。「私は嵐」。。後一話続きます

「戦」は終結を見た


米山の峠から見る「元」守護代軍の姿は千切れ飛ぶ紙切れのよに見えた

数では私たちを圧倒的に上回っていた「軍団」だったが

中身は腐ってしまった「古木」。。。


私は私たちを照らす眩しい朝日に目を細め

髪をつたう雨を払った



雨の終わり

今まで心にまで降りていた闇の緞帳は消えた

目を今駆け上がってきた側

石川の向こうに向けた

「追い落とし」に軍団という形を失い散り散りになってゆく「集団」を見ながら


「古木」で思い出した事に一人納得して頷いていた



あれだ

いつか「宇佐見」との禅問答で話したあの「木」と一緒だ

優雅を誇り美しい花を咲かせはするが

根本は腐り

危険を隠す者

近づく者にとって有用ではない「滅び」への道に手招きする「花」



政景まさかげ。。。。オマエは滅びの花を咲かせようとした。。「暗愚の君」だ




先陣の場所に馬廻りたちと共に立ち

翻る大旗「長尾守護代旗」を見あげた

風の中悠々と揺れる姿に張りつめていた気持ちがほんの少し緩んだのか

肩を落とした


眠らぬ夜を走り続けた「戦」は終わった。。。。でもまだ。。。

目を閉じて心を整える

手のひらを開き

閉じ

かすかに震えている事。。。。


しかし

体は燃えるように熱い

ただひたすら

熱を発して「戦」を。。。追い続ける気持ちが

さらに前に体を推し進めようとしているのか。。。。



手を開く。。。。

もう一度閉じ



「大丈夫か」


馬上から下ろしていた右手のひらを閉じようと動かした指に冷たい指が絡んだ

目を開け下を見る

返り血と雨

泥をかぶったまま顔のまま。。私の顔を,じっと見あげたジンはもう一度聞いた


「大丈夫か?」


ユカケ(手袋)もつけていないジンの手は少し冷えている感じ


「ジンこそ。。。大丈夫なのか?」


未だ楯を構え

陣内を守る備えのままだ

眉間に「不安」を現している顔に向かって


「これが戦だ。。。。」


一度はうつむきジンの顔を確認してしまったが

見てはいけない。。いや。。。

私の顔を見て欲しくは無かった


上がり続ける息を正しながら

空の方に向いた


「トラ。。。。指が。。体が震えてる」

咄嗟に

ジンに掴まれていた手を引いた

「寒いからだ。。。」


指先に触れる感情

私の溢れ出している「怒り」をジンに見透かされたようで。。。恥ずかしい

それは「震え」じゃない

震えているのではなく

私は「揺れている」。。。。あらゆる感情をつぎ込んだ「戦」に酔って。。それに気がつかれたくはない


「追い落としを見届けたら。。。柿崎の城に入る。。。体を温めよう。。ジン」


張り上げていた声をしまい

落ち着いた目でジンを見ながら馬を歩かせた

馬を曳きながらジンは

彼自身を落ち着かせているのか少しずつの言葉を返した


「トラ。。。トラのしなきゃならない「仕事」はよくわかっているつもりだ。。だけど無理はするな。。絶対に」


「無理など。。。。してはいない」


かるく首を振って

私は自分に言い聞かすように答えた

「無理」など絶対にしていない。。。むしろ心は「戦」を渇望しているのではないのか?

そう思ってしまうほどに全ての感覚が尖ってきていた

だから

顔は合わせないように周囲をのぞき見るようにした


「とにかく本陣に行こう」






「ですから虎御前様が「危ない」のです」


馬をおり

本陣を構えた丘のうえ

陣幕をくぐる一瞬前に段蔵の声が母の事に触れたのを聞き取った



「母上が危険とは?」


幕をあげ睨む視線で段蔵に問いつめた

まわりのみなも今まで開いていた口を閉ざし声を抑えている


「母上がどうしたのだ?」


鋭くなった私の詰問に段蔵はその場に控えて答えた


「これより「芝段蔵」与板の兵を率い「春日山」に向かいます。。。影トラ様にはココにて」

「母上が危ないのかと聞いている!!」


飛び込んだ言葉を遮る者の後ろは

何を隠した

睨む私の前,段蔵は


「いやいやいや!!虎姫様(虎御前)は危ないのではありませぬ!!」


緊迫した陣内に

血みどろの甲冑姿の男が白い歯を見せて間に入った

「どういう事だ「金津」!」


この戦で大暴れをした金津は段蔵の横に控えると

「虎姫様自らご出陣なさるのです!!晴景の首を挙げるために!!」

「黙れ!!!」

金津の口元目がけ段蔵は拳を当てた

転がりながらも騒音を続ける金津をやたろーが捕まえる



「母上が出陣。。。。。兄上の首を獲る?。。。。どういう意味だ?」



私は混乱した

この「戦」が始まる時もっとも心配だったのは「母上」の事だった

私が「戦の根元」について兄上に申し立てするために「力」という手で旗をあげれば

春日山にいる母上に危害が及ぶことはわかっていた


段蔵の話し

「直江」の手配にて絶対にそのような事にはならぬようにする事を確約していた

なのに


何故

母上が兄上を?何?


「段蔵。。。。。」


口を押さえられた金津に向き

やたろーに手を放すように目で指示した


「どういう事だ」

私の質問に金津はひれ伏して答えた


「この日を待っていたのです!影トラ様という力を得て「戦」に勝った今!!栖吉長尾に対する数々の仕打ち「積年の恨み」を虎姫様(虎御前)御自ら最後の決着を付けられるのでございます!!」


血が騒ぐ「積年の。。。」その言葉が頭の中を大きく揺らした

息を熱く吐いと刀に手を掛けた状態で聞いた


「何がだ!!!母上はいったい何をしようとしているのだ!!!」


怒りのまま金津を打ち据えようと進む足の前に段蔵が走った

「お話いたします!!!心を穏やかにしてくださいませ!!」


手を挙げ懇願する段蔵

「言え。。。何も隠すな」

私の言葉に段蔵は目配せして陣内幕の方まで下がっていたやたろーたちに金津を抑えさせた


「冷静にお聞き下さい。。」

そういうと刀の大小をはずし私の前に伏した

「米山の戦に勝った今や春日山に味方する者はそう多くはおりません。。これより「和議」を申し入れ影トラ様の願いどおりの守護代様(晴景)との話し合いをする事が大事にございます」


私は秋山が持ってきた床机に座った

「和議の話しと母上と。。。どんな関係が?」


質問に段蔵は顔を曇らせた

何にそれほどと窓つているのか

余計に苛立ったがひとまず体の内に抑えたまま聞いた


「答えろ。。。。隠し事など。。。許さんぞ。。。」




「虎御前様は。。。和議を望んでおりませぬ。。。その手で晴景様を討とうとお考えなのです」


時が凍りつく

背筋にも冷たく走る緊張

「何だと。。。。」


曇った表情に必死の弁を乗せ段蔵は続けた


「事は急がねばなりません!!この戦の「勝ち」は明日を待たずに春日山に報告される事でありましょう!!そうなれば城内は大騒ぎになります。。。その時を狙って虎御前様は晴景様を討とうと行動を起こされる可能性が高いのです!!」



揺れる

何で母上は

何で

兄上を

目眩で顔を押さえようとした私の隣にいたジンが

取り繕うように


「でも。。。御前様一人でどうこう出来る事じゃないだろう?」

質問に段蔵は「本当」に隠さず答えた


「虎御前様の侍女達は「忍」の者たちなのです。。。この時を」

「この時を待っておったのじゃ!!積もる恨みの首を御自ら挙げようとされる母上を誉れに!!」

懸命に私に話す声を金津が蹴破って入った



亀裂。。。。。


頭が


割れる


真っ黒に。。。。染まる。。。。




「誉れ。。。だと。。。」

真っ黒だ

この世は未だ。。いやずっと「真っ黒」な闇だ

私は立ち上がり陣幕の中にいる男どもに背を向け歩き出した

「どちらに!!」


答えなど

答えなど

拳を振るい手を挙げて怒鳴った


「諸悪の根元は全て滅せねばならん。。。。」


目眩と頭痛。。。。

心に響く声は言った

「この恨みを晴らせ!!!」


「おまちください!!!どちらに!!」

足下にしがみつくほどの勢いで転がるように伏す段蔵。。。。。


オマエたちは。。。。「身の内」に「悪」がいる事を。。。私に告げなかった。。。。

怒りは満ちて

心に満ちて

峠の向こう

朝日に峰を照らされた山を斬るように指を指した




「春日山を「撫で殺し」にする!!」




愕然とした表情の男たち

何を今更と踵を返した

兄上をその手で仕留めようなどとする母上をどうして許せるか!!!

そこまでの「恨み」を放置し続けた兄上を許す事などできるか!!!

許すことはない。。。政景。。。。「長き恨みを」


「この恨みを晴らせ!!「積年の恨み」をはらせ!!」



闇は何度も私にただ叫ぶ

真っ暗に染まった心真っ赤に燃える「憎悪」


私は馬に向かって走った


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