その33 私は嵐 (6)
残酷な描写があります。。。。
雷鳴がとどろき大地に光が走った時
暗闇を突き破り
朝日を背負った「影トラ」の姿は政景にもはっきりは見えていた
だが
見えるだけ
体は堅くかたまり腕には痺れさえもあり何が出来るという状態ではなかった
ただ
冷えた体に熱い「恐怖」が汗になって流れるだけ
それは
そのままこの軍団「政景軍」の全てをも見事に現していた
本陣を囲んでいた旗本衆の姿は
出陣の時に見た「威風堂々」とした胸を張った煌びやかな部隊ではなかった
水に濡れた紙切れのようにボロボロに崩れていく鎧達。。。。その輝きを飾るのは
「血」
流される赤い熱い血と肉を刻まれ溢れ出した「中身」
本物の
「戦」に対して脆かった上田家臣団は
その弱さを補い合う事などまったく出来なかった
出来ることは共に倒れて行くことだけだ
激突してきた「栖吉」に
諸手をあげて涙を流し悲鳴をあげて敗走して行く
その背中を槍で突かれ
投げられる石で頭を砕かれ
槍と刀の輝きに虹が架かったように見える「血しぶき」は少しずつ姿をあらわした朝日に照らされ
今までで一番煌びやかな装飾に変わる
紫水晶の粒のように美しく煌めき大地の元に。。。。骸の体を飾るのみ
政景の目の前
中井が大きな声を
もはや喉から煙りが出るほどにすり切れてしまった声を上げ指示をしているが
指示は届けども
理解が返ってくる事はなかった
誰もが自分に「助け」がくると思いこむだけで手一杯の状態
指示など
無意味。。。
暗闇の夜こそ終わりを告げつつあるのに
「政景軍」に降りかかった漆黒と「絶望」は振り払うことはできず
けして晴れる事のない闇として覆い被さって来ていた中
震えた己の足をひっぱたいて
政景は自ら床机を蹴倒し立ち上がり槍を持ったが
心はすぐにへし折られた
「政景!!!!」
槍と怒号
男達の戦場という黒い波の間を切り裂く声の主
「影トラ。。。。ァァ」
政景の口には震えが走っていた
うまく言葉を発せられないほどに唇は引きつり
喉の潤いは失われていた
上がりきった息がもれ苦しい返事
頭の中はもっと混乱している
まさか「大将」自らが突撃してきて自分の首を獲りに来るなど考えられなかったが
現実はそのまま
怒りの声の主は馬にのり「鬼」を連れて向かってくる
槍を身構えた政景の前
中井が叫ぶ
「殿を守れ!!!与一郎!!勝六!!彦五郎!!」
陣幕の中
連れだってきた若い仲間「近習」たちも政景本人と変わらないぐらい震え上がりながらも槍を身構えた
風が目の前を走る
迫り来る「影トラ」を政景は見つめた
兜をつけず
髪を「炎」のように振り乱した
赤き衣の「鬼神」
煽られて見えた目には「殺意」が
口元は嬉しそうに静かに動いた
「死ね」
覆い被さる錘
政景の体はいきなり押され崩れその上に「何か」が落ちた
体全体を覆うように
倒れ込んだ政景の目の前に槍が落ちている
生暖かいものが首筋をつたう
目の前を追った黒い闇の果て
赤い痛みで息を吹き返す
圧迫された体から
声にならない叫びで自分の近習を呼ぶが聞こえるのは激しい「歩行武者」の足音とひたすら続く「怒声」ばかり
帰らぬ返事に諦め
手を伸ばし
痛みの元を確認しようと首を振る
押されたために失っていた感覚を少しずつ取り戻し
手を。。。指を動かしてみながら息を整えた時
「わ。。。若殿。。。政景様。。。」
政景は己の体を覆うように落ちてきた者がやっとわかった
「中井。。。中井!!」
自分の前を守った老将の声は掠れ震えどこかから漏れてしまっている
息はヒュウヒュウと心許なく継がれる
「中井!!」
立ち上がらない家臣の体を起こし
顔を向けた時に。。。。それが何かがわかった
中井の首には「影トラ」の放った矢が刺さって
首。。喉の下を貫き右肩の後ろに鏃は肉を裂いて飛び出していた
声はその「血」の穴からも漏れるように聞こえていたのだ
「中井!!」
政景の目には涙が
夢中で矢を引き抜こうとしたが中井はその手を。。。それでも「最後」の力を使って止めた
止めた手
雨に濡れ泥を掴み守りに徹した手が政景の顔を。。。。叩いて
「若。。。退くのです。。。もはや。。。これまで」
髭に口からあふれ出た「血」が全てが赤く染めた時。。。中井はそこまでやっと言った
そして
風の漏れるような音になっていた声は止まった
「中井!!爺!!!」
息は静かに消え
目に光は無くなった
政景は中井の体を揺さぶりながら抱き起こし周りを見て
それでもなお己を奮わし周りで昏倒する兵たちに叫んだ
「柿崎殿が来るまで!!!まだ負けてはおらん!!!」
だが
誰もその声に心を止めなかった
ただ中井の足下
泥にまみれ背中に矢をいくつも飾ったまま転がっていた使い番が
体を起こすことなく下から政景を仰ぎ見て答えた
息も絶え絶えしかし
「皮肉」を告げるためにか歯を見せて
「柿崎景家」殿。。。。とうの昔に返り忠いたしております」
膝が崩れ力が奪われた。。。
政景の目の前遙かに先を
走り抜ける「影トラ」
それに続く大きな「守護代旗」が米山の峠を登って行く
その先「真成る主君」の登城を待ち旗と槍を構えた柿崎が見えた
「絶望」が政景の心の奥を砕いた
息を失った中井の肩を押さえたまま政景は叫んだ
「勝六!!!与一郎!!!答えろ!!!」
それは呼ぶというよりは泣き叫ぶという声
見捨てられた子供のように
ただ泣き叫ぶ
めまぐるしく動き消えていった守りの者たちを探した
捜しながら
目の前の惨状を見ながら
何故こんな事になってしまったか?
何故こんな所に来てしまったか?
頭の中には色んな思いと
「晴景」の言葉
「父。。房長」の言葉
「国分」「樋口」の言葉
「影トラ」言葉。。。。。。
何故。。。。それほどに「大事」な事であったこの「戦」の中身を知ることが出来なかったのか?
手のひらに広がる
まだ
温かい中井の命。。。。「血」に涙がこぼれた
これは。。。
「貴方に「義」は無い」
「影トラ」の言葉が鮮明に脳裏に響き渡った
「義」無き「守護代軍」は滅びた。。。。
絞り出すように助けを呼んだ
「勝六。。。。与一郎。。。勝六。。。与一郎。。。答えろ。。。。」
あたりを見回し何度も呼ぶが答えは「血」の溜まりに沈んでいた
「勝六」はすでに首が無くなっていた
切り取られ後の首
木の幹のように残っている
体にはあの大男たちの飛ばした「犬槍」が二つ
腹を抉り肩を変な角度にはね上げ千切れそうに腕をぶら下げていた
「与一郎」は。。。。。顔がわからなくなっていた
顔に槍を受けてその頭蓋は「破裂」していた
体はただ。。。。驚いたまま「恐怖」の最後の時を焼き付け両の手は「天」を仰いだまま倒れていた
それが「与一郎」とわかったのは。。。。
あの自慢げに着けていた輝く青色の甲冑のおかげだった
政景の近習
それももはや無言の死に体になってしまった
「戦」の仕事に働かない体に。。。。輝く鎧など。。。
政景の手の中
そして見える全てには「死」しかなかった
その目の前を艶やかに飾った兜首である政景を見つけた足軽が殺気と褒美を見る目で殺到していた
「爺。。。もはやこれまで。。。」
目を閉じた
せめて最後の顔が情けないものでないために
風を切る「槍」の音
迫る乱暴な足音
「御首頂戴!!!」
最後。。。
その声は遠かった
迫っていた足音たちは大地に転ぶ
ぬかるみにニブイ泥の音
覚悟を決め閉じた目を開けた政景の前。。。。雑兵を蹴散らした男は大きな声で
「遅くなりました!!!殿!!!」
「彦五郎。。。。」
大きな背中
頭に木綿の布を巻き付け血に染まった顔を汗と雨に濡らした彦五郎は声を上げた
「国分隊!!!樋口隊!!!殿を守れ!!!」
囲みを破って本陣に殺到していた兵をなぎ倒す男たちは
みな傷だらけだったが高い「士気」を纏っていた
国分隊
生き残った樋口の部隊までつれて彦五郎は本陣まで走ってきたのだ
「中井様。。。。ご無念。。。」
振り返った彦五郎は政景に肩を支えられたまま生を終えた中井に向かって手を合わせ無念の瞳を指で閉じた
「彦五郎。。。。」
「申し訳ありませんでした。。。。遅参。。。まことに」
政景は首を振った
絶望の「戦」の中「義」無き自分は捨てられる者だったところを
あれほどに邪険にしていた彦五郎が助けに来た
その体に数多の傷をおったまま
「彦五郎。。。佐渡守は」
「父は。。。。もう」
血がつたう目の中に涙は光った
それを手が拭い振り払って
「殿!!退いて下さい!!ココは我らが防ぎます!!死んでも防いでみせます!!どうか坂戸に」
「彦五郎!!」
立ち上がり防戦という最後の「戦」に己の死に場所を見つけた彦五郎の肩を飛びつくように政景は掴んだ
「もういい!!行くな!!与一郎も。。。勝六も討たれた!!この上。。彦五郎オマエまでいなくなってしまったのなら。。。わしは。。。わしは。。。」
力は肩を掴んだ手にだけ宿っていた
彦五郎に十分に伝わるほど政景の「痛み」そして「後悔」だった
敵をあなどり多大な被害を出し
多くの家臣を「死」に導いてしまった大将の「哀願」を
彦五郎は受け入れた
「わかりました!!ならば今すぐココから退きましょう!!影トラは必ず「追い落とし」に入ります!!下で待ちかまえる栃尾軍の間を縫って「坂戸」に」
政景に掴まれた手を握り替えし涙の彦五郎は吠えた
「必ず!!!必ず!!坂戸まで殿をお守りします!!」
彦五郎の熱い返答に頷いた政景は今は手も届かない遠い峰となった米山の峠に。。。
頂に顔を向けた
燦然と朝日を浴び大きく翻る多数の「長尾守護代旗」
風は強く大旗に「命」を与え
並ぶ数多諸将の旗に共をさせていた
雨は。。。。。終わっていた
「長尾守護代軍」の名に足りる事のなかった政景軍は敗退した
改訂版。。。。
こんちゃ〜〜後書きからコンニチワ〜〜ヒボシです
なんかすごく久しぶりです〜〜
後1つ書いたら「私は嵐」の章が終わり
新章に入り。。。。
終わりに向かって加速していく事になります
ところで。。。。。
「祠」の章から向こう十話程度を改訂しました
以前は「初陣」「吉報」の章の後すぐに「別れ」に繋がっていたのですが。。。。
それだと「陣江」の存在があまりになく
そんなに存在感がないのに(藁)トラの事でいっぱいって。。。。と作者的にも「可哀想」かな。。という事で
間に「祠」の章を先に入れ直しジン君の救済をしました(爆笑)
いやいや
本当
もっと作者の稚拙すぎな進行状態で書きこぼして締まった部分がおおすぎた結果
修正。。。。「改訂」もやむなしという事でなおしました。。。。
ごめんなさい。。。。(涙&陳謝)
さらに一章分を削除しました
長くても意味のない章があったのなら「無駄」なだけなので
そんなドタバタなヒボシですが
これからラストに向かってがんばって遺構と思ってますのでよろしくお願いします!!!
次回は後書きに人物評も書きます〜〜〜〜
ひさしぶりに
それではまた後書きでお会いしましょう!!