その33 私は嵐 (5)
ちょっと残酷な描写があります。。。。
海を分かつ勢いで軍団は進んだ
もはや止まる必要などなかった
最初の攻撃でもっとも優秀であった将を失ってしまった守護代軍をまとめる事など絶対に政景にはできない
私にはわかっている
最初に
あの砦の会見の時にあった政景を思い出す
「戦」を知った口をきき
私たちの戦いをあざ笑い見下した者
あんな者に人を御する事はできない
「戦」に従う心とは。。。戦う集団の「恐れ」という心を御してさらに「前に進む」ための勇気を伴うものだ
花見にでも来たような気持ちで栃尾を見下し民心を濁らせた奢りの代価
その上に自分の良くを実らせようとした事を
私は絶対に許さない
「さあ!!払ってもらおう!!」
石川の開戦で一時止まった私たちを恐れ「米山峠」まで後退した守護代軍に向かって私は自ら前に進み拳を上げた
「旗挙げろ!!!」
声高き指示に実乃を中心とした栃尾衆がココまで運んできた大きな包みを開いた
それは
今までの軍旗の二回りは大きな「長尾守護代家の旗」
以前
黒滝に最初の仕置きをした時「旗が見えなかった」と反逆者は言ったらしい
背く者は己の「卑しい」欲を隠すためにくだらない言い訳を平気でする
濁った目にはたしかにあの小さな旗は見えなかったのかもしれない
ならば
大きく
さらに大きく「志」を現し我らが義成る軍団である事を高らかに示してやろうと思っていた
この大き示された「義」の前であのくだらない言い訳がもう一度できると言うのならば
それは完全なる「邪悪」でしかない
もちろん
政景にはそんな根性はないだろうが「強欲」に屈して栃尾を攻めた事は「不義」に代わりもない
兄上のあの一声以来すぐに栃尾の女衆たちに支度させた「大旗」は
山より吹き下ろす風で大きくはためく
その雄々しい姿に私は微笑んだ
なんという心強さ
拳を強く握りしめた
私と同じく旗を見つめる頼もしき軍団もきっと同じ気持ちのハズ
それにしても
もはや私たちの目の前から尻を向けて逃げた軍団が「守護代軍」などと名乗っていいわけもない。。。。
そんな軽々しい名であって良いわけがない
義無き軍団は既に崩壊の一途を辿っている
ばらけて行く姿は惨めを通り越し見苦しいばかりだ
そうだ。。。。あれは「政景の軍」
政景の浮かれた心をそのまま映し出した「欲」の軍団
容赦などいらない「悪」なのだ
雨と風
薄く開ける夜の下大きく揺れる旗
私の濡れた髪も緩やかに揺れ頬をうつ
「申し上げます!!!「政景軍」米山峠前に着陣!!しかしながら軍勢の大半が混乱離脱の様相!!どういたしますか?」
空穂と弓を携え行く先を睨んだ
「我らがすべき事は変わらない」
私の決意
それを矢に乗せて弓につがえ
「越後の国の行く末を踏みにじった政景にあるのは死だけだ!!!」
私の後ろに並ぶ勇士たちに構えた矢のまま決意を告げる
「聞け!!我らこそが「長尾守護代軍」である事を示し愚者たる政景に裁きを下してくれようぞ!!!」
迫る朝日に押される怒号
振り返り米山の尾根を見る
照らし出された山並みの向こう
そうだその先にある春日山
兄上にこの「戦」の真意と始末についてはっきりと答えを聞かなくてはならない
紫の空に矢を放つ
私は。。。。。。兄に弓を引く
「参ります。。。。」
放たれた矢がごとく戻ることなく我らも前に進め!!!
ココに栃尾,栖吉というただの衆目から一つの目的のために立ち上がった軍勢「長尾守護代軍」は気勢挙げた
「応!!!!!」
いち早く先頭をきったのは「栖吉」金津率いる三百の部隊
先に「樋口兼村」を討ち取った事で十分に弾みはついている
まっしぐらに進む
「やたろー!!私とともに本陣に進め!!」
木楯を構え馬廻り衆「秋山」「安田」共々私の前に立つ「やたろー」「善治郎」と仲間たち
身構えるジンにやたろーは言った
「ジン。。しっかりついてこいよ!!おトラ様を守って真っ直ぐ進むんだ!!」
励ましに頷きながら私を見る
「トラ。。。。大丈夫か?」
「ジン。。。遅れをとるなよ」
少し不思議な感じだったこれほどに気合いの乗りが入った軍団の中にあってジンの顔には
不安がある
私は優しさを示すつもりで首を少しふって
「大丈夫だ」
緩やかにした声で答えた
でも
ジンはまだ何かを言おうとしていたがさすがに今はそんな悠長に話し込める時じゃない
そんな彼の思いを振り払い後衛に指示を飛ばした
だけど
この時ジンが私に対して危惧していた事は。。。。。
「実乃!!栃尾本隊は峠の上に旗が立つことを確認した時!!その時こそ総攻めの時!!頼むぞ!!」
「お任せを!!」
胸を叩き忠義を刻み込む実乃
全ての指示が終わった
先を行く栖吉。。。。。さあ
さあ
参ろうぞ
「我に従い進め!!!」
男達は拳と槍を挙げた
怒号と気勢を響かせ今,強き「義」の元「長尾守護代軍」は米山峠に向かって走って行く
目の前
すでに
崩壊を止められず藻くずに近い「政景の軍団」が見えた
ぶつかる気力さえ石川に忘れてきたのか「栖吉」の最初の突撃を食らって惨憺たる状態だった
先手で残されていた槍隊はすでに人ではなく「槍」そのものが転がり
武具を残したまま兵などは逃げ出している
背中を串刺しにされ血反吐の海に沈む者を助ける事も出来ず踏み倒して逃げる愚か者達
その向こう
私の位置からでも
守るべき本陣の姿が丸見えの状態だ
「無様だな。。。。」
手をかざし顔にかかる雨粒を素早く払う
睨む先にある政景に目が尖る
あの顔。。。。
良く見えるさ
何にそんなにおののいている
なんたる情けない顔だ
それが「守護代旗」を掲げた軍団の大将のする顔か
政景とその近習たちが何をやっているかは「ワカラナイ」
みなバラバラに何かを叫び
見苦しい声を上げている
この状態において「大将」の行動が見てワカラナイ事になっているのだからもはや「軍団」が機能していない事は明白だ
唯一白髪の男が枯れんばかりの大声で陣の内外に向かって指示を飛ばしているようだが。。。。
「虚しい事よなぁ。。。」
私は空穂に手を伸ばし矢をとった
そのまま
「栖吉が前衛を引きつけている間を割って本陣を強襲する!!前を守れよ!!やたろー!!」
指示とともに楯を挙げ馬で走る私の前を守り走る男たち
その道の先に静まっていた空の合間を縫った雷鳴が響く
来る朝の向こう
夜は最後の咆哮を挙げ
激戦最後の火花を大地に咲かせた
「美しき」道しるべ
示され道。。。。「戦え」と闇は吠え私は体を奮わしまっしぐらに本陣に向かう
気合いで体は熱くなる
最早雨も風も私の体の一部だ
これほどに。。。。
「私は嵐だ!!!」
偽りの「義」を振りかざし不埒な安らぎを謳歌するオマエ達の嘘の衣をはぎ取る
そして
私は「炎」だ
炎国の鬼たちもが恐れるほどの紅蓮の炎をオマエたちに焼き付ける者!!
勢いよく進む私たちの一軍の前
栖吉の勇士を率いる金津は抜群働きをしていた
先手はもとより中軍に未だ陣をほどいていなかった旗本衆までおも混乱に陥れ
大きな声で名乗りをあげた
「鬼人」の降臨に逆らえる者などいない
鉄槌たる槍は政景の旗本たちを次々と屠る
頭を砕き
血の雨と吹き出す霧
朝靄に生ぬるい暖かさ
千切られた体からあふれ出た血と臓物。。。寒さ近づく山麓に湯気の山を築く
恍惚に私の口元は笑う
それは報いと
阿鼻も叫喚も
私に対する「恐れ」は全てが「賛歌」である
オマエたちの安寧と欲望の果てに死を
泣いて
泣いて
泣いて
自分たちのしでかした「欲」の業火に焼かれて死んで行け!!
「私はこの先の道を切り開く者なり!!!」
目の前に迫る本陣前の抵抗はまるで無力だった
私は馬の鞍から少し腰を上げる
矢をつがえ体をしならせる
それに合わせたようにやたろー達も槍を担ぐ
目の前
驚愕の面を情けなくも晒した。。。。。間抜け者に叫んだ
「政景!!!!」
死ねと