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その33 私は嵐 (3)

白髪の猛将「国分」の肩が力をなくしたのが私の目にも確認が出来た


「良くやった」


目の前「渡河点」を争っていた国分隊の耳に届いた

樋口兼村ひぐちかねむら討ち死に」の報(報告)は守護代軍前衛隊の士気を素早く奪ったのが良くわかった

近づく朝に合わせ少し強くなった風までもが止まってしまったかのように思えた


「本陣」を再編成する時間稼ぎのために己を犠牲に前に出るという「高潔」な意志をもった国分の兵たちにとっては雷に打たれるがごとくの事だ

押し合っていた楯の兵がその場に何人か膝から崩れた



そうだ

火を並べ踊らせた私たちが囮だ



火を前に私が指揮をすれば必ず国分は私たちにぶつかってくると読んでいた

そして

時間をかせぎ本陣を後退させる

陣営側「右翼」に突き当たるように戦線を開けば当然「左翼」側に残っている部隊が詰めてくる

二段の殿しんがりとして

だが目の前で起こっている「渡河点」の争奪を見られる位置にあった事で。。。。

左翼の最深部「沼側」の警戒を怠った


黎明の時間

闇に乗じた「石礫」の攻撃は予想以上の相手り危機感を引き出す事に成功したのだ


石川のような小さな川で「渡河点」を探す理由など無い

理由があるとするならば

守護代軍の前衛先衆を引きつけ。。。。どちらでも良かったが「殲滅」させることだけ



実際にどちらでも良かった


国分であろうが樋口であろうが私が彼らに与える処断に区別はなかった

どちらもココで死んでもらう

無能な戦いに従う者に明日など必要あるハズもなし


こんな戦に「懸命」になる有能な指揮官がいる事の報が許し難い

何故

「有能」で「戦上手」とまで言われた者達が病んだ越後を癒す事がではなかったのか?

ココまで行軍してくる間私の頭の中にはその事をずつ考えていた




空は紫に

夜明けを近づける色

台地の向こう側

国分たちとは別の側にて「栖吉衆」は前線最大の功績を高らかに叫び続けた

相手の意志を砕き

相手の心を折るために

並ぶ軍団は足踏みと石突を鳴らし


槍の先高くに掲げられた「樋口」の首を見せた


しはじ留まり今一度の考えに耽った自分の意識を「戦」に戻した



「良し。。。。。栖吉は良い仕事をした。。ココはもう終わりだ」


私は実乃に後ろに並んだ軍団を前に並ばせるよう指示し

同じく渡河点を争っていたやたろーたちも河岸に退かせた

もう

大げさに。。。しかも「遠慮」しながらそこにぶつかる必要はない


この先は小賢しい策など必要としていない

堂々と「義」の戦に進むのみ



政景まさかげ殿本陣米山峠前に後退しました」

「逃がしはしない。。。。」


私は兜を脱いだ

視界を狭くしたくなかった

顔にかかる髪を手で払い少し遠くに見える丘陵を見あげた

台地の上は私の位置からは見る事はできない場所だがその先がどうなっているかはすでに理解できていた

風が運ぶ雨は勢いを上げていた



兵を治めた私の前

向かい側の河岸に国分の残った者たちが固まり防戦の陣を作っているのが見えた


「大丈夫。。。オマエたちもすぐに逝ける」


風は追い風

国分の部隊は目の前に栃尾衆

後ろに栖吉衆とすでに逃げ場の無い状態


「降伏を入れますか?」


全軍の状態が整った事を知らせた実乃は私に聞いた

「入れない」

私は国分の部隊を刀の先でさして言った


「国分は降伏などしない。。。。気高い部隊だ」


そこまで言って

今更何に努めても無力な国分の部隊に背を向けた

馬を返し並んだ全軍に顔を向け

少しずつ朝日の白い空が見え始めている

それを背に整然と並ぶ武士もののふ


汗の雨で濡れた顔を見て回った

誰も気後れしていない



「祈れ」


並ぶ者たちの前を歩く

刀を胸の前に備え捧げる姿でもう一度大きな声で



「祈れ!!」



静寂川の音と雨の音。。。そして風の音

胸に拳を打ち付ける

みな構えちまま私と同じように胸に拳を付ける



「これより米山峠を越えるこの「戦」の決着をつけよう」


慄然とした美しき意識纏う軍団よ

共にこの結末に走ろう


馬上にてゆっくりと振り返った

雨雲を伴って堕ちて行く闇の側に

我らは雨と共に来る「朝」を背負って行く


この峠を越えた向こう「春日山」がある

知らねばならない大切な事を。。。。。ケジメをつけて頂こう

全ての意志がまとまり進軍の声を上げようとした




「トラ姫!!覚悟!!!」


静まり祈りを捧げる全軍の前

いつの間にか川を渡った国分の年若い兵の姿

私の真ん前で弓を構えてすばやく放った


矢が私の前に走る

走る?


私は首を傾げた

なんとのろまな「攻撃」か

雨粒さえも止まって見える

ゆっくりと顔に目がけて飛んでくる鏃が雨粒を射通し弾けさせる。。。。


でも

そんなものでは私は倒せない



「影トラ様!!」


実乃とジンが前に出ようとするが


そんな必要はない

私は左手で空を切った凶弾の矢を捕らえていた

何事もなかったのようにやじりを眺めてそれから弓を射た男の顔を見た

真っ直ぐ頭を狙ったのは。。。。なかなかにいい腕だが


だが。。。。

騒ぐ実乃たちの前捕らえた矢を持ったまま



「さわぐな」


急いで私の周りに楯を揃えようとした実乃とやたろーを退かせた

馬の前で呆然としているジンの手からも綱を引き

そのまま前に進む

弓をつがえた男。。。。

年若の男。。。。ああ。。。最初に私たちを見つけた「ガキ」だな



「どうした?もう討たないのか?」


抜いたままの右手の刀を肩に乗せ首を左に傾げて聞いてみた

私の仕草に恐れをなし少年はしりもちをついた



「討てよ。。。。覚悟見せろ」


ガキの顔は恐怖で引きっているのか涙を浮かべ声にならない言葉を吐く

「えっえっ。。。。化け物。。。。」


怖じ気づき倒れたまま後ろに下がろうと見苦しく動く


「答えろ!」

私に向かって放たれた矢を手の中でくるりと回し小僧の顔に向けた


「なんために私に弓引いた?」

惰弱なりに気を張らせた小僧は怒鳴った

「知るか!!トラ姫が「悪い」からだろ!!」

「悪い?」


うんざりした

どういう指示がされていたらこんな阿呆な返答ができるのか?

首を揺らし左手に持った矢をへし折り

さらに馬を前に進めた


「小僧。。。。この「戦」に与えられた「意味」も知らずにノコノコと私の前に立ったのか?」

「意味なんかあるか!!「戦」がはじまりゃオレたち殿様に従って戦うだけだ!!」


転げたまま後ろに倒れそうだった体を起こし威勢良く答えたが

くだらない返事は私の怒りの火に油を注ぐだけだった


「阿呆が。。。己の中に「戦う意義」を見いだせないのであればそんな「戦」にどんな価値があるか?」


ジリジリと近寄った馬の真下で怯えと「困惑」を顔に表す小僧

それとは別に握ったままの刀を大きく挙げた

「私は戦う。。。。その意味しりその意味を問うために」

そのまま小僧の鼻先に振り下ろした



「このまま死んだ方がいいやもしれんな。。。。」


私の歩に合わせ栃尾衆は前に進む

河川に沿って出揃った軍勢

全ての準備は整った

もはや足下で声も出なくなった小僧には何の用もなかったが最後の声を掛けた


「オマエが主政景まさかげにとって戦う意味は己の「欲」によって作られた言い訳でしかない。。それを見破れなかったオマエ達の浅はかさは許そう。。だが「義」によって戦をする私に弓引いた事は決して許されない事だ。。。。」



光る雨止まぬ悲しみの空

微かに見える朝日の下に涙はまだ

天の悲しみはまだ

大地に降り注いでいる


大きく両の手を開いて顔にいっぱいの「涙」を受けて叫んだ



「守護代軍に向かいただ戦え!!!首など取らなくて良い!!二度と刃向かう事のないようにただひたすら屠れ!!」



「槍隊構え!!!」

実乃の声が響く

やたろー達が構える

先発する栖吉

馬廻り緊張を走らせるジン



「これより本陣「長尾政景」を打つ!!!我に従い進め!!!」

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