その33 私は嵐 (1)
「何だあれは?」
小さな川である石川の河川に「慎重」に兵を配置した私にとって目の前に現れた「守護代軍」の程度の低さは許し難いものだった
私の目は鷹の目だ
段蔵たちが最前線から様子を調べを持ってくる前にその「ありさま」に気がついていた
苛立ちで拳を馬具に何度もぶつけた
なんという。。。。
なんという
だらしのない覚悟だ!!
小川を挟んだ向かいの岸に陣取る彼らの「寝息」が聞こえる
小雨の中に焚いた火を囲むように寝ころぶ兵たち
そんな者たちが栃尾をありもしない「大儀」の元に討伐に来ていた事に
奥歯をキリキリと合わせた。。。声をまだ。。荒げてはいけないと自分を抑えるだけで体は芯から熱くなった
「栃尾衆」が緊張の弦を「獲物」の前まで引き続けてきた
そういう糸が私の中にも張られている
炎の前哨戦から向こう
やまなかった雨の中を「栃尾軍」は静かに「音」を出すことを堪え進んできた
「戻らぬ戦」のために
農兵以外に移動のための手が必要だったが
大小荷駄隊に栃尾の農夫達が付き従っていた
「砦の戦」の前には刈り入れの大仕事をこなした者たちが引き続きその力を忍ぶ我らに貸していた
みなが決死で覚悟でやってきた。。。。
この数で我らを圧倒的上回る軍勢と相対するために
まだ見えない「恐怖」に向かい
耐えてココまで来た
もちろん私は期待に応えるべく「策」を練りつづけ
報(情報)を繰り。。。。
戦うための計算をしてきた
全てを円滑に働かすために私はあの「砦の戦」以来眠ってさえいない
なのにどうだ
目の前に陣を張る「守護代旗」は。。。。あまりに杜撰
。。。。。
そして小さく見える。。。。。
「これが権威だと?あの旗の下でいっいどんな治世が行えると言うのだ?」
雨は兜に染みこみ髪は十分に濡れていた
私は額にかかる露を払いながら実乃のに問うた
馬を並べて進んでいた
実乃の「戦」に望む鋭い目にも怒りが宿っていた
「亡き親方様(為景)も「越後」のために眠らぬ「戦」をしてまいりました。。。。その弛まぬご尽力の上に「長尾守護代家」はあったというのに。。。政景は何も知らぬたわけ者です。。。。駄馬にございます!」
吐き出す声
拳に熱は灯り震える
そのとおりだ
背負うべき荷物の重さに腰を降ろし伸びきってしまった「馬」
そんな馬は役には立たない
役立てる方法があるとするならば。。。。
血肉となって「病」を得てしまっている「越後」を癒すことだ
そうだ。。。政景のような役に立たぬ者は「地」にかえさねば。。。
目がそれを嬉しそうに笑う
「河川に沿って「火と石」の支度整いましてございます」
静かな激怒の中
頭の中に渦巻く「闇」に私は酔い始めていた足下
段蔵が配置が終わったことを告げた
「どうしますか?奇襲しますか(夜討ち)?」
「奇襲ぅ?」
揺れる
頭がゆれる
「そんな狡賢い事などせずとも。。。。。起こしてヤレ。。。」
口元に笑み
こんなアホに遅れを取るような事は絶対にない
「起こす?のですか?」
頭を下げたまま「的確」な指示を待つ段蔵に言った
「そうだ「叩き起こして」ヤレ。。。。。火の踊る熱い戦場に挨拶させろ!」
左手
拳で「礫」を投げる仕草を見せた
指示を理解した段蔵は前衛に篝火とともに待機する「やたろー」の所に走っていった
素早い後ろ姿を見て
私の「戦」が滞りなく「美しく」動いている事に満足した
美しい軍団だ。。。。
何も間違ってはいない
手を伸ばし小姓が持つ刀を引き抜いた
「ココは「戦場」だ。。。そして「私は嵐」だ。。この山をなぎ倒し真っ平らにして行こう。。。。」
頭に守護代軍の「ニブイ」緩慢とした動きに「越後」の遅々として進まなかった「安寧」を思い浮かべた
今ならわかる。。。。聞くだけだった亡き父。。。「百の戦をした男。。戦鬼為景」
百も戦わねばならなかった理由が私にはわかる
父上ぐらいだったのだ
「厳しく」世をしめて激しく戦い「嵐」を起こし目を覚まさせる
「戦は間違ってはいない」
自分に言い聞かすように今まで漠然としか見えなかった父の姿がしっかりと私の中にあった事を確信した
逆に
そういう地から浮いてしまいそうな「根拠のない」自信で名前だけを欲しがる政景を許してはいけないと悟った
そういう事流れの末に「地位」だけを子供のおもちゃのように欲しがるなど。。。。愚の骨頂だ
だからこそ。。。それほどに根無しな者ならば「嵐」によってどこかに吹き飛んでいってくれればイイのだ
ゆうゆうと胸の前で刀をかざす私のは
実乃はたまりかねた怒りの感情を爆発させた
「まいりましょう!!」
並ぶ諸将たちも同じだ
真ん前に横たわる無様な軍団を引きちぎり食い尽くそう
「戦」に燃える目を持つ雄々しき獅子たちよ
共に「狂え」
大きく刀を挙げた
私の周り
「篝火」に続く火の束がかざされ
栃尾の全軍に解るよう堂々と前に進む
心も体の静かに揺れる馬を曳くジンの手にも松明
その先にやっと「闇」からきた「修羅」に気がつき騒ぎ出した守護代軍の兵が見えた
「ココは戦場だ。。。。すでに手遅れだ」
逃げて行く小さな男の背を見ながらさらに高く刀を挙げた
小川の端に投げ捨てられた「桶」の音
開始の音がカラコロと虚しく。。。。
始めよう。。。。。
「鼓を打ち鳴らせ!!!雨に火を!!馬鹿どもを叩き起こせ!!!」
刀を振り下ろした!!
声を響かせた
その声に「栃尾衆」そしてこの「戦」にしたがった将兵たちが唸りを上げた
「応!!応!!応!!」
響く怒号に続く凶器の雨
そうだもっと吠えろ!!もっと!!
闇の空の下
「嵐」を呼べ!!!
朝の遠い雨の中に飛ぶ「石礫」は次々に寝呆けた政景の前衛隊に当たって行く
天によって下された「見えぬ罰」に打たれあっさりと倒れる者たちを指さした
「それこそが天罰覿面!!!義なき者はココに滅びろ!!」
ジンの曳いていた手綱を自分の手に取り戻し
馬を前に走らせた
この「罰」を
この「怒り」を
直接顔の見えるところで政景に食らわしてやらねば腹の虫が治まらない!!
やたろーたちの近くまで走らせる
寝る間さえ惜しみ行軍してきた大男たち
今この場でも惜しむ事なく「石」を投げ続けている
守護代軍の前衛は「砦の戦」の時のようにはすでに「対処」できなくなっていた
楯を上げる間もない
それでも
おそらく「国分」の手の者たちか我らの渡河点に備え前衛に固まりをつくろうとし始めている
「やたろー!!!半分の人数を弓隊に切り替えろ!!!渡河点を奪う!!」
栃尾の前衛を仕切るやたろーを動かす
もう後ろを守って戦う事はない
あるのは前に
前に進むことだけだ!!
そして
前を行くことに歯向かう者をなぎ倒す!!!
素早く出揃った弓隊に川岸の一点を刺して
「焼け!!!」
渡河点に向かって火矢は容赦なく向かっていった
また
一方的に降り注ぐ狂気の中
着々く歩を住進める栃尾軍とは逆に守護代軍の川岸に詰めていた大半の前衛は「崩れ」始めていた
川の向こう側でまともに機能している「守護代旗」はない
かろうじて防戦している国分隊が哀れに見える
少し白み始めてきた紫色の空の下右往左往する兵たち
「悲鳴」
と
石礫の激突によって潰される「骨」の音
途切れる終わる「息」がそこかしこに聞こえる
「まだだ。。。。まだ。。」
息が弾む
国分の部隊が律儀に「本陣」が動く時間を稼ぐために前に固まっているのが気に入らない
「突撃だ」
こんなところでとまっていられるか
私は顔と胸の間立てるように刀を構えた
「トラ。。。。」
やっとで私に追いついたジンの顔には「苦痛」が見えていた
だが私は肩をたたいて続けた
私はジンに。。。どんな顔で言ったか?
でも声を掛けた
この戦の価値をこの戦の向こう側までを見ている私の事を信じていて欲しかったから
「この固まった軍団。。。後ろに守るべく価値もないものを隠している。。。これは「越後」の今の状態と一緒だ。。。。これを打ち破る事が「嵐」が。。。「今」必要な事だ!!」
そこまで言うと振り返らず馬をさらに前に進ませた
手を挙げ
後ろに従う「栃尾」全軍に激した
「手を挙げろ!!!声を上げろ!!我らこそが「長尾守護代軍」なり!!!我に従い戦え!!!」
栃尾衆は声を上げ一丸となって川に飛び込んだ




