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その6 初陣(2)

ジンの目の前


城内は瞬く間に「いくさ」のために景色を変えていった

城主の「激」は絶対だ

緊張はさらに城人をふるわせ

力になり始めている



あんなに「激怒」したトラをみたのはひさしぶりだった

いままでだって何度かそうなった事がある

心配な事態だ


「怒り」をまとってまるで別人のようになるトラ

その姿は同じ人でありながら


別の。。。

何か「鬼」のようなものにも見える



光育こういくのジンへの「注意」の中にあった事

「怒り」をまとった時のトラを「良く見て」そして「窘め(たしなめ)」

場合によっては

その身で引き留めることを

だから

いつも近くにいてすぐにでもその「怒り」からの介抱をしなくてはならなかったのに。。。


朝の事件の時

一緒に門前まで行ったが。。。



ススまみれの子供たちをみた時

心が凍り付いた

昔の自分がそこに立っていたような錯覚におちいり

立ち止まってしまった




もちろん

自分が孤児になった頃から

そういう存在が今までに「皆無」になったわけじゃない

ココまでくる間だって

そういう「子供達」を見た


十分にそういうった事には「慣れた」と思っていた


だけど

目の前で

母の名を呼び泣く子をみたとき

急にあの頃の自分と姿が重なってしまったのだ


呆然としていた


「ジン。。。子供たちをたのむよぉ。。。」


我に返った自分のとなりに

やたろーが立っていた


「オレ。。戦の支度があるから。。」



やたろーとは栃尾に着いた

翌日に色々と身の上を話した

名を「小嶋弥太郎」という

前日の夜に直江から初めて「加当かとう」という名字をもらったジンは

少し羨ましかった


もともと「武士もののふ」だったやたろーは

このあたりの豪族の元「守護上杉氏」に組みする一派のおさの子どもだった


一度は身を落として「盗賊」まがいな事もしていたが

心根優しき,この武人は

トラに仕える事を「誓い」栃尾についたその日から城下の夜警,総構えの警備など部下を従え参加していた

そしてついに

腕をふるう時がきた事を確信していた


だからか

機敏に動き

戦場いくさばに出ようとしている


「待ってオレも支度する!!」

ジンは慌てた

手を渡された子供を置いて

やたろーの方へ走った


やたろーは着いてきたジンに言った

「僧は子供たちの世話をしろよぉ。。」


ジンは僧だが

トラの元,戦う為に来ていると「自負」していた

「ダメだ。。。子供達を守れよ。。」


真顔でやたろーは向き直った

顔は少し怒ったような感じになっている

確かに「くいさ」の経験では劣るのかもしれないが

それは「トラ」だって一緒,初陣なのだから

だったらそのトラをココ一番で守る事が大事だ


やたろーの中では「僧侶」というのは戦わない存在なのかもしれないが

僧兵だっているこの乱世にそれはない


「オレはトラと共に戦いに来たんだ!!」

そんな事関係ないとばかりに怒鳴った


「僧なのにか?」

「僧だって戦うさ」

怪訝な表情のやたろーの足をけっ飛ばして言った

「早くしろよ!!」




遅れをとるわけにはいかない

そう思って気を引き締めた








山間の物見から栃尾城を伺っていた兵が降りてきた

出で立ちは武士なのだが

その顔は下品に,抜けた歯を隠さず笑っている


「城の方が慌ただしくなってきましたぜ」


複数の男たちは群がって

夜の略奪品を分配していた

「明後日には来ますかね?」

かしらの男は金品を物色しながら言った

「くるさ。。。」


夜に「焼き討ち」をした事を話している

「殿様に言われてるとおり「警告」してやってんのになぁ。。」

警告などと

さも戦略を持ってきている武士のようにしゃべってはいるが

みな口汚く,不潔な身なりだ


「しけた村でしたからねぇ」

物見をしていた男は仕分けられた略奪品を見ながらつづけた


「あの女を斬らなきゃもっと楽しめたのに」


と,こぼした言葉に

まわりの輩も口々に騒いだ

「ホントだ」

「少しは楽しめたのに」

「ガキをはなさねぇからって叩き斬っちまってぇさぁ〜〜」


金さえもらえればどんな狼藉だって働く無頼の集団は

浅ましい行為になんのためらいもなかった

そしてこの男たちは「栃尾城」を狙う豪族「三条衆」に雇われて

偵察がてらに「警告」と称した蛮行を好き放題楽しんでいた


「あの城のお子様城主をやっちまえばもっと楽しめるさ」


頭の男は口を広げて舌なめずりをしながらクックと笑った

「明後日は三条のやつらが来る,戦はあいつらにまかせて俺たちは城付きの女たちをいただく」


男達は顔を見合わせて

「そりゃいい上品な女をたらふく楽しめる!!」

さらに声高に,下品に笑い合った


「びびってにげちまうんじゃないんすか?」

物見の男は言った

「あんだけ脅したんだからなぁ〜」



無頼の男達は我が物顔だった

うかつにも程があるぐらいに。。。


ココがすでに栃尾の領内で「敵地」である事などおかまいなく騒いでいた


守護代長尾の力はもう衰え

どうにもならないから

名だけの子供「長尾景虎ながおかげとら」を呼びつけて

体裁を整えようとしている


そういうふうに聞かされていたからだ








だから

彼らの話を全部聞いたトラに「同情」などはなかった



この夜に「戦」はすでに始まっていたことに彼らは気がつけなかった

そしてこの輩たちが朝まで

生きている事はなかったのだ

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