表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/190

その31 護摩 (4)

「感じるぞ」


気持ちが改まった私は政景の逸る息吹さえ聞き取れる

それほどに

この喧噪の「戦場」は静かに動いている事がわかった

大騒ぎだった一幕の後を取り仕切った男

砦の向かって左を守る武者「国分佐渡守こくぶんさどのかみ

かれの慎重な鼓動さえ手に取るように

聞こえる


息をひそめ「持久」する心が

冷えた汗が

「負けぬ事に」終始した姿が



屋敷の前で指示を待つ使い番の前にゆっくりと進んだ

「国分は動いているか?」

「砦向かって左に展開しておりますが。。。最初の位置からは動いておりません」

展開はしている前にはでない。。。「戦上手」。。。どんなものか?

手を顎に当てこぼれる笑みを隠しながら


「守護代軍は兵を分けたか?」

「いえっ変わりなく全面に展開しています。。ただ政景殿は中軍に下がりました」


。。。。。

中程。。。。下がった。。。。


私にはもう「最後」の絵図まで見えていた

ユカケの紐を自分で括りながら


「右は?」

陣営右に同じく展開している武将を見て聞いた


樋口兼村ひぐちかねむら殿かと」

なるほど

「古狸」の二匹。。。上田長尾に仕える重臣中の重臣が前衛にいる



心の抑えの効かない政景のためにか

わざわざ。。。出張ったか。。。。

もはや

隠さぬ口元で笑う




「残念だな。。。自慢の若君はまったくもっての盆暗ぼんくらだ」


そういうと指揮のために手を挙げた

まるで子供の遊戯に来ていた政景の事を思い出した

目が鋭く尖る

目の前で広がっていたわたしの中の知略の「戦場」が消え

けたたましい喧噪

大騒ぎの「戦」への道が開かれた



こんな騒ぎを起こし「民草」の心を騒がし

理由もわからぬ「降伏」を督促しに来た阿呆。。。それが「次期守護代」になる男だと?

その向こうにいる「兄上」。。。「長尾晴景ながおはるかげ」がそれを望んでいる。。。。だと?


首を傾げた

まだ兜を着けぬ私の髪が風に踊る



そう

「怒り」に踊る

どこも許すことの出来ない相手に


「オマエは越後の大不忠者だ。。。決して私は許さない。。。政景」


上げていた手を向かう右翼に下ろした


「風を招こう。。。。大いなる護摩を焚くために」と








守護代軍の優勢で弓合戦が進んでいる中。。国分はやはり慎重になっていた

あからさまな挑発による開戦

数に絶対的に劣る栃尾軍

なのに何故「戦」を呼ぶのか。。。


「影トラ。。。。」


国分が政景に従ってココまでくる間に知った影トラは噂に違わぬ「大物」だったが


そもそもそれほどに脅威と思っていたわけでもなかった

上田長尾はむしろ「影トラ」の存在を軽く見ていた

それよりも今にも「病」で息絶えるのではないかという「晴景」との駆け引きの方が大事だった

死の前に


「次期守護代」の地位を越後国内に明確に「政景」に譲る



どう言わせるかが常日頃の議題だった

栃尾に配された「妹」影トラの事など女に戦働きなどと「悪あがき的」に考えていたのだ

ところが

「影トラ」は戦が強かった

今まで傍観を決め込んでいた「長尾一族」の中で近年希に見る「強さ」を発揮して中郡なかごおりに蠢いた「三条」を始め多くの離反豪族を瞬く間に平定してしまったのだ


国分はその時から影トラとの「戦」は避けては通れないのでは?と思っていた

いや

それ以上に脅威に思っていた

中郡を難なく平定した影トラと現守護代の晴景が手を組めば絶対に「戦」と言う道を通らなくては上田長尾に「守護代」の地位は入らないと感じていた



「頭が予感してたとおりになりましたね」


神妙な顔で物思いに耽っていた国分に

隣を守っていた「室坂」が声を掛けた。。。彼も古くから国分に仕えた武士

主の予感を信じていた


ただ頷く


鋭くなった「戦」への感



それは苦渋の道から産まれた

我々は落人だ

関東に覇を成した「千葉一族」に組みする栄誉ある者だった。。。。




だった


だが守るべき主家を無くし越後まで流れてきた


「栄枯盛衰」


栄えある者は負けたら二度とその栄華に戻る事は出来ない

あの苦しみが


常勝影トラに対する危機感を上田長尾に知らした

「早くに守護代と手を結ぶべきです」

政景を押して春日山に参勤させたのはそういう理由があった

そして事件は起こった



「長尾影トラは守護代の地位を狙って候」



千載一遇

運を引き寄せるのは我らだこんどこそ主家を輝かせねば。。。。と


だが。。そこから先が実際の考えほどうまく進んではいなかった

もちろん晴景との提携を進めたのは国分の案ではあったが

何故かそれを逆手に取られたような具合になってしまっていた


「守護代」の地位を「餌」に晴景に操られるような状態でココへ




政景。。。。次期上田当主は我慢がきかなかった「力」にまかせて「戦」に出てしまったが

それでも大軍勢五千という華々しい戦なれば。。。逆に多くの軍勢を動かしたという事実を誇張して「戦後」はすんなりと守護代になれるか?

ぐらいに思っていたが

後から後から噴出する問題を抱えながら戻れないところまで進んでしまったことを国分は今更ながら後悔していた



何よりもの後悔は

目の前で初めて見た影トラの姿

予想を上回っていた。。。ただの「女」ではなかった。。。政景を上回る度量をもつ武士


自分たちの矢を見てあの「女」は平然と笑った。。。。。


あの笑みは。。。。危険でしかない


「室坂。。。絶対ココから動くなよ。。。。時は我らに有利なのだ焦ってはならんぞ!!」


今一度と自分たちを引き締めるために「激」した



「頭。。。。樋口隊が前進してます!」

忠告を発したばかりの国分は驚いて自分の向こう左翼の側を見た

「何してる?」

室坂は一度顔をあげあたりを見回す


「左翼にかかる弓の数が減ってます。。。だから前進したのでは?」


左翼にかかる砦側の弓が弱まっている?

いっこうに弱まる事なく国分たちの陣には矢が降っている

国分は猛攻の中を目を凝らし見回した

たしかに。。。。左翼の側は矢が減っている


「やはり数で押し負けてきたのでは。。」

「たわけ!!」



国分は咄嗟に気がついた

栃尾の弓は押し負けたのではない「退いた」のだ


「あれは「誘いだ」!!すぐに樋口隊を留まらせろ!!!」


室坂の肩を押したが

「無理ですこの矢の雨の中どうやって?」

「なんでもいい!太鼓をならすなり貝をならすなりしてこちらの指示に気ずかせろ!!」


国分は自分の側にだけ勢いを衰えさせずに降り続く矢が自分を釘付けにして指示を届けさせぬためのものと知った

だからか。。老将は勢いよく自分の頭を殴った

影トラが姫装束で政景を近くに寄せたのはなにも顔合わせがしたかったから。。。という事だけでなかったのだ

前線に出すぎてしまった国分隊が退くことができない状態で「戦」に突入。。指揮と指示をとどける事が出来ない位置にでてしまっていた事に気がついたのだ



だが。。。

気がつくのがやはり遅すぎた



鐘と太鼓の音大きく響く



「前陣突撃!!!砦を揉みつぶせ!!!」


それは後衛に下がったハズの政景の声だった

後方で前衛の戦いを見ていた政景にとって国分の指示は絶対だったが

全軍が見回せる位置で「戦」を見てしまった事が気持ちに火を着けてしまった


栃尾の攻撃が国分に集中して左側の守りがおろそかになったように見えたのだ


それが甘い「勝機」に見えてしまったのだ


「いかん!!!」


陣を飛び出し政景の元に走ろうとする国分を室坂が止めた

「ダメです出ては!!」

転がる二人の前にも容赦なく矢は降りる

それでも国分は身体を前に伸ばして叫んだ


「たわけ!!突撃してはならん!!!若殿が罠にかかってしまう!!!」


だが

一度転じた「突撃」は止まらない

樋口隊は弓隊を下げ槍隊が勢いよく走り出した


「行け行け!!!影トラの首に縄を掛けて引っ立てろ!!!後に残る砦の品はすべてくれてやる!!居残る者は皆殺しにしてかまわぁぁん!!!」


前衛の樋口隊に続き集兵してきた農民兵たちが我先にと「手柄」と「宝」ほしさに堰を切った


「馬鹿なぁ!!」

倒れたまま国分にしがみついた室坂は言った

「こうなったらこちらも突撃するしかありません!!」


「手柄」を先に獲られるのを指をくわえて見ていられないのは足軽たちだ

すでに国分の陣も浮き足だちそれを止めるすべはなかった

絶句

言葉を失った国分


もはや慎重策は破られてしまった

多少の犠牲に目をつむっても「力」で勝たなくてはならない事態


仰ぎ見る砦の塀

激しかった国分側の弓も弱くなってきていた

あきらかに「誘って」いる


なのに。。。。。


拳を自分の頬に二度三度と打ち付けた。。。。

「やむなし。。。。」


立ち上がった国分は唇を噛みながらも采配を振った


「こちらも突撃する!!!油断無く前進せよ!!」



ついに守護代軍は両翼「突撃」の合図を高くならした







砦の屋敷の前

私はその音をよく聞いていた

すでにこの「戦」は終結に向かって走っていた

「半鐘は鳴りて地は唸る。。。。こい政景」


晴れていた空は顔を曇らせ私の想う終わりを誰よりも理解していたに違いない

「さあオマエ達を清めてやろう!!」


最後の篝火は高く挙げられた

上田長尾家臣団


ちゃ〜〜す後書きからコンニチワ〜〜ヒボシです



米山合戦導入部にて上田長尾の家臣がちらほら名入りで登場

国分佐渡守こくぶんさどのかみ」が暴力的なのはサド(佐渡)だからですか?

という質問メール(藁)

バンバン息子殴ってましたからでしょうか。。。。(微笑ましい)


えっと違います

言われてみて

おおっ!!っとかって思っちゃいましたが


国分殿は小説内で段蔵が説明していた通りで実在の人物です

関東で栄えある要職にあった「千葉氏」に従属した六党の一党「国分氏」というやつです

かつては鎌倉幕府時代に頼朝に従って平家討伐にも参戦した名家ですが。。。。。

戦国時代には関東は。。。。知ってのごとく「北条(伊勢)」に覇権を奪われその他の名家も力を無くし離散してしまってもはや関東に居場所がなくなってしまっていました


落人となり

上田長尾に仕えていたのです

ちなみに「彦五郎」はこの家の息子の名前には多く何代目彦五郎なのかは不明(藁)

バンバン殴られてましたがあれは「教育的指導(爆死)」だと理解してやってください(藁)



暴力的さ加減ではトラだってジンの事。。。結構殴ってますから(藁)

あれも「愛情表現(爆死)」と。。。。


樋口兼村殿もまた実在の人物です

ご察しのよい方には突っ込まれましたがあれです「樋口与六ひぐちよろく」(後の直江兼嗣なおえかねつぐ。来年のNHK大河(天地人)の主人公)の祖父です

上田長尾に古くから仕えていた事はわかっていたのですが。。。。

実際に「戦」の指揮をとるほどの大老家ではなかった。。。のでは。。。と思われます

しかし。。。。

長尾家家臣団というの名前は残っていてもどんな「職」にあったかはあまり記録に残っていないので。。。。まぁちょっと活躍して頂きました(爆)

そのほうがトラにも憶えがいいだろうし(藁)



そんなこんなで筆者混迷もしながら頑張ってます!!!



それではまた後書きでお会いしましょ〜〜〜〜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>歴史部門>「カイビョウヲトラ」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。 人気サイトランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ