その31 護摩 (3)
「やるな」
国分の号令で烏合の衆と崩れそうだった守護代軍はなんとか「稼働」し始めた
あそこで味方を「総崩れ」にしなかった老臣の統率力には素直に感心した
情けない荒れた声を上げていた足軽大将たちも己の仕事を思い出したようだ
見る間に陣形は整えられ
前衛二隊の弓隊はきっちりと出揃った
「素晴らしい」
私は感心して微笑んだ
その目の前に
国分の怒号により起きた男たちの目が
私の姿をぴたりと捉えた矢を猛然と放った
闇を空に。。。。歓喜を誘う「戦」の礼儀だ
恐れなど微塵も無い
舞うように身体を回す
そうだ
かかって来てくれなくては「戦」にならない
そうだ
向かって来てくれなければ「死合えない」
そして
もう一つ残念な事を大きな声で告げたかった
それではせっかくの儀式に無粋過ぎるから。。。。静かに伝えよう
国分の「戦」と「怒り」に輝きを増した目に
「矢は決して私に当たらない」と
優しく笑ってやらなくては
「戦」を慕うておらねば
笑顔でも見せてやらね心も躍るまいて!!
「さがって!!!」
身を翻し大きく開いた両手
「さあ」と
招くように揺れる私の姿を大楯が隠した
「段蔵」と「ジン」が飛び出したのだ
無駄な事
そんな事はしなくても当たりはしない。。。。そう思いながらも
「誘う(いざなう)」という大役をこなせた事に満足し
足を砦に向けた
背中越し
楯に刺さる矢の音
まこと
残念な事。。。。矢は私に届くことなく絶命したか。。。と
「段蔵!!あの白髪は?」
砦の門を閉めさせながら感心を持てた敵の事を尋ねた
「国分佐渡守胤氏名門千葉氏に仕えた六党の一つ北総の雄の出。。。かなりの「戦上手」です」
「戦。。。上手」
閉じられ始めた門に目を向けた
「名門を鼻に掛けぬ素早い判断も持ち合わせているな」
隙間から
一寸
国分の顔は政景と比べるまでもなく「いくさ人」
「強そうだな」
まずは相手を認めなければ始まらない
確認に耐えうる「男」であった
侮ってしまったらその時「戦」は腐ってしまうから
乱杭の間を縫い段々畑のような笠になっている上の屋敷に向かった
心は踊る
進む足を逸らすように
私の後を実乃が走って聞く
「どうしますか?国分はあそからは簡単には動かないことでありましょう」
「動くさ」
即答した
「ヤツは名門の出で戦もうまいのだろ。。きっと即座に退路の確保に努めているハズだ」
「はぁ。。。」
解っていること
国分は名門だったが「落ちて」ココ越後までやって来ているという事だ。。。「落ちた」辛さを経験しているという事は。。心に「退路」を必ず設ける
負けた痛み
失う悲しみ。。。その経験が「勝ち」に昇華されるかそれとも慎重過ぎて「負けぬ事」に重きをおくか
国分は間違いなく後者だ
かつての大戦で主君を失って「落ちた」者にとって「主君」を失ってしまうような「戦」はあってはならない事なのだろう
だから前衛で防戦し本陣に政景を「あっさり」と退かせた
「負けられない。。。負けたくない」だから
負ける事「逃げ道」を頭においた戦。。。
そんな「心持ち」で私に勝てるわけがない
慎重さをみなぎらせている実乃たちに私はあっけらかんと答えた
「政景が出張ってきたんだ必ず突撃してくるさ。。。子供じみたヤツなんだろ?」
神妙に私の顔を見る実乃と段蔵。。。秋山。。。現八
釘を刺すようにもう一度言った
「必ず向かってくる。。。慎重過ぎる国分に政景のような阿呆を抑える事などできないさ」
それでもまだ不安な顔の実乃に指を指して
「影トラを信じろ。。。絶対に負けは無い」
これ以上「心配事」の問答は不要
そんな事より
ココより先の策を的確事俊敏に動かしていかねばならない
「やたろーはどうしている!」
集まった各隊の長たち
止めていた足を屋敷に向かわせながら自陣の状況確認をする
「所定の位置にて現在待機。。。一隊は弓合戦の最中です」
「よし」
「秋山。。予定通りに前陣に展開を開始。。。合図を待て!」
「はっ!!」
戸口のところまで駆け足であがりながら
「段蔵!状況を逐一伝えろどんな些末な事も見落とすな!!」
いよいよ心が大きく盛り上がってゆく
勢い私は振り返った
振り返りそこにあった壁に頭をぶつけた
「あっ。。。」
倒れこそしなかった
目の前壁のように突っ立っていたのはジンだった
「何ぼさっとしてるんだ!!「戦」はとうに始まっているんだぞ!!」
すまなそうな顔とはうらはらにあきらかに「動揺」しているジン
怒りをこらえながらその手を引いて屋敷に入った
そのまま
「具足持て!!!」
準備万端「具足」を持ち待っている近習達の中に立った
つれられて部屋に入ったはいいがまだ「動揺」を隠せていないジン。。。
「ジン。。。これが「戦」だ」
まだ私を見る事のできなかった彼に告げた
言わねばならないこと
「ジン。。私の行く道は「修羅」の青き心の道。。。私は鬼となって先頭を走って行く。。私の行き着く先は「等活地獄」だが。。。私は今ココで私の下知で炎獄の戸を開け大いなる護摩を焚く。。。」
覚悟を
私の頭に宿る「黒い者」は地獄の使者だがこの世でそれを具現しろと私に告げる
だからその最後が「悲惨」であったとしてもそれを行わなければならない
覚悟の言葉は「恐ろしい」響きがたくさんあったか。。。。近習と猪は顔をしかめた
同じ仏門の下にいたジンにはさらに深くに響いたハズだろう
動揺の顔から真面目な顔つきに変わり私を見つめる
そうだ
「戦」は。。。。。「修羅の道」なのだ
だからこそ。。。。
「ジン。。。後衛に下がれココから先の「戦」にオマエは不要。。。猪たちと後ろを守れ」
やはり
ジン。。。。オマエまで「地獄」に連れては行けない。。。そんなものを見てもいけない
オマエには戦って欲しくない
私の心は千切れそうだった。。。「不要」などと。。。。
そこまで言うと顔を下げ具足の装備を続けた
「トラ。。。。」
「下がれと言っている」
何も言わず私の願いを聞いてくれ。。。
「頭でっかち」
ふざけた言葉
私はそれでも自分を保とうと静かに顔を上げた。。。。
前
ジンは阿形の惣面を弛め顔を出し両手を頭の上に大きく円を作って舌を出して言った
「アタマデッカチ!」
思わず身を乗り出しジンの胸ぐらを掴んだ
「私はふざけて言って。。」
「オレは真剣に言ってるの!」
「なんだと!!」
私の掴んだ手をジンが掴む
「トラ!オマエは「修羅」でも「鬼」でもない!!しいてなんかのあだ名が欲しいと言うのなら。。。。「嵐」だ」
「あだ名ぁ!」
真面目にしゃべった私の言葉にまったく聞く耳持たぬの態度
そのまま手を放して私を突き放した
顔を。。。きっと真っ赤にしている私に向かってジンはいつも問答をしていた時のように人差し指を立てて
「トラは祈った者たちのために戦うんだろ?祈りは「御仏」の元に行く。。。その祈りを実行するために戦うオマエが。。。どうして「修羅」なんだよ?おかしいだろ?」
そこまで言うとジンは板間に座った
「トラ。。。オマエは「嵐」だ。。。この荒れ果てた田畑と暗闇の治世がはびこる「越後」に御仏が使わした「嵐」だ」
それだって
私はおもわず殴りかかってしまいそうになったが
「嵐の後は。。。真っ平らな「地」が残る。。。まっさらに生まれ変わる。。。「越後」が生まれ変わる手伝いをするオマエの仕事を。。。それを「修羅の道」だなんて。。。言うなよ」
「ジン。。。」
嵐の後は。。。。晴れる
祈った者たちに降り注ぐ日の光
光を導くための「嵐」
「そうですよ。。。。私たちの願いを叶える方を「鬼」だなんて思わせないでくださいな」
猪は私の肩に「打掛」をかけながら言った
「猪。。。」
周りの近習たちも頷く
「我らは「鬼」に従うわけではありません。。。影トラ様に従って嵐となりましょう」
張りつめいた思いで私は泣きそうだ
「泣くなよ。。。。」
「泣くか!!」
背を丸めてしまいそうだった自分を起こした
「トラ。。。オレはオマエの近くいる。。。絶対に離れない」
「ああ」
私が返事をするやいなや
戸口まで入って来た使い番は声上げた
「申し上げます!!!守護代軍国分隊の弓。激しさを増すばかり。。。近づいてはきません。。ご指示を!!」
立ち上がった私に猪はもう一度打掛を着せようとした
「猪。。打掛は。。」
ぬごうと手を払おうとしたが
「いいえ艶やかに行って下さい。。。その輝きに我らはついて行きますから!!」
すでに甲冑を纏い鉢巻きをまいた猪
少しの侍女達と
近習たちも
「よし!!!猪たちはこれより後衛に周り私の指示を待て!!」
向き直った
ジンは惣面を着けながら口元を笑わしている
「行くぞ!!!ジン私を守り従え!!」
きつく拳を結び屋敷を出た
私は「嵐」だ。。。。。今よりココに風を呼ぶ者なり!!!